ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

世の中が安倍氏に追いついた~長谷川三千子氏

2012-10-05 09:36:18 | 時事
 安倍晋三氏が自民党の新総裁になると、マスメディアの多くが、激しいネガティブ・キャンペーンを行っている。平成19年に氏が健康上の理由で首相を辞したことへの非難は、同じ難病を抱える患者の心を傷つけるほどの無神経さだった。安倍氏が総裁選の際に3,500円のカツカレーを食べたことをやり玉に挙げるやり方は、イメージダウンのための粗探し以外の何ものでもない。
 安倍政権の時代、朝日新聞の幹部は「安倍の葬式はうちで出す」と公言したという。まるでヤクザのような口ぶりである。小川榮太郎氏の『約束の日--安倍晋三試論』(幻冬舎)は、次のようなやり取りを伝える。
 評論家の三宅久之氏が、ある時、朝日新聞の若宮啓文論説主幹(現主筆)に「朝日は安倍というといたずらに叩くけど、いいところはきちんと認めるような報道はできないものなのか」と尋ねた。若宮主幹は、「できません」と答えた。三宅氏が「何故だ」と訊くと、若宮氏は「社是だからです」と答えたという。
 特定の政治家を叩き、非難することを社是とする新聞社とは、報道の中立性や公平性に背を向け、自らの政治的な主張を鼓吹するだけの思想宣伝団体というべきものだろう。だが、安倍潰しのための一方的な記事を読まされている読者は、その思想宣伝に染められていく。
 先に引いた小川榮太郎氏の『約束の日--安倍晋三試論』については、埼玉大学名誉教授の長谷川三千子氏が、産経新聞10月3日号で紹介している。
 長谷川氏は、本書を「安倍晋三といふ人間にとことん惚れ込んだ著者が、そのことを自覚のうへで徹底して客観的に安倍政権の1年間を検証しようとした《検証本》である」という。そして、「その検証からうかび上つてくるのは、当時、安倍政権のかかげた『戦後レジームからの脱却』といふスローガンが、実はいかに壮大な日本再生の大事業だつたのか、といふことである。それは、単なる公務員制度改革、教育改革といつた個別の改革ではなく、それらすべてを通じて、敗戦後の日本の心身をしばりつけてきた束縛を断ち切らう、それによつて誇りある自立国家としての日本を取り戻さう、といふことだつたのである」と書いている。
 そのうえで、長谷川氏は自身の見解を述べる。「6年前に安倍政権がこの大目標をかかげ示したときは、そのことの必要性はまだ国民のあひだで切実に感じられてはゐなかつた。安倍政権の挫折は、この検証本が語るとほり、メディア・テロによつてもたらされたと言ふべきものであるが、別の一面では、当時の安倍首相は早く来すぎた首相だつたのだとも言へる。いまでは、日本の直面するさまざまの危機を克服するのに、単なる対症療法では解決にならないこと、敗戦後の日本をしばりつづけてきた枠組みを根本から見直し、つくりかへることなしには日本の再生はありえないこと--かうしたことが誰の目にも明らかになつてきてゐる。世の中がやうやく安倍氏に追ひついたのである」と。
 確かに平成18~19年当時の安倍氏は、ある意味では時代の先を行っていた。だが、安倍氏が『戦後レジームからの脱却』という表現で掲げた課題は、昭和27年(1952)4月28日、わが国が独立を回復した後、早急に達成すべき課題として、当時の政治家・国民が目標としていたものだった。その意味でこの課題は、独立回復後、政治家や国民の多くが、高度成長による経済的繁栄や国防の対米依存、自己本位・利己主義への傾向等の中で、放置してきた課題と言うべきものである。長谷川氏は、このことを深く認識している日本人であるはずだが、このたびの記事では明示的に書いていない。ほそかわが長谷川氏の本意を推察し、読者に注意を喚起する次第である。
 安倍総裁が率いる自民党においても、安倍氏が党内で先を行っていたのではなく、「立党の精神」を保持する安倍氏が総裁に選出されたように、党全体がようやく「立党の精神」を取戻しつつあるというところだろう。国民は、自民党が安倍氏のもとで、本当に「戦後レジームからの脱却」を含む日本の再建を推進するエンジン足り得るのかをしっかり見ていく必要があると思う。
 以下は長谷川氏の記事。

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●産経新聞 平成24年10月3日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121003/stt12100303100002-n1.htm
【正論】
埼玉大学名誉教授・長谷川三千子 時代が安倍氏に追いついてきた
2012.10.3 03:10

 「勝に不思議の勝あり 負に不思議の負なし」--。自民党総裁選の翌日に発売されたある週刊誌は、遊説中の候補者たちの写真とともに、剣の達人、松浦静山のこんな言葉を載せてゐた。

≪総裁復帰は「不思議の勝」≫
 「不思議の負なし」の方はさしあたり措くとして、たしかに今回の自民党総裁選の結果を見て「不思議の勝あり」の感想がうかんでくるのは自然なことと言へよう。
 選挙後の街頭インタビューでも、意外だと驚く人が多かつた。ごくふつうに考へれば、5年前にいはゆる「政権投げ出し」によつて首相の座を降りた人間がもう一度、総裁選に出てくるといふだけでも常識やぶりのことである。
 しかもその候補が、他の有力と言はれた候補をおさへて当選してしまつたのであるから、驚きの声があがるのは当然である。そればかりではない。選挙中に行はれた民間有志主催の安倍晋三氏応援大会でも、かけつけた応援議員の一人が「小さな奇蹟をおこさう!」と叫んで拍手を浴びてゐた。「不思議の勝あり」は安倍陣営の人々の実感でもあつたに相違ない。
 しかし、あらためて事柄それ自体をふり返つてみて、安倍新総裁の誕生は本当にそれほど「不思議」なことだつたのだらうか?
 総裁選の3日後のスポーツ紙に、ニュースキャスターの安藤優子氏が、次期首相に望むことは何かといふ問ひに答へて「滅私の精神」といふことをあげてゐた。もちろん、次の政権には、国難を救ふ有効な政策とそれを実現する有能な人材をぜひとも望みたい。しかしそれ以上に重要なのは、それを統率する人間が本当に私利私欲をはなれた「滅私の精神」の人であるか否かである--安藤氏はさう語る。まさに正論と言へよう。

≪戦後体制脱却は再生の大事業≫
 ただし難しいのは、自分はただ総裁になり首相になりたいだけなのだ、などと公言する政治家はまづ見あたらない、といふことである。みな口を開けば「滅私の精神」を言ひたてる。誰が本当の「滅私」の政治家であるか、見分けるのは至難のわざなのである。
 しかし、もしここに、かつて恥辱のうちに首相の座を去り、ふたたび人々の冷笑をあびながら、敢へて総裁選への再挑戦を試みる政治家がゐたとしたら、少なくともその試みが私利私欲のためでないことは間違ひない。失ふものが大きすぎるからである。
 名利の欲とは別のなにかがその人をかりたててゐると考へざるをえない。つまり他の政治家がどうであるにせよ、安倍氏が安藤氏の言ふ「滅私の精神」の政治家の一人であることは、いはば論理的に確かなのだといふことになる。
 しかしそれにしても、さらに一層の屈辱を覚悟のうへで、敢へてもう一度、いばらの道への再挑戦を安倍元首相に決意させたのは、いつたい何だつたのだらうか?
 それを教へてくれるのが、小川榮太郎氏の近著『約束の日--安倍晋三試論』である。これは一口に言へば、安倍晋三といふ人間にとことん惚れ込んだ著者が、そのことを自覚のうへで徹底して客観的に安倍政権の1年間を検証しようとした《検証本》である。
 その検証からうかび上つてくるのは、当時、安倍政権のかかげた「戦後レジームからの脱却」といふスローガンが、実はいかに壮大な日本再生の大事業だつたのか、といふことである。それは、単なる公務員制度改革、教育改革といつた個別の改革ではなく、それらすべてを通じて、敗戦後の日本の心身をしばりつけてきた束縛を断ち切らう、それによつて誇りある自立国家としての日本を取り戻さう、といふことだつたのである。

≪永田町でも何かが動き始めた≫
 ただし、6年前に安倍政権がこの大目標をかかげ示したときは、そのことの必要性はまだ国民のあひだで切実に感じられてはゐなかつた。安倍政権の挫折は、この検証本が語るとほり、メディア・テロによつてもたらされたと言ふべきものであるが、別の一面では、当時の安倍首相は早く来すぎた首相だつたのだとも言へる。
いまでは、日本の直面するさまざまの危機を克服するのに、単なる対症療法では解決にならないこと、敗戦後の日本をしばりつづけてきた枠組みを根本から見直し、つくりかへることなしには日本の再生はありえないこと--かうしたことが誰の目にも明らかになつてきてゐる。世の中がやうやく安倍氏に追ひついたのである。
 今回の自民党総裁選のあひだ、党本部には大きな字で「日本を、取り戻す。」と記したポスターがかかげられてゐた。安倍陣営のポスターではない。党全体のポスターである。このポスターのもとでの選挙戦で、まさにこのことのために自らの生命をも危くした先駆者である安倍候補が当選したのは「不思議」どころか当然のことであらう。
 ただ、その当然のことがあの生ぐさい権力闘争の渦巻く永田町で起つたといふことは、やはり「小さな奇蹟」と言つてよいかも知れない。自民党も変つた。何かが確実に動き始めてゐるのだと思ふ。(はせがわ みちこ)
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関連掲示
・拙稿「日本弱体化政策の検証~日本の再生をめざして」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion08b.htm
・拙稿「自民党は立党の精神に帰れ」
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion13e.htm

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