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マイナス金利導入をどうみるか その7 マイナス金利でも運用益、何故

2016年03月04日 | マイナス金利導入をどうみるか

  この3・4日のニュースはトランプ旋風に占領された感があります。スーパー・チューズデーが終わり、いよいよトランプ対ヒラリー・クリントンの対決が鮮明になってきました。ヒラリーは決して表では言わないでしょうが、内心は「トランプか、よっしゃー」でしょう。残された不透明要因は共和党本流がトランプ阻止のためどういう手を打つか。それと、ブルームバーグ氏の去就でしょう。共和党本流はブルームバーグ氏を含め、強力な対抗馬をいまさらながら出した上で、クルーズとルビオをあきらめさせる、それくらいしか手はなさそうです。我々は高みの見物といきましょう。

   一方、日本では経済が手詰まりになると出てくるのが、アベチャンの改憲論です。「経済だ、経済だ、経済だ」と3回も言ったのをあっさり捨て去り、夏の解散総選挙を改憲選挙にして経済問題から国民の目をそらし、煙に巻く戦法に出そうです。前回の解散と同じような戦法、つまり「消費税値上げの先送りを問う」という聞こえのいい名目で解散し勝利を得て、実は改憲をする。それが2度目も通じるか、こちらも見ものです。

   これらのニュースにかき消されていますが、実は日本ではとても大きな財政金融問題のニュースがありました。それは、マイナス金利による10年物国債の新規発行です。

   そうした折にある方から「マイナス金利でも運用益、何故?」というご質問を受けましたので、ちょっとアメリカの話題は置いておいて、その回答を先にさせていただきます。

  ということは私は、「アメリカのスローダウンなど単に景気循環で、深刻な話などではない」と思っているからです。しばしお待ちを。

   市場金利がマイナスにへこむのはまだしも、それを反映して新発10年債が史上初めてマイナス金利で発行され、国はほくそ笑んでいます。トランプ旋風のおかげで史上最大に膨れ上がった来年度予算案も無事通過し、財政規律は緩む一方です。そこにきてさらに赤字国債の発行を強力に後押ししたのが、マイナス金利での国債発行です。

  そんなバカなことが、とみなさんも不思議に思っていらっしゃるでしょうから、じっくりと解説させていただきます。

   ある方からのご質問は、以下のとおりです。

 日経に以下の記事が出ていました。「例えば海外勢が手持ちのドルを円に5年間交換する取引で、上乗せ金利は年0.9~1%ほどになる。これを元手に日本国債に投資すれば、マイナス金利の2年債や5年債でも年2%前後の高利回りで運用できる」。

これが何故そうなるのか、解説をいただきたい。

                                  

  この説明はかなり難解な部分があるとは思いますが、なるべく易しく解説を試みます。それでもわかりづらいところがあれば、遠慮なくご質問をどうぞ。

   マイナス金利を理解いただくには、バックグラウンドとしてまず日本経済と金利の関係を理解いただく必要があります。

   最初に、みなさんに質問です。

 「そもそも金利とは何でしょうか?」

   私の著書「証券会社が売りたがらない米国債を買え」をお持ちの方は162ページから164ページをお読みください。こう書いてあります。

 「金利とは投資のリターンである」

   このことはごく当たり前のことですが、「投資とは株式投資、リターンとはキャピタルゲイン」というのが当たり前の日本という狭い世界に住んでいる方々には、そんなちまちました金利が投資のリターンだとは思えないでしょうから、私は著書でわざわざ項目を立てて説明をしたのです。それが今になって実に効いてきています。

   読み進めますと次に書いてあるのは、これがもっとも重要なのですが、

「超低金利の続く円という通貨は、残念ながら金利というリターンをまともに生み出すことのできなくなった、余命いくばくもない通貨なのだ」

と書いてあります。出版された5年前にはきっと理解いただけなかった方でも、この時点ではかなり納得できるのではないでしょうか。

   さらに読み進めますと、「金利はリスクの象徴でもありますが、一方で成長の証でもあるのです」、とあります。

  日本の10年物国債の金利は高度成長期には5%を超えるのが当たり前でした。その証拠がいまだに残っています。それは10年物国債の先物取引においてです。長期国債の先物市場はプロの債券投資家にはとても大事なヘッジ手段です。先物の取引用には「標準物」と呼ばれる仮想債券を設定してあり、その債券が市場金利の変動に応じて価格変動しますので、それを取引します。その標準物の設定金利がいまだに6%なのです。つまりかつて標準的には日本国債も6%程度の金利クーポンが付いていたということの証左です。

   ところが次第に日本の成長率が低下していくとインフレ率も低下し、金利も並行して低下しました。失われた20年と言われる間に実際の10年物国債の金利クーポンは1-2%で推移し、クロちゃんの異次元緩和以降は1%にも満たない金利になってしまいました。

  そして既発債市場での取引で2月中にはマイナス圏に突入。その結果3月1日発行の新発10年債は金利クーポンが付いているどころか、へこんでいて、償還まで保有すると損をするマイナス金利のゾーンに入ってしまったのです。日本経済の趨勢的低成長に加え、先月発表になった10-12月期のGDPがマイナス成長であったことと軌を一にしています。

   ここまでを理解いただくと、現在の日本の状況とマイナス金利の本質的な部分がだいぶ見えてきます。それは、

 「現在の日本円という通貨は成長鈍化の証として、金利という大事なリターンを失うところに至った。そしてさらに、リターンがマイナスになるペナルティーを要求するまでに至った」

   ということで結論は、

「日本円は遂に投資に値しなくなった」

ということなのです。みなさんも預金金利までがマイナス圏に突入したら、そのことをもっと実感されるでしょう。先日のアンケートでもそういう結果が出ていました。

   ではドルの金利はどうか。こちらも超低金利になってはいますが、依然としてプラス圏内で、国としての健全さを失うところまでは行っていません。例えば10年物米国債の金利は現在でも1.8%前後です。

  今回はマイナス金利の本当の意味を、「金利とは」というところから解説しました。ここまでのおさらいを著書からの引用でしておきますと、

 「金利とは投資のリターンである」

「金利は一方で成長の証でもある」

 そして、

 「超低金利の続く円という通貨は、残念ながら金利というリターンをまともに生み出すことのできなくなった、余命いくばくもない通貨なのだ」

 

  しかし、これだけでは日本国債10年物が何故マイナス金利で取引されるのか、その理由として海外勢のファンディング・コスト(運用資金の調達金利)が何故マイナスになっているのかは不明です。

 次回以降で海外勢の謎を解き明かすことにします。

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17 コメント

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お教えください。 (バード)
2016-03-05 23:53:29
いつもありがとうございます。
貴重な情報を頂き感謝しております。
おかげさまで数字で考えるようになりました。

このブログはやはり善意でしたか。今後も甘えさせてください。

ところで先生の情報を元に自分なりに勉強をしているのですが、
下記の部分がさっぱりわかりません。

資金循環統計の図表1-1) 部門別の金融資産・負債残高(2015年9月末、兆円)

https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

の1ページ目で一番左の負債の部と一番右の資産の
部のバランスが、666兆円分取れていません。

どうしてかお教え頂けませんでしょうか?
突然で申し訳ございませんがよろしくお願い申し上げます。
返信する
バードさん (シーサイド親父)
2016-03-06 09:24:05
資金循環統計を見ているんですね。 凄いです。 

林さんの回答の前に。 De素人のわたしが問題にに挑戦してみます。 間違える例があるとなお理解の共有が進むと思いますので。

バードさんのおっしゃるとおり、海外の資産まで全て足すと、666兆円の差異がで出ます。

ここで海外の資産に関しては、国外流失はマイナス、国内流入はプラスという資本収支の考え方で再計算すると、右の資産(資金運用)は2412兆円、左の負債(資金調達)の差は44兆円で統計処理上は”遺漏”として扱える?

林さんのご解答を待ちたいと思います。
返信する
Unknown (しこ)
2016-03-06 13:08:19
金利の関係で質問なのですが...
新興国の高金利はインフレで、目先の金利に騙されてはだめ、金利が高いから良いわけではない。

日本は金利が低く、成長が見込めない。投資には向かない。今後、金利が上がり、インフレが進む可能性がある。

経済がリスクオフ時には安全資産の米国債が買われて金利が下がる。それは問題ない。


個人的に人口の増加等々、伸び白、成長率が関わると思っていますが、どう捉えれば良いのか分からなくなりました。


とりあえずは目先だけでは、短期的には崩れないから円が買われている。かつ買うものが乏しいから、だから金利が下がっている?
長期的には不明、もしかしたらリスクオフしたら、円売りが進み、金利が上がる可能性がある。

だから長い目でみても安定の米国債が良い可能性が高いと理解しています。

金利と成長などなど難しいですね。
返信する
しこさんへ (林 敬一)
2016-03-07 10:55:40

>金利の関係で質問なのですが
とあり、さまざまなことを書かれていますが、すみませんが、質問自体がどこなのか、理解できません。今一度、お願いします。ただみなさん共通して、以下の勘違いがあるように思われます。
>経済がリスクオフ時には安全資産の米国債が買われ
市場はリスクオフになりますが、経済はリスクオフにはなりません(笑)。
先日、私が留守中にされていたみなさんの議論も、このあたりの勘違いがあると思います。市場の上下動が、あたかもファンダメンタルズ全体が上下動していると思われている方が多いのですが、ローマは一日にしてならず。経済は日々市場に翻弄されることはありません。市場参加者が勝手に行き過ぎを繰り返しているのだと私には見えます。
>金利と成長などなど難しいですね。

そうですね。私も著書の164ページに以下のように書いています。

「金利の上昇は高いリターンの象徴なのか、高いリスクの象徴なのか、一般的にははんべつが難しい。しかし円金利について言えば、今後の上昇は成長の証よりリスクの反映である可能性が高い」と。

先進国が単独で金利上昇にみまわれるのは、ほとんど例外なくリスクが増しているのだと思います。

返信する
バードさんへ (林 敬一)
2016-03-07 10:57:57
このブログはYahooの知恵袋ではありませんよ(笑)。

本筋と全く関係のない質問をされても、私一人ですべてに回答する余裕はありません。

ですので、ヒントだけ。

ページのタイトルと、注1をよく見てください。貸借対照表ではありませんし、すべての数字を書いてあるわけでもありません。


なお、コメント欄を読者の方同志が勉強に使用されるのは、いっこうにかまいません。ほかのみなさんの勉強になるとおもいますので。どうぞシーサイド親父と研究してみてください。

ただし、トランプのように礼節をわきまえない発言は困ります。(笑)
返信する
失礼いたしました。 (バード)
2016-03-07 19:13:44
林先生、ヒントありがとうございます。
シーサイド親父さん、ご意見恐れ入ります。

過去の発言が「トランプのように礼節をわきまえない発言」に見られていた様です。
深く反省します。申し訳ございません。

「貸借対照表ではありませんし、すべての数字を書いてあるわけでもありません。」
⇒てっきり右と左に表が分かれていると「貸借対照表」に違いないと勘違いをしていました。
これで納得です。

よく日本の財政「大丈夫派」のご意見の中に、日本は債権国だから全くを持って問題ない
的なことを書いている方がいたので、自分なりにどんなものだろうと思い「資金循環統計」
を調べていました。そこで沸いた質問でした。

外国にある資金も含めれば、直ぐに現金化できるかは別として約666兆円債権国だ。
と言うので合っているのでしょうか?

それともシーサイド親父さんのご意見の様に、相殺すべきなのでしょうか?
個人的には相殺すべきではないと思いるのですが、他の方からもご意見を頂けると
ありがたいです。

もちろん、時限的に国債を買い切れなく瞬間がやってきた時に、危険が訪れる。
でも、来るタイミングは誰もわからない。こんな感じであるのは変わらないと思っています。

それでは、ご意見いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。
返信する
バードさん (シーサイド親父)
2016-03-07 23:14:04
わたしもよく分からないままコメントしましたが、たしかに図表1-1は貸借対照表ではありませんし、資金のフローのイメージを目的に作られたものですね。

林さんに脱帽!!

923兆円の対外資産があり、対外債務568兆円を引いた対外純資産355兆円があるので、政府がこの対外資産を売って、円国債を買うことができるから財政は破綻しないという話がよくあります。

しかしこの対外資産は世帯、企業、政府が保有しているものです。

政府が保有している対外資産は約16%と聞いています。 約150兆円くらいでしょうか。 これは外貨準備です。 外貨準備は財務省が短期国債を日銀に売って、現金を得て外貨を買うものです。 いわば債務と相殺される資産ですので、対外資産を売って、財政の足しにしたり、国債を買える資金ではないようです。


返信する
バードさんへ (林 敬一)
2016-03-08 09:56:46
>過去の発言が「トランプのように礼節をわきまえない発言」に見られていた様です。深く反省します。

考えすぎですよ、バードさん(笑)。

バードさんが礼節をわきまえていないとは思っていません。私は一般論で言っているのです。ご安心を
返信する
シーサイド親父さんへ (林 敬一)
2016-03-08 09:58:33
当たりです。

1ページ目のタイトルだけでなく、表紙を見れば「資金循環統計」と書いてあります。資産と負債の動きを示す目的で作成されている統計です。

>923兆円の対外資産があり、対外債務568兆円を引いた対外純資産355兆円がある

そうです。それがどこから来たのか、わざわざ黒い太い線で矢印が書いてあります。右側を全部足し算しても意味はありません。

それに続いて、シーサイド親父さんが言っている
>対外資産は世帯、企業、政府が保有しているものです。
政府が保有している対外資産は約16%と聞いています。 約150兆円くらいでしょうか。 これは外貨準備です。 外貨準備は財務省が短期国債を日銀に売っ て、現金を得て外貨を買うものです。 いわば債務と相殺される資産ですので、対外資産を売って、財政の足しにしたり、国債を買える資金ではないようです。


これもそのとおり、過去に何度も私も言っています。
人の懐に手を突っ込んで資産を奪い取るのは、中銀と政府を連結しろと言っているのと同じレベルの話です。
返信する
恐れ入りました。 (バード)
2016-03-09 10:23:21
林先生、ほっとしました。ありがとうございます。
ご回答も感謝いたします。

シーサイド親父さん、素晴らしいです。
ありがとうございます。

誰も教えてくれる人が周りにいないので、本当にありがたいです。

シーサイド親父さん、頭があまり良くないの整理させてください。

負債の左側は海外から出資されているのお金が混ざっているので、現状、日本人が日本国内に背負っている真水の負債は、

日本国内に存在する金融負債
376+1435+1213=3024

海外から日本国内に出資されている負債
568

3024-568=2456

その逆で
資産の右側は海外に出資している金額を含むので、
現状、日本人が日本国内に持っている
真水の資本は、

日本国内に存在する金融資産
1684+1087+564=3335

海外から日本国内に出資されている資産
923

3335-923=2412

誤差は、先日書いて頂いた44兆。


次に単純に海外の人が持っている資産を誰かに売却しても

日本国内に存在する金融負債
376+1435+1213=3024

は変わらない。


その逆で、海外の資産を売却しても

日本国内に存在する金融資産
1684+1087+564=3335

は変わらない。


よって比較するとすれば
金融資産(3335)-金融負債(3024)をして、
311兆円 金融資産が多い。と見るのが妥当?

これで合ってますでしょうか?


続いて(知恵袋じゃないことは分かっています:ごめんなさい)
ちょっと分かってくると疑問が出てきてしまい。申し訳ありません。

日本財政大丈夫派でよく言われている、企業(民間非金融法人)に
現金・預金が多いので大丈夫説。

コレを国債の購入に充てると考えているのだと思われます。

ですが、現金預金247兆って、ほとんどが決済様の様な気がするので、
長期で動かないお金ではない筈。

そのため企業の現金・預金を期待するのはナンセンスな気がするの
ですが、実際のところどうなのでしょう?

頭が悪いのに知識欲はある。本当にたちが悪いですね(笑)
お教えください。よろしくお願いいたします。
返信する

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