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大丈夫か日本財政17年版 その12 日銀保有の国債はどうなる 8

2017年07月18日 | 大丈夫か日本財政

  安倍政権の支持率低下に歯止めがかからなくなっています。3割という水準を割り込んできた世論調査が2つ目になりました。

  来週あたりに2度目の閉会中審査がありますが、安倍首相の回答は「加計などといったことは一切ない」に決まっています。それにより国民が納得すると思ったら大間違い。

  そして自民党の竹下国対委員長の提案する与党対野党の質問時間の割り当てを5:5にする、という慣例破りが批判にさらされています。慣例では2:8です。それで時間稼ぎをするという、あまりにもミエミエの国会対策こそが、自民党の信認を低下させているということを、竹下氏はまだわかっていない。

  ついでに言えば、「内閣改造は基本構造に手を付けない」、つまり菅氏や麻生氏を温存する方向で、それがまた国民の支持が離れる原因であることをわかっていない。

  どうやら自民党もかわゆいトランプちゃん並みのレベルに堕ちてきたようです。すでに国民は「他に代わりがないから」などという理由で自民党を支持することはなくなったんですよ、アベチャン!

  あー、また言っちゃいました(笑)。


  では、本題に戻ります。前回の記事で国債買い入れの限界が近づき、意外にも「17年後半から18年前半に限界が到来する」との推定を、三井住友信託銀行の調査報告を引用して説明しました。世の中の関心が政治問題に集中している間に、異次元緩和政策の根本部分が限界に近付いています。

  では国債買い入れが限界に近付き、日銀の資産拡大によるマネーの供給拡大ができなくなると、いったいどうなるのでしょう。

  その兆候は、銀行のディーリング部門の収益などにすでに表れています。市場に国債がなくなりつつあるため取引が細ったり、最近では全く取引できなかったりしています。

  今週号のダイヤモンド誌にエコノミストの加藤出氏が機関投資家の取引高の減少がどれほどひどいか数字で示していますので、その部分を引用します。黒田総裁就任の前と現在を比較しています。

「2012年の平均に対する17年5月までの1年間の平均売買高は、都銀で86%の減少、農林系で73%減少、生損保で69%減少。多くの投資家は日銀によって歪められた債券相場に嫌気がさして、取引を最小限にとどめている」。

  加藤氏は嫌気がさしてと書いていますが、それ以上にトレーディングのタマがなくなったというのが、より大きな原因でしょう。

  債券はそもそも市場にみんなが集まって売買をするのではなく、証券会社や銀行が相対で仲介取引や売買取引を行います。それが細れば、証券銀行のディーリング部門が収益機会を失います。

  7月16日(日)の日経新聞には「ディーラー 失職の危機」というタイトルの記事が載っていました。内容をかいつまんで紹介しますと、

「国債取引高が近年毎年1割ずつ減少。6月には長期金利の指標である新発10年物国債の価格が初めて7営業日連続で変化しなかった。日銀と市場関係者の懇親会では、「こんな状態ではもう商売をやっていけない」という陳情が出た。金融機関同士の貸し借りをする金利先物市場では取引開始以来初めて出来高ゼロの日が出現した。」

  とまあ、ディーラーの失職もやむなしという状態になっているのです。

  債券の取引は、なきゃないで構わないというものではありません。私が以前から言っているように「金利は経済の体温計」なのに、クロちゃんが体温計を壊してしまったため、突然死の恐れがあるのです。つまり人間なら風邪の兆候を体温計で見出せるのに、それがないために重症の肺炎になって初めて気づくことになるのです。

  こうした異次元緩和による直接的デメリットは、金融機関の債券部門に影響するだけではありません。そもそもマイナス金利導入もあって金利が異常に低下していると、われわれの将来の年金や貯蓄に対しても、おおきなデメリットが生じます。金利低下=年金の利回り低下、あるいは貯蓄に対するリターンがないも同然になります。

  「貯蓄から投資へ」と政府はこの数年大キャンペーンを張りましたが、動いた人は実にわずかでした。その証拠に株式の個人持ち株比率は低下する一方だし、家計の貯蓄額がひたすら増加しています。

  異次元緩和のデメリットは株式市場でもその兆候が出ています。日銀の定期的な一方的買い入れにより、価格変動という大事なインディケーターがなくなりつつあります。私に言わせれば、「株式相場は血圧計」で、それを失ったため突然脳溢血に見舞われる恐れがあるのです。

  日本の株式相場は、クロダプットが働いています。クロダプットとは、株式に投資をして下落が始まりそうになっても、日銀が拾ってくれるという意味です。それに頼ればリスクは少ないという甘えの構造になっているのです。それは株価のかさ上げにもなり、市場をゆがめています。

  そもそも日銀の目的である物価上昇に対して、ETFやREITの買いが効くのでしょうか。クロちゃんはゴタクを並べますが、クリアーな説明を聞いたことはありません。私は全く関係ないと思っています。「体温計を壊したのだから、少なくとも血圧計は壊さないでくれ」と言いたいのです。

  債券市場・株式市場、ともに規制や統制を嫌う海外投資家が日本から離れる恐れがあります。今の株式市場は海外投資家により支えられているため、見離されると取り返しがつかなくなります。

ここまでまずは以下のデメリットを指摘しました。

1.    金融機関が収益低下にみまわれている

2.    我々の年金や貯蓄も収益性が低下し、頼りにならなくなっている

3.    金利と言う大事な体温計や、株式相場という血圧計もゆがめられている

この3つを指摘しました。そして前回までにお伝えしたのは、

4.    日銀の信認低下が円売り、国債売りにつながる

  以上のことを解説しました。

  次回は財政も日銀の国債爆買いに慣れて甘えの構造が蔓延し、安倍政権の信認低下とともに、いよいよ危機的な状況になりかねないことをお伝えします。

コメント (7)
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