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大丈夫か日本財政17年版 その13 日銀保有の国債はどうなる 9

2017年07月25日 | 大丈夫か日本財政

  トランプを支えていたあの報道官が政権を去りました。報道陣を親トランプと反トランプに分けて、反トランプのCNNやNYタイムズなどを記者会見場から締め出すなど、前代未聞の言論統制を行ったりしたスパイサーです。しかし安心してはいけません。もっとひどいのに代わっただけですので。

  トランプは司法長官に対しても「オレ様のために働いていない」と不満をぶちまけ、いずれ彼も嫌気が指すに違いありません。トランプの非難は「ロシア疑惑の捜査に関与しないなら司法長官に起用しなかった」とまで言う激しい非難で、セッションズ氏の辞任も時間の問題でしょう。

  そして誰もいなくなった、ではなく、最後に残ったのは大統領職をファミリービジネスと勘違いしているあの家族だけとなった、でしょう。

  もっとも、まともな人間でないトランプと、よくぞ家族は一緒にいられるものだというのが、私の感想です。一度ホワイトハウスに住みたかったのかな。

  一方日本での加計問題、私もきっとみなさんも思っているように、疑惑の払しょくなどできるはずもない。しかし、しどろもどろで逃げ一方の答弁は、支持率の劇的下落をもたらすでしょう。

  さて日銀問題です。

  日銀は四半期ごとに「経済・物価情勢の展望」というレポートを公表します。大本営発表的な内容ではありますが、金融政策の将来展望が書かれています。物価に関する重要部分を、7月20日の日経オンラインから引用します。

引用

日銀は20日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で17年度の物価見通しを1.1%(従来は1.4%)、18年度を1.5%(同1.7%)、19年度を1.8%(同、消費増税の影響を除く、1.9%)に引き下げた。人手不足は続いているが正社員の賃金が伸び悩んでいて、物価の伸びは緩慢なままだ。物価見通しの下方修正に伴い、「18年度ごろ」としていた「2%程度」の物価安定目標の達成時期は「19年度ごろ」に見直した。日銀の物価目標先送りは15年春以降、6回目だ。

引用終わり

  私はこうした先延ばしのたびに次のように揶揄してきました。

「物価の2%達成は、いつも今から2年後だ(笑)」

  今回また2年先に目標を持って行きました。しかし今回の2年後先延ばしは、笑い事ではなくなっています。理由の一つは前回の記事で取り上げた「国債買い入れの限界」が今年後半から18年前半にも来る可能性があるからです。その計算には、金融機関はある程度の国債を取引の担保に利用するため保有し続ける、ということが加味されています。しかし担保ニーズを加味せず、すべてを売ってしまう想定でも、16年末から2.8年後という計算が示されました。つまり80兆円を買い続ければ、完全枯渇も19年の後半にはやってくるということです。そうなったらどうする。日本の株式を毎年80兆円買い続けますか?

  笑い事ではない理由のもう一つは、黒田総裁の任期が18年3月に到来することです。これまでの盤石な安倍政権下であれば、首相の「続投」の一言で済むかもしれませんが、今後はそうはいきません。黒田氏にとって最悪のシナリオは、自分がやめずに頑張ったところで、最大の庇護者である安倍首相がいなくなってしまうことです。衆院選挙は遅くとも18年末にはあり、このシナリオはなきにしもあらずです。

  もう一つの最悪シナリオは、日本の財政再建が現政権の思惑どおりに進まず、高らかに掲げた国際公約を反故にすることが見込まれることです。13年のサンクトペテルブルクG20 の場で、「2020年までにPB(プライマリー・バランス)を黒字化する」と世界に向けてコミットしているのが、財政再建の国際公約です。それが崩れると、国際社会や市場は黙っていません。国債購入の限界とともに、一気に世界で注目を集めることになります。

  PBの黒字化というと聞こえはいいのですが、騙されてはいけません。PBが黒字化したところで、財政赤字はまだ垂れ流しだし、累積債務は積もる一方だからです。国債の金利は毎年絶対に払わなくてはいけないのですが、プライマリー・バランスの均衡とは「金利支払い分などを除く」なのです。

  日本のように借金がGDPの240%もある国は、金利支払いが膨大です。今年度予算ではその額なんと23兆円(一部償却も含みます)。この額は全歳出額の4分の1を占めています。それはなかったことにして歳出と歳入が均衡したと言って喜ぶのがプライマリー・バランスの均衡です。

  さらに逆サイドの歳入から見ると、もっと悲惨です。国の税収は約63兆で、そこから黙って3分の1以上の36%も国債費でなくなってしまうのが今の日本の財政の実態です。

  そんなナンセンスなことを何故「プライマリー・バランス」と、あたかも均衡したように謳いあげるのでしょう。理由は簡単。歳入の3分の1以上も金利を払う国など想定外だったからです。プライマリー・バランスがとれれば、GDP対比での借金は増えないはずという素朴な想定が国際基準にはあるため、こんな事態に陥っているのです。

  金利はGDP成長率とほぼほぼ同じようなレベルのため、GDPが成長して税収が増えれば、金利が上がっても利払いはできるし、債務のGDP比率は増えないという理屈なのです。金利上昇時には、成長率も高いハズ。成長すればGDPが増えるので、借金比率は高まらないハズ、というのがプライマリー・バランス論の基礎にある考えです。

  しかし日本の財政の実態は、プレイマリーバランスが取れたところで膨大な金利支払いにより借金の対GDP比率は増えてしまう事態に陥っているのです。国際常識などはるかに上回る超異常事態なのです。この簡単な計算と数字、みなさん是非覚えておいてください。知ったかぶりにもってこいの数字ですので(笑)。

  安倍内閣は人気取りを優先し、消費税値上げを2度も先送りしています。次回は19年10月に10%への増税が予定されていますが、誰が首相になろうが先延ばしは間違いなし。日本と言う国で内閣の人気を保つには、消費税値上げはご法度なのです。こればかりは、われわれ国民は「愚民」だということを認めざるを得ません。

  先週末あるテレビ番組で、3%の消費税を始めて導入した竹下首相の最悪の支持率はわずか3%で、「消費税率並み」だったという笑い話を政治評論家がしていました。

  こうして振り返れば累積債務問題も、政治家とともに国民が招いた愚策の結果なのです。

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12 コメント

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雑感 (シーサイド)
2017-07-25 14:40:48
加計問題は見ていると"何が問題か"判りづらいですね。

わたしはいわゆるクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)の現象の一つと捉えています。

安部さんも加計さんも有形無形の親の遺産で世に出てきた人達です。特別に素晴らしい才能を持ったわけではありません。お互い似たような境遇で若い頃から気が合うのでしょう。

安部さんは再登場したときから、いろいろと幸運に恵まれていました。

・2012年12月はEUの危機が一段落して、リスクオンにより偶然にも円安・株高が起こった。

・2013年4月には異次元の金融緩和により円安・株高を演出できた。しかし実際は民間消費も企業の設備投資も起こらなかった。少子高齢化問題を憂うる国民、企業は需要の先食い政策に踊ることはなかった。

・尖閣問題、北朝鮮ミサイル問題は内政の不出来を補うに十分な政治資源を安倍内閣に与える結果になり、安倍一強と言われるまでに至った。

ただし安倍さんの強運もここまでのような気がします。

ノーベル経済学賞を授与されたダニエル・カーネマンは著書「ファースト アンド スロー」の中でこんなエピソードを書いています。

イスラエル空軍の顧問を頼まれたカーネマンは、パイロットの訓練成績について、過去の成績良好者より下の成績のパイロットの方がこれから良いパフォーマンスをするだろうと教官に伝えた。疑問に思った教官が尋ねると彼はこう答えた。

「平均への回帰が起こると考えられるからです。」
返信する
ドル円について (ヒデ)
2017-07-27 07:24:50
日頃よりお世話になります。楽しみに拝読しています。
質問させて下さい。
以前他の方も言及していますが、藤巻健夫氏はドル円は米長期金利に連動しており、資産縮小は長期金利に影響して円安要因としています。
日米の金利差が為替に影響するとして、仮に日本で悪性インフレまたは制御されない金利上昇が起こり日本の金利が米国を上回った場合は円高なのでしょうか?
それとも、その様な場合は異常事態の為、金利差だけが為替に影響する訳ではなくなるのでしょうか?
現在ドルに転換し、米長期金利上昇にむけ待機中ですが、円安しか頭になかった為、円高は何で起きるのか、把握したく。
ご教授頂けますと有難く、よろしくお願いします。
返信する
訂正 (ヒデ)
2017-07-27 07:28:18
藤巻健夫氏✖️
藤巻健史氏◯
失礼いたしました。
返信する
Unknown (Owls)
2017-07-27 20:13:59
こんにちは

日本人の多くはいまだに
身を切る行政改革をすればいくらでも
財源が湧いて出てくると漠然と思ってる人が多い

確かに無駄を無くして改革をするのは大切なのですが
だからといって足りない財源を賄えるほどはお金は出てこない
この勘違いから生まれたのが安部政権の前の民主党政権です

事業仕分けを悪いとは言いませんが
だからといって事業仕分けをいくらしても
民主党が主張する政策を実現する為の財源など
出てくるはずもありません
そもそも節約で捻り出る金額とは桁が違います
算数できますかと真剣に質問したくなるほどのレベルです

民主党政権にしろ、自民党政権にしろ、
日本人の愚民ぶりを反映した政権でしかありません
ようは口では将来は心配とか言っていても
実はそれほど深刻には考えていないのです
そして痛みが無い手っ取り早い解決策が望みなのです

それが節約すればいくらでも財源が出てくるとか
異次元緩和で問題解決とかいうトンデモ政策を支持してしまうのです
返信する
シーサイドさんへ (林 敬一)
2017-07-28 11:30:17
雑感をアップしていただき、ありがとうございます。

クローニー・キャピタリズム、おおいにありですね。

平均への回帰も、よくある現象ですね。

ゴルフでもアベレージゴルファーが突然前半はパープレー、でも後半はダボの連続で、終わってみたら平均的ボギーゴルフだった、ということが起こりがちです。
返信する
ヒデさんへ (林 敬一)
2017-07-28 11:33:05
ご質問いただき、ありがとうございます。
回答させていただきます

>日米の金利差が為替に影響するとして、仮に日本で悪性インフレまたは制御されない金利上昇が起こり日本の金利が米国を上回った場合は円高なのでしょうか?
それとも、その様な場合は異常事態の為、金利差だけが為替に影響する訳ではなくなるのでしょうか?

そのとおりで、金利差よりリスクが反映されます。

私の著書をもしお持ちでしたら、P.163-4に、こういうくだりがあります。

「・・・金利の上昇は高いリターンの象徴なのか、高いリスクの象徴なのか、一般的には判別が難しい。
しかし、円金利について言えば、今後の上昇は成長の証より、リスクの反映である可能性が高いと思われます。」

これが回答です。

もうひとつ。

私が買ってはいけない債券に入れている、ハイイールド債、またの名をジャンクボンドというのがあります。

例えば新興国の債券で、信用力が低いために高金利にして需要を引き付けようとします。しかしそのリスクゆえ、通貨価値は低いままです。
ブラジルレアル、トルコリラなどがよい例です。

回答になりましたでしょうか。
返信する
林様、アドバイスありがとうございます。 (ヒデ)
2017-07-29 14:43:12
手元にある貴著を拝見しました。
ありがとうございます。
理解が進んだ気がします。
ドル待機でしばらく行こうと思います。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (Owls)
2017-08-01 13:26:08
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-01/OTZBZ26TTDS001

こんにちは

グリーンスパン元FRB議長が債券バブル崩壊を警告しているようです

しかし、このブログに集う人たちには米国債の買い場到来ということでもあります
聞くところによると9月には大きな動きがあるとも言われていますので
日銀の動きと共に注目したいと思います


返信する
Owlesさん、いい情報ありがとうございます。 (シーサイド)
2017-08-02 05:36:05
イールド・スプレッド(株式益回りー長期利回り)が約21%の乖離つまりダイバージェンスが起きていて、今後金利上昇(債券価格下落)すれば、当然約20%の株価の下落がつまりコンバージェンスが起こると予想されます。
これは結果として米国の景気後退入りを示唆することにもなるかもしれません。

米国債の買場と捉えることも出来ますが、円高・ドル安にアクセルが入りますのでドル転へのいい機会になると思います。

わたしは今年の秋からマレーシア生活を開始しますので、円→ドルではなくて、一旦円→リンギットにして、2年定期預金の約3%の金利を生活費の補充に当てたいと思います。

過去の大きなトレンドでは投資資金フローは米国が景気後退期に入ると新興国に流れる傾向があります。

ASEAN、インドは今堅調な経済成長をしています。
返信する
Unknown (Owls )
2017-08-03 08:52:24
こんにちは

債権バブルが弾けた後の株式市場はどうなるかという記事がありました

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-02/OU1TTV6S972901

話は半分なんでしょうがこんな事がアドバイスされてるようです
これだったら利回りがよくなった米国国債を満期まで持った方が安全で確実かつ高い利益が出そうに面ます

外国の金融機関でもアメリカ国債の満期持ち切りとかは薦めないのかな?
返信する

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