赤いハンカチ

夏草やつわものどもが夢のあと

▼吾輩は野良である

2024年03月05日 | ■かもめ文庫

以下もまた、だいぶ昔の記事で申し訳ないが・・・

 

二歳下と四歳下の弟がいる。九歳下に妹が一人いたが三年前にガンを患って亡くした。写真左がやや肥り気味の我輩で先ほど野良専門のカメラマンに写してもらったばかりだ。右が生前の妹である。ごらんのように色白の美形であった。享年四六だった。すぐ下の弟は高卒後東京に出て働きながら夜間大学に通った。しっかり者でかつ働き者である。自慢の弟である。

その下の弟は高卒後アングラ系の演劇活動に入った。舞台をつくるなら彼にまかせておけば間違いない。役者が足りないときは舞台にも立つ。彼も我輩に似てずいぶん世間を狭くした変わり者である。親類縁者からは我輩同様の鼻つまみものだ。だが根性は人一倍でなみなみならない。現在はアパートの片隅の便所のとなりの格安四畳半にて一世一代の長編小説を書いていると人づてに聞く。しばらく音沙汰もないので、この正月を無事越すことができたかどうか。この寒空に餅の一つも食えないまま腹をすかせてコタツの中でくたばっているのではないかと案ぜられてならないのである。電話したくても電話がない。

さても、この間、妹のために何もできなかった我が身を深く悔い、ほとんど食うや食わずで部屋に閉じこもって喪に服していたのである。気がつけば、はや三年が過ぎていた。我輩もすでに老骨の身なれども、もう一度気合と鞭を入れなおすためにも外気を存分に吸ってみたくなり、こうして三年ぶりに界隈路地裏をへめぐっているところである。それにしても運動不足がたたって足がふらふらする。我輩も当年とって数え六十とあいなった。おお、今朝は朝日が全身にふりそそいでくる。お天道様も我輩の門出を祝ってくれているかのようだ。されば心も晴れ晴れ意気揚々たる気分なり。

<2007.01.04 記>

 

 


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