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「水濃徃方」の解読 73


(梅雨真っ只中、今日の夕焼け)

朝、お宮さんの掃除。昨日の雨で、草取りがしやすかった。小さな草まで抜いた。まあ、すぐにまた生えるだろうが。

歴史のS先生より電話があり、先日お渡しした家康の秀次への書状の解読をチェックした結果を知らせて頂いた。6ヶ所ほどの指摘があり、解読力の未熟さを改めて思い知る。戦国時代の文書はなかなか難しい。歴史を理解していないと、満足な解読も出来ないものだと、改めて知った。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

(おきな)、常々申せしは、商賈(しょうこ)の業、瑣細(ささい)なりといへども、衆力(しゅうりょく)和合せざれば、成就せざるものなれば、その道、少しく君子に似たる所あり。善く産を治むる者は、能く人を擇(えら)んで時に任すといえり。己れ壱人の智を用い、小利を見んと欲する者は、貪賈(たんこ)賤丈夫(せんじょうふ)のなす所、大商人の腹中にあらず。大小尊卑、道異(こと)なれども、人を愛し人を得るより急務なし。人を愛する者は、人これを愛すとは、誰も知りたる様なれども、その意味を知る人まれなりと申しき。
※ 商賈(しょうこ)➜ 商売。あきない。商人。あきんど。
※ 瑣細(ささい)➜ 些細。小さなこと。 わずかなこと。 たいしたことではないこと。
※ 衆力(しゅうりょく)➜ 多くの人の力。集団の力。
※ 貪賈(たんこ)➜ むさぼる商人。
※ 賤丈夫(せんじょうふ)➜ 身分のいやしい男。また、心のいやしい男。

この教えに基づきて、書き置し物、侍(さぶろ)うとて、大福帳と云うもの壱冊を奉る。殿様御手に取らせられ、くり返し御覧あつて、黄金満籝(まんえい)を遺さんは、一書にしかずとは、この事なりとて、かず/\御褒美の賜(たまもの)拝領して、御前を退去したりける後、夫婦ともに、生国亀山の山中に隠居して、静かに生涯を送りしとぞ。世に亀山丈人(きさんじょうじん)と称せしは、この蓬莱屋が事なりと云えり。
※ 満籝(まんえい)➜ かごいっぱい。
(「水濃徃方」つづく) 

読書:「情愛の奸 御広敷用人 大奥記録 10」 上田秀人 著
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「水濃徃方」の解読 72


(散歩道のストケシア)

午前中、一講座、午後一講座、古文書講座を講義した。合わせて四時間、いつもの事だが、しゃべり疲れた。

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「水濃徃方」の解読を続ける。 

(かさね)て仰せありけるは、富は人力に任せぬ事とはいえども、その方、始め、聊(いささ)かの身上より、今に都会に名を知らるゝ程の功業(こうぎょう)、これ、その才智、衆にすぐれ、行状正しきなるべし。唐の張公藝が百忍明の鄭氏が婦言(ふげん)を用いざりし、皆なこれ末世の鑑(かがみ)なり。政道の一助(いちじょ)、家に伝うる家法あらば申し上ぐべしと有りければ、こは、恐れ多き御諚意(じょうい)、もとより愚蒙の私義、家法と申す程の事はこれなく候えども、不思義に異人に巡り合い、形(かた)の如く教えを受け候。
※ 功業(こうぎょう)➜ 功績の著しい事業。また、功績。
※ 唐の張公藝が百忍(とうのちょうこうげいがひゃくにん)➜ 唐高宗は、張公藝という長寿の老人がその子孫と九代にわたって仲良く同居していることを聞き、「なぜ、一族がこのように睦まじく九代も同居できるのか」と聞いた。張公藝は紙に「忍」の字を百書き、「父子の間に忍が無ければ、慈悲と孝行の心が失われる。兄弟の間に忍が無ければ、よその人に欺かれる。兄弟の妻の間に忍が無ければ、兄弟たちがばらばらになる。姑と嫁の間に忍が無ければ、親孝行をする心が失われる。」と説明した。つまり、お互いに責めるのではなく、忍ぶことで家族が仲良くなり、幸せに暮らせると言った。
※ 婦言(ふげん)➜ 女のことば。女のいうこと。
※ 明の鄭氏が婦言を用ひざりし ➜ 明の時代に、江南で義門鄭氏と言われた名望家であったが、臨終の床にあって、「斉家の道」を聞く子孫に、一言「婦言を聴くなかれ」と遺言した。
※ 諚意(じょうい)➜ 貴人または上官の命令の趣旨。 仰せの趣。
※ 愚蒙(ぐもう)➜ おろかで道理がわからないこと。
(「水濃徃方」つづく)
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「水濃徃方」の解読 71



(庭のムラサキクンシラン)

午後、駿河古文書会に出席した。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

この書画、当春、久々にて相まみえ候節、形見とも見候わんと、達って懇望致せしかば、久しく廃したれど、少し思う旨あればとて、この三幅を与え候。かの翁(おきな)、人ありて平生受用(じゅよう)の語を問えば、寡欲(かよく)の二字を与え、治術(ちじゅつ)の事を尋ぬる人には、

   在安民、在得人
   民を安んずるに在り。人を得るに在り。

と、聖人の言至れりとのみ申し候。これにより、所の者は三言翁と呼び候。左右に寡欲、安民の二文字を書きし。中に富士を画きしは、富士は則ち、士に富むと読めば、士に富むはこれ人を得るの聖謨(せいぼ)にあたる。
※ 受用(じゅよう)➜ 受け入れて用いること。また、受け入れて味わい楽しむこと。
※ 寡欲(かよく)➜ 欲が少ないこと。欲ばりでないこと。。
※ 治術(ちじゅつ)➜ 国を治める方法。政治の方法。
※ 聖謨(せいぼ)➜ 天子のはかりごと。天子の統治する方策。

   済々多士、文王以寧
   済々(せいせい)たる多士、文王以って寧(やす)し。

と申せば、諸侯の御身、富士より上の、目出たき夢や候べき。かれこれ思い合わすれば、今日の事を未然に知りたるが如し。翁は誠に神人(しんじん)なるべしと。始め、木薬売りに来し様子、薬を授かりて、男子を設(もう)けし次第まで、逐一に達しければ、列座の諸人、詞(ことば)を揃(そろ)え、御家運長久の瑞相(ずいそう)とて、感心斜めならざりけり。
※ 済々(せいせい)➜ 多く盛んなさま。数が多いさま。
※ 多士済々(たしせいせい)➜ すぐれた人物が数多くいること。また、そのさま。
※ 瑞相(ずいそう)➜ めでたいことの起こるしるし。 奇瑞の様相。 吉兆。
※ 斜めならず(ななめならず)➜ 並ひととおりでない。格別だ。
(「水濃徃方」つづく)
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「水濃徃方」の解読 70


(散歩道のノカンゾウ)

午後、掛り付けのS医院に行って、第一回目のワクチンを打ってきた。ファイザー製という。気分が悪くなったり、発熱したりは今のところないが、打ったところに違和感がある。これは当然か。明日には消えるだろう。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

御前には長右衛門へ御盃を下し置かれ、首尾(しゅび)残る所なき上、この掛物、仙人の認(したた)めしと云う来歴、並びに、墨跡の文字につき、様子ありげに見ゆる間、かれこれ詳しく、御物語り申す様にとの御意。長右衛門、謹(つつし)んで、私義、先年富士の根方にて、壱人の隠士(いんし)を相知り、これに事(つか)うる事、年久し。彼人、齢(よわい)百歳の余は何程と云う事、自分にも慥かには覚えず。云う所を以って考うれば、すでに弐百歳に近しといえども、行歩(ぎょうぶ)の健(すこや)かなる事、五十里の道を遠しとせず。
※ 首尾(しゅび)➜ 事のなりゆき。具合。事情。事の顛末。結果。
※ 隠士(いんし)➜ 俗世を離れて静かな生活をしている人。 隠者。
※ 行歩(ぎょうぶ)➜ 歩くこと。歩行。

世上の名利(みょうり)を余所(よそ)に見て、明け暮れ、巌穴(がんけつ)に書を友とし、又は山中に薬を採りて吉田の町へ持ち出し、里の童(わらわ)にひさぎて、衣食にあて、住所あれども時あって、一ト月、二タ月、帰り住まざる事多く、その人、童顔鶴髪(どうがんかくはつ)にして、人表(じんぴょう)凡ならず。その学、主とする所なけれど、博聞強記(はくぶんきょうき)なる事、また世に類いあるべしとも存ぜず。地上の(せん)と申しても偽(いつわ)りならぬ異人(いじん)なり。
※ 名利(みょうり)➜ 世間的な名声と現世的な利益。また、それらを欲すること。
※ 巌穴(がんけつ)➜ 岩の洞穴。岩窟。
※ 鶴髪(かくはつ)➜ 鶴の羽のように真っ白な髪。白髪。
※ 童顔鶴髪(どうがんかくはつ)➜ 年老いても元気な人の様子。
※ 人表(じんぴょう)➜ 人の外見。
※ 博聞強記(はくぶんきょうき)➜ 広く物事を聞き知って、よく覚えていること。
※ 仙(せん)➜ 山中にはいって不老不死の法を修め、神変自在の術を得たという想像上の人。仙人。
※ 異人(いじん)➜ 普通でない人。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「姿見橋 知らぬが半兵衛手控帖」 藤井邦夫 著
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「水濃徃方」の解読 69


(散歩道のキョウチクトウ)

排気ガスに強い木として、よく道路わきで目にするはなであるが、これほど近づいて見たことはなかった。中々きれいな花である。ところが、花、葉、枝、根、果実、すべての部分に毒がある。周辺の土壌も、生木を燃やした煙も有毒だというから徹底している。そうそう、その腐葉土にも1年間は毒性が残るというから要注意である。推理小説の植物由来の毒殺に、トリカブトに次くらいによく出てくる。余り庭には植えたくない木である。 

ワクチン、キャンセル待ちしていた、かかりつけのS医院にキャンセルが出て、明日打つ予約が取れた。但し自分一人分だけである。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

(しばら)くあって立ち出でて、何れも御祝儀披露致せし処、上にも殊の外御満足、有り難いと思やれ、お歴々様方の御作と一所に、軸の物に仰せ付けらるゝ。さて長右衛門、上げられたる掛物、有様は我等も胡散(うさん)に存じた故、不調法な挨拶して面目ない。幸い御前に、狩野氏も居られて、申し上げらるゝは、筆意(ひつい)は雪舟に似て、気象(きしょう)遥かに高き所あり。無類の能画(のうが)、殊に新筆、かようの絵、当代に有らんとは存じ寄らずと、殊の外称美(しょうび)
※ 胡散(うさん)➜ 疑わしいさま。 怪しいさま。
※ 筆意(ひつい)➜ 筆を運ぶときの気構え。また、書画のおもむき。ふでづかい。
※ 気象(きしょう)➜ 気性。生まれつきの性質。気質。
※ 能画(のうが)➜ 上手に描かれた絵。すぐれた絵。
※ 称美(しょうび)➜ ほめたたえること。賛美。

左右の墨跡も、この方どもは不案内なが、上にはちと書学も御好きで、よう遊ばすげなが、筆勢高古(こうこ)尓して、奇代(きだい)の名筆と、きつい御褒美。その上、この暁富士を御夢に御覧ありて、御悦びの折から、この画を得させられ、御夢に符合する事、さて/\不思義の至り。ついては御直(おじき)に御礼も仰られたし。尋ねさせらるゝ筋もあれば、老人の苦労(くろう)ながら、いざ同道致そうと、連れて御前へ出られける。残りの者どもは、明いた口を塞ぎもせず、握った様な入札の、余所へ落ちたる心地して、手持なくこそ見えにける。
※ 高古(こうこ)➜ けだかくて古風なこと。
※ 奇代(きだい)➜ 希代。世にもまれなこと。非常に珍しい、驚嘆すべきこと。
※ きつい ➜ 物事の程度がはなはだしい。
※ 苦労(くろう)➜ せわをかけること。せわ。
※ 手持なし(てもちなし)➜ 手持ち無沙汰で、間がもてない。
(「水濃徃方」つづく) 

読書:「母恋わんたん 南蛮おたね夢料理3」 倉坂鬼一郎 著
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「水濃徃方」の解読 68



(散歩道のキウイフルーツ(上)とヤマモモの実(下))

キウイフルーツは食べられるのはまだまだ先であるが、ヤマモモはもう食べられそうだ。食べる人がいないのか、歩道にたくさん落ちて、つぶれていた。ああ、もったいない。

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「水濃徃方」の解読を続ける。 

並居る出入、朋輩ども、膝をつき、目まぜをして、仙人の正筆とは珍しい事の、もそっと早う存じたら、秩父辺の山寺から、何ぞ霊宝(れいほう)に出しそうな掛物あらばと尋ねておこしたものを、と笑えば、お肴屋の鯛八、行き過ぎ者にて、知れた事さ、宝と云う字の大黒か、刷毛書きの恵比寿殿で御座ろう。茅場町の薬師や、神明前によくあるやつで御座ると、小声になってさゝやくを、
※ 目まぜ(めまぜ)➜ 目で合図をすること。目くばせ。
※ 霊宝(れいほう)➜ 霊妙な宝。社寺などの秘宝。
※ おこす ➜ よこす。
※ 行き過ぎ(れい)➜ 度を超えて物事をすること。また、そのさま。

さすが、大家(たいけ)の役人とて、それは奇特なる存じ付き、仙人の筆と律義(りちぎ)に思うて居やれば、それが則(すなわち)仙人、唐土(もろこし)にも貴殿の様な篤実(とくじつ)な百姓があって、手前の畠の芹(せり)を喰うて、これほどなむまいものを、どうぞ国王へ献上したいと、背負ていた者もあると、何やらに書いて御座った。名画、名筆に御不足はなけれど、貴殿の志を御悦び遊ばすで御座ろう。まず暫(しば)し、ゆるりと酒でもまいれ。鯛八、今日は会所とは違う。遠慮なしに過ごしてくりゃれと云いつゝ、御前へ上られけるが、
※ 存じ付き(ぞんじつき)➜ 気づいたこと。考えついたこと。思いつき。
※ 律義(りちぎ)➜ きわめて義理堅いこと。実直なこと。
※ 篤実(とくじつ)➜ 真心がこもっていること。誠意があること。
※ むまい ➜ うまい。
(「水濃徃方」つづく)
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「水濃徃方」の解読 67


(散歩道のユッカの花)

午後、女房と散歩に出る。散歩道の田んぼには早苗が植えられ、気持ちのよい日々となっている。ただ、田んぼにジャンボタニシが多く見られるのが心配である。すでに早苗が喰われて、被害が出始めている。米ぬかに寄って来る習性を利用した罠を、何年か前、「鉄腕ダッシュ」で見たが、驚くほど沢山のジャンボタニシが捕獲できていた。簡単な罠だから、仕掛ければ駆除できると思うが、苗が大きくなるまで、散歩の度に気になることである。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

ある時、お出入の殿様、当年五十の御賀とて、日頃御目(おめ)下さるゝ町人共、残らず御料理を下されける。長右衛門は別けて御由緒あれば、一同に召し寄せられぬ。御家老堅田岩見殿、出席あって、銘々祝儀を請けられし上、申されけるは、今日、寿莚(じゅえん)を開かれ、諸方より詩歌の御寿これ有るにつき、町人共にもその道を相嗜む者あらば、詩歌、連俳の撰(えら)みなく、御ことぶき申す様にとの仰せ。
※ 御賀(おんが)➜ 御長寿の祝い。
※ 壽莚(じゅえん)➜ 長寿の祝の酒宴。

面々へも、先達て申入れたり。定めて相心得らるべしとあれば、何れも頭を畳につけ、恐悦の余り、不調法を顧みず持参仕りしと、会釈(えしゃく)して、詠み歌、俳諧の発句など、或いは、州浜に立てる鶴に含ませ、杖に付け、盃に添えて、各(おのおの)風流をぞ尽しける。
※ 州浜(すはま)➜ 祝儀の飾物の一種。州の海辺のさまを表していて州浜台。島台とも。島をかたどった台の上に、松竹梅、鶴亀、尉と姥などを配し、おのころ島や蓬莱山に見立てたもの。

長右衛門は始めより、片すみに俯(うつむ)いて、扇子(おうぎ)の骨の離れたるを、紙縒(こより)にて縛(しば)りえて居たりけるが、にじり出て、私も何がなと存ぜしが、発句の、歌のと申すは、手前では出来ませぬ故、さる仙人の認(したた)めたる三幅対、外は存ぜず。まづ御寿命にあやからせられ候様にと、箱に入れたる紙表具の掛け物を差し上げる。
※ 三福対(さんぷくつい)➜ 三幅で一対となっている掛け物。もと、仏画で、中央に本尊、左右に夾侍(きょうじ)菩薩を掛けたものによる。 
(「水濃徃方」つづく)

読書:「居酒屋恋しぐれ はぐれ長屋の用心棒 41」 鳥羽亮 著
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「水濃徃方」の解読 66


(散歩道のブーゲンビリア)

朝から、古文書解読について、2本の電話があった。一本は、OEさんから「三河物語」中、二ページほど、解読依頼。一本は昨日ST先生へ渡した、「家康書状」の解読についての情報。「浅原」は「浅弾」と読み、秀吉五奉行の一人「浅野長政」の事で、その官名「弾正少弼」を短くして「浅弾」。こんな短縮は、今に始まったことではなかった。その外、二点ほど、これでこの書状の解読に確証を得た気がする。これを、7月の講座の「話題」にしよう。

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「水濃徃方」の解読を続ける。今日より「亀山丈人の篇下」に入る。ようやく終わりが見えて来た。但し、この所、少しきつくなって、解読量を減らしているので、その分、終わりは先になる。

   亀山丈人之篇下

「廃居(はいきょ)要訣(ようけつ)、曰く、賤(せん)の臀(でん)は貴(き)の肩(けん)なり。貴(たか)き則(ときは)出すこと糞土(ふんど)の如く、賤(やす)き則(ときは)取ること珠玉(しゅぎょく)の如し。変を知る者と謂うべきなり。」
といへり。
※ 要訣(ようけつ)➜ 物事のもっとも中心となる事柄。肝要な奥の手。奥義。秘訣。
※ この漢文、意味が今一つ、つかめない。

蓬莱屋長右衛門、生れながら商の道に賢く、十七の秋、思い入れの買い置きせしより、今六十に及ぶまで、ついに一度も図を外せし事なく、する事なす事、拍子にのりて、今はや、巨万の富に至りぬ。惣領をば、すぐに長吉と呼んで、一ト器量ある生れなれば、万(よろず)の勤めもこれに譲りて、家の後ろに隠居しつらいての楽しみ。老いの生き前、誰もかくこそと羨まぬ者はなかりき。
※ しつらう ➜ こしらえ設ける。備えつける。
(「水濃徃方」つづく)
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「水濃徃方」の解読 65


(散歩道のユリの花)

午前中、金谷宿の総会。午後は、「駿遠の考古学と歴史」受講。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

おのれは、今朝家を出る時、飯喰うたるまゝなれば、茶一つと乞うて、何やらん昼餉(ひるげ)喰うて居。長右衛門、不審し、こなた、三十里の道、今朝出て今時とは、と合点せねば、身どもらは常に山中に往来して、薬を採って渡世とすれば、朝宿を出る時、したためを能く致して、一日喰わずに歩く事は常の事にて、折り悪しければ、二日も喰わずに薬をとりて、世の中のせせこましき咄しを聞かず。病も無ければ、行歩(ぎょうぶ)もすこやかに、一日に五十里の道は苦にならずとの物語り云う様、
※ したため ➜ 食事すること。。
※ せせこましい ➜ 考え方や性質などがこせこせして、心にゆとりがないさま。
※ 行歩(ぎょうぶ)➜歩くこと。歩行。

仙人と云うはかゝる類(たぐい)にやと、長右衛門信仰心になって、どうぞ今宵はこの方に一宿し給えと留むれば、最早日も(たけ)ば、立ち帰るもいかゞ、ついでながら、江戸拝みたき心もあればと、草鞋(わらじ)解きて泊り、長右衛門と差し向い、何咄しけるか、夜すがら語り明かしぬ。かの山賤(やまがつ)、薬一(ちょう)を与え、夫婦服用しける年より、男子出産して、毎年の様に三人まで安産して、夫婦の悦び(なな)めならず。それよりは、長右衛門も富士参りながら、年毎に尋ね、山人も年の内には一と月、二た月、長右衛門方に逗留して、懇意大方ならざりけり。
※ 長たる(たけたる)➜ 盛りの時期・状態になる。たけなわになる。
※ 山賤(やまがつ)➜ 山里に住む身分の低い人。
※ 貼(ちょう)➜ 調合して包んだ薬などを数えるのに用いる。服。
※ 斜めならず(ななめならず)➜ 並ひととおりでない。格別だ。
※ 大方(おおかたい)➜ 普通であるさま。一般的なさま。ひととおり。
(「水濃徃方」つづく)

読書:「典雅の闇 御広敷用人 大奥記録 9」 上田秀人 著
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「水濃徃方」の解読 64



(庭のアマリリス)

庭の隅、キンモクセイの根元に、青い葉っぱが大きく目立った。昔からあったのだろうが、廻りをきれいにしたら、目に着いた。何か花が咲くだろうとコロナの始まった一年前から注意して見ていたところ、ここに至って、太い花茎を延ばしてきた。こんな所に植えたことすら忘れていて、昔鉢に植わっていて、毎年花を咲かせたクンシランかと、楽しみにしていたところ、咲いたのはアマリリスであった。真っ赤な畑のアマリリスに比べて、花は余り目だたない色あいで、今までも咲いたことはあったのだろうが、気付かずに過ぎていたのだろうと思った。

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「水濃徃方」の解読を続ける。

在所の親仁(おやじ)の売られたる田地は勿論、一族一家の貧家まで、相応に合力(ごうりき)し、直兵衛殿は一躰が正直な人ゆえ、その恵みであの様な金息子
持たれたと、登(のぼ)る度ごと、隣郷(りんごう)まで、誰誉(ほ)めぬ者なく、人の鏡とはなりぬ。内義も舂米(つきごめ)屋、恥ずかしくて、心ならず御機嫌も伺い兼ねし御屋敷も、御金の御用聞く様に成って、御由緒ある町人衆と呼ばれ始め、笑いし朋輩衆、今ぞ内義の辛抱(しんぼう)を感じぬ。
※ 合力(ごうりき)➜ 金銭や物品を与えて助けること。
※ 隣郷(りんごう)➜ となりむら。隣村。

出世のすなれや、花房町の角屋敷引廻し、家蔵(いえくら)軒を並べ、手代とも豊かに、惣格子の見入れよく、繁昌何が不足なかりしに、如何なる事にや、一つの憂いは子なき事を悲しびて、何とぞこの家を譲るべき男子一人、と願いける折節(おりふし)、門さきを、忍冬(すいかづら)買わっしゃれぬかと、大きなる籠、背負いて、身には裂き織り荒気なき、足手髭生(お)いて、鬼か人かと怪しむばかりの山家の翁(おきな)。門さきへ来るを、長右衛門呼び入れ、この忍冬、陰乾し(かげぼし)にして、茶に混ぜて呑めば、湿気(しっけ)(わずら)わぬと云う程に、買うて置くべし。
※ 花房町(はなぶさちょう)➜ 江戸神田花房町。
※ 見入れ(みいれ)➜ 外見。。
※ 忍冬(すいかづら)➜ 常緑の木本性ツル植物で、道端や林縁など、やや湿り気のある場所に生育する。「吸い葛」の意で、細長い花筒の奥に蜜があり、古くは子どもが好んで花を口にくわえて甘い蜜を吸うことが行なわれたことにちなむ。
※ 裂き織り(さきおり)➜ 傷んだり不要になったりした布を細く裂いたものを緯糸(よこいと)として、麻糸などを経糸(たていと)として織り上げた織物や、それを用いて作った衣類のこと。
※ 荒気ない(あらけない)➜ ひどく荒々しい。 粗暴である。
※ 湿気(しっけ)➜ 梅毒(ばいどく)。湿毒。

有り切り買えば、直段(ねだん)詰め給えと。三十八文に直段を極めて、銭払いながら、こなた何処(どこ)から御座ったと問えば、わしは富士の根方で御座る。江戸と云う所ありとは聞けど、今日が見始めと云うにぞ。親仁手を打ち、手代どもに向いて、聞きやれ、三十八文の銭取ろうとて、三十里の道、愚かに銭を使いやるな。しかし、其許(そこもと)はこればかりの売り物では、泊り銭あるまいと云えば、これにも御座ると紙袋、渋紙のきれにくるみたる、熊膽(くまのい)百朮(びゃくじゅつ)、富士黄耆(おうぎ)、何くれと少しずつの木薬並べて見せける。
※ 有り切り(ありきり)➜ あるかぎり。あるだけ。
※ 百朮(ひゃくじゅつ)➜ キク科 オケラの若い根の外皮を取り除き乾燥したもの。健胃、利尿、解熱、鎮痛などの作用がある。
※ 黄耆(おうぎ)➜ マメ科の多年草キバナオウギ、またはその近縁の植物の根。漢方で止汗・利尿・強壮薬などに用いる。
※ 木薬(きぐすり)➜ 生薬。天然に存在する薬効を持つ産物を、そこから有効成分を精製することなく、体質の改善を目的として用いる薬の総称。
(「水濃徃方」つづく)
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