イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて 」読了

2024年02月26日 | 2024読書
藤井一至 「土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて 」読了

著者は土の研究者だ。「土壌学」という学問があり、土を資源と考え分類や有効活用を研究するというものだ。著者の志は高く、もうすぐ100億人に達するという地球の人口を養ってくれる肥沃な土を探すことだという。
そもそも、「土」の定義だが、『岩の分解したものと死んだ動植物が混ざったもの』とされている。だから、太陽系だけを見ると、生物が存在する星が発見されていないので今のところ、地球以外には土は存在しないということになる。
ちなみに、砂や粘土の定義はその直径で分類される。砂は0.02mm~2mm、シルトは2マイクロメートル~0.02ミリメートル、粘土は2マイクロメートル以下である。
そして地球上に存在する土(土壌)は最終的には12種類に分類することができる。
著書に合わせてAIにその分類と特徴をまとめてもらうと以下のようになる。

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・未熟土:岩石が風化してできた土。特徴が少なく、肥沃ではない。
・若手土壌:火山灰や砂礫などの新しい物質からできた土。火山活動の盛んな地域に見られる。
・永久凍土:一年中凍ったままの土。極地や高山に存在する。
・泥炭土:水分が多く、植物の遺体が堆積した黒い土。寒冷地や湿地に分布する。
・ポドゾル:酸性で養分が少ない白い土。針葉樹林に多く見られる。
・チェルノーゼム:腐植が豊富で肥沃な黒い土。草原地帯に広く分布する。
・粘土集積土壌:粘土が下層に集積した赤や黄色の土。乾燥地域に多い。
・ひび割れ粘土質土壌:乾燥するとひび割れる粘土質の土。熱帯や亜熱帯の乾燥地域に分布する。
・砂漠土:砂や礫が主な成分の土。乾燥地域に広がる。
・強風化赤黄色土:鉄やアルミニウムが風化してできた赤や黄色の土。熱帯や亜熱帯の湿潤地域に分布する。
・オキシソル:鉄やアルミニウムが酸化してできた赤い土。熱帯雨林に多い。
・黒ぼく土:腐植が豊富で肥沃な黒い土。熱帯や亜熱帯の湿潤地域に分布する。
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それぞれの土壌について、本の中に出ていた説明を加えてゆくと、
未熟土は、岩石が風化した土というとおり、すべての土の始まりである。岩の上にわずかばかりの厚さで存在する土壌である。
それらは風や雨に侵食されて流されてゆく。「しんしょく」を漢字で書くと「侵食」であるが、よく間違うのは「浸食」である。僕もきっと「浸食」だと思っていた。
侵食された土壌は山を下って平野部へ堆積してゆく。古い遺跡が土の中に埋まっているのはこの現象が原因である。
山の斜面などに堆積している落ち葉や根を含む腐植層の下に存在する褐色の粘土質の土壌が若手土壌だ。日本では褐色森林土と呼ぶ。
永久凍土はAIの説明では一年中凍ったままということになっているが、学会では「2年以上0℃以下」という基準を満たせば永久凍土と名乗ってもよいということになっているらしく、夏の間、少し地面を掘れば氷が出てくるような土壌も永久凍土と呼ばれている。こんな場所でも、凍土の上には地衣類やコケが生えている。
泥炭土は北半球では永久凍土の地域から少し南に下ったところにある。アラスカの川の水が茶色いのはこの土の成分が川の水に溶けだしているからだ。また、ウイスキーの醸造に使われる大麦を燻すのもこの土を乾燥させたもので、醸造に使う水も泥炭の成分が溶けだした茶色い水が使われるそうだ。「ウイスキーづくりに最適な水はウイスキーと同じ茶色をしている」とも言われているそうだ。イギリスのアフタヌーンティーの習慣も泥炭土から生み出される水の味が不味いから生まれた文化なのだそうである。
ポトゾルは、ロシア語で「灰のような土」という意味である。針葉樹林の根や微生物が放出する有機酸によって粘土のアルミニウムや鉄成分が溶けだして砂だけが残った砂質土壌である。アルカリ成分が溶けだしてしまっているので酸性の土壌になり、農業には適さない。土壌の中では層をなして白い部分が見えるのでそのコントラストは美しくも見える。
チェルノーゼムは黒土とも呼ばれ、最も有名な地域はロシア南部からウクライナ地域だろう。アメリカのプレーリーや、アルゼンチンのパンパもチェルノーゼムだそうだ。
これらの地域は、そこよりも西にある地域から風に乗ってやってくる土砂が堆積し、草原由来の腐植と混ざり合って肥沃な土壌を作る。表土は酸性でもアルカリ性でもなく中性なのだ。基本的に土壌は雨が多ければ酸性に、少なければアルカリ性に振れるものだが、中性の土壌というのは世界的にもまれな土壌なのだそうである。
この土壌が肥沃になる大きな要因は、ミミズとジリスやプレーリードッグといった小動物たちらしい。彼らが低温で乾期があるため、分解しきらない腐植をかき混ぜることで深くまで腐植のある肥沃な土壌ができあがる。
粘土集積土壌はチェルノーゼム地域から北に移動した雨が多い湿潤な気候の地域に現れてくる。カエデやポプラなどの樹木が生い茂る森の下にあり、その場所の土壌は雨が多いせいで酸性に傾いている。地表の粘土粒子は雨によって下層に流され砂の多い表土と粘土の多い下層土の二層構造をしている。下層の土は肥沃なので樹木を伐採し、耕して混ぜ込んでしまうと肥沃な農地に姿を変える。
粘土集積土は熱帯や亜熱帯にもあり、アカシアやバオバブの木が点在するサファリパークの世界の土壌もこれである。
高校の地理の時間に習った、「テラロッサ」もこの土壌に分類される。懐かしい・・。
ひび割れ粘土質土壌はかつて湖の底であったような場所に現れる。土中の粘土質の割合は60%もあり、水や養分を多く保持している。肥料やスプリンクラーのコストが少なくて済む、肥沃で農業効率のよい土壌である。
日本の水田の土もこの土壌に分類される。
この、日本の水田の土だが、かなりよくできているらしい。田んぼは雨が多い地域に多いので土壌は酸性だ。それが、灌漑水を入れることでカルシウムなどの栄養分が補給されることで粘土にくっ付いていた酸性物質が中和され中性になる。水を張った土の中は還元的(嫌気的、ドブ臭くなるなる状態)になり鉄さび粘土が水に溶ける。すると鉄さび粘土に拘束されていたリン酸イオンが解放され植物の養分として利用可能になる。日本の土壌が抱える、酸性と養分不足という問題が一気に解消されるのである。加えて、水を張ったり抜いたりすることで病原菌の繁殖も防いでいる。畑と違い、田んぼはあまり手が掛からないというのもこういう理由があるからなのかと納得した。
砂漠土の定義は、1年のうち9ヶ月以上土が乾き、植物がほとんど育たない乾燥地の土で、こういった乾燥地の土をひとまとめにしている。こういった地域の地下水は塩分が多く、毛細管現象で上昇してきた地下水が蒸発して塩分だけが残るので、舐めてみると塩辛いことが多いそうだ。
強風化赤黄色土はAIがまとめている通りだが、表面は背丈のある大きな樹木で覆われているので肥沃な土壌だと思ってしまうが、巨大な樹木は大量の養分を吸収する。その際に多量の酸(水素イオン)を放出するそうなのだが、その酸は岩も溶かし、深くまで風化した土壌が残るだけとなる。
オキシソルは強風化赤黄色土がさらに風化した土壌だ。熱帯雨林の伐採が進むとこの土壌が増えてくるというのが定説だそうだが、著者の見解では平らな平原に限りこの土壌が生まれ、その他の場所にはほとんど見られなかったということであった。
黒ぼく土は、日本でよく見かける土だ。特に関東以北に多い。腐植の含有量はチェルノーゼムよりも多く、10倍もある。日本の気候だと腐植はどんどん分解されてしまうはずだが、粘土の種類がアフェロンという言われるものが多く、この粘土は反応性が高く、腐植と強く結合することで数千年もの間保存されることになったという。一見肥沃な土壌に見えるが、アロフェンは植物の必須栄養分であるリン酸イオンも吸着し植物にいきわたらせなくしてしまう。それが原因で酸性となり肥沃とはいえない土壌である。ソバは根から有機酸(シュウ酸)を放出してアルミニウムや鉄と結合したリン酸を溶かし出し、吸収することができるので東北地方に行くとソバが名物になっているのである。現在では通気性のよいふかふかの土壌を生かして高原野菜やジャガイモ、サツマイモなどが栽培されている。
この土の黒さは炭素の二重結合が原因である。炭素がこうなると植物は分解できないので最後まで残り、黒さが引き立ってくるということになる。

う~ん、たかが土といっても奥が深い。そもそものことだが、腐った植物が混ざっていないと土とは呼ばれないのだということはこの本を読んで初めて知った。そして、その腐植はただ単に砂や泥の中に混ざっているのではなく、電気的な結びつきや吸着力によって強固に結びついているらしい。粘土はマイナスの電気を帯びていてプラスの電気を持った金属イオン(カリウムやカルシウムイオン)や有機酸を引き寄せる。だから、黒ぼく土のようにたくさんの栄養を蓄えていても植物には栄養がいきわたりにくい土もある。

こういうことを知ると日ごろ見ている土の見方が変わってくる。いつも野菜を持たせてくれる叔父さんの家の畑はほとんどが砂でできている。この辺りは昔、紀ノ川の河口だったと言われている場所で、紀ノ川が運んだ砂の畑なのである。人間が畑を作る前はきっと養分がほとんどない未熟土だったに違いない。それに手を加えて様々な有機物を加えながら畑の土に作り替えてきたのだろうと思うと、先人の努力には脱帽するしかない。最近はどんどん住宅地に作り替えられてしまっているが、それはきっと土と先人に対する冒とくと言わざるを得ない。もったいない話だ。
僕の家の庭の土は堅く締まった赤土だ。去年、そのままミントを植えたら全然うまく育たなかった。きっと粘土集積土の下の方、山の方でよく見る斜面を切り落としたところに見える土だろう。この本を読んでみるとうまく育たなかった理由がよくわかる。今年はその轍を踏まぬよう、まあ、実験的であるが、この前採ってきたワカメのクズを鋤き込み、焚火の灰を撒いてみた。腐植を加え、酸性を中和しようという考えだ。まったくの素人がやることなので本当に効果があるかというのはまったくわからないが、さらに山に行って腐葉土を取ってきて柔らかさを与えてやろうとも思っている。

著者が探している、100億人を養うことができる土は果たして見つかったのか・・?
目下のところ、そのヒントは土の謎とともに土壌の奥深くに埋もれたままだそうだ。
確かに、そんな土の謎が簡単に見つかっていれば、肥沃な土地を奪い合うような戦争も起こりはしない。土壌のプロの前途は多難のようである・・。

中途半端にウケを狙った文章にはあまり好感を持てなかったが取り扱っているテーマにはものすごく興味を持てた。

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