イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「量子力学で生命の謎を解く」読了

2023年09月22日 | 2023読書
ジム・アル-カリーリ、ジョンジョー・マクファデン/著、水谷 淳/訳 「量子力学で生命の謎を解く」読了

この本は、「量子生物学」という分野について書かれた本だ。生物の生のメカニズムに、量子のなんとも奇妙な振る舞いが関わっているというのである。究極の物理学と生物学にどんな関連性があるのだろうか・・。

この本は、まず、量子生物学の発展(しているのかどうかは知らないが・・)の歴史から始まっている。
その端緒は、デカルトの「動物機械論」であるという。その流れで、意外にも物理学者が生物学に関する論文や著作をたくさん発表している。その最初は、パスクアル・ヨルダンという物理学者が1932年に書いた、「量子力学および生物学と心理学の基本的問題」という論文が最初であったと言われる。その後、1943年にエルヴィン・シュレーディンガーによって「生命とは何か」が書かれる。 そこには、生命とは、「無秩序から秩序へ」動いてゆくものだと書かれているが、著者たちはその原動力こそ量子効果にあると考えている。

時代は進み、1953年にはDNAが発見され、分子生物学が生まれ、生物反応はイオンによる電子や陽子(水素イオン)の受け渡しによって進んでいくということがわかってきた。高校生のときに習った、ATP回路とかクエン酸回路というのはまさにそういうことが行われている場である。

この本では、酵素反応、生体コンパス、嗅覚、光合成、DNAの突然変異、意識の発生源、生命の起源、そして生物の生と死さえも量子効果がかかわっているというのである。
量子効果というと、この本では「不気味な効果」と書かれているが、「トンネル効果」「重ね合わせ」「量子のもつれ」というものであるが、例えば、酵素の働きは量子のトンネル効果、生体コンパスは量子もつれ、嗅覚や光合成はトンネル効果、DNAの突然変異は量子の重ね合わせがそれぞれ働いているという。
生物の生死にいたっては、生命というのは、量子の世界と古典的力学を貫くキールを持った船のようなものであり、そういった力学の上に浮いているものであるというのである。
まるで、ミノフスキー粒子の上に浮かぶ宇宙戦闘艦ような空想の世界なのではないかと思えてくるのである。
こういった効果が働くことによって小さなエネルギーで効率的に生命活動を維持できるというのであるが、限りなくミクロな世界の働きが生物、特に哺乳類なんて相当大きな体を持っているがそれを動かす原動力になるのだろうかというのは素直な疑問だ。
それよりも、相分離生物学のように、細胞内の濃度の偏りが生命を動かしているという考え方のほうが受け入れやすいと思うのは無知な人間であるが故だろうか・・
神経の情報伝達やエネルギーを生成、伝達する部分ではイオンが介在し、それは電子や陽子(水素イオン)の移動ともいえるから、それは確かに量子(=電子)の働きであるのでそこは量子生物学だと言えないこともない。しかし、それよりももっと特殊な環境でしか見えない効果がジメジメ、ヌメヌメした生物の体の中で働いているというのはやっぱり理解ができない。
少なくとも、素人がわかるようになるにはこの学問がもっと深く解明されないことには無理なような気がするのである。
そして、生物学にOO生物学という風にたくさんの分野があるようだが、どうもこの、量子生物学というのはあまり生産的ではないように見える。例えば、「相分離生物学」は創薬に大きな貢献をしているし、遺伝子生物学は食料増産やエネルギー問題に貢献している。それに比べて量子だけにあまりにも細かすぎるようである。
そこまで生物を細かく見る必要があるのかと思うけれども、近い将来、人間とコンピューターを直接つなぐような時代を迎えるためには必要になってくる学問であるのかもしれない。

この本が書かれたのは2014年だそうだが、それから約10年、量子生物学というのはどういった発展をしているのだろうか・・。
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