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世界に立ち遅れる日本のDX 

2021年03月27日 | ニュース・コメント

  緊急事態宣言が解かれ、聖火リレーも始まりましたね。今回の緊急事態宣言の解除について国民の声は「早すぎ」が多かったようです。世論調査を見てみます。3月13日の毎日新聞と社会調査研究所の調査結果は、以下のとおりでした。

 

「3月21日以降も延長すべきだ」との回答は57%に上った。「21日の期限をもって解除すべきだ」は22%、「ただちに解除すべきだ」は7%だった。

     同時期の他の調査でも、FNNと産経新聞は「21日に解除できないが73.5%と大きくリードしている」と報道していました。結局21日に解除はしたものの、その後の新規感染者数はどんどん増加していて、とても安心できる状態ではありません。

   その中でオリンピックも聖火リレーがスタートして、後戻りはできない状況になっています。無事オリンピックを迎えるにはワクチン接種を少なくとも人口の6~7割方済ませるべきでしょうが、とてもそこまでは至らないでしょう。アメリカはバイデン大統領のコミットメントである「就任100日までに1億人」が、今では「2億人」と豪語するまでに至っています。ワクチン担当の河野君、大丈夫でしょうか?

 

  ところでコロナ対策のため厚労省が鳴り物入りで昨年6月から運用を開始した感染者接触確認アプリのCOCOA、みなさんは登録されましたか。世界に範を示した台湾のコロナ対策を模したもので、日本では2,400万人が登録したということですが、その運用はお粗末そのものでした。

  そもそもこれは、スマホにみんながCOCOAというアプリを登録して、その中から感染者が出た場合、感染者の近くにいた可能性のある人に警告が来るという優れたシステムのはずでした。しかし運用が始まって8か月も経過した今年2月になって、「ごめんなさい。去年の9月以降システムが動いていませんでした」と、笑い話のようなお知らせが来たのです。それまで動いていないことを誰も気が付かなかったとは、なんというお粗末でしょう。しかし実は今の日本では同様なことがあちこちで起こっています。コロナ感染の混乱に拍車を掛けたのが、保健所業務がいまだにファックスで行っているという、これまた笑い話がありました。

  そしてマイナンバーカードを健康保険証として使用できるようにする件も同様です。3月25日のNHKニュースを引用します。

 引用

マイナンバーカードの健康保険証としての利用について先行して運用が始まった一部の医療機関で患者の情報が確認できないなどのトラブルが相次ぎ、今月末から予定されていた全国での本格運用が先送りされることになりました。厚生労働省は、遅くともことし10月までには、本格運用を始めたい考えです。

  しかし、先行して運用を始めた一部の医療機関で「保険資格の情報が登録されていない」と表示されたり、健康保険証に記載された情報と一致しなかったりして患者の情報が確認できないトラブルが相次いでいることが分かりました。このため厚生労働省は、今月末からの本格運用を先送りすることにしました。
引用終わり

  さらにデジタル化により防げるみっともない誤りが先週末に指摘されました。それは今国会に提出された70本の法律に20件あまりの間違いがみつかったというお粗末な事態です。あらゆる省庁にまたがりますが、作成は各省庁ですが、国会でもチェックが行われるため、官僚だけの問題ではありません。このお粗末な事態を見ると、日本は本当に文明国なのか、疑いを抱かざるを得ません。デジタル化を本格的に推し進めれば、当然簡単に防げるものがほとんどです。

   こうしたことは官庁だけでなく、民間でも同じようにトラブルが続いています。昨年10月1日に東京証券取引所で起きたトラブルでは、東証上場全銘柄の取引が終日停止されました。資本主義の文明国ではありえない事態でした。他にもみずほ銀行はたびたび大規模なシステム障害を起こしています。3月17日の日経新聞を引用します。

引用

みずほ銀行でシステム障害が相次いでいる。2週間で4回だ。過去に2度の大規模障害を引き起こし、それらを教訓に情報システムの全面再構築を断行。トラブルと決別したはずだった。にもかかわらずATM障害やハード障害などが連発している。

引用終わり

  こうしたお粗末なトラブルの原因は、役所や取引所、銀行などの運用当事者の責任だけではありません。そのシステムを作り運用しているほんの数社の巨大システム・プロバイダーの責任でもあります。あえて名前を上げれば上記の例の筆頭格は富士通、そしてNTTデータ、日本IBMなどです。彼らに共通しているのは、かつて巨大なメインフレーム・コンピュータのメーカーとして君臨し、それで動くシステムを作り、その運用を後々まで請け負うというビジネスモデルを有していたことです。使用者側の役所や企業も、自分たちの仕事内容やデータを彼らが熟知しているし、システム運用を独占的に長年任せきりにしていたため、実は世界の潮流に乗り遅れました。まあそれでも90年代まではそれでよかったのですが、2000年代になったとたんメインフレームの世界がサーバーによる分散処理の時代になっていたのにそれに出遅れ、さらに近年クラウドの世界に移った時にはじめて自分たちはまだガラパゴスで生きていることを知り、取り返しのつかない遅れとなってしまいました。その上今後はすべての分野でAI化が世界的に進展しつつあります。

 

  菅政権は経済成長の目玉に「デジタル・トランスフォーメーション=DX」を掲げていて、デジタル庁を今年の秋に新設する予定です。しかしこうしたトラブルが続いていては、

いったい日本のDXってなんなんだと思わざるをえません。日本経済の成長ドライブにするはずが、逆に足を引っ張る一方です。先進国とはとても思えないデジタルオンチぶりです。

  ではそもそもDXとは何か、Wikipediaを引用します。

引用

「デジタル・トランスフォーメーション(Digital transformation; DT or DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。デジタルシフトも同様の意味である。2004スウェーデンウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされる。ビジネス用語としては定義・解釈が多義的ではあるものの、おおむね「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。」

ただし、DXが及ぼすのは単なる「変革」ではなく、デジタル技術による破壊的な変革を意味する「デジタル・ディスラプション」。すなわち、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものだと解釈されています。

引用終わり

  特に日本のお役所は世界の一般的先進国から見たら、ガラパゴス島だけに生息している忘れ去られた生物としか見えません。官邸や官庁で大きなスキャンダルが起こるたびにそれを実感させられます。いつも出てくる言い訳が、「廃棄処分しました」だからです。プリントした紙の書類だけに頼り、ハンコが付いていなければ正式に認めない。しかし都合が悪くなるとすぐに廃棄処分する。彼らは実は証拠隠滅のためにDXを意図的に遅らせているとしか思えません。安倍政権時代のモリカケを巡る文科省しかり、その前の防衛省しかり、最近の総務省問題も同じです。紙しかないという言い訳で黒塗りにし、シュレッダーにかけ、「記憶にございません」の決まり文句を繰り返す。記録をデジタル化すればビルいっぱいの文書だってポケットに入れられるサイズに収まるので、文書規定で「保管期間3年」などと規定せず、すべて永久保存できるハズです。

  スキャンダルはそれだけにとどまりません。例えばかんぽ生命と日本郵政グループは、例の保険営業の詐欺事件で、今週新たに処分者を1,300人も出し、合計3,000人を処分しました。もし営業報告や契約書などがコンピューターで一元管理されていたら、加入、解約、再加入を繰り返す回転営業など簡単に洗い出し、ウォーニングを出し、一網打尽にできたはずです。

  この恐ろしいほどのデジタルオンチ、いったい誰が本気で改革するのでしょう。日本の経済成長停滞の大きな原因の一つが低生産性にあります。DXの推進はその打開のカギを握っています。そして今後のさらに大きな課題は、国防上のデジタル防衛戦を対等に戦えるかです。いま世界のならず者国家からやりたい放題にやられているハッキングを防衛し、安全を確保しなければ、おちおち眠れなくなります。

  親子三代、根っからの政治家、デジタル相の平井君、はたして官邸や省庁の厚い壁を崩せるのでしょうか。

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