ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人権68~国家と都市と文明

2013-11-02 14:16:40 | 人権
●国家と都市と文明

 次に国家の概念を考察する。国家は都市と文明との関係において理解する必要がある。そこで、考察を国家と都市と文明の関係から始めよう。
 古代メソポタミアの都市国家、シナの中華帝国、中世ヨーロッパの神聖ローマ帝国、アフリカのダホメ王国等、さまざまな地域、異なる時代に現れた集団を、国家と呼んでいる。それを近代西欧に現れた主権国家と単純に同様のものととらえることはできない。だが、共通しているのは、それらの諸国家の中核には、都市が存在することである。
 都市とは、比較的狭い地域に多数の人口・住居が密集し、農業以外のおもに商工業が経済生活の主体をなす集落をいう。都市の起源については、要塞、市場、神殿等、さまざまな説がある。また都市の性格も、時代や地域、また社会的背景によって異なる。古代オリエントのオアシス都市、シナの専制帝国の計画的都市、古代ギリシャのポリス、産業革命以後の産業都市等、その様相は多様である。その多様性の中に共通する点を取り出せば、多数の人口・住居が密集した非農業的な集落をもって、都市ということができるよう。
 前近代の国際交流史の研究者・宮崎正勝氏は、都市は神経細胞のように、本体と触手のネットワーク(網状組織)から成り立っているとする。ネットワークとは「人と人、集団と集団、人と集団の間の結びつき」をいう。都市は、周辺の農業集落に触手を延ばして結びつきを作る。そして、そのネットワークを安定させるために、道路網・法律・官僚制・軍隊・宗教・交易などのシステムを複合化して、ネットワークの構造化を図る。そうしたシステムの複合体となったのが、国家である。すなわち、宮崎氏によると、国家とは、「都市を中心とするシステム化されたネットワークの総体」である。その国家というシステムの中核となるのが、都市である。首都を中心に、それに従属する都市と、その周辺の農業集落が、ネットワークで結ばれているものが、国家であると考えることができる。
 氏の説に私見を加えると、都市を中核として構造化された社会では、特徴のある文化が生まれる。その文化が発展して、ある程度高度なもの、広範囲に制度化されたものになった社会が、文明である。文明は、国家より大きな社会であり、多くの場合、共通の文化を持つ複数の国家を包含するものである。文明の政治的・経済的・文化的な中心地域には、都市が存在する。そして、都市を結節点としたネットワークの構造体が国家であり、その国家の集合が文明である。

●国家の3要素

 近代国家は、世界の諸文明の歴史の過程で、西欧に誕生した。近代国家について、通説では、国家の三要素として、①領域、②人民、③主権が挙げられる。他国との明確な国境、国家に所属する国民、領域における主権を持つ集団が、西欧発の近代国家である。
 人類の歴史上には、先に書いたように、国家とは呼ばれるが、近代西欧型の国家とは異なる集団が種々存在した。それらの多くでは、第一に、領域については、領土・領海の範囲を示す国境が明確ではなかった。都市と都市が道路や航路等で結ばれるネットワークの範囲が国家の領域であり、その網の糸の部分は統治されていても、網の目の部分には、統治はよく及んでいなかった。また網の外には、どこの国家にも属していない領域である辺境が広がっていた。辺境は大自然とつながっており、国家は大自然の中で、一定の空間に人間が集住する場所である。
 第二に、人民については、国家に所属している人員が確定せず、住民の多くには帰属意識がなかった。首長・君主・国王・皇帝等の統治者及びその集団の成員以外の者にとって、国家は外在的で、懲税と労役を課されることを除くと、直接関係のないものだった。
 第三に、主権は近代西欧で発達した概念であり、古代ギリシャの都市国家、古代ローマの地域帝国、中世西洋の封建制国家には、近代西欧的な概念の主権は存在しなかった。近代以前の日本、シナ、インド、イスラム等の国家でも同様である。
 それゆえ、国家の3つの要素を近代国家以外の国家の理解に用いるには、各要素の定義を広げる必要がある。領域については、近代国家に比べ、境界が明確ではないがある程度限定された領域を持つことと定義する。次に人民については、統治者及びその統治機関の人員以外に、徴税や使役の対象となる住民がいることと定義する。次に主権については、近代国家独自のものであり、主権ではなく統治権とする必要がある。このように、領域と人民については定義を広げ、主権を統治権に替えれば、国家の3要素を近代国家以外にも適用できる、と私は考える。近代西欧以前及び以外の社会において、何らかの統治機関が存在し、統治権の行使によって領域と住民がある程度、統治されている集団を、国家という。
 そのうち近代国家は、国家の3要素をより明確な形で持つ集団である、ととらえ直すことができる。
 第一に、領域については、近代国家は、他の国家と国境で領域を区画し、領域を占有する。国内外の他の集団との違いは、国家は地域的な団体であり、一定の領域の上に成立することである。
 第二に、人民については、国家の成員は、生まれるや必然的に成員になる。集団の場合、家族・氏族・部族のように生まれながらに成員であるものと、組合・団体・社団のように任意に入会するものとがある。国家は前者に類し、国民は国籍を付与され、他国からは非国民とみなされる。
 第三に、統治権については、国家の政府は統治権を持ち、かつ国内における物理的強制力を独占する。国内の他の集団の場合、統治権は持っても、物理的強制力を合法的には所有しない。国外の他の集団の場合、統治権と物理的強制力を持つものがあるが、他国の承認を得なければ、国家とは認められない。それゆえ、近代国家は、他の集団と明らかに違う特徴を示す独自の性格を持つ集団である。

 次回に続く。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿