赤いハンカチ

てぇへんだ てぇへんだ この秋はスズメがいねぇトンボもいねぇ・・・何か変だよ

▼「クワガタ虫考」 祝鶏翁

2005年07月10日 | ■芸能的なあまりに芸能的な弁証法

クワガタムシ---掌編『鬼虫とりの日々』を読んで 祝鶏翁 投稿日:7月10日(日)

かもめさんの掌編「落葉の朝に」読ませて貰いました。

あなたもこれだけは愛着がお有りになると言っていました。私的には「落葉の朝に」より正しく掌編の「鬼虫とりの日々」のほうがどちらかと言うと印象に残りました。作者にしても書名にもしているのですから思いが無いわけでは無いのかと。その前にクワガタムシの方言について。

鬼虫というのはクワガタムシ総称の方言で、北海道・岩手・山形・宮城・福島・栃木・群馬・新潟・長野・三重・大阪・兵庫・岡山・広島・鳥取・香川・愛媛・大分に分布していると記録にはありますがどちらかと言うと東北・関東系の方言です。私らオニムシとクワガタムシを呼んだ記憶がありません。たぶん、この辺では、もっと古い世代か局地的に点々と隠れるように分布しているのかと。西日本系の主流方言は角虫(ツノムシ)ですね。しかしこれも若い世代では殆ど消えているのではないでしょうか。

クワガタムシの方言として面白いのは武士の名をつけたものが相当あることです。形状からして尤もなことではありますが。カジワラ;栃木・千葉・長野・山梨・兵庫。兵庫だけぴょんと飛んでますが、もちろん梶原景時は播磨と縁があるからでしょう。

ウエスギ:群馬県碓氷郡
カトウ:群馬・新潟・長野
タケダ:栃木・群馬・島根
クマガイ:栃木・群馬   クマガイがあるのなら一の谷の戦いのアツモリがあってもよさそう。あるのかも。植物では、クマガイソウとアツモリソウがありますね。次のそうなペアも。
ヨシツネ:栃木・長野・岐阜
ベンケイ:群馬・栃木 ここまで来ると次のようなのも。
ゲンジ:愛知・岐阜・三重・滋賀・京都・奈良・大阪・兵庫・岡山・広島・山口・徳島
ヘイケ:愛知・三重・滋賀・京都・大阪・兵庫・山口
ニッタ(ヒラタクワガタのみ):岐阜県不破郡

角のある動物から

スイギュウ:神奈川・長野・京都・福岡・宮崎
ウシ:愛知・島根
シカ:兵庫県姫路市
ベゴムシ:青森県南部地方

よく意味がわからないもの

ジョレン:長野県北佐久郡   農機具のこと?
ガンガリ:三重県度会郡
ハッソン:兵庫県明石市
ガンニョ:熊本県熊本市
ヤニヤ:山梨県甲府市
ガンジャ:埼玉県深谷市
ワングリ:群馬県吾妻郡
イタッペラ:群馬県富岡市

植物名から

サイカチ:千葉・埼玉・神奈川・大阪
セーカチ:千葉・埼玉・神奈川

その他

ダイコクサン:熊本県玉名郡
ハセングワ:沖縄県那覇市

また昔はクワガタムシのことをカブトムシと言ったり、カブトムシのことをクワガタムシと言ったりしていたところも。なお、クワガタムシ方言の唯一の纏った文献は加納康嗣の自刊本『鍬形虫考-げんじの方言をさぐる-』(1978)。

さて、「鬼虫とりの日々」。これも私小説の匂いがします。作者が小学校4年生ぐらいのときの体験に取材しているようですね。精神病の父、祖父と母の諍いと家庭は暗いが「禁じられた細い畦」を渡ると子供の世界が開ける。なにかと注文が多いガキ大将みたいな子もいるが、夏の太陽にキラキラ照らされた家とは別世界の思い出が広がります。昔の子どもなら誰でも体験したような思い出。この鬼虫とりがあるから家庭のごたごたは遠景に追いやられ爽やかささえ醸し出しているようです。逆に言えば家庭の問題を忘れさせる鬼虫とりの日々であったのかなと。

祝鶏翁さん、この暑さの中、私の小品をほめていただき、うれしくなって穴があったら入りたい気持ちです。ありがたき幸せです。それから車谷長吉氏のなんとかの匙という作品は読んだことがありまして、その作風には、大いに同感はしたのですが、気持ちの底から好きはなったかと言うと、そうでもないというのが本音です。いささか陰気だったような感じがしました。だが、こうした直観的な感想も、おそらく私の読みが浅いせいでしょう。昔のことです。私の読みが足りなかったのかも知れません。

 

https://blog.goo.ne.jp/kakattekonnkai_2006/c/1c0da26c62e3501fe9b71cba4f8c1469

 

 

 

 

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『鬼虫とりの日々』 (今井政幸)
2019-01-30 19:13:04
「鬼虫とりの日々」 塚原由紀夫 短編小説集 (ばるん舎刊、定価1,000円)

「鬼虫」とはクワガタムシのことである。なかでもミヤマクワガタは現在でも大変珍しく貴重なものであるが、作中に描かれた少年たちの時代(一九五〇年代)にも大変な宝物であった。そのクワガタムシをめぐる少年たちの一夏のエピソードを描いている。当時としてもけっして恵まれていない、というよりもかなり悲惨ともいえる境遇なのだが、その状況がたんたと語られながら、少年たちの意気揚々とした明るさ、冒険心がみずみずしく描かれ、読後感はさわやかである。二作目は中編「こめかみに穿たれた二つのホールからの報告」。一作目とも重なる主人公のその後が、もっと文学的に複雑な構成で描かれる。仕事中に過労死ともいえる突然死した主人公の残された手記と、主人公の高校以来の友人である「ぼく」が語る、主人公についての思い出、エピソードが交互に語られて、小説は進行する。「<二つのホール>とは、今年六十歳になる彼の父親が二十六年前、措置入院されていた精神病院で受けた前頭葉白質切載手術いわゆるロボトミー手術の、今日まで明晰な痕跡のこと」であるという。主人公関谷の手記はこのロボトミー手術から書き出される。「『破戒』の主人公のように決っして口外してはならぬ秘事」と感じていた関谷の高校時代のエピソード。それらのどちらかといえば暗いエピソードの数々が、文学的にはむしろ昇華され、事実が事実として見据えられ乗り越えられている。このあたりが、この小説が文学作品として成功している理由だろう。他に、女性活動家との二十年後の再会を描いて感動的な「落葉の朝に」、ついに自殺にまで追い込まれずにいられなかった母子家庭の悲惨を描く「初冬の暗黒」、不登校の少年テツヤを描いた好短編「空中サーカスのピエロたち」を含む全六編の短編集。
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Unknown (プライン)
2024-01-08 19:52:01
はっそんの語源を知りたくて辿り着きました。兵庫県小野市ではクワガタ虫のことをはっそんと呼んでしました。
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