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大丈夫か日本財政17年版 その11 日銀保有の国債はどうなる 7

2017年07月15日 | 大丈夫か日本財政

  前回の記事の番号が前々回と同じになっていましたので、今回で正しい番号にもどしました。よく間違えますね。新規投稿の時に、自動的に前のタイトルが表示されるためです、と言い訳をしておきます。すみません(笑)。

  安倍内閣の支持率が3割を切ったというニュースが流れています。時事通信による世論調査で支持が29.9%、不支持が48.6%となり、危険水域に達しています。閉会中の予算委員会で安倍首相みずからが参考人になるというのですが、きっと彼の回答は、「私は一切指示などしていない」でしょう。それがわかりきっているのに何故首相を参考人として呼ぶのか。

   自民党はそれをもってこの問題に決着をつけたいから。野党は疑惑が深まったということをアピールしたいから呼ぶのでしょう。果たして終わりは来るのでしょうか。


   その間に本日もう一つ大事なニュースが流れていたので、私はそちらに反応しました。それは自民党の税制調査会の最高顧問である野田毅氏が遂に、「日銀自身も思考停止状態に近い」と発言したことです。野田氏は税調の会長だけでなく、経済企画庁長官も務めた党内きっての経済通で、一方「反アベノミクス勉強会」の発起人でもあります。

  支持率がかなり危険水域に近づいた安倍内閣と、自民党内からも懸念の声が上がり始めた日銀、いよいよアベノミクスが終盤に近付いたようです。これまでは株価が上昇し、実体経済がそこそこ悪くないことで内閣支持率が高く保たれ、日銀への風当たりも強くならずにいたのですが、今後はそうはいきません。

  

  世界を見回すと、超緩和策からの出口議論はアメリカだけでなく、欧州でも具体的に始まっています。そのため欧州の金利が少し上昇し、通貨ユーロも対ドル・対円で上昇しています。いよいよ取り残されるのは日本だけという色彩が強くなってきました。

  アメリカではFRBイエレン議長の議会証言を始め、有力理事などが今後の金融政策に関して数多く発言しています。それらの多くが利上げと資産圧縮の同時並行的実施ではなく、次回はどちらかと言えば資産圧縮を選択すべきとのトーンで一致しているようです。物価と賃金の上昇がさほど強くないため、2つの政策が重ならないようにするための工夫でしょう。

  では何故片方だけでも実行しようとするのか。理由は「平常時への復帰」を急ぎたいためです。もっと突っ込んでいえば、私は以下のような可能性を考慮してのことではないかと勝手に想像しています。

  「利下げするための利上げが必要だから」です。

  将来景気がスローダウンする場合を想定し、刺激策を用意しなければならない。その時にまたぞろ量的緩和という策を使うより、金利を下げる方が理解を得やすく、FRBも即決できる。次の手段と目される資産圧縮は利上げではないのですが、FRBの資産圧縮により市場に米国債が多く出回ることで、市場金利を上昇させる圧力になります。それが将来の景気後退時のテコ入れ策の布石になるのです。

 

  さて日本に戻ります。今回のテーマは、80兆円にものぼる市場からの国債吸い上げがいつまで継続可能なのかについてです。

  この重要なテーマに、三井住友信託銀行が挑み、調査月報を作成していますので、それを紹介します。数字計算が並びますが、比較的単純な計算ですので、フォローしてみてください。調査月報の日付は17年1月号ですが、作成は16年末に行われているものと思われます。

・日銀のマネー供給=日銀資産積み上げ目標は年間80兆円

・日銀保有国債の毎年の償還額見込みは40兆円。(80兆円買い入れても、40兆円は償還される)

・償還見込みにもかかわらず80兆円のマネー供給を継続するのに必要な買い入れ額は、

  40+80=120兆円  120兆円買い入れないと、40兆円償還されるので、資産を80兆円増加させられないということです。

・120兆円の買い入れのうち政府の新規国債発行を全額買い入れるとするとその額は37兆円。17年度政府予算上の新規発行額は37兆円です。

・必要買い入れ額120兆円から新規発行引き受け分37兆円を引くと、市場からの買い入れ必要額は

  120-37=83兆円

  つまり市場(市中金融機関)から買い入れる必要があるのは毎年83兆円となる計算です。

  16年3月末で232兆円ある金融機関の国債残高を、全額買うのに要する期間は、

  232兆円 ÷ 83兆円 = 2.8年

  つまり、2.8年経てば、もう市中金融機関に国債はなくなるということです。

  現在はこのレポートにある16年3月末からすでに1年3か月ほど経過しているので、残された時間はあと1.5年程度だ、ということになります。

  しかし三井住友信託銀行は、「市中銀行は国債を担保に取引を行う必要があり、現実には手元に相当な額の国債を残す必要がある。実際に限界が来るのは17年後半から18年前半くらいだ」という時期を示しています。

  ということは、なんとすでに限界域に近づいているのです。

  ここからは私の推定ですが、同様な試算はもちろん日銀もしているはずで、だからこそ、やれ「イールドカーブ・コントロール」だとか、「マイナス金利」だとかの導入を計り、市場の関心を「買い入れの限界」から逸らせようとしているのでしょう。

  そして出口戦略について聞かれるとクロちゃんが答えるのはいつも決まって、「そんなことは先の話で、2%を達成してからだ」とはぐらかします。しかし、限界はそんな先の話ではなく、2%達成より早いことは計算からしてあきらかです。

  ここまでをまとめますと、金融機関の保有する国債の総量から推定すると、買い入れの限界は17年後半から18年前半に訪れることになる。

  つまり異次元緩和の最重要政策であるおカネの供給は、すぐにでも限界が来てしまうのです。

  ではいったい、国債買い入れの限界が近づくとその後どのようなことが待ち受けているのか。それを推定してこのリシーズのまとめにしたいと思います。

 

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