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TVで、課外授業・ようこそ先輩 「指揮者・小林研一郎」という番組を観た。小林さんは小学生のころ、ラジオでベートーベンの「運命」を聞き、作曲家になろうと思ったのだそうだ。 そのときは何の曲かは知らなかった。聞いたこともない曲に驚嘆したのだ。びっくりするばかりだった。そして全身が打ちのめされて、その場に、へたりこんでしまった。涙がぽろぽろ流れてくるのであった。曲が終わるころには、もう心は決まっていた。自分もこのような音楽を作りたいと思った。作曲家という者になることを心に決めた。 私も音楽は好きだが、小林研一郎さんがベートォベンの「運命」と出会ったときのような衝撃的な経験はない。でも、分かりそうな気もする。いや、とてもよく分かる。似たようなことが書かれてあった文章を思い出し、本を開いてみた。
もう20年も昔の事・・・・僕の乱脈な放浪時代のある冬の夜。大阪の道頓堀をうろついていた時、突然、モオツァルトのト短調シンフォニイの有名なテエマが頭の中で鳴ったのである。街の雑踏の中を歩く、静まり返った僕のあまたの中で誰かがはっきりと演奏したように鳴った・・・僕は脳味噌に手術を受けたように驚き、感動でふるえた。百貨店に駆け込みレコードを聞いたが、もはや感動は戻ってこなかった。
小林秀雄「モオツァルト」より