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その12.社会保障、年金の世代間格差 ーー2

2015年03月21日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  シリーズに戻ります。シリーズの番号をまた間違えました。10番が二つになってしまったので、今回は12番です。

   前回の要約をしますと、専門家である鈴木亘氏の計算によれば、

社会保障全体の「将来純債務」は

 ・年金が1,000兆円。その内訳は厚生年金900兆円、国民年金100兆円、共済年金200兆円で計1,200兆円だが積立が200兆円あるので1,000兆円

・保険は医療保険、介護保険、労働保険などの将来債務は合計で600兆円になる

・年金と保険の合計で将来純債務は1,600兆円に及ぶ

・将来債務は現時点までの国の累積債務1,144兆円(3月末見込み)とは別に支払いが約束されたもの

   ということでした。この中に出てきた重要な言葉、将来債務に関して説明します。「将来なんだから今は関係ない」のではなく、私に言わせれば「国民の誰もが抱く漠然とした不安を数値化したもの」だから非常に重要なのです。

   将来債務は決して難しいものではないのですが、およその概念をつかんでいただくために、まず企業会計で説明してみます。例えば昔企業ではバランスシートを小さく見せるために、生産設備を買わずにリースするということが行われました。生産設備は普通であれば銀行から借金をして投資をします。するとバランスシートでは右側の欄にある借金が増えます。その分左側の欄に設備が固定資産として計上されて左右のバランスがとれます。しかし借金と資産が増えることでバランスシート全体が肥大化し、自己資本比率が低下してしまいます。

  これに対して設備をリースすると設備投資のための借金も増えないし、固定資産も増えず、バランスシートをスリムに見せることができます。しかしリースの契約は例えば10年であれば10年先までの支払いを約束しますので、それが抜けおちた会計報告はインチキに近い。企業の債務全体を把握するにはリースも債務に含める必要があります。そこで最近の会計基準では短期のオペレーティング・リースを除き、リース契約だとしても、設備を買ったものと同じくバランスシート上に載せ、将来の支払いを約束したリース債務も載せることにしています。

   政府は、すでにしている借金は債務として合計額を明らかにしていますが、年金や保険などのように将来の支払いが決まっていても、それを債務だと認識し数値を公表していません。企業で言えばオフバランスの処理をして、いかにもスリムだと見せているのです。

    年金や保険は毎年加入者が保険料を支払いますので、将来の支払約束額そのものが問題なのではなく、保険料収入でカバーできない赤字部分が問題なのです。その将来の赤字部分だけの合計を先ほどの記事の要約では純債務といい、合計額を算出しています。対象となる国民は現在生きている人で将来生まれる人はカウントされません。これは企業の退職金債務の計算と同じで、現在の従業員が全員退職するとしたら退職金はいくら必要か、という計算をします。こうして年金と保険を合計した将来債務全体が1.600兆円にもなるという計算です。もう一度言いますが、この莫大な金額は支払い額全体ではなく、保険料収入ではまかなえない赤字部分だけです。

    将来債務は逃げ切り世代が自分で使った分の一部しか払わずに、ツケを後の世代に回した分です。そのツケは後の世代が税金や保険料の値上げで払うか、もらえる保険額・年金額などを削減する以外に対処できません。

  では世代間の格差の問題に戻ります。団塊の世代の最後が遂に65歳となり(私です、笑)、年金や保険の支払い側から受け取り側になってしまいました。では一世代を30年として、現在35歳以下の若者たちと団塊の世代もしくはそれ以上の逃げ切り確定世代とはどの程度の格差が見込まれるのでしょうか。

    前回の年金の話では厚労省自らシミュレーションをしていて、その最悪ケースでは現在75歳の人達の年金受給レベル、つまり所得代替率は6割くらいで、55年にもらい始める人(70歳でもらい始めるとすれば、今30歳)は35%程度だということでした。所得代替率とは現役時代にもらえる平均金額に対して、年金は何割もらえるかの率です。

  しかし35%払ったら年金基金の貯金はゼロになってしまう計算なので、そうならないようにするためには30%くらいでとどめないといけません。すると逃げ切り確定世代6割と将来世代3割ではもらえる金額で約2倍の格差がつくことになります。

   厚労省のこうした推計や将来の政策に年金と保険で差はないとすれば、やはり保険でも逃げ切り世代と背負わされ世代では2倍くらいの差が出ることは覚悟する必要がありそうです。その中間に位置する方は、ご自分の年齢でおよその推定をしてみてください。6割と3割の間でどれくらいかを計算すると最悪ケースの数字が出てきます。

   ということは、今30歳の方が今75歳の方と同じ様なレベルのリタイア生活をするには、自分がもらえる年金と同じ額を自分でも積み立てておく必要があるということです。

   さらに暗くなる話をして恐縮ですが、この計算には現在の国の借金1,144兆円は入っていないので、それは1円も払わない前提でこのひどさです。

   すみません、数字のお話ばかり延々としてしまって。もうなんだかわけわかんなくなっている方も多いと思います。こうして書いているうちに、林と言う人間はトコトン数字ヲタクだなと自省しています(笑、いや爆、いや自爆か)。

コメント (22)
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