イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「新しい星」読了

2021年12月16日 | 2021読書
彩瀬まる 「新しい星」読了

この本も新着図書の書架に入っていた本だ。何冊かの小説が貸し出されずに残っていて、そのうちの1冊を借りてみた。作家の名前も知らないし、どんな内容かもわからずに借りているのだが、これも本を読む醍醐味のひとつだろう。この本も次の予約が入っているところをみると、けっこう人気のある作家なのかもしれない。

学生時代、合気道同好会で出会った4名の30代の男女が主人公である。それぞれが主人公となる各章をつないでひとつの物語となっている。
それぞれに生き辛さを抱えながらもそれを包み込みながら次の人生を生きていくという内容だ。著者は1986年生まれということだが、この年代の作家というのはこれほど生きるということをポジティブに考えられるものなのだろうか。まあ、この時代、太宰治のような文章を書いても売れないだろうから、これも自然淘汰なのかもしれない。

世間一般、誰もが思うことであるが、『みんなが想像する「普通」からはみ出してはいけない。「普通」じゃないことが起こるのは、なにかしらの恥ずべき異常があるからだ。』という考えのなかで4人は生きていた。
生まれた子供を2ヶ月で失い、その後離婚した青子、仕事につまずき引きこもりとなってしまった弦也、コロナ禍がもとで子供と離れて暮らすことになってしまい、それが元で離婚をした卓馬、乳がんを患いながらも子育て、仕事、主婦という役割を続けながらも高校生になった娘を残して亡くなってしまった茅乃。それぞれ普通ではないことを思い煩いながらもお互い助け合いながら前を向こうとする。そんな物語だ。
主人公たちの言葉から、「普通」からはみ出してしまった苦痛がうかがえる。
『わかりやすく説明できないことばかりだった。どうして会社を辞めたんだ。どうして部屋から出ないんだ。』(弦也)
『社会で堂々と生きてゆけるほど、有能じゃなかった。嫌われた。迷惑がられた。』(弦也)
『いつしか悲しみが、ちょっとしたお守りみたいになってしまった。』(青子)
『未来に良いことがあると信じられないことは、こんなにも辛い。』(卓馬)
『彼女は考えないことをやめたのだ。そして抱え込んだものの中から、これからの人生で持っていくものと置いていくものをより分けようとしているのだ。』(卓馬の妻)
『自分の倍近い年齢を生きた母親の中にも、見下されることへの恐怖がある。』(弦也)
それぞれ、自分でもふと思うことがあるものばかりのように思える。結局うやむやになって何の解決策もなく、解決することもなくときの過ぎゆくままに流れていく。そうして生きてきた。
対して、彼らは突き付けられた現実に対して立ち向かうというわけではないが、それも人生のひとつだと受け入れることで次のステップを踏み出そうとする。
そこがポジティブだ。

冒険家というジャンルの人々がすべてポジティブな人たちだといわないが、えてしてポジティブな人たちが多いそうだ。ひとがポジティブであるかネガティブであるかというのはドーパミンの分泌が多いか少ないかである程度決まるという。
性格に関わるセロトニンやドーパミンを運ぶタンパク質をコードしているSLC18A1という遺伝子の136番目のアミノ酸が変異を起こすとドーパミンが多くなるそうだ。
アフリカを飛び出した人間は、そのルートをたどると、南アメリカの南の方に行くほど変異した人が多くなるという。アフリカ時代は不安症の人が多かったけれども、その中の、突然変異で心配や不安が少くなった人たちが思い切ってアフリカを後にすることができたのかもしれないというのが最近の研究結果だそうだ。

主人公たちも最初は自身に不安を抱えているが、久しぶりに出会った友人たちとの交流でドーパミンの分泌が促進されたというのが科学的な方面から見たこの物語のあらすじになりそうだ。

何が普通かと言われれば、そんな基準はきっとないのだとこの歳になると理解はできる。しかし、自分の基準に合わない事柄に対しては常に違和感を覚える、それが気になって仕方がないというのはきっと僕の中のドーパミンが少ないからだろうと思う。これも、この歳になって新たに増えることもなかろうと思うので、この性分と残りの人生を付き合っていかねばならないのだと思うのだが、この職場の雰囲気についてはどうもそうはいかない。なんとか、このアホみたいなカオスを楽しもうと努力はしているのだが、そのためにはもっと、ドーパミンによるドーピングが必要なようである・・。


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