ほそかわ・かずひこの BLOG

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戦略論34~クラウゼヴィッツの概要と思想

2022-07-28 09:42:48 | 戦略論
●クラウゼヴィッツ

◆生涯

 カール・フォン・クラウゼヴィッツは、19世紀前半のドイツの軍人で軍事学者である。1780年に生まれ、ナポレオン戦争に、プロイセン王国の将校として参加した。戦後は、ナポレオンのロシア遠征、ワーテルローの戦い等の実戦の経験をもとにして、戦争の研究と著述に専念した。主著『戦争論』は、死の1年後の1832年に発表された。

◆著書

 クラウゼヴィッツの主著『戦争論』は、人類の戦争史の画期となったナポレオン戦争以降の近代的な戦争を体系的に研究した軍事理論書である。戦争の本質から戦略論・戦術論までを含む包括的な内容となっている。『孫子』と並んで、東西の二大戦争書と称される。
 全体の構成は、「戦争の本性」「戦争の理論」「戦闘」「戦闘力」「防御」「攻撃」「戦争計画」からなる。

◆思想

♯戦争の定義
 クラウゼヴィッツは、戦争の本性を「拡大された決闘」であるととらえた。そして、戦争を「敵に強制してわれわれの意志を遂行させるために用いられる暴力行為である」と定義した。ここで暴力は 独語gewalt の訳語だが、組織化された軍事的な力に暴力という漢字単語を用いるのは、弊害が多い。(この点は拙稿「人権~その起源と目標」第1部第3章で検討した) 私は主に実力を使っている。実力とは、物理的な強制力である。そこで、先の定義を訳語を替えて書き直すと、戦争とは「敵に強制してわれわれの意志を遂行させるために用いられる実力行使である」となる。

#戦争と政治の関係
 フランス革命によって、戦争は絶対王政の国王が雇った傭兵同士が戦うものから、国民が兵士として参加する国民国家の軍隊の戦いに代わっていった。クラウゼヴィッツの『戦争論』は、そうした時代の変化の中で、戦争と政治の関わりを考察した。そして、「戦争は政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続である」と定義した。
 この定義は、第一に、戦争は政治目的を達成するための手段であることを示す。第二に、戦争は外交とは別の手段である実力を行使して、自分の意思を相手に強制する行為ととらえる。第三に、戦争は政治の下位に位置することを意味する。
 こうした定義は、戦争の開始・継続・終了は、その国の政治が判断する事柄であることを明らかにする。

#戦略と戦術
 クラウゼヴィッツは、「多くの戦闘を連合して戦争の目的を達せしめるのが戦略であり、一つの戦闘を計画し実施するのが戦術である」と定義した。この定義によれば、一つ一つの戦闘に関わるのが戦術であり、多くの戦闘を組み合わせるのが戦略ということになる。
 クラウゼヴィッツは、また「戦略は戦術を準備する。いつ、どこで、どのくらいの戦闘力をもって戦うかを決める」「戦略は戦術を収穫する。戦術的成果は、勝利でも敗北でも、これを取り上げて、戦争目的達成に利用する」と述べている。
 私は、クラウゼヴィッツに学んで戦略と戦術を区別した上で、国家総合戦略と軍事戦略を分け、軍事戦略には世界戦略・地域戦略・作戦戦略があるとしている。クラウゼヴィッツの戦略論において、国家総合戦略のレベルに当たるのは戦争と政治の関係についてである。軍事戦略以外の個別的な分野の戦略については、外交以外は述べておらず、外交に関してもごくわずかしか触れていない。軍事戦略に関しては、彼の時代はまだ世界戦略を考える時代ではなく、地域戦略及び作戦戦略が論じられている。戦争と政治の関係を除くならば、地理的・空間的に限られた範囲での作戦戦略が主に論じられている。

#絶対的戦争と現実的戦争
 ナポレオン1世は、敵を徹底的に殲滅する作戦を実践してそれまでのヨーロッパにおける軍事思想に大きな影響を与えた。クラウゼヴィッツは『戦争論』において、「さまざまな現実の制約がなければ、我と敵の暴力の相互作用によって戦争は無制限に暴力性を拡大する」と考え、そうした戦争を「絶対的戦争」と呼んだ。
 「絶対的戦争」とは、敵を完全に打倒するまで戦う戦争である。敵に自らの意思を強制するためには、実力を行使して敵の戦力の殲滅を目指すことが必要である。しかし、一方で戦争は政治の下位に位置し、戦争の目的は政治目的に従属する。また多かれ少なかれ外交的手段を伴う。クラウゼヴィッツは、「敵の戦闘力を直接破壊することだけが戦略ではない」「武力だけでは、戦争の目的を達成できない」と述べている。
 この点からクラウゼヴィッツは、「戦争は常に政治的交渉の継続の文脈におかれているため、現実の戦争は絶対的戦争にはなり得ない」として、絶対的戦争に対して「現実的戦争」という概念を用いた。また戦争には、目的が無制限のものと目的が制限されているものがあるとした。現実的戦争は、目的を制限された戦争であり、政治的な目的が達成されれば、戦争は停止される。

#軍事的天才
 戦争に勝つためには、優れた指導者が不可欠である。クラウゼヴィッツが、軍事的天才として念頭に置いた指導者は、ナポレオン1世である。
 軍事的天才とは、複雑で不確実性の高い環境においても、常に最適の戦略を的確に発想する能力を持ち、高度な論理的思考力、勇気、決断力、忍耐力、自制心等を兼ね備えた人間である。そうした指導者を得られるかどうかが、戦争の勝敗に大きく影響することをクラウゼヴィッツは強調している。

 次回に続く。

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