香住駅から迎えのクルマに揺られて、餘部鉄橋にほど近い「尾崎屋」に到着した鈍な支障さん、大和人さん、そして私の男三人。おかみさんの出迎えを受けて部屋に通される。それぞれの客室で料理が楽しめるというのがこれまた贅沢な気分だ。旅番組のロケにでも来ているかのような気持ち。
そして部屋に通されるや、三人揃って「おおっ!!」との歓声。
テーブルにはこれでもかというくらいのカニが並ぶ。三人分だからなおのこと豪勢に見えるんだろうな・・・。
カニの皿は3つあり、鍋の上に乗っているのがカニ刺し、続いて炭火焼き用のカニ、さらにはカニすき用のカニ。思わず「一人あたり、何本ですかね?」と尋ねてしまう。
まずは生ビールで乾杯。まずは「ふぁ~」となる。酒歴50年?の支障さんや「飲み鉄」の私はともかく、普段酒をたしなまないという大和人さんまで「最初のビール」で気持ちよくなられたようで。
この後はカニをかっ食らいながらの宴会。当日まで二人には内緒にしていたのだが、オプションで「但馬牛の陶板焼き」と「アワビの踊り焼き」というのを各一皿注文していた。アワビは先ほど潜って獲ってきたとかでまだ生きている。これを網の上に乗せると身が踊りだすという面白いもの。それにしても、アワビが踊るなんて因美線的ですなあ・・・。
よく「カニを食べると無口になる」と、旅行記の記述などでは見られるが、この日の私たちにとってはそれは真逆の言葉。カニをやりながら、昨今の教育問題(お二人は広い意味での教育の現場に従事されているのです)やら政治問題、時事放談(爺い放談)的なことから朝青龍引退、「横綱は時代を映す鏡」説の披露、鉄道ファンのことやら下のほうの話・・・。ほとんど、その辺の居酒屋でくだを巻いているおっさんどもが餘部に場所を変えただけやんというくらいのものである。
そうするうちにカニの脚を美味しくいただきつつ、酒が進む。このあたりの地酒は「香住鶴」というもので、これのオーソドックスなものの熱燗と、「これはカニに合うということ好評です」というおかみさんの勧めで「香住鶴 蟹三昧」の冷酒を交互にいただく。普段お酒を飲まない大和人さんもそれぞれ口をつけ、「冷酒のほうがいいですね」と珍しく左手が進む。「本当はイケる口なんでしょ?」というのは余計な詮索で、やはり旅に出れば開放的な気分になる、それでいいじゃないですか。
時折ゴトゴトいう音がする。餘部鉄橋を渡る列車の音だ。旅の前には「鉄橋を渡る列車が見られますよ」と言っていたが、食事の部屋はちょうど死角になるところで、さすがに部屋にいながら列車が見えるとまではいかなかった。もっとも、大阪からの「はまかぜ」が通過したときはもう「放談」のほうが佳境で、「そういえば今度の音は長いな・・・。あ、"はまかぜ"か。まあ、別にええわな」と、最初の「はまかぜに乗って~」というのがどこかにぶっ飛んでしまった。
食事に2時間を費やし、最後にカニすきの後の雑炊を味わった頃にはもう三人ともKO状態。「今日はこのまま寝たい」「明日は年休とって休もうか」「三人が新型インフルエンザにかかったことにしようか」と、完全におっさんどもの体たらくを示す有様となった。
そんな中だが、実は「貸切風呂」をオプションで予約しており、こちらにも入ることにする。指を負傷されている支障さんは辞退したが、大和人さんとそれぞれ向かう。民宿のこととて小ぶりだが、内風呂と露天風呂がある。そのうち露天風呂のドアを開けると・・・。
浴槽の向こう、衝立を隔てて遠くに餘部鉄橋の姿を見る。鉄橋を渡る人たちが注意して目を凝らせば浴場が見えるんではないか?と思わせるほど。これは支障さんも見てもらおうということで呼び出し、浴槽ならびに脱衣室からの景色を眺める。風呂に入っているときに列車の通過を見られれば、それは言うことなしだろう。
日中は列車の閑散時間なので列車が行く姿は見えなかったが、もしこの宿に泊まることがあれば、浴場からも2階のテラスからも鉄橋はよく見えるので、贅沢な鉄道風景を楽しむことができる。ぜひ次は「宿泊」も絡めてやってきたいものである。
あっという間の3時間。そろそろ宿を失礼する。基本プランでは香住発の列車に合わせてクルマで送ってくれるのだが、鉄道旅行好きが揃っており、ここまで来れば当然鉄橋を渡りたいものだ。ということで、列車の時間に間に合うよう少し早めに出発し、鉄橋の見物に向かったのだった・・・・。(続く)