シリーズに戻ります。このシリーズの核心は、年金逃げ切り世代と背負わされ世代の世代間格差がとても容認できないレベルに達しつつあり、このままでは財政・年金・社会保障などが破綻に瀕してしまうという点です。
前回の記事では日本財政の債務レベルはGDP対比でおよそ230%にも達していて、そのうち甘めに見てもGDPの100%、500兆円くらいは若い世 代が言われのない債務を背負わされているということでした。しかしこれはまだ序の口です。どこまでできるかわかりませんが、若い世代が社会保障の何をどれ だけ背負わされているのか、数字で検証したいと思います。
社会保障の制度にのっているのは様々な年金や保険です。しかし社会保障制度に関わる数字は財政問題のように累積債務はいくらだというような数字として はほとんどみかけません。なんとなく若い世代は年金をこれまでの世代の様には払ってもらえないだろう、健康保険や介護保険も高齢になった時点では今のよう には払ってもらえないかもしれない、というくらいの認識しかないと思います。ではまず年金からです。
「年金100年安心プラン」という言葉を聞いたことのある方は多いと思います。2004年に厚労省が年金制度を見直し、これで将来も安心だという制度 を作り上げた時から独り歩きしている言葉です。その後年金制度は5年ごとに実情に合わせて見直しがされることになっています。09年は見直しの必要はない とされそのままでしたが、昨年は04年から10年が経ち見直しが必要かもしれないとされ、6月に厚生省が年金の長期試算をやり直し、結果が発表されていま す。
ご自分の年金の仕組みがそもそもどうなっているのか、一度みなさんも厚労省のサイトで見ておくべきだと思います。制度などの解説は以下のサイトです。
http://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/verification/
昨年14年に見直しが行われたということは、04年の制度改革は100年安心なんかではぜんぜんなかったということです。14年の試算は人口や経済成 長率の前提条件をいろいろ変えて、様々なシミュレーション結果を示していますが、どの可能性が高いかには触れていません。以下の厚労省のサイトで中身を見 ることができます。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf
シミュレーション結果はAからHまで8通りもあります。それを以下で最善、真ん中、最悪の3とおり見てみましょう。それぞれのシミュレーションは、最後 の「所得代替率」に集約され、高いほど多くもらえることを示しています。現役世代の平均的なボーナス込みの手取り賃金に対する年金額の割合を所得代替率と呼んで、給付水準設定の基準としています。例えば代替率が50%なら、現役世代の平均所得の5割程度を年金として受け取ることができるとうことです。計算結果のうち3つのケースを見てみます。
物価上昇率 賃金上昇率 運用成績率 実質成長率 所得代替率
最善A; 2.0 2.3 3.4 1.4 50.9
中間E; 1.2 1.3 3.0 0.4 50.6
最善H; 0.6% 0.75% 1.7% ▲0.4% 35-37
ちなみに最悪ケースは、物価上昇0.6%、賃金上昇0.75%、運用1.7%、実質経済成長▲0.4%の前提で、厚労省は『マクロ経済スライドによる調整を機械的に続けたとしても、国民年金は2055年度に積立金がなくなり、完全な賦課方式に移行する。その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35%~37%程度』と言っています。
この内容を解説します。マクロスライドとは「そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕 組み」です。最悪ケースではたびたびマクロスライドが発動され、機械的に給付を減少させたとしても55年には年金の貯金は底をつく。つまり年金収入以上に 支払いを続けるので、貯金はゼロになってしまう。その後はその時の現役世代が払う保険料と財政で補助しても、平均所得の35%~37%程度しかもらえませ んよ、ということです。もちろんその時に財政が社会保障を補助できるほど健全であればの話です。
よく見ると結構ひどい話です。これまでの年金制度の見直しは、いつも下方修正されてきました。将来の人口減少や成長鈍化など、わかりきっていてもさら に下方修正してきたのです。それに懲りたか、今回は最悪ケースまで作ってはあるのですが、どうも最悪を覚悟する必要があると私には見えます。そしてそれが 現実になると55年には積立金はゼロになり、その時にもらえるのは現役のときの3割台の年金だと平気で言っているのです。次第になくなっていく積立金の運 用成績がいくら良い成績でも、だんだんなくなるのでそんなものは焼け石に水です。
04年時点の所得代替率は59%と約6割でした。それが徐々に低下し55年になると30数パーセント、しかも積立金はゼロになるということは、今年金を受け取っている世代と比較すると半分になってしまうという大きな格差があるということが言えそうです。
このスタディーの中身一つ一つをどう見るかの検証はしません。人口の前提が厚労省の言う中位で、それ自体かなり怪しいからです。そこで我々は念のため 「最善は達成が難しそうだ、最悪を覚悟する必要があるかもしれない」くらいに見ておくべきだと思うのです。なにせ潜在成長率はすでに1%を切ってほとんど ゼロパーセントに近付いているという見方がコンセンサスなのですから。
つづく
私は厚生年金なので、職場には大変お世話になっていますが、それでも結構な額を支払っています。
今までよけいな箱ものに使ったりしていたり、消えた年金とかの責任すら全うされないのに、
支払いの時のみ義務だの責任だの言いますね。
貰えなくなったら、国は何て言い訳するのでしょうか?
やはり自分で準備しないと駄目ですね。
愚痴ですみません。
所得税も、50~80パーセントにすれば良いのでは!
読めば読むほど憂鬱になりますね。働けど働けどのフレーズを思い出します。
ふと思ったのですが、じいさま世代及び親の世代は不動産を持ち、年金などもらうものをしっかりもらっています。
また、あまりお金を使わないので仮に子供や孫が一人っ子だった場合、すべての遺産を相続することになります。知り合いも結婚していなかった叔父の遺産をすべて相続し、さらに資産を増やしています。
自分も今年、叔父から二束三文でしたが、田舎の土地を譲り受けました。高度成長時代の資産形成の中心だった不動産を所有していた多くの方の子孫は少子高齢化でもらうものも増えているのではないでしょうか。
半面、譲り受けた不動産を貸そうにも、あっちもこっちも空き家だらけなので思うようにはいかないでしょうが、自分が住んでしまえば、戦後の団塊世代のように不動産を購入しなければ一人前と認められないというプレッシャーからは解放されそうです。
となるとより深刻なのは財産が全くない世帯の子孫で、教育も満足に受けられず、譲り受けるモノもなく、ただただ親の介護で消耗してしまい、不幸と貧困を加速させてしまい、ピケティ的な格差社会の下側に落ちてしまうのでしょうか。答えが見つかりません。
サラリーマンの妻の年金受取額が年金保険料を納めずとも共稼ぎ夫婦の妻よりも年金受け取り額が多いと良く言われております。
私の妻も結婚以来継続して働いておりますが、妻の年収程度ではサラリーマンの妻に大きく劣ります。
これでは女性の社会進出など望めません。人口減少問題を隠ぺいする為、女性の社会進出と高齢者の労働人口増加により労働人口自体は減らないという内閣府の中長期の試算の前提条件も杜撰ですが、公務員年金の問題も含め不公平な年金システムです。
私は計算に強くないですが、厚生労働省によると第三号被保険者は約1000万人で、仮に国民年金保険料相当を納めるとしても15,250円×12か月×1000万人=1.8兆円で正しいでしょうか。
これだけの金額を現在も過去も穴を開けてきたのではないでしょうか。
これを厚生年金保険料の正しい金額に直したら何兆円になるか私には分かりません。
健康保険料は子供を加えなければなりませんので更に分かりません。
IMFは日本の財政再建の具体的なプランを示しているそうで、サラリーマンの妻の年金と健康保険料徴取も含まれているそうです。
私は日本の財政問題を危惧してる中で林様のブログを発見しましたが、財政破綻そのもの問題よりも処理法に関して数字で気になるものがあります。
それは国民の個人資産が1600兆円で、個人資産には負債もあり減額されるのではないかということ、負債を除くと昨年末位で国の借金とほぼ同額と思っております。
しかも1600兆円には現預金だけではなく株式や債券も含まれていることはアベノミクスの株高で資産が増加したというニュースで理解出来ます。
株式や債券もゼロに近い減価が必要なのではないでしょうか。
もともと2015年は団塊世代の年金受給開始とそれに伴う社会保障費の大幅な増加、方や預貯金の取り崩しが始まる年で大きな転換点であるということだと理解致しました。
マイナンバーのこともあり、証券業界に及ぶのではと危惧し始めました。
公正で公平な納税には反対致しませんが、資産税を目論んでいるのであれば、税という名称のもとに資産没収という前科が日本にはありますので大変心配です。
取り敢えず、米国債購入に際し、償還時の為替、米国債への再投資、財政破綻対策の目的から林様のご著書を熟読した結果、償還は米ドルを指定しました。
数字と計算、対応に誤りはないでしょうか。
たぶん、老齢世代の人々も悪意をもって次世代に
ツケを回してやろうと思っている人は少なかったと思います。
しかし、高度成長期から80年代の成功体験や慣れ親しんだ
仕事の環境へ執着する意識は強烈だったと思います。
時代が変化しても無理して維持しようとしたから次代にツケが回ってしまった。
戦前・戦中の無謀な戦争が行われた背景には、
日清・日露・第一次大戦の成功体験が軍部と国民に
強烈に残っていたからです。人道的にはともかく、
日本は対外戦争の成功により、国際政治でも、
経済的にも地位を上げてきたという成功体験がありました。
大正後期から昭和の初めの経済的閉塞感には
過去の成功体験に訴えかける政策が支持されやすかったのです。
あの時の夢よもう一度というわけです。そうなると
数字など完全に無視してしまいます。とにかく、
戦争を起こして勝てば良くなるのだという信仰ができてしまったのです。
その結果、ツケを回されたのは戦場にかりだされた若者達でした。
日本全土が焼け野原になったやっと夢から覚めました。
この当時の人々も、決して悪意をもって日本を焦土としようとか思っていません。
ただ、過去の成功体験・環境にあまりに固執しすぎたのです。
アベノミクスが概ね高い支持が得られているのは、
とにかく過去の成功体験に訴えかけることに成功してるからです。輸出促進による景気回復、株高、不動産高の演出。
日本が最も経済的に力があった80年代の成功体験に訴えかけたのです。
そこには産業構造の変化や人口動態の変化などは考慮がありません。
バブル崩壊後に財政出動にやたら頼ったのも過去の成功体験が忘れられなかったからでしょう。
そしてツケは若い世代に危機的財政と年金制度の事実上破綻として回されます。
今度も夢から覚めるのは破滅的状況が目に見えてからではないでしょうか?
日本人の財政問題への危機感の無さからしても、
そうなる可能性が非常に高いと思います。
いつも勉強になる投稿をありがとうございます
私2年前に書店に並んでいた「証券会社が売りたがらない米国債を買え」を購入して読み非常に納得したにもかかわらず米国債を買わなかった残念なサラリーマンです
私55歳で特定の目的はありませんが1千万円ほどの資金を目減りさせない為に運用方法を検索している間にこのブログに辿り着きました
理解していた以上に日本の財政状況が悪く早めに米ドルに替えようと思っておりますが、残念ながら米国金利が低く、なおかつこれから高くなっていく局面と思われますのでいきなり長期の米国債を購入するのはあきらめ当面の対応として2通り考えております
1)とりあえず米ドルMMFを大手証券会社で購入し金利が高くなった頃に米国債を購入
2)5年程度のゼロクーポン債をつなぎ購入し満期になった時点で金利の様子を見ながら米国債の再購入を検討する
1)も2)も為替が円高に触れるリスクは同様にあり1)の方が購入時期の自由度は担保されますが、金利が今後上昇するにしても最低3~5年程度はかかりそうであると想定し2)の方法で進めていこうかと思っておりますが私が見落としているリスク等がありましたらコメント頂けると幸いです
よろしくお願い致します
>今までよけいな箱ものに使ったりしていたり、消えた年金とかの責任すら全うされないのに、
ほんとうにそうですよね、誰も責任を取らないばかりか、ハコモノを作った本人たちは逃げ切り世代で公務員の手厚い年金をしっかりもらうなんて、理不尽そのものです。
それは確かにそうなのですが、問題は用心棒さんが指摘されているように人には貸せない郊外物件ばかりで、実は自分も住みたくない物件が多いのです。金曜日の妻たちで一世風靡したあこがれの田園都市線沿線ですら、空き家だらけです。
路線価はまだ高いので、相続税は現引きでおねがいします、という感じかもしれません。
田舎暮らしがうらやましい!
>、厚生労働省によると第三号被保険者は約1000万人で、仮に国民年金保険料相当を納めるとしても15,250円×12か月×1000万人=1.8兆円で正しいでしょうか。これだけの金額を現在も過去も穴を開けてきたのではないでしょうか。
私は年金の専門家ではないのでわかりませんが、独身者と妻帯者は同じ金額の保険料を払っているのでしょうか?
>負債を除くと昨年末位で国の借金とほぼ同額と思っております。
これは本当の資産・負債の意味を理解していない識者がよく使う論理ですが、我々の金融資産から負債を引く必要はありません。
自分のネット資産を計算する時は引いて考えますが、それは計算上の話です。
例えば家のローンは約束された時期に少しずつ返せばいいだけで、「現金があるんだったらすぐ返せ」とは言われないからです。借金と両建てで資産を持っていても金融資産は金融資産です。
>株式や債券もゼロに近い減価が必要なのではないでしょうか。
すみません、この意味がよくわかりません、金融資産の大きさを評価する時に時価評価はするべきでしょうが、ただ単純に減価する必要はないと思いますが?
同感です。
原爆を落とされるまで日本人は目が覚めない。
原爆と同じくらいインパクトのある財政破綻で焼け野原になるまで目覚めることはないでしょう。