ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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Puffinさんの投資指針 その2

2015年08月25日 | Puffinさんの投資指針

総論―如何にして戦いに臨むか


 第一に、本業を最優先しましょう。兼業投資家は、どんなに努力してもあくまでもアマチュアです。世界中に情報網を張り巡らし沢山のアナリストを抱えて豊富な資金力を持つ、年金機構や生保・投資会社・ヘッジファンドなどの機関投資家と同じ土俵で戦うのは、戦車に竹槍で立ち向かうようなもの。特に、2010年1月から東証のアローヘッドシステムが稼働、2014年には更にバージョンアップされて実測値で0.00004秒毎に約定が繰り返され、機関投資家は、自動アルゴリズム売買を行うスーパーコンピュータを使い40ギガbps以上の専用回線を引いて、更にほんのわずかでも敵より早く注文が届くように兜町周辺のビルを完全に占拠して本拠を構えて、同じビル内でも1ミリでも東証に近い場所にコンピュータを設置する、空中戦を通り過ごして究極の宇宙戦を日々繰り広げています。

自分がプロである本業こそが、最も効率の良い確実な利益をあげる手段です。

 

第二に、例えば株式投資のキモは、資金管理と売買ルールです。銘柄選びではありません。米コーネル大学経済学部(夜中にネットを使って英語の原著論文を流し読みしたので、大学名は記憶違いかもしれません。ご容赦ください。)の発表論文で、厳格な資金管理と売買ルールを定めて、銘柄は無作為に選んで6か月間投資運用したところ、統計学的有意差をもってトータルで利益が出た、というものを読みました。自分の総資産がいくらでそのうちどこまでどの程度のリスクを冒すことが許容できるか、そしてそれに基づいてきっちりした売買ルールを定めて何があってもそれを頑なに守る、これが実は一番難しい事です。これに時間をかけて、銘柄選びは定めたルールに従って短時間で機械的に行う事が肝心です。

資金管理と売買ルールは、その他の債券や投資信託などの投資においても、同様に重要です。一般に、総資産の50%を失うと、その回復は困難、とされています。その後頑張って大きな利益を上げて、それから50%増になったとしても、元々の75%になったに過ぎません。プロでも連戦連勝は極めて困難です。一時に大きな損害は、致命傷となることが多いのです。

大金とレバレッジを賭けて一発勝負をするのは、投資ではなく投機です。1回大儲けをする事よりも、最後まで生き残ることが大切です。

 

第三に、投資で最も重要なのは、流動性だと思っています。株式投資では、見かけ株価が上昇していても、1日の出来高が低い(俗に「板が薄い」と言います)と、思わぬ高値で買わされたり、ずっと安値で売らざるを得なかったり、最悪、売買そのものが成立しなかったりします。最終的に利確できなければ、たとえいくら含み益があっても、絵に描いた餅です。

一般に流動性が高いものとしては、最も多い流通量を誇る米ドル現金通貨や圧倒的な流通量と高い信用度をもつ米国債、があります。いざという時に自由に売り買いができる安定性こそが、本当の危機の際に最後の砦となり得るのです。

第四に、前述の機関投資家は鉄壁に思えるかもしれませんが、実は大きな弱点を抱えています。「機関投資家の欠点」=「個人投資家の利点」になります。

個人投資家の利点とは、その自由度です。個人投資家は、投資結果について誰に対しても説明責任を負いません。機関投資家のファンドマネージャーは、四半期毎(3か月間)で常に利益を生むことを求められます。結果が悪ければ、良くて売買裁量枠を減らされ勤務報酬は激減、最悪、解雇されます。そして機関投資家はその運用資金を募集するにあたって、投資方針を金融庁に届け出て明示することを義務づけられており、その投資方針によって、ヘッジファンドを除く全ての機関投資家は、株式や債券先物の信用取引によるカラ売りを行えずに「バイ・アンド・ホールド」オンリー(現物買いして保有し、高値を待って売却するのみ)の投資スタイルを厳守することを求められます。相場環境が悪い不況の真っただ中でも、ひたすら何かを買ってあとはそれが値上がりするのをお祈りするしかないのです。かといって何も売買しなければ、確実に解雇されます。一方、個人投資家は、相場環境が悪いとみれば3か月間一切売り買いしなくても、元々雇われていないので首にはなりません。相場が下落に向かうと判断すれば、株式でも債券先物でも信用取引でカラ売りから入ることも可能です。但し、信用取引のカラ売りは、価額が意に反して上昇した場合、その損害が理論上「無限大」になるので、「ロスカット」(【Ⅲ】の(2)で後述)の設定は絶対必須条件です。

決定的なのは、その投資範囲です。数兆円にも及ぶ資金力を持つ機関投資家は、「クジラが池に入れない」ように、例えば株式投資ならば投資可能な銘柄は、日本の場合、東証一部の株式発行時価総額が巨大なごく一握りの大型株に限定されてしまいます。中・小型株の売り買いを行おうとすると、大きすぎる投入資金の為に自分の出した売買で株価がとんでもない値になってしまい、誰も売り買いしなくなってしまうので、売れない株を大量に抱えて、自分の首を絞める結果になります。これを「板を壊す」と言います。株式投資に必要な証券会社の取る売買手数料は、多くの場合一般に1銘柄1回の取引額が1億円を超えると無料になる(証券会社は株式保管料を発行体企業から取れるので、無料でも利益が出るようになる)のですが、巨額売買を中・小型株で行う事は前述のごとく自殺行為なので、では細かく分割して買おうとすると売買手数料が発生してしまいます。元々機関投資家は運営するにあたって、莫大な人材コストと設備投資がかかる上に、更に売買手数料が多数発生すれば、どんなに稼いでもコスト割れして、破綻が待っています。

一方、個人投資家は、株式投資なら上場約4000銘柄の全てに投資が可能で、しかも途中結果を気にせずに長期にわたる保有が可能なので、今はまだ規模が小さくても将来性を持つ安値のベンチャー企業のようなものにも投資することで、機動的な投資行為も可能です。

個人投資家は、「クジラ」のようにふるまうのではなく、あくまでも「コバンザメ」に徹する事で、その利点を十分に生かすことが可能になるのです。

 

以上が総論の話です。

次は各論に入ります。

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5 コメント

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米国債での運用計画 (子種なし爺)
2015-08-30 18:36:12
 林先生、ご回答ありがとうございます。

 ありがたい話です。参考にさせていただきます。

 当方、現在52歳。
 手持ち資金をどういう考えで整理して
 運用するのか悩ましいところですが、
 米国債を中心に、以下のような案を検討中です。

 一応60歳定年を想定して、
 手持ち資金のうち、これから、7~8年、
 毎年、2~300万を平均8年の運用期間として
 既発債を買う。

 H27(52歳)→満期H35 ※60歳の年の生活費
 H28(53歳)→満期H36 ※61歳の年の生活費
  (略)
 H34(59歳)→満期H37 ※67歳の年の生活費

 (ちょぃと少ない気もしますが、MSローンは
  完済ということで…ご勘弁)

 68歳以降は、受給怪しい年金と、
 残りの「手持ち」+捕らぬ狸の退職金取り崩しで対応。

 残り「手持ち」等も、米国債、US-REIT等、
 北米重点主義で、インフレタックスを
 何とかカバーしたいと思うところです。悩ましい。

 想定している重大なリスクは、
 会社の倒産、自分の健康と、煩悩でしょうか。

 当方のような出来損ないにとっては、
 こうして、ストレスフリーを目指して
 お金に色を付けるのも、
 なかなかのストレスです。

 林先生のような方が、おられないと
 辿りつけない道です。ありがとうございます。
返信する
子種なし爺さんへ (林 敬一)
2015-08-28 14:13:35

>バークシャー変わる候補はないですかね?

長い間S&P500を2倍のスピードで凌駕してきた過去のパフォーマンスにこだわると、候補はとてもとてもいないと思います。

S&P500並みでもというのであれば、S&P500のETFで済みますね。それでもバカにしたものではありませんよ。

US-REITは私のお薦めのうちわずかに残る投資対象で悪くありませんが、今後利上げが継続すると、S&P500のパフォーマンスを下回る可能性はあります。

REITは株とは言え、根本が利回り商品であることを理解しての長期投資なら可というところです。
返信する
連続ですみません! (子種なし爺)
2015-08-27 10:05:20

 林先生、お世話になっています。

 そう簡単に、見つかるものではないと思いますが
 バークシャー変わる候補はないですかね?

 今、投資するなら、REITでしょうか?
 米国債は、もう少し待とうと思っています。
返信する
興味津々! (子種なし爺)
2015-08-26 21:51:47

 いつもお世話になっています。

 これは、リアリティがあって、
 緊張しながら、是非、読んでみたいです。

 興味を隠せません。
返信する
Unknown (Owls)
2015-08-25 19:27:38
こんにちは。

「機関投資家の欠点」=「個人投資家の利点」

まさにその通りだと思います。

自分は諸裏的には財政問題を含めて日本の
長期的な衰退は避けられないと考えてしました。
しかし、リーマンショック以後かなり円高が進んでしました。

自分は将来的には日本の衰退は避けられないのだから、
今のうちに外貨やら海外ものに投資をしとけば大きな利益が得られると考えて投資してました。
目の前では1ドル70円台とかになってましたので、
FPに投資相談なんてしたら、絶対に止めろと言われる投資でした。

こういう投資は機関投資家では逆に無理だったと思います。
長い期間待てる個人だからこそ出来た投資です。
ただ、ちとリスクを取り過ぎたなと反省しています。
もう少し早くここに辿り着いていれば、米国国債投資を
大幅に取り入れたのにと残念に思っています。
返信する

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