イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「三体X 観想之宙」読了

2024年04月03日 | 2024読書
宝樹/著 大森望 、光吉さくら、 ワン チャイ/訳 「三体X 観想之宙」読了

タイトルに「三体」と入っているがその続編でもスピンオフの物語でもない。劉慈欣の熱烈なファン(中国では“磁鉄”と呼ばれているらしい。)である著者が「三体」のメインストーリーでは深く語られなかった部分を想像してネット上で公開したストーリーが劉慈欣の公認のもとに著作として出版されたものだ。
こういったものが実際の著作として出版されるというのは著作権に甘いというのか原作者の懐が深いというのか、なんとも中国的であるなと思える。日本では著作権と版元にガチガチに縛られてこんなことは実現しないのではないだろうか・・。

原作のストーリーは長くて複雑で忘れてしまっている部分がほとんどである。以前に書いた感想文と、この本のストーリーの中心になっている原作の後半部分「死神永世」のあらすじが巻末に掲載されていたのでそれを先に読んでからこの本を読み始めた。

取り上げられているエピソードは、
●脳だけを冷凍保存され三体世界に送り込まれた男性が主人公と再会するまでにどのような生き方をしてきたか・・。
●宇宙を破壊しようとした者の正体。
●物語に登場する「小宇宙」の秘密。というものが明かされている。(明かされるといっても、それはメインストーリーの著者が考えたものではないのだが・・)そして、それぞれのエピソードが絡み合い、宇宙とは何だったのかということを書いている。
簡単にその正体を書いてみると、宇宙は元々十次元世界で時間は永遠に続いてゆくというか、時間というものの観念のない世界であった。その世界は永遠でもあり瞬間でもあるというものであった。そこには、この世界を統べる「統治者(マスター)」と、この世界を破壊し、時間という観念、すなわち始まりがあり終わりがある世界を創ろうとする「潜伏者」との戦いがあった。その戦いの歴史の中で宇宙の次元はひとつずつ減ってゆき現在の三次元世界にたどり着いたのだという。
潜伏者とは、メインストーリーに書かれている、『死とは、永遠に点灯している唯一の灯台なんだと。つまり、人間、どこへ航海しようと、結局いつかはこの灯台が示す方向に向かうことになる。すべてが移ろいゆくこの世の中で、死だけが永遠だ。』ということを実現させようとする勢力だ。主人公たちは「統治者」の側の代理人として「潜伏者」の宇宙の次元破壊を阻止しようとする。結局、宇宙の破壊を阻止することは叶わず、一縷の望みである破壊後寸分違わない同じ宇宙を創造するという夢もわずか5㎏の質量の不足で叶わなくなる。
しかし、主人公たちは、まったく同じ世界を再生するよりも新たな世界を生み出すことのほうが自然の摂理にかなっているのではないかと思い始めるのである。

神のような統治者とは何者か、破壊を司る潜伏者とは何者か・・。彼らはわずかな時間で宇宙を破壊したり再生したりできるほどのエネルギーを操り、量子レベルでまったく同じクローンを創り出し、銀河を瞬時に横断し制御するほどのテクノロジーを持っているというまったくおとぎ話のようなプロットが使われているが、これを書いたのが北京大学を卒業した哲学者であるとなると荒唐無稽な話でもないのかもしれないと思えてくる。
十次元世界というのは調弦理論で提唱されている考えであり、イエスキリストや空海、釈迦という人たちは異次元からやってきた「統治者」の代理人であったのかもしれない。この本のラストでも、「統治者」の代理人となった主人公は現宇宙に蘇る。
最近発見されたという、どこからやって来たのかわからない1グラムあれば地球を破壊できるほどのエネルギーを持つアマテラス粒子というものはひょっとして遠い宇宙のどこかで繰り広げられている星間戦争の流れ弾なのかもしれない。

まあ、そういうのも妄想なのかもしれず、宇宙のどこかで善と悪が戦い、その代理人が主人公であるというプロットは平井正和の「幻魔大戦」や「超人バロム1」で使われているようなありきたりのものかもしれない「エウレカセブン」も時空を行き来してこの世界とは何者なのだということを問うているのは、人間のDNAには古い高次元の世界の記憶が刻み込まれているのかもしれない。

というか、大のSFファンの著者ならこういったものも知っていてそういうものも念頭に入れながらこの物語を書いただけのかもしれないのでこれもただの僕の中のおとぎ話に過ぎないのかもしれないが・・。この感想文とはまったく関係ないのだが、「超人バロム1」の原作者は「ゴルゴ13」のさいとう・たかおだというのをこの前の堺市放浪のときに初めて知った。この人も未来と過去を見ていたのかもしれない。
そう思いながらも、こういったプロットから50年が経つと様々な自然現象の解明が進んでリアルさを増してきて、ひょっとしてこれはおとぎ話とも言えないのではないかと思わせてしまう1冊であった。

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