ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権159~剰余価値説の欠陥

2015-06-06 08:38:18 | 人権
●剰余価値説の欠陥

 資本主義における経済的社会関係は、権利と権力の関係を抜きに考えられない。まず権利関係だが、資本制的生産様式の生産関係は、生産手段の所有権をもとに構成されている。また生産された商品は、市場において交換されることを通じて権利関係の変動をもたらす。ここにおける権利は、価値の生産・交換・蓄蔵に係る権利である。
 資本主義社会における権利と価値の問題について、マルクスは剰余価値説という学説を唱えた。マルクスは、資本制的生産様式においては、商品の生産過程で剰余価値が生み出され、資本家はこれを利潤として獲得する。資本は、賃労働者を搾取して得た剰余価値を領有する。従って、資本とは剰余価値を生む価値である、と主張した。 この理論の基礎にあるのは、労働価値説である。マルクスは、イギリス古典派経済学における商品の価値はその生産に投じられた労働量によって決まるというアダム=スミス、リカードの労働価値説を継承した。彼は、労働と労働力を区別し、労働力商品が生産過程で余分の新価値である剰余価値を無償で産むという説を説いた。それが剰余価値説である。
 マルクスは、労働力商品が市場で売買される際、外形的には等価交換がされていることを認めている。その上で資本家が正当な手続きで商品経済の論理、等価交換の原理に則りながら、どうやって剰余価値を搾取しているか、その仕組みを解明しようと試みた。マルクスによれば、資本家は労働力の価値の回収に要する必要労働時間以上に労働時間を延長することにより、その超過分である剰余労働を剰余価値として取得する。剰余価値は、利潤、地代、利子等の不労所得として現れるというのである。
 だが、私は、こうしたマルクスの剰余価値説には、欠陥があると思う。同じ量の労働時間を投じて生産した商品でも、他社や他国の商品より品質が悪かったら売れない。また、仮に品質はよくても、買い手の購買意欲を引き出すものでなければ、高く売れない。また、消費者の求める新しい商品を開発せず、いつまでも同じ商品を作っているのでは、売れなくなる。売れない商品を山ほど作っても、価値を産出したことにはならない。投下された労働時間が同じであっても、市場において売れない商品の価値はゼロである。商品が売れなければ、賃金は払えない。資本家自身も破産する。
 マルクスは、労働力を量的にのみとらえ、労働者の能力の質的な違いを捨象した。しかし、労働力商品の価値もまた他の商品と同様、需要と供給によって決まる。また、単純作業の機械的肉体労働と、知性・感性を発揮する創造的精神労働では、市場における価値が大きく異なる。労働力の質が商品の価値を高めるのである。発明や工夫、デザイン等、生産に知識・技術・美意識を要するものは、市場における価値が高くなる傾向がある。特に消費者の欲求に応え、また消費者の欲求を引き出す商品は、高い価値を獲得し、また多くの需要を創出できる。このように商品の価値を高めるものは労働力の量ではなく質であり、質の高い労働を行う労働者は、それだけ多くの賃金を得ることができるのである。
 それゆえ、市場における交換原理を中心にすえない限り、価値の本質と、その創造、決定、増殖のメカニズムは、解明し得ないと私は考える。市場は、商品を通じた意思交通の場である。需要側と供給側の意思が合致することによって、契約が成立し、権利が発生したり、移譲されたりする。資本主義における経済的社会関係をとらえるには、生産の過程だけでなく、市場を通じた流通・消費・金融の過程を含む権利関係をとらえる必要がある。

●権力関係の分析が必要

 資本主義における経済的社会関係をとらえるには、権利関係だけでなく、さらに権力関係にも注目しなければならない。権力関係とは、支配―服従または保護―受援の関係である。資本主義社会で広く見られる支配―服従の関係は、一方が自分の意思に他方を従わせ、他方がこれに従うという双方の意思の働きである。意思の働きは、権威という心理的な作用のみで機能する場合と、実力ないし武力という物理的な作用を伴う場合がある。
 資本家と労働者の間における賃金の決定には、双方の意思が関わっている。これは支配―服従の権力関係によるものであって、商品経済の論理とは異なる社会的要素である。資本家の力が圧倒的に強い場合は、15~16世紀のラテン・アメリカやアフリカの奴隷のように、労働者はまったく無力な存在となる。生活に最低限必要な賃金すら得られないことさえある。逆に労働者の力が相対的に強くなると、資本家は賃金を上げざるを得ず、労働者は豊かになり、社会保障も充実していく。19世紀後半以降の西欧先進国では、こうした変化が起こった。この変化は、権力関係の変化によるものであって、経済法則からは出てこない。マルクスの理論モデルは、19世紀半ばのイギリス社会には、ある程度近似しているとしても、それ以前の非西洋文明やそれ以後の西洋文明の諸社会には、よく当てはまらないのである。
 資本主義社会を把握するには、資本主義以前の経済社会、及び変貌する資本主義社会との比較の中で理解せねばならない。そのためには権力関係に関する分析を重視しなければならない。マルクスの理論で革命を起こした旧ソ連が内部に大きな問題を抱え、崩壊に至った原因の一つは、この点に関わっている。
 マルクスの理論的欠陥として、市場の交換原理の軽視と権力の分析不足の二点を挙げた。市場における商品交換と保護―受援または支配―服従の権力関係は、ともに人間の意思の形成と交通に関する事象である。意思の合成は、協同的な側面と闘争的な側面がある。マクロ的かつ闘争的な見方だけでは、権利と権力の関係の実態に迫ることはできず、資本主義社会の分析も一面的なものになってしまうのである。

 次回に続く。

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