ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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その13. 日本財政の問題点ーー1

2015年03月27日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  前回のお話しは、国の債務は過去に財政赤字で作った1,144兆円に加えて、社会保障の将来債務1,600兆円があるということを、企業会計を例にして解説しました。

   そして75歳以上の逃げ切り世代に比べて35歳の若い世代は、所得代替率でおよそ2倍の世代間格差をつけられてしまう可能性があるという推定を示しました。

  それに対して、救われた投資家さんや目白のおっちょこちょいさんから、今後の自分年金の目標数値がはっきりしたとのコメントをいただき、私も懸命に数値化した甲斐があったと嬉しく思っています。


   今回からいよいよ日本財政の問題に入ります。

 「日本政府の債務1,144兆円は過剰だと言うが、本当か?いったいいくらくらいまでなら借金をしていてもよいのか」

   これに対する明確な回答はあまり見たことがありません。しかしとても重要な議論ですので、それに対するおよその説明を試みたいと思います。

   私は2000年代の10年間ほど企業買収の専門家でした。金融機関にいて買収のアドバイスをするということではなく事業法人の買収担当で、買い手として買収に携わっていたのです。アドバイザーは買収が完了すればおさらばですが、買収側はそうはいきません。買収後のマネージこそが勝負ですから、買収対象企業の評価は厳しく見る必要があります。しかも私のいた事業法人は51%の資本を英国企業が保有していますが、決してお金持ちではなく、全く一般的な非上場の中小企業でした。そこで買収対象企業はかなり際どい企業、例えば債務超過で今にも倒産しかねない企業が多かったのです。理由はそうした企業はとてつもなく安く買うことができるからです。そこで必要とされる目利きとは、赤字だったり債務超過の企業でもぎりぎり生き残れるか否かを見極めることでした。では超赤字の日本株式会社は果たして生き残れるか、私なりの目利き力を試してみたいと思います。

   企業は過大な債務があるとそのせいで倒産してしまうということがよくあります。国ももちろん同じで、これまでの歴史を振り返れば日本を含めいくらでも倒産あるいはハイパーインフレで倒産同然になった国々があります。企業と国の比較をすると、いつも「企業と国は違う」という訳のわからない反論をする人がたくさんいますが、もちろんそんなことはなく、倒産するのはどちらも同じです。

   しかし企業にしても国にしても「借金はすべて返済しなければならないということはない」のです。なんか少し逆っぽいことを言っているようですが、しっかりとこの後の話を聞いておいてください。日本の行方を見る上で、非常に重要なお話です。

  どんなに優秀な企業でもある程度の借金を背負っています。例えば日本国より格付けのよいトヨタ自動車ですが、バランスシートを見てみましょう。総資産は47兆円、負債は30兆円、その差の自己資本は17兆円程度で自己資本比率は36%です。3月末での売り上げ見込みは27兆円、純利益は3兆円弱なので、純利益の10倍もの負債を背負って経営をしているということです。では利益の10倍の借金について、トヨタの返済力に不安はあるでしょうか。全くありませんよね。トヨタに貸している銀行はトヨタからの返済は実は望んでいません。むしろそのまま借り続けて金利だけしっかりと払って欲しいのです。優良企業は貸し手の銀行にとっても優良なことに変わりはなく、かなりの低金利であっても安全性が高いため、借り続けて欲しいと思っています。

  今のアメリカや日本の国債の低金利も、これに近い状況にあることを理解してください。もっともこのブログを主催する私や読者のみなさんは、日本国債は危ういと思っているので、若干の違和感を感じるかもしれません。しかしアメリカ国債について考えれば、アメリカ政府が借金をしなくなって投資ができなくなるより、借換(投資家から見れば再投資)にいくらでも応じるから、発行を続けてほしい。金利だけしっかり払ってくれれば実はそれでいいのです。

   アメリカ国債を例にしてこう考えると、「借金はすべて返済しなければならないということはない」ということを理解していただけるでしょうか。さきほどのトヨタと銀行の関係と同じです。この考え方の延長線上にあるのが、償還期限のない永久債です。長期の投資家は超安全な債券であれば再投資の心配のない永久債への投資も十分に魅力的なのです。もちろんオカネがいる時には売却すればいいのです。

   プライマリーバランスさえ達成できればそれでいいというのは、やはりこの考え方の延長線上にあります。

つづく

コメント (2)
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