くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「平等ゲーム」桂 望美

2009-03-06 05:14:16 | 文芸・エンターテイメント
桂望美「平等ゲーム」(幻冬舎)をやっと読みました。発売から読みたくてならなかったのです。前作「女たちのセルフウォーズ」が桂さんにしては不完全燃焼気味だったのでちょっと心配だったのですが、これはいいですよ。ラストがわたし好みではないのですが、そこにいたるまでの葛藤は納得できます。
考えてみると、桂さんの小説はいつも「成長」をテーマにしていますよね。「県庁の星」「Lady、Go!」等、無知であることに無自覚だった主人公が魅力的に成長する。今回もその王道をいく作品でした。
「僕」こと芦田耕太郎は、四年に一度行われる職業の抽選で移住を勧誘する係になります。
今の文、ひっかかりますよね。彼は生まれたときから三十年、瀬戸内海に浮かぶ鷹の島で生活してきました。2008年に理想郷を造ろうと考えた三組の夫婦が移住して、誰もが「平等」である社会を目指した島なのだそうです。(だから、実は近未来が舞台なのですね。でも別にあんまり気にしなくて大丈夫。)
そのため、職業は抽選でふりわけられ、四年間従事することになります。耕太郎は島のセールスポイントを一生懸命説明するのですが、そこで「本土」の人たちと触れ合ううちに今までとは違った視点に気づいていくのです。
「平等」を求めているのではなく、自分こそが輝きたいという女性の考えは、耕太郎には思考の範疇にないものなんですね。
社会科学を研究している田中先生は、鷹の島の女性にはそういう考えを持っている人もいるけれど、男性には少ないと言っていました。確かに彼の姉にしても恋人だった礼子にしても、自分の夢を叶えるために島を出て行きます。しかし、志破れて島に帰りたいと願う。
耕太郎は新しく島に迎え入れてもよいと思われる人物を勧誘するのですが、島の人口は決まっていて、何らかの事情で誰かが出て行かないと入ることはできないのです。でも、結構次々と仕事があるところをみると、島から出ていく人は耕太郎が思っているより多いのかもしれません。
趣味で描いている絵が認められていくうちに、耕太郎は今まで知らなかった感情に気づいていきます。彼はその思いに名前をつけることができません。欲とか嫉妬とか島にいるうちには無縁のものだったのですね。
しかし、彼は無意識なのでしょうが、幼なじみの恭士は楽に仕事をしたいと思っていると考えるシーンがあります。自分より彼を目下に思い始めるということは、耕太郎が平等という意識とは異なる考えを持ったということではないでしょうか。
耕太郎自身は自分の変化を歓迎できません。その反動か、島の欠点が目に映るようになります。それは「平等」をモットーとする鷹の島には相応しくない。それならもともとの理想のかたちに近づけさせたいと提案しますが、島の人たちには受け入れられません。
彼の頭にあるのは完全なるユートピアなのですが、そのことを相談した柴田さんにまでそんな生活では息苦しいのではないかと諭されます。
でも結局柴田さんは耕太郎に自分の理想郷を造ってみてはどうかとすすめるのです。
もしかするとそれはユートピア建設に限らず、無謀と思えることでも挑戦してみろという励ましなのかも。無人島に新しく生活基盤を作るつもりなら、大概のことはやれそうですもの。
でも、タイトルや塾講師の拓の言葉から考えると(200ページです)、額面通りの意味なのでしょうけどね……。
耕太郎に気概を持つように言ってくれる柴田さんは本当にいい人です。桂さんの話には、主人公を支えてくれる存在が不可欠だと思います。彼らを成長させるのは、そんな魅力的な人たちの力なのかもしれません。

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1 コメント

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Unknown (ミリオン)
2024-06-12 19:26:51
こんばんは。
嬉しいです。頑張って下さい。今日の朝は、「虎に翼」の第53回を見ました。
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