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命の恩人、バフェットじいさんのこと

2015年03月06日 | ニュース・コメント

  このところバフェットじいさんのことがよくニュースになります。理由の一つは彼が投資会社バークシャーを経営するようになってから50年という節目の年を迎えたことと、彼が毎年この時期に公表する株主への手紙で「これまでの50年」「これからの50年」について語ったからだと思います。興味のある方は、バークシャー・ハサウェー社のアニュアルレポート2014年版を見てください。

http://www.berkshirehathaway.com/letters/2014ltr.pdf

   私としては命の恩人でもあり投資の先生でもあるので、感謝の意味も込めて今回はバフェットじいさんの事を書きます。

   まず何故命の恩人なのか、ご存知ない方のために簡単に触れておきます。私は89年にJALをやめることを決断し90年に米系投資銀行のソロモンブラザーズに転職しました。投資銀行ではズブのしろうとでした。入って一年半後の91年の秋、ソロモンは米国債の入札でルールを破って買い占め、お取り潰し寸前に至りました。そのとき破綻していればシロウトの私は家族を抱えて路頭に迷っていたに違いありません。そのソロモンの危機を救ってくれたのがバフェットじいさんだったので、命の恩人なのです。

  彼はソロモンが流動性の危機に陥った時に資金提供をして救ってくれ、しかも年収1ドルでしばらくのあいだ会長を引き受けてくれたのです。いまでこそバフェットじいさんのことを多くの方が知っていると思いますが、91年当時知っていた日本人はほとんどいませんでしたので、何者なのか本社の同僚に教えてもらったのを思い出します。

  リーマンショックのどん底で彼は「この存亡の危機だからこそ、私が市場に流動性を供給しようじゃないか」と言って、バークシャー史上最大の2兆円もの大型企業買収をしました。

  それをもって市場は反転し、アメリカの金融市場は危機的状況から脱し、大きなサポートになったのです。会社がつぶれそうになったり金融市場が危機的になったりした時に重要なのは流動性の供給です。いまだにたった20数名で運営しているバークシャーがFRBの向こうを張って「市場に流動性を供給する」などはおこがましいという見方があるかもしれません。しかし彼の動きが市場に与えるインパクトの大きさは金額の多寡では計れないほどの大きさがあるのです。

   私はどうしても株が欲しいと言う人のために、世界でたった一つ、バークシャー株だけを上げています。それは彼の投資会社バークシャーの投資方法の確かさと、実績の素晴らしさによります。

   今年の株主宛レターの中身はちょっとした変化がありました。それはこれまでの実績の表示に一つ項目が加わったのです。これまで会社のパフォーマンスを計る指標として彼が掲げていたのは1965年当初からの1株当たり純資産価値の推移で、それをS&P500の配当込の実績と比較していました。今回はそれにバークシャーの1株当たりの市場価値の推移を加えたのです。1965から2014年末までの実績数字を見てみましょう。

 

     1965―2014

S&P500     11,196%

BRK      1,826,163%

 

  S&Pの11,200%上昇にも驚かされますが、バークシャーは何と182万%という天文学的数字です。

   では、今後のバークシャー株をどう見るのか。私は株式アナリストではないので話半分に聞いておいてください。

   バークシャーの一番の問題点は後継者だと言われます。なにせ84歳のバフェットじいさんと91歳のチャーリーが経営しているのですから。しかし後継者はすでに決まり、公表待ちのようです。今回のレターで内部から2名の名前が挙がっていて、二人とも十分な実績を積んでいますので、しばらくは問題ないと思われます。

   私の若干の懸念はこれまでの投資の中でも比較的大きな投資先の4社に、昨年追加投資を行ったことです。その中でWells Fargoは近年の大成功のため問題ないと思いますが、問題はAMEX、Coca ColaIBMです。この3社は10年前くらいまでは優秀なパフォーマンスを上げていました。しかしこのところの会社の業績と業態の先行きはいずれもかんばしくありません。AMEXはシェアーを失い、決済方法が多様化する中で苦しみ、Coca Colaはダイエット志向によるコーラ離れ、IBMもIT業界の変化に全くついていけてない。買い増しはいずれもわずかな増加ではありますが、大変疑問です。3社は歴史的には大成功の案件でしたが、今後果たして再生なるのか、いくら彼がチェリー・コーク好きだからと言って、それで済まされるわけではありません。

   彼はレターでイギリスのスーパーTESCOに投資したことを失敗と認めました。数年前にTESCOは日本に進出し、つるかめというとんでもない買い物をしていますので、私はバークシャーによる投資は大いに疑問だったのですが、やはり会社が傾いてきています。

   これらはバークシャーの中では非常に小さな部分ですが、「じいさんも遂に鈍ったか」と思わせる部分ではあります。しかしバークシャーは巷で言われるほど単純な投資会社などではなく、保険会社としての事業内容は極めて高度かつ複雑でその収益力は確かですから、会社全体は今後も盤石です。

   今回のレターで投資家の目を引いたのは、バフェットじいさんの次の言葉です。

 「今後の50年はこれまでの50年のようにうまくはいかないだろう。何故なら我々は大きくなりすぎたからね」

   この警鐘はじいさんがすでに繰り返し述べています。そしていよいよその時が近くなったと警鐘を鳴らしているのですが、それでもその時は「今から10年から20年先の間」だと彼は言っています。世界でもきわめて巨大な会社の成長に寄与するような巨大な投資先を確保するが難しくなるということです。これまでもそれは言われていたのですが、今世紀に入ってから電力・鉄道など古臭い巨大事業に進出して、まさかの大成功を収めたのがバークシャーです。まだまだ新たな開拓は可能でしょうが、それは後継者にとって大きな宿題です。

  もっとも投資先が見つけられなくなれば配当や自社株買いなどの株主還元をすると思われますので、それなりのリターンはあると思われます。

   では最後に、林は今でもバークシャーはお薦めリストに入れているか?

   その答えは今回の株主へのレターの中で彼自身がこう述べています。「短期のリターンを求めるならやめておきなさい。他に儲かる株はあるでしょう。でも5年保有する気があるなら是非」。私もこれに賛成です。

   実は私の著書の原稿段階では、バークシャーに一章を割いて解説をしていたのですが、本稿では見事に削られてしまいました。巷のバークシャーやバフェットの解説本とは一味違うものだったのですが、「あなたは債券の専門家です」の一言でボツ(笑)。

   ただしどうしても言いたかった「債券投資とバフェットの株式投資法は全く同じ投資手法だ」と言う部分、つまり「すべての投資判断は割引現在価値で行う」ということだけは入れることができました。

   「でもそれって何?」とみんなから言われます(泣)

コメント (9)
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