イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「宇宙からいかにヒトは生まれたか―偶然と必然の138億年史―」読了

2024年03月20日 | 2024読書
更科功 「宇宙からいかにヒトは生まれたか―偶然と必然の138億年史―」読了

「138億年史」と書いている通り、宇宙の開闢から現在、すなわち人間が生まれてその138億年を振り返ることができるようになるまでの歴史を1冊にまとめている。
まあ、そういう話をたった1冊にまとめることができるのかとも思うのだが、ものすごくうまく書きあげていると思う。僕もこういった話題の本を数だけは読んできたが、うん、うん、かつて読んだことがあると思ったり、これはこういうことだったのか、これは重い違いをしていた、これは知らなかったといろいろなことを思ったりできた。
著者は僕と3歳しか変わらない分子生物学者だ。前書きには僕も使っていた「試験に出る英単語」を取り上げていた。この本には、「最も重要な単語とは?」という質問に対する答えとして、「使用頻度の多いものではなくて、たとえ、そんなにしばしば使用されないものであっても、その1語の意味を知らないと、その文全体の意味がわからなくなる単語である。これをキーワードと言う。」と書かれているそうだ。
この本も、地球や生物の進化の話について、「キーワード」となりうるものを丁寧に説明するように心がけたと書かれているがまさにその通りであった。文章も、奇をてらったり、ウケを狙ったりするようなこともなく平易な言葉で書かれていて、それは教科書を読むように無駄のないものである。かといって教科書ほど退屈するようなものでもない。

これは知らなかったとか、これは思い違いをしていたというようなことを箇条書きで書き留めていきたいと思う。

人間の体を作っている元素を原子数で並べると、水素、酸素、炭素、窒素の順でこれだけで99%を超える。微量だが、ストロンチウムやヨウ素といった鉄よりも重い元素も含まれている。

現在の月と地球の距離は約38万キロ。しかし、45億年前はわずか2万キロメートルしか離れていなかった。当時の地球はいまだ高熱で溶けた岩石が海のように地球を覆っていた。地質学的な証拠は残っていないが、月の潮汐力によって満潮の時はマグマが1000メートル以上も盛り上がっていたと想像できる。地球の自転速度も速く、1日は5時間ほど。その間に2回もこのような満潮がやってくる。まさに地獄の様相であった。

海の水はいつごろから塩辛かったか?答えは最初から塩辛かったらしい。地球が生まれた頃、大気は水蒸気が100気圧以上もあった。二酸化炭素も数十気圧あり、他には硫化水素や塩化水素も含まれていた。地球が冷えてくると水蒸気は液体の雨になり、硫化水素や塩化水素を溶かし込み強烈な酸性であった。この雨が海を作ってゆく。これだけ酸性が強いと、岩石に含まれるナトリウムやカリウムを溶かして今以上に塩辛かったかもしれないという。こういう事実は、炭素系コンドライトという隕石に含まれるガスから推測できるらしい。この隕石は太陽系が生まれて以来熱変成を受けていないので昔の太陽系の情報をよく保存しているということだ。
ちなみに、現在の雨というのは大気中にある0.035気圧の二酸化炭素のせいでpH5.6くらいの「酸性雨」だそうだが、これくらいでは酸性雨とは呼ばないらしい。

温室効果ガスは二酸化炭素以外に代表的なものにはメタンがあるが、他の条件を変えずに温室効果ガスをすべて無くしてしまったら、現在の地球の平均気温はマイナス18℃になってしまうらしい。温室効果ガスは人類の敵だと思われているが、実はこれがないと人類はまともに生きてゆくことができないのかもしれないのである。

ここからは生物が生まれるきっかけとは何だったのかということだ。
結論からいうと、それはいまだにわからない。しかし、きっかけが起こったその後についてはいくつかの説が考えられている。
地球上の生物の遺伝子はすべてDNAでできている。これをもとにしてRNAを合成し、RNAの情報をもとにタンパク質を合成する。このタンパク質が生命現象の主役である。
この一連の流れを、生命現象の「セントラルドグマ」と呼ぶ。
この流れで考えると、まず、DNAが地球上でできてRNAが作られたんぱく質が生まれたとなるが、DNAというのは複雑な分子で、DNAの材料を煮たり焼いたり放電したりしてもDNAを作ることはできない。では、生物の細胞のなかでは何がDNAを作っているのかというと、これがタンパク質(酵素)なのである。じゃあ、最初の最初、どちらが先に地球上に現れたのだろうか・・。
その答えのひとつが「RNAワールド仮説」というものだ。
RNAというのは、自分自身で切れたりつながったりをすることができるらしい。RNAの形が変わるといろいろなタンパク質を合成することができるということだ。
普通はこの役割は酵素が担うのだがそれがRNAだけでもなんとかなるとなると、生命の初期の段階ではRNAが遺伝子としても酵素としても働いていたのではないかというのが「RNAワールド仮説」である。
しかし、「RNAワールド仮説」にも矛盾がある。RNAの材料であるリボヌクレオチドにはアミノ酸が含まれている。アミノ酸からリボヌクレオチドを作るのは難しく、簡単なタンパク質を作るほうが簡単なのだそうだ。だから、RNAやDNAよりも先にタンパク質があったのだという考えも存在し、これを「タンパク質ワールド仮説」という。
アミノ酸自体も合成は簡単で、グリシン、アラニン、アスパラギン酸というようなアミノ酸は材料があれば放電するだけでも簡単に作れるそうだ。こういうアミノ酸が結合して簡単なタンパク質が生まれ、そこから複雑なタンパク質が生まれていったのではないかというのである。
「RNAワールド仮説」にも「タンパク質ワールド仮説」にも一長一短があり、どちらが正しいのかというのはよくわからないというのが現在の状況である。
どちらにしてもDNAとRNAとタンパク質が生まれてそこから生物が生まれた。現在の地球のすべての生物はこれらの物質からできているのでただ1種の最終共通祖先から生まれたと考えられている。その最終共通祖先のことを「ルカ:LUCA (Last Universal Common Ancestor)」という。多分、同じ時代にはまったく異なった構造をもった生物もいたはずだがそれらは子孫を残すことなく絶滅してしまったと考えられる。人類が1種類しかいないということになぜだか似ている。地球という星ではその時代の高度に進化した生物は1種類しか存在できないのかもしれない・・。

化石の種類について。 3種類に分類できるそうだ。体化石:生物の遺骸、生痕化石:生物が活動した跡、化学化石:生物に由来する分子や原子。生物を構成する炭素原子のうち、炭素12の割合は自然界に存在する割合(約99%)よりもさらに多い。すなわち、選択的に炭素12を取り込んでいる。
生痕化石くらいまでは知っていたが、今では分子レベルまで化石として見分けることができるらしい。

光合成をする生物が生まれたのは生命が誕生して10億年後。それまで地球の生命は太陽光をエネルギーとして利用することはできなかった。光合成で使用される二酸化炭素は初期の地球上には現在よりも数千から数万倍もあったはずだがそれを使う生物は現れなかった。光合成をするラン藻類が登場したのはやっと27億年前頃からであった。これには地球の磁場が関係している。この頃から地球の磁場が現在のレベルまで強くなり、有害な太陽風がカットされるようになった。そのおかげで生物が浅い海に進出し、太陽の光を浴びることができるようになった。とはいっても、最初に光合成を始めた生物は酸素を発生させることができなかった。光合成には700ナノメートルの波長の光を吸収する光化学系Ⅰと680ナノメートルの波長の光を吸収する光化学系Ⅱの2種類があり、酸素を発生しない光合成をする生物はそのどちらかしか持っていない。

光合成の逆の化学変化は酸素呼吸である。この酸素呼吸、光合成を始めた生物が生まれたと同時に始まったと考えられている。酸素のない世界でなぜ酸素呼吸を始める準備ができたのか・・?
水に紫外線が当たるとヒドロキシラジカル(OH⁺)という毒性の強い物質が生まれる。これに対抗するためにはシトクロムオキシターゼと言われるような抗酸化酵素を進化させねばならなかったのであるが、これが酸素呼吸の起源であった可能性があると言われている。事実、ラン藻類は光合成をしながら酸素呼吸もおこなっていた。

ミトコンドリアと葉緑体との関係。 初期の光合成細菌のような酸素非発生型の光合成細菌もミトコンドリアと同じくα-プロテオバクテリアに含まれる(ちなみにラン藻類はプロテオバクテリアに近縁なグラム陰性菌である。)生化学的に考えれば、ミトコンドリアがおこなっている酸素呼吸は、光合成を同じ部品を使っていることが多い。光合成の部品を逆向きに動かせば、酸素呼吸の部品として使えるものが多い。おそらくミトコンドリアの祖先は光合成細菌であったと考えられる。分子系統学の結果によれば、紅色光合成細菌の仲間が光合成能力を失って酸素呼吸を始め、ミトコンドリアの祖先になった可能性が高い。
ミトコンドリアより先に光合成をする生物が生まれていたというのは驚きである。
多分、ミトコンドリアを喰った「ルカ:LUCA」は動物に、葉緑体を喰った「ルカ:LUCA」は植物に分かれていったのだろう。

生物の多様性の拡大としては「カンブリア爆発」が有名だが、その前に、アバロン爆発というものがあった。これはトニア紀とカンブリア紀の直前のエディアカラ紀の間に起こった多様性の拡大だが、この時に海綿動物のような生物の種類が急激に増えてきたという。
その引き金になったのが地球の全球凍結だったと考えられている。二つの時代の間に挟まる、7億2000万年前~6億3500万年前のクライオジニア紀には連続して2回の全球凍結があったという。その後のエディアカラ紀の初期にも氷河期が続いた。
全球凍結の原因はわからないがこれが地球の酸素濃度の上昇に一役買った。寒冷化で生物の数が減り、熱水噴出孔などから放出された栄養塩類は消費されず、また全球凍結が解消されてゆくと急激な気温上昇を引き起こす。今の地球温暖化の逆でそれが極端になったようなものなのだろう。この温度上昇が陸地の風化を促進しリンなどの栄養塩類が大量に海洋に流れ込み、海水中の富栄養化が進む。その栄養を使ってシアノバクテリアが大量発生して酸素濃度が上がりその酸素をエネルギーにして生物の多様性の爆発がおこったというのである。

陸上にあがった最初の動物はイクチオステガだと言われている。立派な四肢を持っていたらしいが、この四肢、すでに水中にいるときから発達していたらしく、上陸するために進化したのではなかったと考えられている。それではなぜ四肢が進化したかというと、繁殖のため、オスがメスを抱きかかえるためだったという説がある。エッチは進化を加速させるらしい・・。
肺も同じく、浮袋から進化したとものだと考えられていたが、それは逆だったらしい。肺呼吸を始めた魚類が肺の機能を失っていったということだ。現在でもハイギョという魚がいるが、彼らのほうが原始的な特徴を持っているそうだから間違いはなさそうだ。

生物多様性の爆発とは逆に大量絶滅の時代もあった。最も有名なのは白亜紀の末期の大遺跡の衝突であるが、その以前、ペルム紀と三畳紀の間の「P-T境界絶滅」というものもあった。大きな背びれを持ったディメトロドンが生きていた時代がペルム紀だ。
その原因を作ったのは地磁気の異常や、雲や火山灰によって太陽光が遮られた結果起こる寒冷化がであったと考えられている。
いずれもプレートの移動が原因と考えられている。温度の低いプレートが大量にマントルに沈み込んでいくと液体の鉄の対流パターンが変化し地磁気が異常をきたし宇宙線が降り注ぐ。電荷をもった粒子は雲をつくり太陽光線を遮る。沈み込んだプレートがあるとその分どこかでマントルが上昇しなくてはならない。それが巨大な噴火を引き起こし、同時に大陸を寄せ集める原因となり浅瀬が少なくなり海洋生物の居場所を奪っていったと考えられている。こんなことは今起こり始めてもおかしくはないのではないかと思うと少し怖くなる。まあ、人間が生きていられるよりももっと長い時間を要する変化だろうからそんなことが起こっていても気がつかないのかもしれないが・・。

白亜紀の大絶滅のあと、哺乳類が進化してゆくのだが、寒冷化によって勢力を伸ばしたのはイネ科の植物である。イネ科の植物の葉は堅いのでそれを食べる哺乳類の歯はどんどん釣り減ってしまう。それに対応するため歯が長くなるという進化が起こる。高冠歯というそうだ。しかし、いちばん奥の歯はだいたい目の下にあるので危険なほどに目と歯が接近してしまう。これを避けるためには歯を前に出さねばならず、ウマやシカやウシの顔は長くなっていったのである。

う~ん、なんとも、不思議というか、奇跡的というのか、偶然と必然の積み重ねが現在を作っているという感じだ。
著者は、地球のことが「奇跡の星」と言われることに違和感を感じているという。それは、人間も含めて地球の生物は、地球でうまく生きてゆけるように進化したのだから当たり前であると考えているからだそうだが、こういう本を読んでいると、やっぱりこれは奇跡でしかないと思うしかない。

生物はいずれ死んでゆく。僕もいずれは死んでゆくのだが、それまでに、自分自身を含めた生物はどうやって生まれてきてここまで来たのかということを知りたいと思っていろいろな本を読んだりテレビを観たりしているのだが、僕の人生の長さ程度ではまったく足りそうもないのである・・。

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