岩本寺の参詣を終え、窪川発15時30分発の中村行き鈍行に乗る。先ほどのJRの駅舎の隣に土佐くろしお鉄道の駅舎があり、こちらのホームにすでに折り返し運転の車両が停まっている。発車まで20分以上あるが、車内に入れるので中で涼むことにする。
土佐くろしお鉄道はこの中村線、宿毛線、そして高知札所めぐりの前半で利用したごめん・なはり線がある。同じ会社線といっても路線じたい離れているし、車両タイプも全く異なるので別会社のように見える。
さて、中村線、宿毛線には今年度の限定ものとして、土日祝日に普通列車のみ有効の一日フリーきっぷがある。駅や車内のポスターでもPRしているが、その値段、なんと500円。窪川から中村まで普通の片道運賃が1090円であるから、この時点で半額以下である。さらに宿毛まで行くこともできるし、往復ならなおお得だ(ただし、特急には特急券を買っても乗ることはできない)。駅員のいる窪川、中村、宿毛の各駅だけでなく、ワンマン列車の車掌からも買うことができる。たとえ収入はワンコイン分しかなくても、とにかく一人でも多く列車を利用してほしいというのがうかがえる。
これは後で中村で下車した時の光景だが、整理券と運賃を前の運賃箱に入れようとした客に対して運転手が「今日はフリーきっぷの発売日なので、こちらを買ったことにしておきますよ」と言って、500円だけ受け取ってフリーきっぷを渡していた。日常の都市部の感覚なら、この手のフリーきっぷは「知ったもん勝ち」のようなところがあり、普通運賃を支払うのは「知らない客が損」という面がある(普通運賃を支払うのは何ら悪いことではなく、鉄道会社から見ても所定の収入が得られるのだからいいお客だ)。それがこうした対応というのは、経営が厳しいローカル線の中でのおもてなしとでも言えるが、一方で「ちょっとお人好しすぎるかな」とも思う。
さて話を窪川駅に戻すと、高知方面からの接続がないこともあってか、乗客6人で発車。こんな状態なら、500円で一日乗り放題でもいいから一人でも多く列車に乗ってほしいというのは切実だと思う。まずは四万十川の流に少し沿い、田園風景の中を走る。
次の若井が駅としては土佐くろしお鉄道と予土線の境目である。かつての国鉄赤字路線の廃止、第3セクター鉄道やバスへの転換の中で、窪川から中村が中村線、若井から北宇和島までが予土線という括りだったのが、中村線は存続基準を下回っていたために廃止~第3セクターに転換された。一方の予土線は、乗客の数は中村線を下回っていたのが、道路未整備で代替バスの運転が困難として存続となった。このため、窪川~若井は土佐くろしお鉄道となり、予土線の各駅に行くには土佐くろしお鉄道の運賃が発生する。青春18きっぷも使えない。まあ、線路が残っただけよかったとしなければならないのだろうか。最近は両路線とも観光に力を入れており、一緒に西土佐を盛り上げようとがんばっている。
その両路線が分岐するのは、若井から西に進んだ川奥信号場である。線路が複線になり、対向列車待ち合わせでしばらく停車する。せっかくなので最前部に行ってみる。運転手が「もう間もなく来ますよ」と言う。地理的な感覚で、予土線の線路が右に折れて、土佐くろしお鉄道は直進すると思っていた。これは左の線路を中村方面から列車が来るのかと構えていた。
ところが、予想に反して右側の線路から特急が駆け上がってきた。そしてこちらの気動車は右側の線路を下りていく。実は土佐くろしお鉄道はこの先ループ線を描きながら高度を一気に下げていく。鉄道好き以外の方にとってはどうでもいい話だろうが・・・。
黒潮町に入る。四万十の次は黒潮と、そのものズバリの町名が続く。その中心の土佐佐賀からは、車窓に黒潮を見ることができる。まさに夏の海という景色にうなる。うーん、今日はもうお参りは終わったのだから、窪川駅近くの酒屋かドラッグストアで缶ビールでも仕入れておけばよかったな・・・。
窪川から1時間、16時26分、土佐入野に到着。途中下車する駅はここである。駅のホームじたいは海に面しているわけではないが、駅から見える松林~入野の松原~を抜けると海岸が広がる。
12年前にもこの駅に降りている。何がきっかけで知ったのかは覚えていないが、この海岸でTシャツアート展に出会い、うなったものである。
その時撮影したのがこれらの写真である。天候が良くなくて観光ポスターほどには映えていなかったが、実に新鮮な景色に思えたものである。このアート展は今も5月の連休に行われており、砂浜にも毎年趣向をこらしていて、黒潮町の代表的なイベントになっている。また、砂浜を美術館として、季節ごとに他にもイベントが行われている。
駅から数分でその海岸に着く。金剛杖を手に、荷物を両肩に振り分けてという姿は正直浮いているが、何かの四国歩き遍路のガイドブックだったか、菅笠に白衣、金剛杖でこの浜を歩く写真がイメージ的に紹介されていたのを見たことがある。歩き遍路ならこうした雄大な景色に接することができる・・・という内容だった。確かにこの辺りは「四国のみち」の一部でもあるし、実際に昔からの遍路道なのだろう。
ただ景色は、泳ぐ人はいない。その代わりに波乗りサーファーにはたまらないスポットのようだ。あちこちにサーフボードが浮かんでおり、タイミングを図って波に乗る。結構長く乗る人もいて、見ている方も楽しい。
うーん、こういう景色こそ缶ビールでも・・・と思うが、土佐入野は窪川のような駅前に酒屋もドラッグストアもない駅だった。
砂浜のところどころに竹筒や流木が立てられている。そばにサンダルが置かれていたから、波から浜に戻る目印なのだろう。だからというわけではないが、私も手にある金剛杖を砂浜にグィッと突き立てる。金剛杖の元々の役目の一つに、万が一巡拝の途中で行き倒れになった際に、卒塔婆、墓標代わりにするというのがある。行き倒れとは縁起でもないことだが、何だかここに来て、金剛杖にも海を楽しんでほしいというくらいの気分だった。
しばらく黒潮の波と風を楽しみ、駅に戻る。次に乗るのは18時ちょうど発の宿毛行き。何とこの駅から中村、宿毛への「最終列車」である。実際はその後も特急が3本停まるので移動できないわけではないのだが、鈍行が18時が最終とは、地元の人たちの流れがそうなのだろう。
やって来た車両はこれもガラガラ。季節ものか、車端のロングシートにはガラス細工の風鈴が下げられていて、列車の揺れや空調の風で独特の音色を奏でる。地元の子どもたちが飾りつけをしたそうで、地域密着のいいイベントだと思う。
中村に到着。まだ日は残っている。今夜はここでゆっくり過ごすことにする・・・。
土佐くろしお鉄道はこの中村線、宿毛線、そして高知札所めぐりの前半で利用したごめん・なはり線がある。同じ会社線といっても路線じたい離れているし、車両タイプも全く異なるので別会社のように見える。
さて、中村線、宿毛線には今年度の限定ものとして、土日祝日に普通列車のみ有効の一日フリーきっぷがある。駅や車内のポスターでもPRしているが、その値段、なんと500円。窪川から中村まで普通の片道運賃が1090円であるから、この時点で半額以下である。さらに宿毛まで行くこともできるし、往復ならなおお得だ(ただし、特急には特急券を買っても乗ることはできない)。駅員のいる窪川、中村、宿毛の各駅だけでなく、ワンマン列車の車掌からも買うことができる。たとえ収入はワンコイン分しかなくても、とにかく一人でも多く列車を利用してほしいというのがうかがえる。
これは後で中村で下車した時の光景だが、整理券と運賃を前の運賃箱に入れようとした客に対して運転手が「今日はフリーきっぷの発売日なので、こちらを買ったことにしておきますよ」と言って、500円だけ受け取ってフリーきっぷを渡していた。日常の都市部の感覚なら、この手のフリーきっぷは「知ったもん勝ち」のようなところがあり、普通運賃を支払うのは「知らない客が損」という面がある(普通運賃を支払うのは何ら悪いことではなく、鉄道会社から見ても所定の収入が得られるのだからいいお客だ)。それがこうした対応というのは、経営が厳しいローカル線の中でのおもてなしとでも言えるが、一方で「ちょっとお人好しすぎるかな」とも思う。
さて話を窪川駅に戻すと、高知方面からの接続がないこともあってか、乗客6人で発車。こんな状態なら、500円で一日乗り放題でもいいから一人でも多く列車に乗ってほしいというのは切実だと思う。まずは四万十川の流に少し沿い、田園風景の中を走る。
次の若井が駅としては土佐くろしお鉄道と予土線の境目である。かつての国鉄赤字路線の廃止、第3セクター鉄道やバスへの転換の中で、窪川から中村が中村線、若井から北宇和島までが予土線という括りだったのが、中村線は存続基準を下回っていたために廃止~第3セクターに転換された。一方の予土線は、乗客の数は中村線を下回っていたのが、道路未整備で代替バスの運転が困難として存続となった。このため、窪川~若井は土佐くろしお鉄道となり、予土線の各駅に行くには土佐くろしお鉄道の運賃が発生する。青春18きっぷも使えない。まあ、線路が残っただけよかったとしなければならないのだろうか。最近は両路線とも観光に力を入れており、一緒に西土佐を盛り上げようとがんばっている。
その両路線が分岐するのは、若井から西に進んだ川奥信号場である。線路が複線になり、対向列車待ち合わせでしばらく停車する。せっかくなので最前部に行ってみる。運転手が「もう間もなく来ますよ」と言う。地理的な感覚で、予土線の線路が右に折れて、土佐くろしお鉄道は直進すると思っていた。これは左の線路を中村方面から列車が来るのかと構えていた。
ところが、予想に反して右側の線路から特急が駆け上がってきた。そしてこちらの気動車は右側の線路を下りていく。実は土佐くろしお鉄道はこの先ループ線を描きながら高度を一気に下げていく。鉄道好き以外の方にとってはどうでもいい話だろうが・・・。
黒潮町に入る。四万十の次は黒潮と、そのものズバリの町名が続く。その中心の土佐佐賀からは、車窓に黒潮を見ることができる。まさに夏の海という景色にうなる。うーん、今日はもうお参りは終わったのだから、窪川駅近くの酒屋かドラッグストアで缶ビールでも仕入れておけばよかったな・・・。
窪川から1時間、16時26分、土佐入野に到着。途中下車する駅はここである。駅のホームじたいは海に面しているわけではないが、駅から見える松林~入野の松原~を抜けると海岸が広がる。
12年前にもこの駅に降りている。何がきっかけで知ったのかは覚えていないが、この海岸でTシャツアート展に出会い、うなったものである。
その時撮影したのがこれらの写真である。天候が良くなくて観光ポスターほどには映えていなかったが、実に新鮮な景色に思えたものである。このアート展は今も5月の連休に行われており、砂浜にも毎年趣向をこらしていて、黒潮町の代表的なイベントになっている。また、砂浜を美術館として、季節ごとに他にもイベントが行われている。
駅から数分でその海岸に着く。金剛杖を手に、荷物を両肩に振り分けてという姿は正直浮いているが、何かの四国歩き遍路のガイドブックだったか、菅笠に白衣、金剛杖でこの浜を歩く写真がイメージ的に紹介されていたのを見たことがある。歩き遍路ならこうした雄大な景色に接することができる・・・という内容だった。確かにこの辺りは「四国のみち」の一部でもあるし、実際に昔からの遍路道なのだろう。
ただ景色は、泳ぐ人はいない。その代わりに波乗りサーファーにはたまらないスポットのようだ。あちこちにサーフボードが浮かんでおり、タイミングを図って波に乗る。結構長く乗る人もいて、見ている方も楽しい。
うーん、こういう景色こそ缶ビールでも・・・と思うが、土佐入野は窪川のような駅前に酒屋もドラッグストアもない駅だった。
砂浜のところどころに竹筒や流木が立てられている。そばにサンダルが置かれていたから、波から浜に戻る目印なのだろう。だからというわけではないが、私も手にある金剛杖を砂浜にグィッと突き立てる。金剛杖の元々の役目の一つに、万が一巡拝の途中で行き倒れになった際に、卒塔婆、墓標代わりにするというのがある。行き倒れとは縁起でもないことだが、何だかここに来て、金剛杖にも海を楽しんでほしいというくらいの気分だった。
しばらく黒潮の波と風を楽しみ、駅に戻る。次に乗るのは18時ちょうど発の宿毛行き。何とこの駅から中村、宿毛への「最終列車」である。実際はその後も特急が3本停まるので移動できないわけではないのだが、鈍行が18時が最終とは、地元の人たちの流れがそうなのだろう。
やって来た車両はこれもガラガラ。季節ものか、車端のロングシートにはガラス細工の風鈴が下げられていて、列車の揺れや空調の風で独特の音色を奏でる。地元の子どもたちが飾りつけをしたそうで、地域密着のいいイベントだと思う。
中村に到着。まだ日は残っている。今夜はここでゆっくり過ごすことにする・・・。
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