このところ世界の金融市場は中国問題で大いに揺れています。揺れる大元をたどると、中国の経済統計の信頼性に突き当たります。今回はその話題です。
中国の経済統計、特にGDPの統計については、従来から信頼性が薄いと言われてきました。その事に関して私なりに解説を試みます。まず直近のデータ、15年4-6月期から見てみます。最初はロイターニュースからの引用です。(中略あり)
引用
[北京 7月15日 ロイター] - 中国国家統計局が15日に発表した第2・四半期の国内総生産GDP伸び率は前年同期比7.0%となった。第1・四半期から横ばいだったが、アナリスト予想の6.9%は小幅ながら上回った。
同時に発表された6月の経済指標も、市場予想を軒並み上回り、回復の兆候が示された。なかでも鉱工業生産は5カ月ぶり高水準だった。統計局は、指標の内容について「苦労して達成した成果」としたが、景気回復を確実にするためには、一段の措置が必要、と指摘。
中国経済が全般的に低迷している兆しがみられるなか、最近発表された経済指標が比較的良好な数字となっていることから、当局データの正確性を疑問視する声も上がっている。ただ、統計局はこの日「GDP統計は正確で、数字が意図的に引き上げられたことはない」と強調した。
引用終わり
みなさんがこのニュースを見て一番驚くことは何でしょう?
中国経済に関心のある方であれば、きっと7.0%という数字でしょう。政府が目標にしている新常態の目標数字である7.0%を、あまりにも正確になぞりすぎていることに驚かれたのではないでしょうか。しかも1-3月期の7.0%に続いて、目標通りの同じ数字が2四半期並んでいますのでなおさらです。
私は日本経済研究センターでエコノミストの卵をしていたので、GDP統計 にはある程度精通しているつもりなのですが、プロ的に見ると一番驚くのは発表スピードの速さです。日本の同時期、4-6月期のGDP数値は速報値が8月 17日に発表されました。中国に比べて1ヶ月遅れです。そしてさらに1か月後には確報値として改定されます。
GDP統計とはそもそも様々な一次の経済統計数値が出そろって、それら を統計的に解析・推定したり、季節調整なども済ませてから2次統計として発表されるものです。つまり消費は百貨店・スパー・コンビニの売上から、生産は製 造業の生産から、輸出入は物やサービスの通関統計などを集めることから始め、不足分は推定したりするのです。ところが中国は1次統計の発表が終わらぬうち に2次統計であるはずのGDP数値を発表できる魔法の杖を持っているのです(笑)。要するにいい加減な数字を集計し、中央政府のお気に入り数字にお化粧し て発表しているため、「2期連続で目標どおり7%でした」と発表しているとしか思えないのです。
ちなみにアメリカは日本より早いタイミング、4-6月期GDPは7月 30日に速報値として発表しましたが、次の改定で毎度結構大きく改定されます。4-6月期は速報でプラス2.3%であったものが、昨日8月27日にプラス 3.7%と大幅な上方修正が発表されました。統計手法の発達したアメリカでも、それほど速報は難しいということを示しています。
これだけでも中国のいい加減さと恣意性は十分に理解できると思います。こうしたいい加減さを本格的にスタディーしたレポートがいくつか公表されています。そのうちでアメリカの研究機関のレポートのサマリーを紹介します。機関名は、
US-CHINA ECONOMIC AND SECURITY REVIEW COMISSION、
そのSTAFF REPORTとして13年1月28日に発表されたものです。タイトルはそのものずばり「中国の経済統計の信頼性について、GDP統計の分析」。英語で数十ページにもなるため、要旨のみ簡単に並べます。
・中国の経済統計は欧米と比べ信頼性に欠ける
・統計手法は旧ソ連方式を採用し、近年改良はしつつあるが国際標準とは異なる
・数字の集計は公的部門と製造業に偏り、民間セクターやサービス業の集計はダメ
・ダメな証拠の例として、各地方のGDPを合計すると全体のGDP数値を大きく超える。これは地方の役人が大きな数字を出すインセンティブを持っているため
・逆に企業の数値は課税を逃れるため過少に申告される傾向がある
・GDPは経済の調子が悪くなった時は特に大きめの数字が出される。98年のアジア危機、09年の金融危機の時などが好例
ではどの程度数字を偽っているかについてですが、非常に大雑把に言うなら「悪い時は1~2%プラスされ、逆にいい時は1~2%マイナスされる傾向がある」としています。以上がこのレポートの概要です。1~2%なら、さほど大したことはないという印象を、私は持ちました。
この他にも様々な矛盾を指摘する分析レポートは枚挙に暇がありません。例えば中国発表の輸出入統計と、海外各国発表の対中国輸出入統計の集計数字が全然違うとか、有名なものでは「李克強指数」とも呼ばれる電力消費・貨物輸送・銀行貸出の数字との整合性などです。この3つのうち私は石平という批評家の話として「電力消費と貨物輸送の数字がGDPの統計と大きく乖離している」という例を先頃の中国に関する記事で引用しました。
つづく
はじめて投稿させて頂きます。
いつも大変示唆に富むアドバイスを有り難うございます。
おかげさまで、数年前からコツコツ米国債を買って、
満足しています。
このところ、中国が米国債を売るのではないか(売ったのではないか)という話もありますが、実際にそういうことは有り得るのでしょうか。もし有ったとした場合、米国債の価格にはどれだけの悪影響が及びうるものなのでしょうか?
宜しくお願いいたします。
以上
私のブログをお読みいただき、ありがとうございます。米国債を数年前から買い続けていらっしゃるとのこと、よかったですね。
もちろん為替も金利も変動しますので、いつも満足というわけにいかない場合もあるとは思いますが、長期では必ず報われると思います。
ではご質問の件、
>このところ、中国が米国債を売るのではないか(売ったのではないか)という話もありますが、実際にそういうことは有り得るのでしょうか。もし有ったとした場合、米国債の価格にはどれだけの悪影響が及びうるものなのでしょうか?
ありえるかというご質問には、もちろんあり得ますとお答えします。そして、「もし全部を売っても大した影響はない」と思います。価格への影響度までの予想は私にはできません。
以前も同じ問題で記事を書いていますが、大した影響はない理由は「安全資産に対する世界需要が極めて大きのに、対象資産は極めて少ないから」です。
経常黒字で貯まったドルで米国債を買っているのは日本も同じで、海外ソブリン投資家のうち1割程度を中国政府が買い、日本政府も同じく1割程度になっています。中国が売って金利が上がれば、みなさんと同様に買いたい投資家はいくらでもいますので、暴落などありません。ご安心を。
この動きは、米国債売り=ドル売りとは相反する動きです。
回答への追加です。
早速のお返事ありがとうございます!どっしりと構えて長期投資に徹します。
三井住友銀行の西岡氏というかたは
財政問題回避の為にはインフレは必須と
仰っています。
ニュアンス的にはリフレ派というのではなく、
膨張する政府債務でデフォルトを回避するには
インフレにするしか手がないと言いたいようです。
安部内閣はプライマリーバランスの目標が
達成できなくてもGDP比で改善すればよいと言ってますが、
肝心のGDPはマイナス成長を出してしまう有様。
エコノミストの多くは建前では財政出動や金融政策で
経済成長が達成できると楽観的な見通しを垂れ流してきました。
バブル崩壊後に何十年財政出動をしようが、
異常と言える金融緩和をしようが経済成長しない。
そろそろこの現実を直視した方がよいと思います。
そもそも日本は経済成長できない経済構造なのではと
疑った方がよいと思います。そして経済成長できない社会で
政府債務だけが膨らんでいく状況で日本は大丈夫なのか
本気で考えた方がよいのではないでしょうか?
もっとも私は今から考えても手遅れだと思っています。