ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか9

2021-07-11 10:09:18 | 国際関係
●米国防総省の報告書に基づくシナリオ(詳細 続き)

②侵攻戦力の分析

 侵攻戦力としては以下の3通りに大きく区分できるであろう。

ケースa:東部戦区と南部戦区
ケースb:東部戦区主
ケースc:南部戦区主

 以下の理由から、ケースaが最も可能性が高いとみられる。

a.侵攻正面としては、在沖縄・日本本土・韓国の米軍による早期介入のおそれがなければ、台湾南北からの両翼包囲の可能性が高く、かつ尖閣諸島は台湾とほぼ同時に進行される可能性が高いとの結論を得た。
 その場合の所要戦力は最大となり、北部戦区海軍による台湾東部西太平洋での米空母来援阻止も含め、東部・南部戦区主のほぼ全力での作戦となる可能性が高い。
 なお北部戦区の陸空軍主力は北京・天津の首都圏を米日韓の航空侵攻の脅威から護るために控置されることになろう。また、南部戦区主力は南シナ海方面の防衛に充てられることになろう。

b.ケースbは尖閣・澎湖諸島など小島嶼への限定目標の短期侵攻の際に行われ、兵力規模としては、東部戦区の海空軍と支援するミサイル部隊は全力展開されるが、上陸部隊は武装民兵、偽装特殊部隊の大隊規模程度となろう。
 短期間に防衛態勢を固めるため、揚陸艦艇、ホバークラフト、空母搭載のヘリ、空挺部隊も併用し、迅速に兵力を増強するであろう。
 その際には上陸部隊として、大型ヘリなどで対空レーダ、SAM、SSMなどを最優先で早期展開するとともに、築城土木機能を強化して迅速に抗たん力のある地下陣地の構築に努めるとみられる。
 遠距離の陸海空発射母体から発射される各種ミサイルの攻撃目標の発見・識別・誘導、衛星通信、サイバー・電磁波攻撃支援、無人機・無人艇などの偵察警戒手段、機雷戦・潜水艦戦支援機能など、マルチドメイン作戦に対応した能力も展開するとみられる。
 また、日米のミサイル攻撃による反撃に備え、弾道ミサイル・巡航ミサイルに対処する能力を持った各種艦艇、地上配備のミサイル防衛システムも展開されるであろう。潜水艦戦、機雷戦、対潜作戦も短期間だが熾烈に戦われることになろう。
 このような尖閣上陸部隊の機能と作戦の様相は、台湾本島との同時侵攻などの場合も規模はやや小型になっても基本的には同様になるとみられる。

c.ケースcの南部戦区主となるのは、主攻勢が南シナ海、バシー海峡正面に指向された場合であり、この場合も一部の戦力を配備して在沖縄・日本本土・韓国の米軍の反撃などに備えなければならない。
 その意味では、東部戦区は戦略守勢とはいえ、尖閣諸島、先島諸島の占領も含め、日本領土の部分占領を必要とする可能性は大きく、東部戦区の主力は、宮古海峡南北での戦略防衛態勢確立のために運用される可能性が大きい。
 戦力規模は縮小され、宮古海峡以南と尖閣占領が主となるが、基本的な作戦様相はケースaと変わらないであろう。

③侵攻時期に関する分析

 侵攻時期については、以下の3つのケースが考えられる。

ケースa:2021年夏頃
ケースb:2020年代前半
ケースc:2020年代後半から2035年までの間

 中国の戦略的な狙いと日米台の国内情勢および対応により異なるが、尖閣など周辺島嶼への限定目的の局地侵攻については、ケースaの可能性が高いとみられる。
 また台湾全島の併合については、各国の国内情勢、戦力整備などの諸要因が成熟する期間を考慮すれば実行の可能性の面から、ケースbを追求することになるとみられる。
 しかしケースbが実現できなかった場合も、ケースcの、習近平政権が「強軍の夢」達成の中間目標年として掲げている2035年までに台湾統一のための行動に出る可能性は高い。

a.小島嶼への限定目的の侵攻は、いつでもありうるが、バイデン政権成立後間もなく米国内が不安定で、海象が安定する、コロナ禍で米日が弱り、オリンピックと選挙に日本が追われる、今年夏が好機になるとみられる。
 なお、日米への刺激を避け、台湾のみを対象とするため、太平島、あるいは澎湖諸島など台湾の周辺島嶼への侵攻もありうる。

b.ケースbは、バイデン政権後にさらに極左の米政権が成立し米国の国力と軍事力が弱体化し、米国内が待巻返しを図る保守派と極左に分断され経済も低迷し国内の混乱が深まり、他方で中国共産党内の権力闘争が激化せず習近平独裁体制が維持される場合には可能性が高い。
 台湾・尖閣侵攻の可能性が出てくるかどうかを見極めるには、まだ数年はかかるとみるべきであろう。特に、中国国内ではまだ習近平派と江沢民派の権力闘争は続いており、習近平派が権力を固めるにはまだ数年を要するとみられる。
 他方の米国の内政も不透明である。
 例えば、中国から資金提供を受け息子のハンター・バイデン氏の事業で利益を得ているバイデン大統領の対中融和政策がどの程度進展するのか、副大統領カマラ・ハリスの大統領昇格はあるのか、ドナルド・トランプ前大統領支持派の巻き返しが成功するのか、米国内の混乱が深まるのか否か、米国経済特に軍需産業の衰退は起こるのかなどの不透明な要因がいくつもある。
 これらの帰趨を見極めなければ、台湾統一が可能な情勢になるかどうかは判断できない。
 また、超限戦の発動とその効果の見極めにも時間を必要とする。
 選挙介入については、2020年の大統領選挙でも、ANTIFAへの支援、選挙集計機の操作、投票用紙の偽造など、中国の選挙介入の証拠が挙げられている。
 台湾でも中国によるサイバー攻撃による選挙介入が行われたとみられており、米日台の各種選挙でも同様の選挙介入、政治家、財界人、学界、メディアなどへの影響力の浸透、フェイクニュースなどによる輿論捜査、心理戦、法律戦も展開されるとみられる。
 これらの効果が浸透するには、数年を要するが、その間にも米日台で最高指導者の選挙、議会選挙などが行われる。その際にまた同様の手法で、選挙介入がされ、中国に対して融和的な政権が米日台などで誕生する可能性もある。
 コロナ禍により各国の経済と政治が混乱し、国力が弱まることが今回立証されたが、中国共産党指導部が新型コロナのヒト・ヒト感染の事実を知りながら、虚偽と隠蔽により世界に拡散させたことは明らかになっている。
 遺伝子操作が簡単にでき、生物兵器の研究も進んでいるとされる中国が超限戦の有力な手段として、さらなる新型ウイルスの拡大を実行するおそれもある。

 以上の各種超限戦の手法の実行とその効果の見極めにはまだ4~5年は必要である。
 戦力整備にもまだ数年を要するとみられる。
 直接の侵攻戦力の骨幹となる、大型揚陸艦艇、新型の空母、巡洋艦、潜水艦などの海軍渡洋戦力の増勢、第六世代機の開発配備、海軍陸戦隊や陸軍東部戦区部隊、海上民兵の増強、兵站準備にも、まだ数年は必要であろう。
 また画期的な各種新型兵器の開発配備にもまだ数年を要する。IoTの進歩により、物理的破壊も含めたインフラ攻撃が、サイバー攻撃により可能となるかもしれない。
 また、電磁波攻撃も宇宙空間、航空戦、弾道ミサイル防衛などでは多用されることになるであろう。しかしまだ兵器として運用できるほど成熟してはいない。
 中米露ではミサイル迎撃システムを突破する極超音速滑空体などの開発配備の競争が激化しているが、各国とも主力装備として配備するにはまだ数年を要する。大型ジェットエンジン、第六世代機、新型潜水艦の開発にも中国はまだ数年を要するとみられる。
 5Gの情報通信機器、AI、量子技術、智能化自律型無人兵器など先端兵器の開発も進んでいるが、中国が優位を固められるとしても、それにはまだ数年を要するであろう。
 以上の諸要因の分析結果を踏まえれば、台湾の武力併合を必要とするか、政治併合は可能か、武力併合をするとした場合に米日の介入をさせないような政治経済情勢に持ち込めるか否かなどの不可測要因を見極めるためには、2020年代中ごろまではかかるとみるべきであろう。
 国内で習近平政権の独裁権力を固めるためにも、数年はかかるとみられる。また侵攻に必要な戦力の整備、革新的兵器の独自開発と配備などにも、まだ数年は要するであろう。
 以上から、台湾本島の侵攻については、条件成熟を待つためケースbとなる可能性が高い。特に、2020年10月の共産党第十九期中央委員会第五回総会で「奮闘目標実現」の年として掲げられた、軍創設百年を迎える2027年が節目の年になるとみられる。

c.ケースcについては、習近平政権の「強軍の夢」実現の中間段階の目標年である、2035年までが節目となる。
「強軍の夢」実現までの年表として挙げられた3段階のうちの第2段階は、2021年から2035年とされ、その間に、全面的な軍事理論、軍隊組織形態、軍事人事、武器装備の現代化を達成するとされている。
 他方で習近平政権は2018年3月の全国人民代表大会で、それまで2期10年までと定められていた国家主席の任期条項を削除した。結果的に習近平氏は2035年頃までは国家主席、党総書記、中央軍事委員会主席として留まれることを意味している。
 故李登輝元台湾総統も指摘しているように、習近平氏には軍事的実績がないことから、在任間に宿願の台湾併合を何としても成し遂げるとの意向をもっているとみられており、2035年までに台湾併合を、必要とあれば武力行使をしてでも成し遂げる可能性は高い。
 その意味では、ケースbが、情勢が成熟せず達成できなかった場合も、さらに長期の一貫した戦略目標として、ケースc、すなわち任期内で、「強軍の夢」達成の中間目標年である2035年までに達成しようとする可能性は高い。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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仏教179~霊友会、立正佼成会

2021-07-10 11:16:22 | 心と宗教
◆日蓮系・法華経系(続き)

・霊友会
 霊友会は、先祖供養を中心とする法華経系の在家主義教団である。
 霊友会の源には、法華経行者の西田無学の教えがある。西田は、法華経に依る先祖供養を説いた。先祖供養を僧侶に任せず、子孫が実践すべきとし、夫婦双方の祖先を含む「総戒名」、祖先の戒名を書き出した「霊鑑」、法華経の主要部分の抜粋版等を編み出した。それらが霊友会に受け継がれた。
 西田の教えを継承した久保角太郎は、1919年(大正8年)に霊の友会を創設し、先祖供養の実践を説いて布教した。1925年(大正14年)に兄の小谷安吉、その妻の喜美とともに大日本霊友会を設立し、喜美が会長に就任した。
 久保は理事長となって、先祖供養を中心とした教義を整備し、また組織の運営を行なった。小谷喜美は『法華経』の行者で、神がかりになって供養の指導等を行なった。歴史的に、『法華経』の行者には、呪術を行う者が少なくない。
 昭和時代初期から大東亜戦争中に信徒が急増したが、小谷喜美のきつい性格と法華経の理解不足が反発を生み、1935年(昭和10年)に孝道教団が分離したのを端緒に、立正佼成会等の教団が独立した。久保は、1944年(昭和19年)にガンで亡くなった。その後は、小谷喜美が教団の中心となった。
 霊友会は戦後、1946年(昭和21年)に宗教法人となり、教勢を伸ばした。だが、1949年(昭和24年)に脱税・金塊隠匿・麻薬事件を起こし、1953年(昭和28年)には赤い羽根共同募金の横領事件を起こした。これにより妙智会、仏所護念会等が独立し、計11教団が分派した。
 霊友会の「霊友」とは、自己の霊と過去・現在・未来の三界万霊とがつながっていることを意味する。教義は、先祖供養と法華信仰を結合したもので、神道的な祖霊崇拝を『法華経』で仏教的に意味づけたものと考えられる。特徴的なのは、夫婦両家の先祖代々に「総戒名」を与え、双方の先祖を無限にさかのぼれば万霊を供養することになるとすることである。人間の不幸の原因は先祖の因縁、すなわち浮かばれない先祖の霊にあり、この悪因縁を断ち切るには先祖や三界万霊を正しく祀り、供養することが必要だと説く。先祖供養によって、霊の加護で家族と国家の幸福と安康が得られると説く。
 「南無妙法蓮華経」の曼荼羅を本尊とする。題目を唱え、法華三部経を読む。法座と呼ばれる小集団での身の上相談、信仰指導を実施する。
 1971年(昭和46年)に小谷喜美が亡くなると、久保の息子・継成が2代会長となった。久保会長は「インナートリップ路線」を掲げ、若者を対象とした布教活動を展開した。インナートリップは、自己の内面世界の旅を意味する。「物の時代」から「心の時代」への転換期に入った1970年代以降において、この路線は一部の若者を惹きつけることに成功した。だが、本来の霊友会の先祖供養を中心とする路線との違いから、久保は他の幹部と対立し、「在家仏教こころの会」を作って霊友会から独立した。
 霊友会は、日本会議に参加しており、保守的・愛国的な政治思想を持つ。

・立正佼成会
 立正佼成会は、霊友会から独立した法華経系の在家主義教団である。
 庭野日敬(にっきょう) は1935年(昭和10年)大日本霊友会に入信し、翌年、天理教の信者だった長沼妙佼を入信させた。二人は1938年(昭和13年)に霊友会を脱会し、大日本立正交成会を創設した。庭野が会長、長沼が副会長となった。
 庭野は、霊友会から基本的な教義や儀礼を受け継いだ。先祖供養、総戒名、霊鑑等である。そのうえで、『法華経』への帰依を鮮明にした。また姓名判断を行なった。長沼は、信者に対して、霊感による指導を行った。
 大東亜戦争の敗戦後、1946年(昭和21年)に立正交成会に改称し、1959年(昭和34年)に立正佼成会と文字を一部改めた。わずかのうちに急速に信者を増やし、創価学会に次ぐ新宗教団体となった。
 霊感的な指導を行っていた長沼は、1957年(昭和32年)にガンで亡くなった。長沼を失った庭野は、教学の整備に力を入れた。法華三部経を経典とし、先祖供養を重視することは、霊友会と同じだが、仏教の学術的な研究に基づいて初期仏教を学び、四諦・八正道・十二因縁・六波羅密を教義に取り入れた。信者は、行と学の二道を通して釈迦が説いた真理を実現することを目指し、懺悔と精進を重ねて、菩薩道の実践に努める生活をする。霊友会と同じく法座の活動を行う。法座では、会員が車座になって話し合う。
 本尊は、変遷を重ねた後、1958年(昭和33年)に「久遠実成大恩教主釈迦牟尼世尊」であることを内外に宣言した。これは、『法華経』を信仰しながら釈迦仏を本尊とするものであり、日蓮を本仏とする創価学会とも、「南無妙法蓮華経」の曼荼羅を本尊とする霊友会とも異なっている。
 創価学会と対立関係にある新宗教の教団の多くは、新日本宗教団体連合(新宗連)を結成している。立正佼成会はその中心的存在である。もともとは自民党を支持していたが、公明党が自民党との連立政権に入ると、これに対抗するため、旧民主党の候補者も推薦するようになった。

 次回に続く。

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中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか8

2021-07-09 08:51:23 | 国際関係
●米国防総省の報告書に基づくシナリオ(詳細 続き)

◆日本周辺での中国軍の活動状況
 
 事実、『令和二年版防衛白書』では、日本周辺での中国軍の活動について、以下の状況図(註 省略)が示されている。
 この図からも、特に尖閣諸島~宮古海峡から沖縄と台湾の東岸部への海空軍の活動が活発化していることが明らかである。
 また、日本海から津軽海峡、宗谷海峡への進出、太平洋での空母の演習など主要海峡から北極海を含めた外洋に出ようとする行動も活発になっている。
 さらに、中露海空軍のわが国周辺での共同演習・訓練も増加している。
 防衛省によると、2020年12月22日、中国とロシアの爆撃機が日本海から東シナ海にかけて共同監視飛行を行った。
 参加したのは、中国軍「H-6」爆撃機4機、ロシア軍「TU-95」爆撃機2機であり、竹島周辺、対馬海峡、沖縄本島と宮古島の間を飛行した。
 両国による共同飛行は2019年7月以来2回目であり、極めて異例な訓練である。
 これらの中国軍の動向は、前期の軍事ドクトリン、戦略、軍事バランスなどからみた分析と符合しており、特に宮古海峡から台湾、南西諸島の東部、更に西太平洋に出ようとする中国軍の意図は明らかである。
 また、ロシアとの共同を誇示し、日米台を牽制しようとする狙いも伺われる。
 ただし、ロシアは2020年の中印紛争の最中に、インドに対し最新鋭の防空ミサイル「S-400」や最新鋭戦闘機「Su-30MKI」の売却を進めており、中国と全面的に軍事的に親密な関係になっているとはみられない。
 いずれにしても、中国の台湾統一、尖閣諸島を含むわが国南西諸島に対する侵攻作戦の能力は着実に質量ともにミサイル戦力、海空・両用作戦能力など各方面で向上しており、侵攻を可能にする軍事力バランスが現実のものになろうとしているとみるべきであろう。

◆台湾と尖閣に対する侵攻シナリオの要因ごとの分析の手順
 
 台湾と尖閣に対する侵攻シナリオの分析に当たっての分析手順は以下の通りである。

①まず様々の要因ごとのありうるシナリオを列挙し、
②要因ごとに、それらのシナリオを比較分析して可能性が大きく、影響度の大きなシナリオをそれぞれ絞り込み、
③それらの諸要因を一連のストーリーとして時系列にまとめて、分析評価する。

 侵攻シナリオの分析要因には、①侵攻の正面、②戦力、③時期、④要領などが挙げられる。
 これらの諸要因について、それぞれのシナリオを列挙し、他の要因とも関連付けつつ、その可能性と影響度を比較分析し、要因ごとにひとつのシナリオに集約することとする。

①侵攻正面に関する分析

 侵攻正面としては、台湾と尖閣の両者を対象として、以下の3通りがありうる。

ケース1:台湾のみの単独侵攻
ケース2:尖閣のみの単独侵攻
ケース3:台湾と尖閣の同時侵攻

 以下の理由から、ケース3の同時侵攻の可能性が高いものと判断される。

a.PLAの戦略家たちの文献では、台湾と尖閣諸島をPLAが太平洋に出るための「大門」のかんぬきとして、戦略的に一対不可分の地政学的価値を持つとみていること。

b.実際のPLAの海空軍の演習や訓練でも宮古海峡を通過して西太平洋に出て、それから台湾東岸に回りさらに台湾を周回する経路、また日本本土太平洋岸に出る経路が多数確認されていること。

c.PLAが、台湾本土武力併合のためA2/AD戦略をとり米軍空母部隊の来援阻止のために、海空軍と各種ミサイル火力により西部太平洋での戦略守勢をとるとすれば、台湾の南北にある宮古海峡とバシー海峡の両翼から台湾を包囲するのが、最も早期かつ確実に米軍来援に対する阻止・遅延態勢を確立でき、台湾を完全に孤立化させることができる。
 また宮古海峡の北部には、沖縄の米軍基地が、南北には自衛隊が所在するが、有力な東部・北部戦区の海空軍の支援を直接得られ、上海以北には港湾や航空基地、兵站拠点も多く距離的にも近い。戦略攻勢を採るには中国側の態勢としては望ましい攻勢正面である。
 ただし、両翼包囲には大規模な侵攻戦力の集中が必要となり、北部戦区の一部も支援する必要がある。
 その場合、在韓・在日本本土の米軍による、地形縦深の薄い政経中枢の北京・天津地区への最短距離からの攻勢に対する防御を主任務とするとみられる、北部戦区の戦力が手薄となり、日米韓の共同による攻勢を受ける恐れが高まる。
 南部戦区も南シナ海正面の防衛に主力を使用するため、バシー海峡からの攻勢に全力で参加はできないとみられる。
 結果的に、両翼から同時に台湾を奇襲的に包囲するに十分な戦力を集中するのは限界があるとみられる。
 ただし、奇襲的なミサイルの集中攻撃、宇宙・サイバー・電磁波戦での戦略先制奇襲に成功すれば、日米韓の戦力発揮は一時的に困難となり、反攻作戦を遅延させ、その間に台湾を一挙に占拠することも可能かもしれない。
 逆に、在沖縄、日本本土、韓の米軍が健在する限り、台湾に対する宮古・バシー両海峡からの両翼包囲により一挙に台湾を孤立させることは容易ではないとみられる。
 PLAとしては、在沖縄・日本本土・韓国の米軍の撤退または不介入を保障できる情勢の下では、宮古海峡正面からの主攻勢による台湾に対する両翼包囲を奇襲的に行う可能性が高い。
 その際には、一体とみている尖閣諸島を台湾本島侵攻と同時または直前に奪取するとみられる。

d.ケース2の台湾単独侵攻は、南シナ海・南太平洋正面との連携を重視するとともに、在日・在韓米軍を刺激せず、その参戦を抑止あるいは遅延させるとともに、台湾本島と太平島、比との連携を絶ちつつ、南翼から孤立させながら占領するという狙いをもって行われる可能性がある。
 ただし、以下の問題点がある。
 南シナ海は、軍事化したとは言え岩礁と小島嶼しか基地群がなく、基地機能の抗たん性に劣り、長期の兵站維持も困難である。
 また態勢上、東・西・南の3正面を、敵性国の越、比、シンガポール、インドネシア、さらにその背後の豪とグアムの米軍基地に囲まれている。このため、有事には短時間で制圧されるおそれがあり脆弱である。
 逆に米軍としては、豪とグアム、シンガポールの基地群を反攻作戦の基盤として利用でき、かつ越、比などの協力も得られる。
 そのため、反攻作戦としては、南太平洋から脆弱な南シナ海正面、次いで台湾へと北上する戦略攻勢方向をとるのが、リスクが小さく、成功の可能性が高いとみられる。
 PLAとしてこの脅威に対処するのは、主に南部戦区の責任となるが、南部戦区としては、バシー海峡の制圧よりも、まず南シナ海、特に原潜基地が所在する海南島の防衛を優先することになるとみられる。
 またPLAとして、バシー海峡正面からの主攻勢は宮古海峡方向からの主攻勢に比べ、北部・東部戦区の支援を得にくく、海南島以外に支援基地群も脆弱であり、戦力の集中と維持がより困難とみられる。
 これらの諸要因から、南部戦区の主任務は南シナ海基地群の防衛にあり、バシー海峡からの主攻勢への参加は一部戦力に留まる可能性が高いとみられる。
 半面、台湾単独侵攻の狙いの一つが、在沖縄・日本本土・韓国の米軍基地の参戦を遅延させることにあるとしても、

(1)米台関係法に基づく米国の台湾防衛義務の存在、(2)日米安保条約下にある在沖縄米軍基地に台湾軍の一部が緊急に避難してくる可能性があること、(3)PLAのミサイル戦力により台湾を孤立させるためには、同時に先島諸島の自衛隊基地および在沖縄米軍をに制圧する必要があることなどを考慮しなければならない。

 すなわち、台湾単独侵攻を企図しても、PLAとしては必然的に、先島諸島と在沖縄米軍基地を、事前または同時に制圧しなければならなくなる。
 もし制圧をしなければ、米台関係法に基づき無傷の在沖縄米軍による台湾防衛への早期の先制介入を招く可能性が高い。
 以上の理由から、PLAとしては、台湾単独侵攻を企図するとしても、台湾北翼と在沖縄・在日・在韓米軍への対処を同時に行わねばならないであろう。
 すなわち、台湾単独侵攻は全般態勢と戦略的合理性から見て、成立しないことになる。

e.尖閣単独侵攻は所要兵力も少なく、米国や国際社会の介入前に比較的短期間で占拠に成功する可能性はある。
 しかし、その後日米による尖閣上陸部隊に対する海上封鎖と遠距離火力による反撃に会い、尖閣占領部隊の戦力を維持するのは、容易ではないとみられる。
 また尖閣諸島が占拠された場合には、日本の輿論の憤激を招き、政治的にも対中融和派が影響力を失い、日本の本格的な防衛力増強、台湾との安全保障協力強化を誘発するおそれがある。
 日本の台湾支援政策は一挙に進み、日中国交断絶と日台国交回復、対台湾武器援助、日本版台湾関係法の制定、日台物品役務相互提供協定・防衛機密包括保護協定の締結、日米台共同作戦計画の策定と三国共同軍事演習の実施など、一気に日本の台湾防衛協力、日米台間の防衛協力を加速することになるであろう。
 また同時に台湾の対中警戒心を高め、台湾の軍事力増強、米国からの武器支援による台湾の防衛力強化がさらに進むであろう。
 半面、中国側が、「九二共識」や台湾への年頭の呼びかけを通じもくろんでいる、輿論工作や経済関係強化による吸収合併などの平和裏の政治統一の可能性は遠のくであろう。政治的にも台湾独立派の支持が高まることになる。
 特に台湾での反中意識の高まりは、台湾の武力の威嚇下での政治的統一の可能性を弱め台湾武力併合の選択肢を採らざるを得なくなるが、その際の軍事力バランスもかえって中国側に不利になるであろう。
 また、民主党の人権派を含めた米国輿論の超党派の反発を招き、米国の軍事力の増強と米日台3国間の防衛協力を促進させることになろう。
 沖縄、韓国、グアムの米軍増強も招き、長期的な戦略目標である西太平洋の覇権獲得も「強軍の夢」も遠のくことになる。
 東南アジア諸国やインド、豪州、欧州各国の反発も強まり、世界的な対中包囲網が経済・金融・貿易・外交・技術・情報など各方面で強まり、中国の国際的孤立が決定的となろう。

 以上の、日本側の対応による軍事的リスク、日台米の反発による政治的リスクと防衛力増強の誘発、外交的孤立のリスクを総合的に考慮すれば、中国による尖閣諸島への侵略と占領は軍事的にはいつでも可能としても、安易に実行される可能性は低いとみられる。
 ただし、米バイデン政権の意思を試し、あるいは米国と日台との連携の度合いを探るために、中国が、尖閣諸島侵攻あるいは台湾本島以外の太平島、澎湖諸島など周辺の台湾の島嶼を占領するなどの脅威を作為する可能性はいつでもありうる。
 その場合、中国は、作為した紛争を外交的な解決で決着を図り、日台と米政府を油断させ、紛争後はむしろ緊張緩和を演出するとみられる。
 しかし、むしろその真意は台湾併合のための有利な状況を作為することにあるのを忘れてはならない。

 次回に続く。

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仏教178~創価学会(続き)

2021-07-08 08:43:35 | 心と宗教
◆日蓮系・法華経系(続き)

#創価学会(続き)
 創価学会による宗教団体の政治への積極的参加は、日本国憲法の政教分離制度下での政治と宗教のあり方をめぐって議論を呼んだ。そうした折、1969年(昭和44年)、政治評論家の藤原弘達が『創価学会を斬る』を出版するという広告を出すと、創価学会・公明党が出版の中止や書き直し等を要求するという言論出版妨害事件が発生した。池田は、事件について陳謝し、池田の政界不出馬、国立戒壇設立の否定、創価学会と公明党の政教分離の明確化、強引な折伏の停止を約束した。この事件を機に、公明党は自らを「国民政党」と規定し直した。また、創価学会は、1970年(昭和45年)に、国立戒壇は政教分離を規定する憲法に違反するという指摘を受け、この用語の使用を止めた。本門戒壇の建立は民衆立が本意であるとし、国立戒壇の設立という目標を掲げなくなった。創価学会は、1972年(昭和47年)に大石寺に正本堂を建設し、本尊である板曼荼羅を祀り、これを以って戒壇設立に替えた。戒壇設立を国家的・国民的な目標から、一団体の目標に変更したわけである。
 こうした一連の出来事を通じて、創価学会では、宗教的な目的に替えて、「大衆福祉の実現」が高く掲げられるようになった。創価学会員は、政治的な力を獲得することによって、貧しい生活から脱し、豊かな生活を実現することを願って、公明党を支持し、有権者に公明党への投票を求める選挙活動を行っている。
 日蓮正宗は、もともと僧侶中心の性格を持つ。一方、創価学会は、大石寺の法華講が巨大化したものともいえるような在家の信徒集団である。両者は、信仰上の問題や献金等を巡る対立を続けていた。1997年(昭和52年)には、池田が「創価学会の会館や研修所は現代の寺院である」と発言し、創価学会の施設があれば日蓮正宗の寺院は不要と宣言した。日蓮正宗の法主・細井日達は、池田の発言を教義から逸脱していると指摘した。池田は謝罪するとともに、会長職を辞した。1990年(平成2年)、日蓮正宗が本尊下付の際の供養料等の値上げを通告すると、創価学会側は法主や宗門を批判し、両者の対立が激化した。その結果、日蓮正宗は創価学会と創価学会インターナショナルを破門にした。池田をはじめとする学会員は除名された。その後、大石寺では、創価学会が建てた正本堂を1998年(平成10年)に解体し、本尊を安置する別の建物を建てた。
 破門を機に、創価学会は宗門の監督・統制から離れて、独自の活動を開始した。葬儀に関しては、僧侶を呼ばず、信徒のみで行う「友人葬」を実施し、本尊については、日蓮の本尊曼荼羅を写したものを授与するなどして、1993年(平成5年)に日蓮正宗と絶縁した。以後、在家主義仏教教団としての道を進んでいる。だが、創価学会の日蓮本仏論はあくまで日蓮正宗の教義であり、本来の本尊は「本門戒壇の大御本尊」である。そこに、総本山を失った創価学会の根本事情がある。
 日蓮正宗との関係を絶った創価学会の内部では、巨大集団を統合するための要として、池田大作を崇拝する傾向が強まった。一部に池田本仏論が説かれていると側聞する。創価学会は、日蓮宗の異端である日蓮正宗の日蓮本仏論を信奉する。日蓮本仏論における日蓮を池田に置き換えた池田本仏論は、さらなる異端の思想ということになる。
 池田は、1979年(昭和54年)に会長を辞任して名誉会長となり、創価学会インターナショナルの会長として、国際的な活動を行っている。池田は、在日朝鮮人の帰化人という見方が有力である。また、数年前から重病説や死亡説が出されている。
 創価学会は、国内の会員世帯数が公称827万、192の国と地域に150万人の会員がいるとしている。だが、奇蹟救済による実証はなく、組織的な助け合いと政治的な恩恵の追及が主になっている。
 自民党は1999年(平成11年)以来、公明党と連立政権を組み、その母体の創価学会から選挙協力を受けている。だが、公明党は親中・親韓姿勢が強く、また憲法改正に消極的で、日本の再建を阻害する点がある。
 補足として、創価学会が国立戒壇の用語をやめるとともに、日蓮正宗もこの用語を使用しなくなった。しかし、日蓮正宗の信徒団体の中の妙信講は、宗門からの使用禁止命令に従わず、この用語を使い続けた。そのため破門され、1996年(平成8年)に富士大石寺顕正会に改称した。浅井昭衛会長のもと、引き続き国立戒壇の設立を主張し、その目標を放棄した創価学会を強く批判している。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
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中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか7

2021-07-07 10:08:41 | 国際関係
<付録資料>

●米国防総省の報告書に基づくシナリオ(詳細)

 本文で紹介した矢野義昭著『中国が本格的に検討し始めた尖閣、台湾侵攻シナリオ』の全文を以下に付録資料として掲載する。
https://news.biglobe.ne.jp/economy/0119/jbp_210119_0912164887.html
 内容を損なわない範囲で、記号・句読点・改行等の編集を行っている。

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 米国防総省の『PRC(中華人民共和国)を含む軍事力と安全保障の発展』に関する米議会への2020年の報告によれば、米軍はPLA(人民解放軍)の将来について、以下のように分析している。
 「PLAは、長期的な世界の軍事的な潮流に、現在のドクトリン、概念、戦役(campaign)を適応させて中国の国益の拡大に対応させ、PLAの重大な構造と能力の変化について説明することを必要とするようになるだろう」
 ここで言う「戦役」概念とは、PLAが中国の戦略的な目標を達成するために、いまPLAが開発している概念である。戦役では、国境防衛から大規模な多国間の戦争までの行動が組み込まれている。
 PLAの統合作戦は、「戦区部隊司令部のような統合司令部指揮下の2軍種かそれ以上の複数の軍種にわたる作戦であり、統合火力打撃、島嶼封鎖、島嶼侵攻作戦などの攻勢作戦、あるいは防空、国境防衛、対上陸作戦などの防勢作戦を含む」とされている。
 PLAの新たな戦役概念では、PLAの戦力投射と防衛能力は中国本土からはるかに遠方にまで拡大され、その能力は宇宙・サイバー・電磁波戦などの新空間にも及び、それらの戦力は統合一体化される。
 戦役概念は新領域を含む宇宙での対決まで含む、マルチドメイン作戦の概念と類似していると言える。
 戦役作戦の様相について米国防総省は、「複数の戦区戦力が参加し、地理的には西太平洋からインド洋に広がり、統合火力打撃、島嶼封鎖、島嶼侵攻作戦などの攻勢作戦と、防空、国境防衛、対上陸作戦などの防勢作戦が遂行される。非戦争軍事行動も含まれ、海外での作戦、他国軍との共同作戦も行われるようになるであろう」とみている。
 特に、台湾と日本の南西諸島に対する侵攻では、PLAの主に東部戦区と南部戦区の戦力が使用され、米軍の来援阻止のために北部戦区の海軍が使用されるかもしれないとみている。
 以上のようなPLAの戦略、「戦役」教義と以下の軍事力バランスに基づき、尖閣と台湾に対する侵攻のシナリオと様相を分析する。

◆台湾海峡両岸の軍事力バランスに関する米国防総省の見積とその分析
 
 上記報告では、中国と台湾の戦力データとして、台湾両岸の陸海空軍およびロケット戦力について各付表を付している。
 前記の、米国防総省のPLAに関する軍事力の発展報告と各付表の台湾海峡両岸の軍事力バランス評価から、以下のような点が指摘できる。
 台湾での軍事作戦に参加するのは、東部戦区と南部戦区の陸海空軍が主であるが、人民武装警察指揮下の海警局と武装海上民兵の舟艇も参加するであろう。北部戦区海軍は洋上での米軍等の接近阻止あるいは他の戦区海軍の支援をするかもしれない。
 宇宙、サイバー、電磁波戦は戦略支援部隊の支援の下、平時も含めた早い段階から隠密裏あるいは奇襲的に実施され、戦争目的達成に最大限に活用されるとみられる。
 また、選挙介入、輿論操作、プロパガンダなどの「三戦(心理戦、輿論戦、法律戦)」、破壊工作、民兵や特殊部隊を使用したグレーゾーンの戦いなどの「非戦争の軍事行動」と、海外基地を活用した遠距離での作戦、ロシア、パキスタン、イラン、北朝鮮などの各国との共同作戦なども実施されるとみられる。
 戦力比較表から、地上戦力については、兵員数は総兵力で十数倍、戦車、火砲など主要装備で6~8倍、正面戦力では兵員数で4~5倍、部隊単位では数倍程度の格差がある。
 PLAには6個旅団の水陸両用旅団と7個の空挺旅団がありヘリボーンが主の空中攻撃旅団も7.5倍編制されている。これらの戦力による迅速な多正面からの立体包囲作戦が脅威となるとみられる。
 海軍戦力については、正面戦力でも駆逐艦が約6倍、潜水艦はPLAの原潜6隻を含む38隻に対し台湾は2隻しかない。
 PLA海軍は空母2隻、巡洋艦1隻、コルベット39隻を保有しているが、これに対抗する艦艇は台湾側にはない。
 上陸用艦艇についても、正面で51隻に対し14隻と4倍近い差があり、特にPLAの戦車揚陸艦、ドック型揚陸艦などの大型揚陸艦艇が増加している。PLAのミサイル哨戒艇は総数で約倍、正面で1.5倍に上る。
 その結果、潜水艦、各種艦艇・航空機からの長射程ミサイルの集中攻撃などによる洋上での台湾封鎖、台湾の地上目標制圧、米海軍空母艦隊の来援の遅延と阻止、さらに水陸両用艦艇を使用した迅速な大規模上陸侵攻支援に適した戦力構造になっている。
 また民間船舶の動員による後続上陸戦力と兵站輸送能力の増強にも注意が必要である。
 航空戦力については、戦闘機の総機数で4倍近い差があり、正面では1.5倍の格差がある。また、爆撃機は台湾側にはない。
 輸送機の総数は13.3倍の格差がある。長距離輸送力があり総機数の大半の台湾正面への集中は可能とみられる。その他の民間航空機の動員による輸送力増強も注意が必要である。
 航空戦力バランスについて全般的には、長距離の爆撃機、輸送機の戦力は中国側が優位にある。
 また第4世代機以上の近代化された戦闘機戦力約800機は、域内の米軍と日台韓の航空戦力にほぼ等しく、近代化が質量ともに進んでいる。
 台湾海峡と東部を含む周辺の航空優勢は、米軍空母艦載機の来援がなければ、PLA側に奪われることになるとみられる。
 ロケット戦力については、射程が300キロ以上の各種ミサイル戦力はPLAが一方的な優位にある。
 短距離ミサイルでも移動式であり、300キロあれば台湾海峡を射程下に入れ、西岸からの台湾侵攻を掩護できる。
 新型の短距離ミサイルは射程が約1000キロあり、台湾海峡や日本の南西諸島周辺を制圧できるだけではなく、台湾と沖縄の東部海域を攻撃することも可能であり、米海軍の来援阻止に使用可能とみられる。
 また射程が1500キロから3000キロの準中距離ミサイルは日本全土を攻撃でき、射程約3000キロ以上の中距離弾道ミサイルはグアムも制圧できる。
 特に通常弾頭の対艦弾道ミサイル「DF-21D」は洋上の空母など大型艦を攻撃でき、「DF-26」は核・非核両用でグアムを攻撃できるとみられ、いずれも米軍から重大な脅威と見られている。
 これらの各種ミサイル火力が有事には、米空母来援の遅滞と阻止のためのA2/AD戦略の基幹戦力となるとともに、当初の奇襲段階では台湾、尖閣諸島、南西諸島、必要に応じ日本本土、グアムに対する攻撃に使用されるとみられる。
 以上から総合的に判断して、台湾に対する中国の各種戦力要素の優位はますます高まっており、圧迫も強まっていると判断される。

 次回に続く。

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仏教177~仏教系新宗教の諸団体:創価学会

2021-07-06 10:07:40 | 心と宗教
●仏教系新宗教の諸団体

 戦後日本に現れた新宗教には、神道系、仏教系、キリスト教系、諸教(独立系、混交系等)がある。仏教系では、日蓮宗系・法華経系の創価学会、霊友会、立正佼成会等があり、特に創価学会は新宗教最大の教団となり、政治に進出し、社会的に大きな影響を与える団体となっている。真言宗系では阿含宗、真如苑等、天台宗系では念法眞教、孝道教団等の新宗教団体がある。また、諸宗教混交型だが仏教の影響を強く受けている教団に、オウム真理教、GLA、幸福の科学等がある。
 次にこれらのうち10の団体について記し、戦後日本における仏教系新宗教団体の概要を述べる。読者は、現代における仏教の法と力の限界を知るだろう。
 なお、仏教系の新宗教団体は、既成の宗派の信仰が土台になっていて、その宗派・寺院の在家集団という性格を持つものが多い。その場合は、純粋な新宗教とはいえない点があるが、宗教学ではそれらを含めて新宗教と扱うのが通例なので、それに従う。

◆日蓮系・法華経系

#創価学会
 創価学会は、もともと日蓮正宗の在家信者の集団であり、日本最大の新宗教団体である。
 初代会長・牧口恒三郎は、1930年(昭和5年)に創価教育学会を創立した。それを母体として、2代会長・戸田城聖が1946年(昭和21年)に創価学会と改称して宗教団体として再組織した。
 牧口は教育者・教育学者で、同じく教育者の戸田とともに「創価教育学会」を設立した。この団体は、牧口の教育理論に基づく教育改革運動を行っていた。だが、牧口は、以前から宗教に関心を持ち、田中智学の講演を聴いたが、国柱会ではなく日蓮正宗に入信した。日蓮正宗は、日蓮本仏論を信奉し、日蓮の教えはその法主にのみ継承されているとする。また、国柱会の影響を受け、国立戒壇の設立を唱えていた。牧口は当初、教育改革を唱えていたが、教育による社会改革の根底には日蓮の教説に基づく宗教革命が必要であるとの主張を強く掲げるようになった。そのため創価教育学会は、1937年(昭和12年)に発会式を行なった後、布教を活動の中心とするようになっていった。当時の宗教統制政策に反対し、宗門の合同や伊勢神宮の大麻(神札)の拝受を拒否したり、神札を焼却させたりした。そのため、1943年(昭和18年)に治安維持法違反と不敬罪の容疑で、牧口・戸田等の幹部が検挙・投獄され、牧口は獄中で病死した。
 敗戦直前に釈放された戸田は、牧口の志を生かすべく、獄中での宗教体験をもとに生命論を説き、人生の究極の目的は信仰による生命の変革、すなわち「人間革命」であると主張した。1946年(昭和21年)に創価教育学会を宗教団体として再建した。
 創価学会が団体名に上げる「創価」とは、牧口の言葉で、「価値創造」を意味する。牧口は、「美利善」の価値を創造することによる幸福の追求を説いた。西洋哲学の価値論では「真善美」を説くが、牧口は「真」の替わりに「利」を掲げ、現実的な価値の実現を求めた。創価学会は、この価値論に基づき、現世利益の実現を強調する。
 創価学会では、日蓮正宗の教義に基づき、日蓮を末法の本仏と仰ぐ。日蓮が表したという「本門戒壇の大御本尊」への信仰と南無妙法蓮華経の唱題行を実践する。他の法華経系新宗教団体と異なり、霊的な救済には否定的であり、先祖供養を重視せず、現世における幸福の実現を主たる目的とする。他の宗教・宗派の信仰を受け入れず、その儀式に参加することを「謗法」として禁止する。
 第2代会長となった戸田は、信仰の実践として、日蓮正宗の本尊の唱題と折伏を強調し、精力的な布教活動を進めた。戸田は、もともと教育者というより実業家肌の人間だった。本尊は「幸福製造機」と、およそ宗教的ではない表現で呼んだ。だが、その手腕によって、急激に信徒数を拡大した。その過程で、創価学会は布教対象の家に集団で押しかけ、しつこく説得し、他宗の仏壇を焼くなど、強引な布教方法を行なったため、社会問題になった。それによって、新宗教に対する社会的なイメージをひどく悪くした。
 日蓮は、末法の世における仏国土の建設を目標とし、立正安国・王仏冥合を説いた。立正安国とは正を立てて国を安んじることであり、王仏冥合は世俗の法である王法と釈迦の説いた仏法が融合されることである。ともに法華経を宣布し、日本を仏教国にすることを意味する。牧口はそれを受けて、「大善生活」という社会的公共善の実現を掲げた。次いで戸田は、王仏冥合論を説き、現世に仏教の思想に基づく平和な理想社会を建設することを主張した。さらに、国立戒壇を国民の総意によって建立することを目標に掲げた。これは、日蓮正宗を事実上の国教とすることを意味する。日蓮正宗の総本山大石寺に国立戒壇が建立された時には、日蓮正宗に帰依した天皇の勅使が寺を訪れると考えていた。大石寺には、勅使のための勅使門が作られており、戸田の考えは、日蓮正宗の教義によるものである。
 戸田のもと、創価学会は1955年(昭和30年)から政界に進出し、教団の幹部たちを地方議会や国会に議員として送り込んだ。政界進出の目的は、国立戒壇の設立だった。
 戸田は、1958年(昭和33年)に死亡した。彼の死後、池田大作が1960年(昭和35年)に第3代会長に就任した。池田は、政治活動を本格化し、1964年(昭和39年)に公明党を結成した。公明党は、結成宣言で基本理念として「王仏冥合・仏法民主主義」を掲げた。中道政党として躍進し、短期間に野党第二党にのし上がった。

 次回に続く。

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中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか6

2021-07-05 11:23:57 | 国際関係
●様々なシナリオに対応できる法整備を

 日本や米国の防衛・安全保障の専門家たちを中心に、中国の台湾侵攻・尖閣奪取のシナリオを紹介したが、様々なシナリオに対応できる体制を作るには、法的な整備も必要である。その点について次に述べる。
 拓殖大学顧問・渡辺利夫氏は、本年4月19日の産経新聞「正論」に、「台湾海峡有事、日本はどうする」と題した記事を書いた。 
 米国は、1979年1月1日に米中国交樹立をした際、台湾と断交したが、4月に入り国内法たる台湾関係法を制定、同年1月1日に遡及して同法を施行した。渡辺氏は「断交の米台関係への影響を最小化し、かつアジア共産化への中国の意図を牽制する橋頭堡を台湾に築こうという米国の意思表明でもあった」と述べている。
 日本は米国に先立ち、1972年に日中国交回復を行い、同時に台湾と断交した。その後、台湾との経済関係、文化交流、人的往来を行っているが、米国の台湾関係法に当たる法律は作っていない。
 渡辺氏は「中国の台湾に対する軍事的圧力や東・南シナ海における軍事的膨張を前にして、日台の安全保障対話、情報共有が日本の安全保障にとっていよいよ重要な課題となっている。安全保障対話や情報共有のためには、それを可能にする日本の国家意思を闡明した国内法が不可欠である」と主張している。
 注意すべきこととして、「米国の台湾関係法とて、海峡有事に際しての米軍による台湾防衛義務を規定しているわけではない。米中軍事力の相対関係は96年とは様変わりしており、海峡の一朝有事に際して米国の判断に逡巡が生じないとはいい切れない」と、渡辺氏は指摘する。
 1996年とは、台湾初の総統選挙の直前に中国が弾道ミサイルで台湾を威嚇した時のことで、米国は空母機動部隊を台湾海峡に派遣し、中国の威嚇を封じた。しかし、今や中国の猛烈な軍拡によって、台湾海峡付近における米中の軍事的優位は逆転している。まして、大統領がトランプからバイデンに替わり、弱腰のバイデンが有事に毅然とした対応ができるか疑わしいところである。
 渡辺氏は、今日の状況において「日本の安全保障空間を少しでも広げておくためには、日本李登輝友の会が『日台交流基本法』と名づけるところの日本版台湾関係法の制定を欠かすことができないことを認識されたい」と述べている。
 自民党の保守系の有志議員でつくる「保守団結の会」は3月24日、国会内で会合を開き、台湾との関係強化を目指す決議を採択した。決議は中国共産党政権の脅威に言及し、地政学的要衝である台湾を守るべきだと指摘した。台湾との連携と交流を深化させることは重大な意義を持つとの見解を示し、「日台交流基本法」制定の要請や、同党と台湾の与党・民進党との定期的な会合の開催などを提言した。また、故李登輝元総統の誕生日である1月15日を「日台友情の日」とすることも提案している。
今後の動きに注目したい。
 私は、日本版の台湾関係法の制定が必要だと考える。だが、同法の制定以上に、もっと根幹的な法整備が必要である。言うまでもなく憲法の改正である。
 防衛省は、日本が安全保障関連法に基づいて米軍の後方支援を行う場合について、自衛隊にどのような活動が可能か検討を進めているという。わが国西端の沖縄県・与那国島から台湾までは、わずか110キロ余りで、尖閣諸島までは約170キロしかない。台湾有事の際、安保法適用の可能性がある事態の一つが、「重要影響事態」である。日本の平和と安全に重要な影響を与える状況が要件で、米軍の補給を行うことができる。また、シーレーン防衛で警戒中の米艦船が攻撃されれば、「存立危機事態」に認定される可能性がある。「存立危機事態」は日本の存立が脅かされる事態であり、集団的自衛権により、自衛隊が武力行使できる3要件の一つとなっている。
 安保関連法では、自衛権を行使するのは、「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」事態に限る。これが「存立危機事態」である。
 武力行使は、こうした「明白な危険」があるとともに、「これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと」「必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと」という三つの要件を満たす必要があるとしている。
 仮に中国軍が台湾侵攻に合わせて尖閣諸島に侵攻しても、それが我が国の存立が脅かされるほどではなく、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるほどに明白な危険ではないと判断されたならば、自衛権は発動されない。また、わが国にとって「明白な危険」があるとともに、「他に適当な手段がない」こと、「必要最小限度」の範囲であることという武力行使の三要件を満たすと判断されなければ、武力の行使はできない。自縄自縛の制約によって、わが国は多大な損害を出しなからも、尖閣諸島を占領されてしまう恐れが強い。そうなると中国は、台湾侵攻を有利な状況で進めることができる。
 外国による侵攻を未然に防ぐ戦争抑止力を高めるには、自衛隊を軍隊とする憲法改正が必要である。またその改正においては、防衛出動をした場合に、軍事行動が適切であったか否かを裁定するための軍法会議や、一般の裁判所とは別の軍事裁判所を設ける規定等が必要である。憲法を改正し、自衛のための軍隊を持ち、周辺国からの侵攻を未然に防ぐ戦争抑止力を高めることが、日本及び周辺地域の平和と安定を維持する道である、と私は考える。

●結びに~台湾有事は日本有事と考えて備えを急げ
 
 台湾有事は、日本にとって決して他人事ではない。台湾有事は即、日本有事になる。すなわち、日本を防衛するための戦争になる。日本は、石油の大半を輸入に頼っている。台湾は、中東から日本に石油を運ぶシーレーンの要にあり、台湾を中国に支配されたら、日本は生命線を抑えられることになる。台湾有事を日本有事と考えて、日本としての備えを急がねばならない。この点については、拙稿「凄まじい軍拡を続ける中国から日本を守れ」の「3.台湾侵攻・尖閣強奪への備えを急げ」に書いたので、ご参照願いたい。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-15.htm

 次回より付録資料を掲載する。

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仏教176~戦後日本の新宗教ブーム

2021-07-04 10:06:45 | 心と宗教
●昭和戦後期と平成・令和時代(続き)

#新宗教ブームの展開
 ここで新宗教と呼ばれる宗教団体の歴史を概観すると、わが国では19世紀後半から大きく4回、新宗教のブームが起こった。
 第1次宗教ブームは、幕末から明治維新の時期で、封建社会から近代社会への転換期にして、欧米列強の外圧を受けた民族な危機に、そのブームが起こった。黒住教・天理教・金光教・扶桑教等、後に教派神道と呼ばれる神道系の団体が出現した。その多くは、霊的な現象によって神がかりになった開祖が病気治しをしたり、神意による世直しを説いた。徳川幕府の宗教政策で仏教が形骸化していた中で、霊力による救済を求める人々がそれらの新団体に集まった。
 第2次宗教ブームは、明治時代末期から昭和初期にかけて起こった。近代化・西欧化が進行し、土着的な精神文化との軋轢が強まった時期である。大本教(現大本)・ほんみち・国柱会・ひとのみち教団(現PL教団)・大日本霊友会(現霊友会)・大日本立正交成会等が出現した。金光教の影響を受けた大本教と天理教の分派・ほんみちは、終末的な予言を唱えて、政府から弾圧を受けた。また、日蓮系の国柱会は、法華経による社会変革を訴え、大きな影響力を振るった。
 第3次宗教ブームは、大東亜戦争の敗戦直後に起こった。4回のブームの中で最大のもので、日本が敗戦によってどん底に陥り、精神的・社会的な混乱が広がった時期である。占領期を中心に、多数の新宗教団体が誕生した。宗教学者のH・N・マックファーランドは、「神々のラッシュアワー」と呼んだ。敗戦直後から1952年(昭和27年)までの7年間に約600の新宗教団体が雨後の竹の子のように出現した。新宗教団体と言っても、ほとんどは神道系、仏教系、キリスト教系だったが、それらの系統のいずれにも入らない「諸教」に分類される団体も誕生した。
 戦後、初めて設立された宗教団体だけでなく、戦前から活動していた団体が宗教法人になったり、名称を変更したものも多い。また、既成の新宗教団体から分派した団体も多い。天照皇大神宮教・璽宇(じう)・PL教団・霊友会・生長の家・世界救世教・立正佼成会・創価学会・真如苑等が現れた。高度経済成長と時を同じくして、日蓮系・法華経系をはじめとする諸団体が急成長して大教団になった。
 第4次宗教ブームは、1970年代以降とする見方と、20世紀末とする見方がある。1970年代は物質中心・経済中心の価値観から精神的なものへと価値観の変化が起こり、精神世界ブームが起こった時期である。1973年(昭和48年)にオイルショックが起きて社会不安が高まった。その時期に、五島勉著の『ノストラダムスの大予言』が終末予言を解説した書として大ベストセラーとなった。翌年には、超能力者を自称するユリ・ゲラーが来日し、スプーン曲げを実演して、超能力ブームが起こった。また、20世紀末には、世界的にキリスト教暦での世紀末の観念が広がり、聖書の説く「最後の審判」の時が近づいているというミレニアム運動が高まった。こうした時期に、わが国では、GLA・阿含宗・オウム真理教・幸福の科学等が登場し、また世界基督教統一神霊協会(略称統一教会、現世界平和家庭統一連合)・真如苑等が教勢を増した。それらのうち多くの団体が終末論的な思想を説いたり、修行によって超能力を得られると訴えたりして、若者を引きつけた。それまでの新宗教団体は現世利益を強調していたが、それとは教義も布教方法も違う新たな動きだった。この時期に現れたり、急伸した団体を「新新宗教」と呼ぶ学者もいる。
 第1次宗教ブームから第3次宗教ブームまでは、人々が新宗教に入信する主な動機は、「貧・病・争」だったといわれる。貧困、病気、紛争である。
 だが、わが国が敗戦後のどん底から復興し、高度経済成長を成し遂げると、国民の生活が豊かになり、また社会保障も発達した。貧困のために、宗教に救いを求める人は、少なくなった。また、戦後、国民健康保険制度のもとで、少ない負担で病院や医薬を広く利用できるようになった。現代の医学では、原因不明で適切な治療法のない病気はまだまだ多いが、病気の治癒を宗教に求める人は減少傾向にある。一方、家族・親族や職場・地域等での人間関係の争いは、今日も依然として続いている。離婚、家族間殺人の増加等は増加傾向にある。また、いじめ、不登校、引きこもり、うつ病、自殺等の心の問題が深刻さを増している。だが、その解決を宗教に求めるより、カウンセリングや自己開発等の心理学的な方法に見出す人々が増えている。そのため、「貧・病・争」を動機として宗教に入る人々は、大きく減少している。新宗教に限らず、既成宗教を含めて、宗教界の全体が従来の活動では、信者を維持したり、獲得することが困難になっている。
 宗教界がさらに大きな壁にぶつかったのは、1980年代末期から1990年代中期にかけて、オウム真理教が一連の凶悪事件を起こしたためである。それまでにも、統一教会による「親泣かせの原理運動」「霊感商法」「合同結婚式」等が社会的に大きな問題になっていたが、オウム真理教事件をきっかけにして、一般の人々の宗教への警戒心は格段に強まった。それによって、多くの宗教団体の布教活動は、低調になった。こうした状況に対応するため、宗教団体でありながら、表面的には宗教色を薄くし、米国で1960年代から盛んになったスピリチュアル・ムーヴメント(霊性開発運動)を装う団体が増えている。また、本来の教義に関係なく、宇宙人、UFO、超古代文明等の新奇な観念や流行の思想を採り入れて人を集めようとする無節操な傾向も見られる。
 オウム真理教事件をきっかけに宗教法人法が改正された。従来の同法のもとでは、所轄庁はどのような宗教団体でも一定の要件を満たしていれば認証していた。また、破壊活動の準備や行動をしている宗教法人を見つけ出せなかった。それらのことなどが問題となって、法改正が求められたのである。
 1996年(平成8年)9月に施行された改正宗教法人法では、所轄庁の一部変更、監督権の強化、事務所備付書類等の義務化という3点が主に改正された。
 所轄庁は、複数の都道府県に境内建物を備える宗教法人及び当該宗教法人を包括する宗教法人は、文部科学大臣になった。所轄庁の権限としては、認証の取消、解散命令の請求などの事由に該当する疑いがあるときには、宗教法人審議会の意見を聞いたうえで宗教法人に対し、報告や質問ができることになって、監督権が強化された。法人の運営に関しては、役員名簿、財産目録、収支計算書等の作成及び事務所への備付けが義務付けられ、また、事業年度終了後にそれらの写しを所轄庁へ提出する義務も定められた。違反した場合には代表役員等に対し、過料が科せられる。また、それらの備付書類や帳簿について、信者その他の利害関係人が閲覧を請求できる閲覧請求権が認められた。
 オウム真理教事件以後、第5次宗教ブームといえるような動きは、未だ現れていない。

 次回に続く。

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 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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中国はどういうシナリオで台湾・尖閣を攻めるか5

2021-07-03 10:06:51 | 国際関係
●元内閣官房副長官補・兼原信克氏の見解

 自衛隊の元最高幹部らとともに『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』という対談本を出した元内閣官房副長官補・同志社大特別客員教授・兼原信克氏は、産経新聞令和3年4月21日付に、「台湾有事は日本の有事である」という記事を書いた。
 その中で兼原氏は、次のように述べている。
 「台湾有事は日本の有事である。台湾は与那国島からわずか100キロ余りの島だ。晴れた日には水平線の向こうに巨大な台湾島が姿を見せる。時速数千キロの戦闘機が飛び回る現代戦の戦域は広い。先島諸島は物理的に巻き込まれる。台湾有事が起きれば、中国は台湾の一部と主張する尖閣の奪取に動くであろう。麗しい先島諸島も無力化され得る。航空、海上優勢が失われれば、中国兵による保障占領もあり得ないことではない。陸上自衛隊が近年、与那国島、宮古島、石垣島に基地を開いているのは、二度と沖縄に戦火を被らせないという決死の覚悟の表れである」
 「米国と肩を並べた中国を、国内の分裂に苦しむ米国が本当に抑止できるのか。北東アジアにNATO(北大西洋条約機構)はない。韓国の文在寅左翼政権は、台湾に背を向けるであろう。豪州は南半球だ。頼みの米陸軍第一軍も米海兵隊第一遠征軍も1万キロ離れた太平洋の彼方(かなた)である。しかも、中国は、第一列島線の内側に絶対に米軍を入れまいとするA2AD構想の実現に余念がない。極超音速対艦中距離ミサイルも登場してきた。不安材料は多い。
 北東アジアで米国が頼れるのは同盟国の日本だけである。日米同盟が中心となって北東アジアに台湾有事阻止のための万全の抑止力を組み上げなければならない。米軍来援前に短期間で台湾を陥とせると中国軍が過信すれば、台湾有事は勃発し得る。日本の責任は重いが、それは台湾防衛のためだけではない。先島をはじめとする日本の防衛のためでもある。
 南西諸島を睨んだ防衛力の増強、防衛予算の抜本的拡充、切っても切れない対中経済関係を前提とした経済安全保障政策の立案など、平成とは非連続な令和の安全保障政策が必要だ。為さねばならないことは目白押しである。今、日本は、その入り口に立っている。しかも、時間はあまり残されていない」

●米国防総省の報告書に基づくシナリオ(概要)

 次に、元陸将補の矢野義昭氏は、本年1月19日付で JBpress に掲載した論文『中国が本格的に検討し始めた尖閣、台湾侵攻シナリオ』で、「最も蓋然性が高いとみられるシナリオ」は、次のようなものだと述べている。

 「2020年夏以降随時、尖閣諸島に対するサラミスライス戦術を併用した着上陸を含む奇襲侵攻は起こりうる。しかし、その目的は日米台の対応とその間の連携を見極めることにあり、事態は政治的外交的に解決される可能性が高い。
 その後、緊張緩和ムードを盛り立てて、日米台の国防力整備を遅延させつつ、台湾・尖閣同時侵攻に必要な着上陸戦力、それを支援する海空、ミサイル戦力の増強、民間力の動員態勢の整備などを行い、侵攻準備を進めるであろう。
 他方では、米国の選挙、台湾と沖縄の輿論などを主な標的として、『超限戦』を進め、選挙介入、サイバー攻撃、フェイクニュースの流布、政財学界要人への影響力工作など、あらゆる手段を駆使して、対中融和政策の推進、日米台の国防力強化の妨害を試みるであろう。
 なお在韓米軍については、韓国の左派政権下で米韓同盟が破棄され尖閣・台湾侵攻前に撤退しているか、同盟が有名無実となり戦力として空洞化している可能性が高い。
 戦いは、サイバー、宇宙、電磁波などの新ドメインでの先制打撃及び濃密な各種ミサイルによる台湾・南西諸島の米軍基地、日台の基地群に対する攻撃から始まるであろう。
 台湾本島と先島に対し、着陸侵攻も併用した立体的な多正面からの迅速な分散奇襲侵攻が行われ、短期間に主要都市を制圧し、占領の既成事実化を図るとみられる。
 特に、台湾から沖縄東岸沿岸部の努めて遠方に海空軍を進出させ、ミサイル火力などにより米空母部隊などの来援を遅延・阻止しつつ、在沖縄・在日米軍の早期制圧とグアム以東への撤退を画策するとみられる。
 台湾と沖縄では海空優勢をPLA(註 人民解放軍)が一時的に確保し、部分的に着上陸侵攻は成功し、日台の国土と住民の一部は一時的に占領下におかれる可能性が高い。
 数か月後には米軍のマルチドメイン作戦などの成果により、来援が可能になる可能性がある。それまでは、日台は独力で国土、国民を防衛しなければならないであろう。
 その際には日台の抵抗意思を挫くために中国が核恫喝をかける可能性が高い。
 また、住民を人質に取り、臨時革命政府の樹立と分離独立宣言、PLAに対する救援要請、それらに呼応した中国による独立承認とPLA後続部隊の本格上陸など、政治・外交戦も併行的に展開するとみられる。
 地上戦では長期のゲリラ戦が占領された島嶼でおこなわれ、日台ではそれを支援するための海空隠密輸送が必要になるであろう。
 同時に島内の残留住民の退避と保護が重要な課題となる。特に九州には台湾と沖縄の難民、避難民が多数流入することになるとみられる。
 最終的には日米台の反攻作戦により、PLA侵攻部隊は海空優勢を失い、戦力が枯渇し降伏を余儀なくされ、戦争は終結する可能性が高い。しかし、それまでには数カ月から場合により数年を要するかもしれない」

 矢野氏の論文は、米国防総省が2020年に米議会に提出した報告書『PRC(中華人民共和国)を含む軍事力と安全保障の発展』の分析に基づくものである。その論文は長文なので、本稿の付録資料として後半に掲載する。

 次回に続く。

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仏教175~現代日本における仏教の隘路

2021-07-02 09:54:34 | 心と宗教
第5章 現代日本における仏教の隘路

●昭和戦後期と平成・令和時代

 第3章で日本文明における仏教の展開を昭和戦後期まで書いた。ここで西洋文明における仏教の展開を踏まえて、昭和戦後期以降、すなわち現代の日本おける仏教の展開・現状、そしてその隘路について書きたい。
 大東亜戦争の敗戦後、日本を占領したGHQは、神道指令によっていわゆる国家神道を禁止した。また、占領下に制定された日本国憲法は、信教の自由を保障しており、仏教は神道・キリスト教等と同じく自由な宗教活動を行えるようになった。
 敗戦後、「神々のラッシュアワー」と呼ばれるほど多数の新宗教団体が誕生したが、仏教系の団体では日蓮系・法華経信仰の教団が多く現れ、急速に多数の信者を獲得した。創価学会、霊友会、立正佼成会等である。とりわけ創価学会は、新宗教最大の教団となり、政治に進出し、社会的に大きな影響を与える団体となった。その他、真言宗系、天台宗系の団体や、仏教の影響を受けた諸宗教混交系の団体も出現した。
 大戦後、欧米諸国を中心に東洋宗教への関心が高まり、仏教は知識人の教養の一部となった。とりわけ禅は欧米でブームを生み出した。その流行に乗じて、仏教系新宗教団体の中には、海外に積極的な布教活動を行い、多くの信徒を獲得しているものもある。
 1960年代から仏教に関する研究が一段と進み、インドにおける仏教の発生期から展開や各地への伝道の過程等が、新たな資料をもとに詳細に明らかにされてきている。それによって、仏教に対する理解が是正されつつある。だが、既成の宗派や仏教系新宗教団体は、自らの教義に固執し、宗派・団体間の対立・不和が続いている。
 既成の仏教教団は、総じて信仰の慣習化・形骸化が進み、葬式・法事・墓苑による寺院経営が中心となり、葬式仏教と呼ばれる傾向を強めている。また、有名寺院では、建物や仏像等を観光資源とする観光業としての側面が目立っている。また、仏教の教えが解脱や救済に導くものというより、多少宗教色のある人生哲学や日常的な生き方の指針として説かれることが多くなっている。座禅や写経が解脱や救済を目指す修行の手段ではなく、自己開発やリラクゼーションの方法として行われている傾向もある。
 20世紀末から、世界的に先進国では、近代化に伴う世俗化が勢いを増し、人々の宗教離れが進んでいる。日本では、法華経系を含む新宗教の衰退が目立つが、既成の仏教や神道も衰退を見せている。既成の仏教宗派では、家族葬・直葬など簡略な葬儀を求める人が増え、寺院は収入が減少し、経営の危機が生じている。
 21世紀において、人類は核戦争と地球環境破壊によって、存亡の危機にある。同時にまた人類が新しい文明へと飛躍すべき時にあり、人類は精神的な向上を求められている。そうした重要な時期にあって、仏教は人類に確かな指針と実証の裏付けのある救済の道を示すことができていない。それは、仏教の法と力の限界によるものである。

◆戦後日本の宗教法と新宗教ブーム

#宗教法の制定と改廃
 大東亜戦争の敗戦後、占領下で戦前の宗教法が廃止され、新たな法令が制定された。
 まず戦前の宗教法から述べると、明治政府は様々な宗教行政を行なったが、宗教に関する立法措置は、容易に進まなかった。大日本帝国憲法は、第28条で「日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス」と定めて、限定付きで信教の自由を認めた。その後、宗教全般に関わる法律は、長く制定されなかった。1899年(明治32年)に宗教法案が貴族院に提案されたが、否決された。その後、1927年(昭和2年)、1929年(昭和4年)にも法案が議会で提案されたが、審理未了に終わった。初めての宗教法として宗教団体法が制定されたのは、1939年(昭和14年)だった。宗教団体法は、宗教団体の地位を明確にし、政府が保護・監督を強化することで、宗教団体を統制下に置いた。また、宗教団体が法人となることが出来るようになった。ただし、非宗教と扱われていた神社はその対象外とされた。同法の施行に際して、神社への参拝を拒否する宗教団体は認可しないとの方針が打ち出された。ただし、戦前のわが国において、法的に神社参拝が国民個人に強制されることはなく、参拝拒否に対する罰則はなかった。
 わが国は、1937年(昭和12年)7月のシナ事変以降、戦時体制に移行し、特に1941年(昭和16年)12月に大東亜戦争が勃発すると、国民は政府と軍が進める戦争への協力を強く求められた。そうしたなか、仏教の教団も他の宗教団体と同じく、政府と軍の戦争政策に協力した。
 大東亜戦争の敗戦後、日本を占領したGHQは、1945年(昭和20年)12月神道指令によっていわゆる国家神道を禁止した。また同月、宗教団体法が廃止されて、宗教法人令が制定された。同令は、明治憲法が形式上有効だった時に発せられた、いわゆるポツダム勅令だった。宗教団体法の廃止に伴う混乱を防ぐ目的で、宗教団体の財産保全のために応急的に制定された。特に神社と政府との関係を断って、民間の宗教法人とすることに目的があった。宗教団体法は宗教法人の設立に関して所轄庁の認可を必要としたが、宗教法人令は官庁による認可を必要とせず、規則を作成し設立の登記をして所轄庁に届出をするだけでよいとした。宗教団体法では、神道系13、仏教系28、キリスト教系2、計43の教派教団に統合されていたが、宗教法人令のもとで、多くの宗教団体が文部省に届け出をし、「神々のラッシュアワー」と呼ばれる現象が起こった。
 1946年(昭和21年)11月3日に日本国憲法が公布され、1947年(昭和22年)5月3日に施行された。日本国憲法は、占領下にGHQが極秘裏に起草した英文の原稿がもとになっている。その草案が日本政府に押し付けられ、日本語に翻訳された。そして、占領軍の管理による厳しい情報統制のもとで行われた国会決議によって制定された。
 新憲法によって、基本的人権の一つとして、信教の自由が保障された。ただし、公共の福祉に反しない限りにおいてであって、無制約ではない。この点は、明治憲法における信教の自由が、安寧秩序を妨げず、また臣民の義務に背かない限りという条件付きであったことと、基本的には同じである。最も大きな違いは、公共の福祉という抽象的な制約に変わったことと、国民の義務が極度に少なくなったことである。日本国憲法は、また政教分離の原則を定めた。この原則は、国家と宗教の分離ではなく、政府と特定の宗教団体の分離を定めたものであって、わが国の伝統・慣習を全面的に否定するものではない。
 占領初期に定めた宗教法人令は暫定的なものだったが、所轄庁の宗教法人に対する監督・規制がほとんどなかったため、税制面での優遇措置を得ることだけを目的に宗教法人格を取ったり、法人格を悪用・濫用する事例が目立つようになった。そこで、新憲法のもとでの新たな法律として、1951年(昭和26年)4月3日、宗教法人法が施行された。
 宗教法人法において、宗教団体とは、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする団体をいう。同法は、宗教団体に法人格を与えるに当たって、認証制を採った。認可と認証の違いは、認可は、法律上の行為に公的機関が同意して法的な効力を与えることである。学校法人などでは、細かい設置基準があり、それに合致しないと認可されない。認証は、一定の行為または文書が正当な手段・方法でなされたことを公的機関が証明することである。宗教法人の場合は、宗教施設に設置基準はなく、礼拝施設があって、信者がいて、実際に宗教活動をしているとう一定の実績があれば、所轄庁は認証しなければならないことになっている。
 宗教法人法は、宗教法人の設立、規則の変更、事務の管理、合併、解散、登記等の社会的行為について規則を設けることを宗教団体に求めるが、信仰上の内容についてはなんらの制約を設けていない。政府は国権を行使する場面において、宗教に介入し、または関与しないという原則に立っている。宗教団体は同法が定める一定の要件を満たせば、法人格を取得できる。また、宗教本来の活動に限っては、非課税という優遇を受けられる。同法のもと、多くの宗教団体が宗教法人となって、活発に宗教活動を行うようになった。

 次回に続く。

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 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
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