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大丈夫か日本財政17年版 その9 日銀保有の国債はどうなる 5

2017年07月09日 | 大丈夫か日本財政

  「誤解を招きかねないので、撤回いたします」

という政治家によるおかしな言い訳。わたしのように大きな違和感を感じる方は、ほとんどいらっしゃらないようですね。私はこういうことに敏感に反応してしまうため、時々「余計なストレス」を感じることがあります。あまりこのブログで自分のストレス解消をしないように努めることにします(反省)。

 

  国債の問題に戻ります。

  7月3日の記事でブルームバーグの記事を引用しました。内容は、

「日銀が明らかにした単年度の償却額に対し、ブルームバーグの試算では、償還までに必要な将来の償却額は9兆7200億円になる。」というものでした。これは日銀が国債を買うときに、償還金額を上回る価格で買った損失確定分の合計です。会計上は日銀の純資産を上回る金額のため、すでに実質債務超過状態です。

   その記事の最後に私はこう書いていました。

「この損失が一気に表面化しない工夫がルール化されています。それが、保有国債の償還までの均等償却ルールです。」

  これがどういうことか、私の住むマンションの修繕積立金の運用の会計処理で同じことがなされていますので、例にとり簡単に説明します。

  72戸のマンションの修繕積立金は億の単位で積みあがりますので、運用をしない手はありません。ただし元本が保証されない物には絶対に手を出してはいけません。ですので、著書やブログの趣旨に反するようですが、ドル建ての米国債はダメです。また積立金を使用する時期がおおむね決まっているので、定期預金や債券での運用は満期を修繕時期に合わせ、価格変動リスクを回避しています。

  私が理事長だった9年ほど前の08年に運用を開始して、18年の大規模修繕時に償還を迎える日本国債に投資しました。投資の決定はマンションに住む金融関係者がアドバイザーになり、決めています。実はインベストメントバンク関係者がなんと4人もいたのです。その後の積立金投資もそれに習っています。その時に買うことができた国債はいまよりかなり利回りの高い国債で、オーバーパーの105で買いましたが、利率は1.8%もありました。おかげでかなりの金額の金利収入があります。

  105というのは償還価格の100を5%上回る価格であることを意味します。10年間1.8%の金利をエンジョイし、10年後に一気にオーバーパー分の5%を償却すると、大きな損失を計上することになります。そこでマンションのような場合、見込まれる5%の損失分を償還までの10年で毎年均等に償却することにしています。いわゆる保守的な会計処理をしていることになります。単純計算で0.5%分を毎年損失計上しているのです。すると、実質の利回りは1.8%-0.5%=1.3%になります。

   これと同じことを日銀も高値づかみの国債に対して行うことが会計上義務付けられています。実際には1本の国債毎にオーバーパー分を償還までに均等償却するのです。そうすることで、単年度で一気に償却し大きな損失計上することを避けています。

  しかし、実際には10兆円の損失は確定していますので、その分資本勘定が毀損しているも同然です。つまり今現在でもそれを勘案すると、ほぼ債務超過です。しかも私のマンションの基金と違って、満期までの金利がマイナスのものを買っている分は収入もありませんので最悪です。去年のマイナス金利導入後は、かなりの短期国債はマイナス金利です。

  では、日銀が債務超過に陥るとどうなるか。

  私がすでに書いていることは、日銀が信用を失い、円が信用を失って暴落するおそれがある、ということです。このブログの読者のみなさんは先日来コメント欄で賑わいを見せたように、Xデーに向けた準備を着々と進められています。しかし一般的にはみなさんよりも準備の遅い方々が数多いため、一気に資本逃避行動に出る危険性があります。しかもすでに保有率1割になる海外投資家は、その前、あるいは同時並行的に国債売却というリスク回避行動に出て、国債と円の暴落に拍車を掛ける可能性があります。

  今現在、実質債務超過でもそうした事態になっていないのは、一応ルール上債務超過ではないという安心感と、償却ができる利益を上げていることが理由でしょう。そしてなんといっても、このような日銀の状況を心配する人が、圧倒的に少数だからでしょう。

 

  次はもう一つ、大事なことを見ておきましょう。それは日銀の異次元緩和、なかでも国債の爆買いはいつまで続けられるかという点です。

  日銀は2013年4月、黒田バズーカによりマネタリーベースを毎年60-70兆円増加させると言ってスタート。その中で国債は毎年約50兆円程度買うという勘定でした。その効果が表れず、14年10月に80兆円に増額。爆買いにより国債の金利がマイナス圏に突入。それでも効果がないとして16年2月に国債の爆買いにプラスして、当座預金の増加分にマイナス金利を導入しました。

  マイナス金利は資金運用をしなければならない銀行などの金融機関にとっては重い負担となるため不評を買い、16年9月に日銀は「イールドカーブ・コントロール」なるきわどいワザを編み出し、批判をかわそうとしました。その間も国債は買い続けましたが、国の発行済国債の残存量には限りがありますので、いずれは異次元緩和も限界にぶち当たります。

  ではいったい、いつごろ限界が来るのか。次回はその試算をある金融機関が行っていますので、それを見てみましょう。

 

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4 コメント

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Unknown (Owls)
2017-07-09 18:34:28
こんにちは
いつも興味深いお話ありがとうございます

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2015-12-03/NYRZJE6JTSEA01

これは2年ほど前のブルームバーグの記事
日銀の木内審議員が付利による損失について
言及しています

日銀内でも損失がどうなるか
ある程度は試算してたのは間違いないでしょう

そして黒ちゃんは何度か藤巻氏をはじめ
国会議員に出口の方法について国会で質問されてます
その時の答えは決まって「時期尚早です」でした

出口の時期への質問なら時期尚早はわかりますが、
出口の方法への回答が時期尚早は明らかにおかしい
つまり、まともに答えられない内容だということが濃厚です

黒ちゃんは惨憺たる結果になることを予見しつつ
無理な金融政策をしている可能性大です
そうさせているのは安部政権であり、そのお友達の経済ブレーンということです

確かに都議選では大失敗しましたが、
日本人の危機意識が高まったかというとちがうと思います
いまだに少々節約すれば何とかなる程度の危機感しかないままです

おそらく行くところまで行ってXデーのコースでしょう
後はXデーへの道のりがどうなるかと時間がどれだけあるかでしょう

返信する
Owlsさん (シーサイド)
2017-07-09 21:25:24
いつも鋭い分析読ませていただいております。

〉おそらく行くところまで行ってXデーのコースでしょう
〉後はXデーへの道のりがどうなるかと時間がどれだけあるかでしょう

もうすでにポイント・オブ・ノーリターンは過ぎていますが、2019年に予定されている消費税増税が、シムズ理論 あたりをこれ幸いと持ち出して再々延期になれば、坂道を転がるように円の価値は徐々に毀損されインフレは高進すると予想されます。
(アゴラ 池田信夫氏記事 消費税増税の「再々延期」はあるかを参考にしました)
返信する
日本の経営について(笑) (Genrecht)
2017-07-12 03:05:12
林さん、お久しぶりです。不動産は整理してきているところで、少しは肩の荷が下りてきているところですが、まだ道半ばです。
私は、遅ればせながらマクロ・ミクロ経済学を一から勉強しているところです。

ある、経営の知識にそれなりに長けた人と先日話をする機会があったのですが、日本の金融について、「絶対にインフレにしていかないと、基本的に日本は長期の目線では成り立たなくなる、抱えている負債や社会保障費のことも考えると。消費増税のタイミングは少なくとも悪かった」という意見では一致しました。
しかし、その人は、「日本は潰れっこないんだから、その為にはもっと金融緩和しなけりゃダメだ、黒ちゃんは中途半端。」と斬り捨てていました。こう考える人はやはりいるんだな、と思い、林さんの方向性とはかなり異なり、なんだか遣る瀬無い気分です。

誰が何を処方しても、転移してしまった悪性腫瘍はいかようにしても根治は無理なのが現在の日本なのだと思います。緩やかだろうが急だろうが、インフレの時代が来ることを身構えておかなければならないのみ。
返信する
Unknown (Owls)
2017-07-12 11:42:15
こんにちは

リフレ派が力を持ってしまった大きな要因に
そもそも良識派が主張するひたすら過去のツケを
将来の世代に負担させるだけの常識的な
財政再建方法が実行不能な領域にまで入ったの大きいのでしょう

どんなに正論だろうと実行できないまで事態が悪化していれば
非常識な方法で解決するしか選択肢がなくなり、
それを実行する為の人間が自然と登場します

アベ・黒コンビもそういう役割を持って自然発生したのです
アベ・黒コンビがずっこけて失脚しようと、
他の人間がその役割を代行する為に必ずどこから表れます

いくらなんでも現役世代が唯々諾々と老齢世代が
何の危機感もなく回してくるツケを負担し続けるわけがありません
あるものは反発し、ある者は都合の良い話に救いをもとめます
誰も負担する気がないから都合の良い話を吹聴する者が支持されます

アベ・黒コンビが打倒されようと
日本人の意識が大きく変わらない限りは
アベ・黒コンビの代わりがまた出てくるだけです
返信する

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