赤いハンカチ

夏草やつわものどもが夢のあと

▼「音楽について」 小林秀雄

2006年09月11日 | ■芸能的なあまりに芸能的な弁証法


二ヶ月ほど前に地域図書館に借り出しを予約しておいたCDが、やっと貸し出せるとのメールが届いていた。小林秀雄が「音楽について」あれこれ話をしている肉声が録音されているものである。数年前に市販されたもので図書館でも予約が殺到しているらしく、なかなか順番が回ってこなかった。

この録音は、昭和42年に時代小説作家の五味康祐氏が音楽雑誌のために、小林宅を訪れて、音楽について対談した。そのときの録音でした。対談は、すでに全集にも収録されており、活字化されたものが読むことができるのです。CDは、このうち、小林秀雄の談話だけが採録され、五味氏の声はまったく入っておりません。小林の談話の間あいだに、小林が話題に上せている音楽の演奏がはさまっています。二枚組みです。

当時、五味氏は、ステレオ評論家としても、よく知られており、オーディをに関する本なども出していたように思います。

 


「オーディオ巡礼」五味康祐著 1980年初版 SS選書



この時の五味、小林の対談は、わたしも以前、活字で読んだことがありまして、面白くよんだのですが、やはり活字は活字です。

実際の小林の声を目の当たりにして、驚きました。独断と偏見もよいところ。五味氏など、目の前にいるのかいないのか、己の独断を、講談師のように、まくし立てる。例によって酒が入っていたのかもしれません。つい最近、脳科学者の茂木健一郎氏が、当の「音楽について」をはじめ、何点か市販されている小林の講演CDを聞き、まるで落語の志生のようだと思ったそうですが、同感です。この小林の講演に触れ、小林秀雄論を書き、その本が何かの文学賞をいただいたとか。

わたしも講演CDがすべて聴きましたが、茂木氏にまったく同感です。まるで志ん生です。なかでも音楽については、その特徴が前面に出てきている。五味氏など、君呼ばわりで、眼中にないのです。以下、フィクションにて、まじめに読まないように。

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音楽は録音がどうした、ステレオがどうしたかなんて、まったく関係ないのですよ。記憶ですよ。最近のステレオ屋は、音楽を知らないよ。間違っている。全然違いますよ。

君は、あれを聞いたかね。シベリウスを。シベリウスはいいよ~。絶品だよ。

シューマンはいいね~。傷ついた男だからね~。わたしがドイツに行ったときライン河のよこのアウトバーンをベンツに乗って、だっーと行くだろ。そういう時だね。ライン河の水面にはっきりとシューマンの姿が出てきますよ。あれはシューマンですよ。間違いありませんよ。シューマンの音楽はあそこにあるんですよ。

ところで、君はブラームスは好きかね。最近ぼくは、本居宣長を書いているけどね。書きながら聞く音楽はブラームスがあっているね。年をとればブラームスです。ブラームスはセンチメンタルだなんて、よく言われるが、そんなのは俗論だ。あれだけの楽曲を作った男が、センチメンタルだけじゃないだろう。大変なものですよ。人には知れないブラームスなりの苦労というものがあるんですよ。

シューベルトの未完成は、なんともいえないね。シューベルトの場合も、歌曲より器楽がいいですよ。僕は器楽がすきなんだな。子どもの頃から好きだった。未完成はねぇ。あれしかない、というものを持っているね。

そうだ、あれを、君は聴いたかい・・・・あれだよ、あれ。
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コメント
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