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社債投資の心得、目白のおっちょこちょいさんへの返答

2016年03月01日 | 社債投資の心得

  目白のおっちょこちょいさんからいただいた「社債投資はどうか」という問い合わせへの回答です。

  低金利の米国債に代わり、もう少しイールドの取れる社債への投資を検討とのことですが、「社債を買う場合考慮すべきこと、リスクは何か」について、他のみなさんにも参考になると思いますので、本文にてじっくり解説いたします。

   ご質問内容と、目白のおっちょこちょいさんが例として上げられていたのは、以下の債券です。

 引用

なかなか米国債金利が上がらない状況が続いております。
ドル転した米ドルはMMFにあり安全なのですが、資金の一部で10年以内の米ドル建て社債でも購入しようかと考えています。
例)
シティ 利回り 3.129% 2026/01/12
米国債 利回り 1.654% 2026/02/15
金利差 1.475%

以下のようなことは分かっているのですが、もし何かアドバイスなどございましたらご教示下さい。
・社債と米国債で違うところは、社債は倒産などもろもろありリスクが伴う。
・米国債よりも金利が高いのは、儲かるからじゃなくってリスクが高いから。
・似たような年限の米国債金利を基準として、どれだけ上乗せされているかがリスクプレミアム。

引用終わり
 

  コメント内容にもありましたが、私は著書でも社債への投資には触れていません。私が一般の方に社債をおすすめしない理由は、

1.流動性がないから

2.社債の内容はそれぞれ変化に富んでいて、一般の方が理解するのが難しいから

3.理解できても価格の妥当性が判断できないから

   以上の3点です。もう少し詳しく解説します。

  社債の基本的リスクは、すでに書いていらっしゃるとおりです。

   日本の証券会社が薦める海外の社債は大半が金融機関の発行する債券です。それは見かけの利回りが高いからです。「見かけの良い投資対象には罠がある」と考えるのが、投資の心得の一つです。

   特に金融機関債になるととても複雑で見えないリスクが満載です。その詳細内容は「発行目論見書」を調べる必要があるのですが、私の社債引き受け経験によれば、発行目論見書は英文でおよそ50-100ページにもなり、その中の20ページほどはかなり重要な条件が書いてあります。それも字が電話番号帳ほど小さいので、とても見る気がしないしろものです。

  内容をかいつまんで言えば、格付情報や、当該企業もしくは金融機関固有のリスクや、そのインダストリーのリスク。また金融機関でありがちなのは

①劣後性の有無

②期限前償還条項の有無

③株式への転換条項の有無

  劣後債ですと、デフォルトした時に残余財産をもらえる可能性がほかの一般社債(シニア債)より低く、リスクは高いことになります。また期限前償還条項がついていると、せっかく高利回りだと思ったらすぐに償還されてしまったりします。そして株式転換条項によっては、債券だと思って買ったら、業績が悪くなると株に転換されてしまうものもあります。(これは日本でみんなが騙されたExchangeable Bondとは違います。)このように金融機関債の条件設定は極めて複雑怪奇なのです。

   日本の証券会社が薦める社債はほとんどが「プレーン・バニラ」と呼ばれる仕組みのないものが多いとは思います。しかし、債券をプロとして扱ったことにないセールスマンがほとんどなので、目論見書も読んだことはないでしょう。ですので、上記条件の有無をセールスマンに確認する必要がありますが、聞いてもわからない場合、本社の債券専門家に確認してもらい、理解したうえで投資を判断すべきです。

   ここまでは基本中の基本です。さらに重要なのは「価格の妥当性」です。一般の方にはCitibankのスプレッド、上記の例では金利差 1.475%の妥当性を判断できません。市場を離れてしまった私にももちろん判断はできません。価格が妥当であるか判断できないものを、証券会社の言いなりで買うことになるのは覚悟してください。

   それと最も重要なのは、多くの方が普段は気にしていない大事な大事な「流動性」です。流動性とは、「売りたいときに売れるか」です。そして、売れたとしても大幅なディスカウントになる可能性もあります。もう少し説明を加えますと、

   例えばCitibankが怪しくなったとき、Citibank株は市場で投げ売れば売れるでしょう。しかしCitibankの債券は足元を見られて、全く売れないかもしれません。売れたとしても相手はディストレスト・ファンドなどの墓場のダンサーかもしれません。するととんでもないディスカウント率になることもあります。墓場のダンサーとは、デフォルト間近、あるいはデフォルト済の債券を買いたたいて、将来大きく儲けようとするリスクテイカーを指します。

   ちょっと脅かしすぎたかもしれませんが、一応こうしたことを理解したうえで投資しないと、あとで泣きを見ます。ということで、国債やスーパーソブリンではない債券投資には、いろいろと難しいことがつきまとうのです。

  これらの理由から、私は社債投資をお薦めしていませんし、著書でもとりあげていないのです。

  まあ、それでも、ということであれば、証券会社でさきほど示した債券の条件を聞いたうえでリスクを取るのを、止めはしません(笑)。できれば証券会社とのやり取りを後ほど報告してください。

  以上、フィクストインカムの専門家流、社債投資の心得でした。

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10 コメント

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ありがとうございます。 (目白のおっちょこちょい)
2016-03-02 16:31:12
林様
早速本文で取り上げて頂きありがとうございます。

著書で社債について言及されていない意味が分かりました。
確かに流動性や個別の事情など難しいですし、価格の妥当性は分からないですね。

>日本の証券会社が薦める海外の社債は大半が金融機関の発行する債券です。
>それは見かけの利回りが高いからです。「見かけの良い投資対象には罠がある」と考えるのが、投資の心得の一つです。

確かに!
金融機関の債券が多いですね。
6%利回りのブラジル銀行債券など見るとうっかり買ってしまいそうです(笑)。

大和証券ではアマゾンやイーベイ、ディズニーなど金融機関ではない企業の債券も並んでおりますが、このような企業がなぜ債券を発行するのか却って興味が沸きました。

検討して
・劣後性の有無、期限前償還条項の有無、株式への転換条項の有無
の3点を聞いてみて報告いたします。

ご教示ありがとうございました。
返信する
目白のおっちょこちょいさんへ (林 敬一)
2016-03-02 16:47:57
ご理解いただいたようで、よかったです。

報告、お待ちしますね。

それと、

>アマゾンやイーベイ、ディズニーなど金融機関ではない企業の債券も並んでおりますが、このような企業がなぜ債券を発行するのか却って興味が沸きました。

アップルも社債を巨額発行していて日本でも出回っていますが、ほとんどは自社株買いのファンディングというしごく単純な理由です。
返信する
ドル建て社債報告 (目白のおっちょこちょい)
2016-05-25 10:20:54
こんにちは。
3/1 の「社債投資の心得、目白のおっちょこちょいさんへの返答」で社債投資のアドバイスを頂きありがとうございました。
先日ドル建て社債を購入しましたので、その報告です。

■アドバイス3点セットの確認
まず私は大和証券に口座を持っており、ネットとコールセンターのみのダイレクトコースで加入しています。大和証券にログインすると債券を購入できますが、購入できるのは米国債とスーパーソブリンだけで社債はコールセンターに電話して購入します。

発注前にコールセンターに電話をして、林さんアドバイスの以下3点を聞いてみました。
①劣後性の有無
②期限前償還条項の有無
③株式への転換条項の有無

コールセンターの女性は「えっと・・・少々お待ち下さい・・」と言われ下記ページを見るように案内されました。

既発米ドル建て社債 取扱銘柄一覧
https://www.daiwa.co.jp/PN/HomeTrade/Account/st/html/usd_pop.html

外国証券情報
http://www.daiwa.jp/event/frgn/gb_bond_list/index.html?mc=1&srt=

ちなみに上記3点を確認したところ、
①劣後性の有無→無し
②期限前償還条項の有無→ほとんどが有り
③株式への転換条項の有無→無し
でした。期限前償還条項はどれも判を押したように書かれています。

■債券の購入
ここまで確認できましたので、再度コールセンターに電話をしてGEやイーベイ、ウェルズファーゴの3点残存期間5~9年を1万ドルずつ購入しました。
「価格の妥当性」については「えいやっ」です。
米国債を主力にする方針は変わりは無いので、全資産の1割以下で投資です。

■コンサルティングコースに勧誘
本日大和証券から電話があり「コンサルティングコースに変えませんか?内緒の良い債券ありますよ」と勧誘を受けました(笑)。コンサルティングコースは株購入手数料が上がるだけで私にはデメリットがないので、出勤途中に大和証券に寄って変更申込書記入と内緒の債券リストを見てきました。
リストには上記HPにある取扱銘柄以外にも、JTやMUFG等のドル建て債券や10万ドル以上の大口債券等10~20程リストアップされていました(リストをメモるのを忘れてしまいましたが)利回りの良いソフトバンクドル建て債券もたまに出るそうです。

ちなみに、現在ドル定期預金金利が1年もの1%ですが、5月中には1%から下がる見込みだそうです。私は米ドルMMFを半分解約してドル定期に入れてきました。

以上、とりとめもないですが報告です。
返信する
目白のおっちょこちょいさんへ (林 敬一)
2016-05-25 14:28:11
社債購入の報告、ありがとうございました。
それとコンサルティング・コースの情報も。

みなさんの参考にもなると思いますので、差し支えなければ、購入社債の条件の詳細をお知らせいただけますか。

詳細とは、発行体の正式名称(社名とは違うファイナンス会社の可能性が多いので)、格付け、年限、期限前償還条項があればいつか、クーポン、最終利回り、などです。

価格は「えいやっ」とのことですが、通常は期限前償還までを社債の年限と考えて、同じ年限の米国債のイールドと比較し、上乗せ分利回りが妥当かどうかを判断します。
返信する
詳細情報 (目白のおっちょこちょい)
2016-05-25 15:36:30
詳細情報をお送りします。
上記の大和証券「外国証券情報」と「取扱銘柄一覧」から抜き出しました。

・GE
銘柄コード : A01100724
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A01100724_publisher.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A01100724_security.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A01100724_important.pdf
利率 2.700%
購入単価 105.70
最終利回 1.748%
償還日 2022/10/09
残存期間 約6.4年

・イーベイ
銘柄コード : A00042028
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00042028_publisher.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00042028_security.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00042028_important.pdf
利率 3.800%
購入単価 106.10
最終利回 2.637%
償還日 2022/03/09
残存期間 約5.8年

・ウェルズファーゴ
銘柄コード : A00321505
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00321505_publisher.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00321505_security.pdf
http://www.daiwa.jp/event/frgn/pdf/bond_A00321505_important.pdf
利率 3.550%
購入単価 107.10
最終利回 2.684%
償還日 2025/09/29
残存期間 約9.4年

価格の「えいやっ」は、一応同程度の残存期間の米国債と比較して1%程度利回りが良ければ購入しました。この基準だとほとんどの外債が適用されそうですが(^^;)
GEは信用があるためか、他社と比べて利回りは良くなかったです。

返信する
Unknown (パンダ)
2017-07-31 15:25:59
はじめまして。ダイヤモンド社書籍オンラインの特集で、林様の記事を拝見、その後貴方様のブログがあることを知り、ただいま勉強させて頂いています。まさに目から鱗が落ちるとても参考になる記事ばかりです。
「社債」には安易に手を出してはダメですね。身にしみて分かりました。父から相続した証券口座で、豪ドル建ての社債(ANZやコモンウェルス銀行、トヨタモータファイナンスなど、しかもデリュアルカレンシー繰上償還条項付き・・・)などを何気なく買っていました。今思えば、殆どが元本割れ。「元本割れでも、外貨のままMMFに入れておけますから」からと営業のおばちゃんは言うだけ。
来月償還になるのですが、今後はもう買わないように気をつけます。
毎月分配型の豪ドル建て投資信託も基準価格が大幅に下がっていたので、売りました。豪ドル建て債券で、投資してもいいのは、投資信託やETFではなく、国際金融公社とか米州開発銀行・世銀の豪ドル建て債券やオーストラリア国債のみと思ったほうがいいのですよね?
返信する
外貨建て社債のリスク (米国在住債券初心者)
2017-08-01 03:27:02
横からすみません。

債券は社債であれ国債であれ、満期まで持てば確定収益(Fixed Income)になりますので、「来月償還で元本割れ」ということは為替の損ということでしょうか。外貨建て社債の場合、社債が持つ個社別の信用リスクと為替リスクの組み合わせになりますが、為替が原因であるならばソブリン債でも同じように元本割れするのでむしろ豪ドル建てであったことが原因かと思いました。
返信する
失礼しました。 (米国在住債券初心者)
2017-08-01 03:30:52
すみません、投稿して気付きましたが、償還条項が実行されて繰上償還されたということですね。勘違いしており失礼しました。
となると償還によっても損失になり得ますので、繰上償還による(豪ドル建てベースの)損益がいくらか、為替による損益がいくらかで計算しないといけませんね・・・。
返信する
パンダさんへ (林 敬一)
2017-08-01 11:48:53
ようこそ私のブログへ。
初心者の方も大歓迎です。

>ダイヤモンド社書籍オンラインの特集で、林様の記事を拝見、その後貴方様のブログがあることを知り、ただいま勉強させて頂いています。まさに目から鱗が落ちるとても参考になる記事ばかりです。

ダイヤモンドオンラインの特集ですか。2011年の出版と同時に書いたものですね。著書とブログも、是非セットお読みいただき勉強してください。必ずお役に立ちますので。

ご質問の件、一部米国在住債券初心者さんが回答されていますね。
回答の補助、ありがとうございます。

デュアルカレンシーのような債券を一般に「仕組債」と呼びます。
仕組債はバクチです。

デュアルカレンシー債の仕組みは特に複雑怪奇で、仕組む側は手数料をしこたま抜いていますが、昔はプロの投資家でも本当のところは理解できていませんでした。自分で組成していたのでよくわかります(笑)。

私が買ってはいけないと挙げた債券の筆頭がハイイールドのジャンクボンドや株式リンクのEB債、2番目がこうしたデュアルカレンシー債、しかも期限前償還条項などがついたものです。

それから債券ファンド、これも債券とは似て非なるものです。
見事に証券会社の手数料稼ぎにひっかかりましたね。
初心者を手玉に取る証券会社には怒りを覚えます。

でももう大丈夫です。ここにたどりついたからには。

>豪ドル建て債券で、投資してもいいのは、投資信託やETFではなく、国際金融公社とか米州開発銀行・世銀の豪ドル建て債券やオーストラリア国債のみと思ったほうがいいのですよね?

そのとおりです。

豪ドル債は著書の出版時にはそれこそ今のジャンクボンド並みのハイイールドでしたので、買った方は大きな利益になっていると思われます。しかし、現在は金利が低下しているため、為替変動のリスクを考えると決して安全とは言えません。

同じ10年物で米国債が2.3%。豪州国債が2.7%。
たった0.4%で豪ドルの為替リスクがカバーできるとは思えません。

以上が私の現在のスタンスです。
参考にしてください。
返信する
ありがとうございます。勉強になります。 (パンダ)
2017-08-02 05:53:32
米国在住債券初心者様

こんにちわ。海外にお住いなんですね。いいですね。私も6年程前、豪州に仕事で住んでました。海外暮らしは色々と大変な事もありますけど、日本とはまた違う経験が得られて楽しいですよね。元々投資には、あまり興味がなく、しかも引き継いだお金(自分で稼いだお金という意識が薄かった)なので、なんとなく言われるままみたいな感じでやってたんです。豪ドルというか、豪州に愛着があるもんですから、外貨建て債券の多くを豪ドルで運用(米ドル・NZドル・カナダドルなどはMMFで)してました。自分が使っていた(いまでも口座はありますが)銀行の社債だし、3-5年の運用だから、為替損があってもまぁそんなに大きくないだろうと思ってやってました。仰る通り、為替による損益がいくらか?をよく考えて、よく検討してから買わないといけないと思いました。

林様

コメントありがとうございます。嬉しいです。
「仕組みが複雑なものには手を出すな」まさにその
通りですね。途中からなんか自分でも、「なんかコレ、ちょっと胡散臭いよねぇ」と感じてはいました。繰上償還付き債券はもう結構ですとオバチャンには言いました。「そうですかぁ。。。」(チェと電話の向こうで舌打ちしてかもしれませんが)
こうして見ると、世の中には五万とある投資商品のうちで、本当に投資する価値のある商品というのは、ホントにごくごく僅か。それを殆どの人が知らないということなのですね・・・

>豪ドル、為替変動のリスクを考えると決して安全とは言えません

そうなんですね。確かに、豪ドルは為替変動を大きく受ける通貨ではあると言われてますよね。
林様の著書やこちらのブログを通じて、少しづつ勉強していきたいと思っています。よろしくお願い致します。ありがとうございました。
返信する

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