クレディスイスのAT1債に関しては、まだ話題が続いていますね。日本国内でも財務省の発表によれば約1,400億円が富裕層を中心に販売されていたとのこと。特に三菱UFJモルガンスタンレー証券はそのうち3分の2の950億円も販売したことを発表しています。
そんな中衝撃を持って報道されたのは、青山学院駅伝部監督の原晋さんのニュースでした。ネット上のニュースを引用します。
引用
『青山学院の原監督は「老後に年1回の旅行を楽しみたい」と少しずつ貯めた貯金で日本の証券会社から債券を購入していたが、「ハイリスクのものという説明はなかった」と主張。「日本のサラリーマンの平均年収のウン倍が紙切れになった」「クレディ・スイスは倒産していないのにどうしてお金が戻ってこないのか」と嘆く。
あえて自身の失敗を語ったのは「安易な気持ちで投資に乗り出したら私みたいな被害にあって人生を台無しにする。同じ失敗をしてほしくないからです」と訴える。』
引用終わり
箱根駅伝で原監督は「1秒を削りだせ」と常々おっしゃっている割には、お金には鷹揚な方のようですので、私から「喝」を入れます。駅伝なら一度くらい転んでも、途中棄権はしませんよね。今回もまだまだ挽回の可能性はいくらでもあります。
どのニュースを見ても、原さんが証券会社からリスクについて十分な説明を受けていなかったと報道されていて、本人もこう語っています。
「ハイリスクのものという説明はなかった」
そもそも日本で販売に従事している証券会社が債券の販売にあたり目論見書を投資家に配布しているのを聞いたことがありません。社債などを買ったみなさんのケースではいかがでしょう。投資家に目論見書を配布し、内容を説明するのは証券会社の義務です。しかし専門家として言っておきますが、外国銀行が発行する劣後債の英文目論見書などシロウトが見ても理解できません。いや、相当な専門家でもない限り、日本語への翻訳も困難を極めるでしょう。専門用語のオンパレード、かつそもそも銀行が国内当局や世界的銀行の監督機関である国際決済銀行BISの資本に関する要求内容を理解していなかったら、とても翻訳などできません。
それを配布もせずその上高リスクであると口頭でも説明がなかったのであれば、次の一手は、原さん自身が三菱UFJモルガンスタンレー証券を訴えるのです。
この事件で発行体であるクレディ・スイスを訴えても負けます。何故なら倒産時の返済順位は株式よりこの債券のほうが下位だと目論見書に書いてあるからです。しかし販売に当たる証券会社は、そのことを説明する責任と義務があります。セールスの担当者は普段から目論見書など見ず、説明もせずにセールスをしていますので、原さんはそれを盾に100%の賠償金を三菱UFJモルガンスタンレー証券に求めるのです。
アメリカでもより巨額な損失を被っている個人や巨大ファンドなどが、すでに訴訟を準備しています。ロイターなどで英文ニュースを探ると、投資家らは債券の目論見書の中身を熟知した上で投資しているため、説明不足を指摘するのではなく、破綻処理の方法論から発行体銀行や政府の処理方法を攻めようとしています。金額も大きいため非常に大掛かりな訴訟を準備しているようです。
しかし私は日本ではもっと初歩的な攻め口があると思います。それは先ほど書いた通り、説明をしなかった証券会社を攻めるのです。
と思って日本語でネットを検索すると、すでに該当する投資家を募ろうとしている法律事務所を見つけました。この場で具体名は避けますが、私のアドバイスは
「原さん、あきらめるのはまだ早い、1円を削りだせ!」
その事務所に出向き、訴訟に参加することで返済の可能性は大いにあると思われます。その法律事務所のフィーの条件はわかりませんが、この手の訴訟の多くは成功報酬で行われることが多いのです。つまり入り口での支払いは求められず、成功報酬のみを目指しているだろうと思われます。要は投資家を多く集め、回収金額を多くして、大きな儲けを出すことが彼らのインセンティブなのです。
成功報酬の率は、おおむね30%程度になりますが、原さんが例えば3千万円の損を出しているとして、手間暇かからず7掛けの2,100万円が還ってくれば、十分じゃないですか。法律事務所は集めた投資家の投資額が300億円であれば、100億円も手にできるのです。
以上、「原さん、1円を削りだせ!」でした。
そして再度皆さんに申しあげます。「金利の見た目に釣られて劣後債などには絶対に手を出さないようにしましょう」
そうでしたか、いい加減かつ生半可な比喩で、失礼しました。
私の間違いは、何でも遠慮なく指摘してください。
金融庁に通報してもよいかと思いますね。
金融庁への通報、是非やるべきでしょう。
もっともそろそろ乗り出すかもしれません。日本中で1,400億円だと集計も済んでいますので。
以前コメントをさせていただきましたが、もしかするとお気づきなられなかったと思い、失礼ですが再度投稿させていただきます。
いつも愛読をさせていただいております。
米国債購入にあたって、本記事とは関係薄いのですがご質問があります。
長期投資の場合、金利が為替に勝つことは理解しました。
ご意見頂きたいのは、物価の件です。例えば、20年とか30年の超長期の米国債を購入した場合、リターンは複利で増えていくと思うのですが、同時に物価も上がるのではないかと思います。リターンは得られるが、それ以上に物価が上がることもあるのではと考えます。
超長期の米国債購入の場合、リターンと物価の関係をどのように考えればよいかご教授いただけませんでしょうか。
宜しくお願い致します。
Kanzakiさんへのコメントに気づいていませんでした。すみません。
では質問への回答をさせていただきます。
>米国債購入にあたって、本記事とは関係薄いのですがご質問があります。
長期投資の場合、金利が為替に勝つことは理解しました。
>ご意見頂きたいのは、物価の件です。例えば、20年とか30年の超長期の米国債を購入した場合、リターンは複利で増えていくと思うのですが、同時に物価も上がるのではないかと思います。リターンは得られるが、それ以上に物価が上がることもあるのではと考えます。
そうですね、当然物価も上昇していくでしょうね。
>超長期の米国債購入の場合、リターンと物価の関係をどのように考えればよいかご教授いただけませんでしょうか。
了解です。
そもそも物価の上下は金利の上下を左右する最も重要な要素の一つです。
過去にはオイルショックなどのように瞬間的に物価が大きく上昇する場面もありましたが、賃金の上昇により生活者は窮乏化せずに済み、同時に金利も大いに上昇しています。
ここまではよろしいでしょうか?
最近では22年に世界的に物価が大きく上昇しましたが、アメリカでは金利もそれに合わせて上昇しています。つまり経済の常識に沿った動きを見せていました。
しかし日本では物価は上昇しましたが、経済の常識を打壊す日銀の低金利政策により、投資のリターンである金利は低く抑え込まれたままです。賃金はやっと今年になって上昇していますが。
アメリカでは長期金利を抑え込むようなおバカなことはしませんので、物価が上昇すればそれなりに長期金利も上昇します。
経済と金融の自然なメカニズムを政府が阻害しなければ、インフレと金利は同じような動きをたどるとみるのが妥当でしょう。
しかし、Kanzakiさんが気にされているのは、アメリカ国債の金利と、日本の物価上昇率ですよね。
これはもう一つ、為替の要素が入るため、非常に複雑な話になります。
それを解析するためには、日米両国の物価、金利、その他のファンダメンタルズの指標を併せ持つシミュレーション・モデルを作り上げ、将来を予測する作業が必要です。
私は日経センター時代にはそのようなモデルを作っては検証し、だめなら他のモデルを作るという作業を毎日やっていましたが、それは80年代のことです。今はそれを作り上げるツールを持ち合わせませんので、モデルでの予測は困難です。
そこで以下のようなヒントを差し上げます。
そもそも日米両国の長期的成長力には大きな格差があります。成長する国の物価と金利は上昇し、低成長の国の物価と金利は低いと考えられます。
であれば、日本で暮らす日本人の場合、米国債に投資して高い金利を得てインフレ率の低い日本に暮らせれば、こんなにいいことはありませんよね。これまでの30年ほどがまさにそうでした。
その上、将来日本の財政がおかしくなり、日本から資金逃避が起ると円が暴落=ドルが高くなるので、大波乱のリスクもヘッジできます。
米国債に投資しない手はない、それが結論です。
いかがでしょう。
お忙しい中ご回答ありがとうございました。
ご丁寧に回答頂きましてよく理解できました。最後のヒントがとても分かりやすかったです。
安心して米国債を購入できます。今も購入のタイミングだと思いますが、先生のお薦めの時期がでましたら教えてください。ありがとうございました。