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大丈夫か日本財政17年版 その9 日銀保有の国債はどうなる 5

2017年07月03日 | 大丈夫か日本財政

    おごれるもの、久しからず。

  あれだけ国民をバカにし続ければ、鉄槌は下るものですね。

  さかのぼれば、「学芸員はガン」の山本幸三、「東北でよかった」の今村雅弘、お友達の籠池、加計に加え、失言連発の稲田、答弁のできない法務大臣金田。その上文科省問題では内部告発を「怪文書」で片づけようとした。

  昔ながらの「隠蔽体質」を堅持する安倍内閣のやり口に対して、「情報公開」で立ち向かった小池知事が勝ったのだと私は分析しています。オリンピック問題しかり、豊洲問題しかり。小池知事には一刀両断の解決はできなくとも、隠蔽よりはずーっとまし、という有権者の審判でしょう。

  おごる安倍政権に鉄槌を下したのだとすると、東京都民は愚民ではなかったのか、それとも流行に乗りやすい愚民なのか、そこまではわかりません。東京都民は昔から美濃部亮吉、青島幸雄、最近は石原慎太郎、小池百合子と、ブームといえる現象を時々作っています。

  ただ今回の選挙はあれだけ毎日ニュースになっていても、投票率は51%。前回の43%よりだいぶましとはいえたった8%増えただけ。期限前投票が5割も増えていたのに、実は無関心の人も多いですね。

  しかし都知事就任後1年で一地方とはいえ最大勢力の政党を作り上げてしまうとは驚きです。橋下氏が率いた大阪維新の会は似た現象を起こしましたが、首都で起こすのとはマグニチュードが違います。すでに東京以外の地方都市などでも小池氏の考え方を支持する〇〇ファーストの会ができつつあるため、フランスのマクロン新党が席巻したような事態が起こらないとも限りません。

  「他に選択肢がない」という消極的選択での安倍一強も、揺らぎが出てきたようです。さー、どうするアベチャン。そうならないうちに早期解散に打って出るか、来年の任期近くまで延ばして立て直しを図るか。

  先週ゴルフの後で一緒に寿司を食べたあるニュースキャスター氏が投票日より前から、「自民党内が相当浮足立っている。首相周辺が相当な危機感を持っているようだ」と言っていたのを思い出します。これで少なくとも強引な憲法改正の動きは封じられたようです。

  でもだいじょぶアベチャン、君ならいつでも違憲立法できるから(笑)。

 

  一方アメリカではかわゆいトランプちゃんがオモシロ動画を投稿して話題を独占。CNN男を殴り倒している動画です。それでもってメディアに勝ったつもりになっているので、あんたは「カワユイ」といわれるんですよ(笑)。

  さすがに今回の一連のトランプちゃんのツイートや動画のアップに、共和党内部もイカレタ大統領に腹を立てているようです。下院議長のポール・ライアンがニュースショーの男女キャスターに対するトランプの汚いののしり言葉を、正面切って非難しました。民主共和両党の重鎮たちも、非難の合唱の輪に加わりました。

  トランプちゃん、よくまああれだけメディアに目を通すヒマがありますね。そうか、他に仕事してないからか。眠れない日々を過ごすトランプちゃんをもっと不眠症にして引きずり下ろすには、メディアの絶え間ない攻撃が最も有効なようです。

 

  さて、日銀の話に戻ります。最近の日銀に関する報道で関心を集めていたのは、総資産が500兆円を超えたというニュースでした。GDPの93%に達する大きさにまで大膨張しています。同じ尺度で計るとアメリカのFRBの総資産はGDPの23%。統合欧州のECBは28%で、余裕しゃくしゃく。しかもすでに議論は資産圧縮です。

  資産が大きくなると中央銀行の危険度は増すのか?

  もちろん増します。理由は前回述べたように、その巨大な資産はただで保有できるわけではなく、ファイナンスコストがかかるからです。それは普通の株式会社でも同じことで、バブル時代に巨額の不動産投資にのめり込んだ企業が、ことごとく日銀の利上げによるファイナンスコストの増加により破たんしたのと同じ理屈です。

  バブル期の不動産投資では、それに輪をかけ不動産価格が暴落したので、余計に破綻スピードが速くなりました。保有不動産を担保として借り入れを起こし次の投資をするという連鎖が、いったん逆転を始めるとそれも逆連鎖になって奈落の底に落ちていきます。

  日銀の場合、保有資産の大半は国債です。国債は金利が上昇すると価格は暴落するのですが、売却しなければ損失はペーパー上の評価損のみのため、評価方法を変えれば問題はないという考え方があります。

  そしてたとえ出口に至ったとしても、出口は売却するのではなく、アメリカのFRB同様、償還が来たらその分の額の資産を減らすということをしていけば、市場価格の下落インパクトを乗り切ることができる、というやりかたです。

  ただし、前回申し上げたように、付利のレベルを上げることなくそれができればです。そしていま一つの問題は、日銀には確定している損失がすでに積み上げられています。それが償還価格の100以上の価格で買った国債の、額面を上回る分の損失です。例えば120で買った国債が100でしか償還されなければ、20が損失になります。その高値づかみ分の累計金額はどれほどか。ブルームバーグがわかりやすく解説してくれていますので、それを引用します。

  6月初めのニュースです。

引用

将来の償却負担は9.7兆円超

日銀が明らかにした単年度の償却額に対し、ブルームバーグの試算では、償還までに必要な将来の償却額は9兆7200億円になる。日銀が簿価ベースで保有する長期国債387兆4900億円(5月20日時点)と額面ベースの銘柄別残高の合計377兆7700億円(19日時点)の差額。マイナス金利の導入決定前の6兆1100億円(16年1月20日時点)から大幅に増加した。

引用終わり

  ブルームバーグの強さは、ボンド市場の分析力にあります。もともとソロモンブラザーズのボンドのセールス&トレーディング部門で共同責任者・パートナーとして活躍していたマイケル・ブルームバーグが設立した会社で、ボンドから誕生しているのです。彼は自分が必要としていた情報がそれまでの金融情報会社から手際よく供給されないため、それを供給すれば必ず儲かると計算して会社を設立。それが見事に当たってビリオネア―になったのです。日本のように投資=株式という狭い世界からは、こういう会社は生まれません。

  横道に逸れましたが、このニュースにある約10兆円に上る高値づかみは、かならず将来の損失になります。そしてクロちゃんが、「マイナス金利の深堀」などと言って無理やり買い続ければ、その額は増える一方です。

  ただし、この損失が一気に表面化しない工夫がルール化されています。それが、保有国債の償還までの均等償却ルールです。次回はそれを説明します。ちょっと面倒でわかりづらい説明ばかりですが、もう少しで終えるつもりですので、どうかご勘弁を。

コメント (4)
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