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米国債に代え、公社債投資はどうか

2016年01月27日 | 社債投資の心得

米国在住債券初心者さんのご質問に対する回答です。

  米国在住債券初心者さんから、「米国の公社債投資についてどのようにお考えか取り上げていただけないでしょうか。」というご質問がありましたので、こちらの本文にて回答させていただきます。

  債券「初心者」とハンドルネームにはついていますが、債券投資に関してかなり勉強されているのではないかと推察します。なにせ「デュレーション」という難解な言葉を抵抗なく、的確に使われていますので。

  回答に先立ち「公社債」という用語を説明します。国債以外の債券です。アメリカ市場で代表的なものは、住宅ローン債権を証券化した債券商品や、それらを扱う公社であるファニーメイ、フレディーマック、学生ローンを扱うサリーメイなどがあり、超巨大市場です。地方自治体の債券も免税のものが人気もあり、大きな市場です。そして銀行やその他金融など金融機関の債券や一般企業の債券が非常に大きな市場を形成しています。なかでも銀行の劣後債券市場は利回りが高いため人気があり、プライベートバンクなどと付き合うと、それらを積極的に薦められますが、仕組みが複雑なので要注意です。またハイイールド債もありますが、これはカテゴリーを分けられています。

  ではご質問に沿って回答いたします。質問は、

>もちろんクレジットリスクが高い分スプレッドは上乗せされておりますが、債券ということで基本的性質は国債に似ていると考えております。投資適格の社債で(今後の金利上昇リスクを見込んで)デュレーションが短いものを運用対象にしておりますが、プロの目から見てのご意見をいただければ幸いです。

  おっしゃるとおり、米国債とその他の公社債の差はリスクの大小に従ったクレジット・スプレッドの差だけで、投資の基本的要件は同じです。

  アメリカの公社債市場は格付けに従ってかなり厳密なスプレッド較差が付けられています。従ってご自分の取り得るリスクを大きくしていけば、それなりの利回りが得られます。しかし私は著書においてもブログでも、お薦めしたことがありません。その理由は、

1.個別銘柄の信用リスクを個人が判断するのは困難であること。格付け会社に任せるという手はありますが、自分の投資対象の把握を他人にまかせることになる

2.価格の妥当性(=利回りの妥当性)判断をする際、米国債イールドと上乗せスプレッドの二つを判断する必要があり、特にスプレッドの判断は個人には不可能であること

3.日本では国債とスーパーソブリン債以外は、ほとんど手に入らないこと。大手の証券会社の在庫にもほとんどありません。これはアメリカなら事情は違います。

そして最後ですが最も大切なことは、

★★★『流動性がないこと』★★★

  つまり買いたいときに買えず、売りたいときに売れないのです。もちろんものによっては流動性がけっこうあるものもあります。アメリカの例で説明します。

  さきほど公社債の説明で出した住宅ローンの抵当証券を扱うファニーメイとかフレディーマックの発行する債券は、ある程度の流動性もあります。個人でも買えますし、売れます。しかしリーマンショック時、それらの債券は価格が暴落し、流動性を失いました。最終的に破たんはしていません。

  一般的に流動性に欠けるということは、買いたいと言えばプレミアムを要求され、売りたいと言えばディスカウントされる。つまり売買スプレッドが大きくなってしまうことになるのです。もちろん持ちきりを前提にすれば、売りのディスカウントはありません。

  私の著書の最初に、投資で大事なことは1にも2にも「流動性だ」と書いてあります。投資で一番大事なことが、日本では債券でも株式でも無視されています。それこそが、日本の投資界の後進性の証左です。

  例えアメリカ市場においても、国債の流動性に比較するとその他の社債は数十分の一、あるいは数百分の一しか流動性はありません。債券は株と違い、一つの銘柄の発行量は小ぶりで、大きくてもビリオン・ドル、つまり1千億円の単位です。小さいとその10分の1、あるいは100分の1程度ですから、それが既発債として市中で取引される確率は非常に少ないのです。

  例えば巨大会社GEを考えてみましょう。GEの株はどの株も同じで1つの価格しかなく、いつでも売買可能です。しかしGEの社債(ほとんどはかつてのGE Capital 発行)は何百種類もあり、その個別銘柄の価格の妥当性などプロ中のプロにしか判断できません。それに、誰が所有しているかなどの情報は債券専門の証券などが持っていて、ほとんど公開されていませんので、証券会社でも探すのは容易ではありません。

  以上が公社債の投資は個人では非常に困難な理由です。流動性の低さがそのまま売りたいときに売れないというリスクになるのです。

  まとめますと、

「公社債は日本では売っていないし、たとえアメリカでも一部を除き流動性に欠けるので投資すべきでない。」  となります。

  すると公社債への投資は、投資信託で行う以外なくなります。債券投信のお話は次回いたします。

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4 コメント

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ありがとうございます。 (米国在住債券初心者)
2016-01-28 01:04:42
本文にて早速取り上げていただきありがとうございます。
公社債でのもやもやとしていた不安な部分をスパッと斬っていただき、目から鱗の思いです。背景の事情も非常に参考になりました。
まさしく流動性の低さは仰るとおりで、いざ買おうと思ってもBIDとASKの差が大きく、成行ではとんでもない高値で約定してしまうので指値でしか現実的な値段で買えなかったり、最高値でのBIDを入れてる場合でもFINRAのHistorical Chart上ではそれ以下の値段での約定結果が残っているのに自分の注文は約定されなかったり(あくまでそのBID、ASKの値は証券会社提示のものだとはわかってはいるのですが)と、OTC取引ならではなのか株式に比べて不透明な部分が多く、取引のしにくさに辟易した経験があります。
国債でも既発債は動きが鈍いものもあり、先物ではビリオン単位の注文がBID, ASK双方に並んでそれすらも一瞬で消化されていく流動性の高さを見ると羨ましく?なったりもします(ただ先物はストレスフリーとは無縁な気がして買う気にはなれませんが・・・)。

ストレスフリーのベストシナリオとしては金利が高止まりしたところで長期米国債を買って満期まで保有だと思うのですが、現在の利上げ環境においては長期国債に全力投球する気にもなれず、かといって短期の国債ではスズメの涙ほどの利回りで行き詰っている状態です。ドットチャートが右肩上がりのうちは長期国債の購入は待とうと考えていますが、「休むも相場」で妥当な判断なのか、それでも長期国債を積み増していった方がいいのか、またはスズメの涙でも短期国債で時が来るまで運用していく方がいいのかと悩みは尽きません。
返信する
米国在住債券初心者さんへ (林 敬一)
2016-01-28 08:43:41
>公社債でのもやもやとしていた不安な部分をスパッと斬っていただき、目から鱗の思いです。背景の事情も非常に参考になりました。

それはよかったですね。

そして、流動性のなさをすでに実感されていたんですね。
債券と株式の取引は規模と言い形態といい全く別物です。

>国債でも既発債は動きが鈍いものもあり、

そうですね。発行したてのホットな国債は、on the run と言われ、非常に大きな金額が動き、流動性は抜群です。

先物でのビリオン単位と同じような単位でトレードされます。株式の取引金額など債券に比べるとかわいいもんです(笑)。

私は債券の帝王と言われたソロモンにいましたがトレーダーではなく、発行の引き受けを行う資本市場部にいました。個別債券の国債に対するスプレッドを常に見ていましたが、それも取引額の多寡によりけっこう違うのです。個人の取引額だと足元を見られて、ふっかけられますので、有利に買うのは難しいのです。

>「休むも相場」で妥当な判断なのか

低金利の環境がなかなか変化しないので、投資タイミングは難しいですね。こればかりは的確なアドバイスは難しいです。
返信する
Unknown (しま)
2016-01-28 14:06:07
外債ファンドは、たくさん持っている。
米国債も半分くらい入っているので、ファンドでもいいかなと思って。買いやすいし売りやすい。ファンドといっても、結局、債券ETFと実質同じこと。でも、このサイトでは否定されるような予感。ユーロがはいっているからとか、値下がりリスクが大きいとか。
返信する
Unknown (米国在住債券初心者)
2016-01-29 05:22:16
>債券と株式の取引は規模と言い形態といい全く別物です。

債券市場は株式市場の数倍ということで、漠然と厚い流動性をイメージしていたのですが、同じ発行体でも大量の債券がある分、個別債券になるとこんなに流動性が低くなるものかと新鮮な驚きでした。「証券会社が売りたがらない」からなのか、債券の情報はアメリカでも株式に比べて圧倒的に少なく、日本ではさらに一般市民から遠いところにある中で、日本語で詳しく取り上げていただている本ブログは日本人のフィナンシャルリテラシーを高めるための重要な情報資源だと感じています。


>個別債券の国債に対するスプレッドを常に見ていましたが、それも取引額の多寡によりけっこう違うのです。

まさしく疑問に思っていたところで、同じ発行体の似たようなスペック(残存期間、クーポン)でもイールドが異なっていたりと、それが他のリスクが乗っているからなのか、それともマーケットの歪みなのか、単純に発行体の信用スプレッドだけでない部分があるのかなと不思議に思っております。
比較対象は変わりますが、例えばみずほ銀行の社債(CUSIP J45992PU2)は、満期まで5年弱で、昨日時点で2.4%のイールドがついておりますが、同銀行の5年の定期預金では最も利率の高いもの(1000万円以上)でも0.07%と30倍以上の差がついております。債券とは同じように比べられないのかもしれませんが、同じ発行体の信用に基づいて調達している以上、調達金利にここまで差がつくのはなぜだろうかと摩訶不思議です。どちらもみずほ銀行が信用を担保しているので、発行体のクレジットリスクとしては同じスプレッドが乗るべきかと思うのですが、30倍の差は流動性リスクが上乗せされている分なのか、それとも(言い方は悪いですが)フィナンシャルリテラシーのない一般消費者が騙されているだけなのか。仰るとおり「個人には判断が難しい」部分だと思います。
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