朝晩もだいぶ暖かくなってきた。今日は、メイルを二通書いたほかは、サティのピアノ曲を一日中繰り返し聞いて過ごした。夕方、カメラをぶら下げて買い物に出たら、一月ほど前から往来で会えば挨拶を交わすようになっていた「新聞勧誘員」に出くわした。私の顔を見るなり破顔一笑で、挨拶もする前から自転車を止め、ポケットからビール券を出して、それを振りかざしながら「だんな、だんな」と大きな声で呼び止めてくるのだ。これにはまいる。買い物に出るときは、よほど注意して、彼がいない道を選んで歩かないと、この災難からはしばらく逃れることもできそうにない。だが、ここは辛抱が肝心だ。最初に出会った時、いい気になって話したことが災いのもとだった。そのときも夕方だった。私がぶら下げている買い物袋の中に、ひときわ大きな焼酎4リッターのペットボトルが入っていたことを彼は見逃さなかった。「だんなも酒好きだね」とにやにやしながら、そう言うと、すかさずポケットからビール券を出してきたのである。こうして、すっかり弱みを握られて以来、夢の中にまでビール券が追いかけてきて、「新聞を読め」と責めるのである。
「ハナモモ」と言うのだそうだ。散歩途中で、あまりににぎやかな桃の木をしばらく見とれていたら、その家の方が出てきて、教えてくれた。一本の木に、白から紅まで何色もの階調が揃って咲いている。やがて小さな実がなり、それが周囲に「ぼたぼた」落ちて、いくらでも芽が出てくると言う。