くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

2012年ベスト

2012-12-31 10:21:17 | 〈企画〉
 なんだか今年は本腰入れてじっくり読むことがあまりできなかったような気がします。百七十冊くらいしか読まなかった。まんがは結構読んでましたが。ベスト作品も、ずっと考えていたんですが、ランキングできません。とりあえず十冊。でも、どれもおもしろかった。

 A 「三匹のおっさん ふたたび」 有川 浩
 B 「逆転発想の勝利学」 眞鍋政義 
 C 「今日のごちそう」 橋本 紡
 D 「モノレールねこ」 加納朋子
 E 「クローバーレイン」 大崎 梢
 F 「地獄堂霊界通信」 香月日輪
 G 「旦那さんはアスペルガー」 野波ツナ
 H 「無花果の実のなるころに」 西條奈加 
 I 「いちばん受けたい授業」
 J 「ビブリア古書店の事件手帖3」 
 
 今年は加納朋子さんにはまって、全作品を読もう、と気合いが入りました。まだ読んでない本も買ってはあります。既刊少ないと思っていたら、白血病の闘病記まで出てびっくり。「モノレールねこ」は、どの作品も粒よりで挿絵も素敵です。
 同じように橋本さんを読もうと思っていたけど、「葉桜」を結局読み切れなかったのです。短編の方が好きなんでしょうね。「石段」という作品もものすごくよかった。
 有川さんの本もおもしろく読みました。もともと「三匹」は好きなシリーズなんですが、家族としての奥行きがとてもよかった。やっぱり須藤さんの絵は素敵すぎるー。「空飛ぶ広報室」もよかった。
 大崎さんの編集部ものも毎回いいですよね。今回はヒロインがしろつめくさによせる思いが特に好き。
 「地獄堂」はシーズン1をものすごい勢いで読んだんですが、その後停滞しております。読み始めれば早いんだが。「無花果」は少年のナイーブさとかおいしそうな食事とか、すごい好みなんですが、西條さんはあとは時代ものしか書かないんでしょうか。「ビブリア」に出てきた短編を、すぐ読めたのは感激でした。前にも一度読んだはずなんですが、ナビゲートしてもらうのもおもしろいですね。
 オリンピック銅メダル効果で、眞鍋さんの本が読めたのも嬉しい。前向きに考えていく姿勢、見習わねば! と思いました。
 あとはどうしても仕事関係になりますが、いろいろな先生方の授業をとりあげた本、すごくおもしろくて、この前やっと発見して買いました。借りたときは国語しか読まなかったので、他の教科も読もうかな。
 そして、ある意味わたしの周囲ではいちばん読まれた「旦那さんはアスペルガー」。特別支援担当、彼女の旦那さん、別の同僚、さらにうちの夫。三冊ともじっくり読みました。自分の中にもそういう傾向はあるかも、とか、どうすればもう少し環境調整できるのか等、いろんなヒントを与えてもらったと思います。ツナさんが、また生まれ変わってもアキラさんと結婚したいと語るラスト、素晴らしい。
 今年もお世話になりました。それでは、よいお年を。
 



 

「外科医東盛玲の所見」池田さとみ

2012-12-30 21:49:52 | コミック
 暮れも押し迫った12月30日、午後の時間帯が許す限り読みふけってしまいました。池田さとみ「外科医東盛玲の所見」。宙出版版11冊、朝日新聞社出版版10冊です。本を整理しようと思っていたのに、つい読んでしまうのです。ちなみに午前中は「図書館の主」と「柳沢教授」を……。
 小学生の頃から池田さんが好きで、たいがいは読んでいるんですけど、このシリーズも長いですよね。もう二十年くらい続いているような。
 途中でアイデアの源が感じられる作品もあります。「パラサイト」は瀬名秀明さんのデビュー頃じゃないでしょうか。年に一度島の洞窟で行われる「霊降り」の儀式。宿主となるのは女性。島の人々はそこに寄生するきのこしか食べられなくなっています。島の医師氏部桂は、妻のあずさを宿主にしたくはないと、父の遺言を伝えにきた看護師の槙原をさらいますが……。
 全体を通して、この作品がいちばん好きです。あずさの想いが胸を打ちます。長く生きるとはどういうことなのか。閉塞感と孤独。生きているはずなのに、もう死んでいるようにすら感じられる。人間としての生命ではないことに彼女は感づいてはいるのです。しかし、そなしがらみを断ち切れない。
 長く生きるといえば、吸血鬼とも評される布川ですかね。最新の単行本にも
出ていました。彼が呪いをかけた薔薇の花びら。母と口論をしたまま亡くなる少年の話も切ない。
 あと好きなのは、「辻切り」「オリオン」「レジェンド」。人魚伝説には興味あります。
 「新」の方では「彼岸の旅」「心残り」ですかね。あ、MBPをテーマにした「Mother」もよかった。
 始めから順番に読んだのではないため、いろいろ記憶が入り混じっている感じですが、東盛先生の若い頃(いや、まだ今も若いんでしょうが)の話が特に好き。高校時代の友人根本と玄篠が出てくると嬉しい。それにしても、「玄篠」って名前なんですね。今まで苗字だと思っていました。お母さんに「玄篠」ってよばれているのです。ちなみに苗字は「坂上」です。あとね、槙原の名前。「りりこ」なんですが、「莉梨子」と「莉利子」があるんですが、どっち?
 ふと気づいたら、夫も読んでいました。年末に「外科医東盛玲」を読む夫婦。どうでしょう。 

「本屋さんで待ち合わせ」三浦しをん

2012-12-28 21:48:56 | 書評・ブックガイド
 御用納めの日に日直。明日からは少し休めるので、図書館に寄って帰りました。
 カウンターに三冊持って行ったら、借りたままの本があるとのこと。そうでした……。この本を読みかけだったのですよ。しまった。あと二十ページくらい残っていたのに、他の本を読んだりしていた。
 でも、とりあえず二冊借りたので、まずは萩尾望都「なのはな」(小学館)を読みました。この美しい装丁! カバーも扉も後ろの見返しも、少しずつ呼応していて。この作品自体が、放射線を浄化しようという萩尾さんの思いそのものなのではないかと感じました。
 「プルート夫人」「雨の夜-ウラノス伯爵ー」「サロメ20××」は、三部作とあっていずれも同工異曲なのですが、なんというか、これを描かずにはいられない萩尾さんの悔恨というか苦痛というか、そういった混沌としたものが強く感じられる作品だと思います。
 チェルノブイリ事故があったとき、主人公ナホ(菜穂?)の母親は仙台の大学に通っていたそうです。二十六年前。
 そのとき自分は何をしていただろう。チェルノブイリをテーマにした作品が課題図書になったときに、放射能の影響のないところでしばらく過ごすことが、当地の少年にとっては必要だと読んだように思います。まさか、数年後に自分たちもその危機にさらされるなんて、ね。
 で、大分浸ったあとに一気に読みました。三浦しをん「本屋さんで待ちあわせ」(大和書房)。「お友だちからお願いします」と斜交いの位置、ほんの少しあとにこの表紙はあるのかしらと考えてしまいました。スカイエマさん、いいですよね。
 三浦さんが主に読売新聞に書いた読書エッセイをまとめた、といえばいいのかな。
 わたしは読売の読書欄が好きだったので、にたにたしながら読みましたよ。最近、毎日新聞の書評を集めた本を買うかどうか悩みましたが、これが読売だったら買ったのに。
 しかし、このところ、読書エッセイを読みすぎたためか、どの話を読みたいと思うのか記憶していられなくなったように感じるのです。
 とりあえず三田完はおもしろそうなんですが。「読まずにわかる、東海道四谷怪談」もすてがたい。
 なんか、今もうすごく眠いので今日はこれまで。もう寝ます。

「梅酒」幸田真希

2012-12-26 21:14:39 | コミック
 免許更新してきました。昨夜からの雪で道路はつるんつるん。免許センターまで一時間半かかりましたよ……。受付に間に合わないかと思った。でも、それでも三番めだって。
 帰りに本屋で発見して、つい買ってしまったのが幸田真希「梅酒」(マッグガーデン)です。聞いたことのない出版社でしたが……。なんとなくたたずまいがよかったので。
 表題作の「梅酒」がよかった。光太郎の詩が効いています。両親が海外に赴任しており、姉はほとんど帰ってこない。なんとなく夜の街に佇んでいた高校生の「ゆえ」は、古畑という男性に声をかけられます。
 二人は「智恵子抄」の「梅酒」という詩を挟んで話をしたりご飯を食べたりするんですが、なんというか、こういう詩に目を留める感性が素敵だと感じました。
 わたしも「智恵子抄」はひととおり読んではいるんですが、この部分だけ聞いてすっと思い出せるほど読み込んではいないな、と。どちらかというと、智恵子が生きているときの詩の方が目につきやすい。「人へ」とか「おそれ」とか。あとは「山麓の二人」あたり。「レモン哀歌」を取り上げるときに紹介します。死後の詩というのは、なかなか難しいのです。高村山荘が近いから「案内」は話しますが。
 これはちょっと読み直そうかなと、本棚から詩集を出してみました。(さすがに手に届く場所に置いてはあります。智恵子の生家で買ったやつ)
 うーん、なんというか。
 この詩を、ああいうふうに埋め込むセンス。そして、まんがを読んだあとに改めて光太郎の詩を感じさせる何かが、ものすごい力で迫ってきます。
 ゆえは古畑さんに、何を求めているのか自分でもわからない。けれど、得がたい何かが、確かにある。智恵子と光太郎が「どこにでもいる幸せな夫婦だったら、この詩は生まれることはなくて」「ずっと後に新しい出会いを生むことがある」と感じ取るその繊細さ。それを肯定してくれる存在があるということ。この温かな場所が、彼女にとって大切だったのだと思います。
 わたしは光太郎の愛情をストレートに賛美はできませんが、詩に介在される出会いの愛おしさに心打たれます。小学生のときに「あどけない話」を紹介してくれた先生のこと、詩を読んでいると思い出しますね。
 あとはちょっとスラプスティックな「家族には秘密がある」と、ちょうど今時分の時期がテーマの「blesssing20XX」がおもしろかった。いろんな引き出しを開けて見せてもらった感じ。
 

「ヒトリシズカ」誉田哲也

2012-12-25 05:41:19 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 これも「一個人」の特集を見て読んでみた本。誉田哲也「ヒトリシズカ」(双葉社)。
 事件に関与しながらも逃亡を続ける中学生伊東静加。警察官の娘でありながら、暴力の気配のある場所に現れる彼女は、何を考えているのか。
 どうも映像化するようですね。中学生なのに大人の女にも見えてしまう、血縁を知りながらも野心のために手段を選ばない。しかし、最後に静加が選ぶのは、妹の幸せであるところに、彼女の孤独さが浮き上がる。「ヒトリシズカ」、確かにそうなのです。
 タイトルを考えるのに苦心したと誉田さんは言います。「死舞盃」の意味に気づいたとき、愕然としました。
 娘がいなくなり、伊東は旧知の間柄の探偵青木に捜査を依頼します。彼は静加の情報をネットにアップしますが、母親を探すチンピラがその写真を見てコンビニで働く女だと気づいしまう。偽名を使い、年齢をごまかし、都合の悪いことには犯罪も辞さない。青木は静加に陥れられます。一人称で書かれた最後の行「静加。やはり、生きていたのかー」
 これがうまい。そこでぷつんと途切れるのですよね、彼の人生は。
 クリスマスに読む本としてはどうかと思わないでもないですが、つい夢中で読んでしまいました。
  

「伊達政宗」コミック版日本の歴史

2012-12-24 10:10:22 | 歴史・地理・伝記
 息子が冬休みには二冊本を読むといって、借りてきたのがこれ。コミック版日本の歴史「伊達政宗」(ポプラ社)。なんとなーく読んでみたら、ををっ、これは懐かしの「独眼竜政宗」を思い出させるではないですかっ。高校時代にはまり込んで見ていたので、様々なエピソードが記憶のツボを刺激しまくりです。義姫=お東の方=保春院。岩下志麻が美しかった。小十郎は西郷輝彦さま(と今でもつけずにはいられないほど格好いい)。小十郎が連れて帰った和賀の娘はその後どうなったのだろうとか、語り出すときりがないほどです。
 わたしの実家は葛西の家臣だったため、木村親子の籠城する城を攻めた話はよく耳にしてきました。こういうことだったのだな、と日本史の大きいうねりが見えたように思います。同時に、歴史というものは中央だけのものではないことも。
 この本、企画・構成・監修:加来耕三、原作:すぎたとおる、作画:瀧玲子となっております。巻末に解説として加来さんの文章が載っているんですが、全く意識していなかったのでびっくり。加来耕三って、こう書くのかー。実は「さむらいヒストリアス」が好きなんです。めったに聞けませんけどね。エンディングの歌も好きなんで、文章読みながらずっと頭の中で曲が流れていました。アシスタントの清田愛未さんの歌なんですね。字がわかったので検索してみました。
 コミック版だけど、結構おもしろかった。ただ、小学生向きかなと思います。うちの子供たちの間ではコミック版偉人伝が流行中。わたしも樋口一葉とかナイチンゲールとか読みましたよ。

 最近はまんがばかり読んでいるように思います。「あずみ」も24巻まで読みました。千代蔵が死んだのは悲しかった……。
 あとは「ビストロ・パ・マルの事件簿」(原尾有美子)ですね。近藤史恵の「タルト・タタンの夢」が原作。レシピもついて、おもしろかった。ただ結構エピソードが削ってある感じ。志村さんが好きなわたしとしては、奥さんのことが出てこなくて残念。
 買ったコミックを適当に袋に詰めてしまっているので、集約し直そうと思ったのですが難しい。「海街diary」を読み返してしまい、「柳沢教授」は全部あるはずなに、二十巻以降とびとびにしか見つかりません。もどかしい。押入には「サンタさんからのプレゼント」が隠してあるので、ちと作業しづらいのです……。(と言い訳してみる)

「ふがいない僕は空を見た」窪 美澄

2012-12-23 20:04:32 | 文芸・エンターテイメント
 インフルエンザの予防接種に行ったんです。こういうところではエッセイよりも小説の方が入り込みやすいので、「一個人」で評判がよかった「ふがいない僕は空を見た」()を持って行ったのですが、
 ……絶句。こ、これは病院の待合室で読んでいい本ではない……。
 最初から大胆な性描写で、困惑したわたしは、一作目をすっ飛ばして次に行ったんですが、つ、次もすごかった。えぇーっ、どうしようー。途中で気づいたので中途半端にしておく訳にはいかないのです。読みましたとも。
 どうも、一作目とリンクしているような感じ。なるほどなるほど。
 家に帰って続きを読みました。「セイタカアワダチソウの空」はすごくよかった。斉藤くんの友達である福田良太が主人公。山沿いの団地で祖母と暮らす良太は、新聞配達とコンビニのバイトで生活費を稼ぐ高校生。母親は男と住むと家を出ていき、ちょっと痴呆がちの祖母を一人で面倒みています。
 コンビニではその団地の小中学生の万引きに悩まされており、発覚するたびに良太は謝ります。同じ団地の「あくつ」と一緒に働く良太ですが、ある日彼女が斉藤のネット写真をばらまいていることを知ります。
 そこで何故か一緒にその写真を配布してしまうのがよくわからないんですが、後半では例の万引きについても、団地の上級生から伝統的に受け継がれてきたことが知らされます。なんていうか、罪悪感が表出されないのかな。
 コンビニで働く元予備校教師の男性(出先なので名前を失念)がいいんですよ。良太にこつこつと勉強を教えてくれる。毎日。プリントを作って、添削して、やがて新しい塾を作る予定であると話されて、良太は協力をすることになります。
 しかし、そこに予期せぬ出来事が。
 性についてのマイノリティ、考えさせられます。センセーショナルなだけではない何か。自分ではどうにも仕様のないもの。
 映画にもなったそうですね。ど、どの部分がクローズアップされているのでしょう。わたしなら良太でいきますが、やっぱり斉藤なんですかね。助産師の斉藤母もとてもいい。
 前半にはギョッとさせられっぱなしでしたが、窪美澄さん、気になる存在です。

「なんらかの事情」岸本佐知子

2012-12-19 20:51:00 | エッセイ・ルポルタージュ
 今回もぶっ飛ばしてます、岸本さん。スーパーのレジの列なかなか進まない選手権で優勝できると語り、大学時代の先生がLOVEという苗字だったことを回想します。ジャムを詰めるビンを集め、アロマテラピーに夢中になっても、不意に訪れる「ごわす」に台無しにされる。胃カメラを飲む前に、二分間上を向いて薬品をのどにためていなければならないエピソードがあるのですが。こ、これは本当のこと? 岸本さんはときどき余りにもシュールなフィクションを書くから困惑してしまいますよ。わたし、バリウムの発泡剤が駄目で、ずっと胃検診をパスしているのです。胃カメラの方が飲みやすいという人もいたので、いつの日かそちらのお世話になるのかもと思っているのですが……。
 中でも心に残るのは、最後に配された「おめでとう、元気で」。どうしてこのタイトルなのかも謎ですが、AからZまでのエピソードが描かれます。こんな感じ。
「空腹を極度に怖れバナナ一房つねに紙袋に入れて持ち歩いていたG」
「イタリアで加藤茶似のベルボーイに好意を寄せられ自分の背丈より大きなヒマワリの花束を贈られて困惑したL」
「妹と並ぶと母娘に間違われ父と並ぶと兄弟に間違われたP」
「ケーキ職人を目指して渡仏し今はうどん職人のR」
「同じ車に三年で二度ひかれたX」
 で、「じつは同一人物であるFとJ、KとZ」。ひょえぇ、おもしろい。そう思った瞬間たたみかけるように続きます。
「まだ会ったことないPとQ」
「もう会わないG」
「もう会えないX」
 ……二度めの事故に、思いをはせてしまうのです。
 岸本佐知子「なんらかの事情」(筑摩書房)。今回も充実の内容。
 お正月事情について、未来に住むおじいさんが語りかける「おめでとう」もブラックで怖い。本を読むときに目の端にちらつく親指が気になるなんていわれると、わたしまでそんな気になるじゃないですか。
 そして、ふっと目につくクラフト・エヴィング商會のイラストも、この本にはぴったりです。あー、わたしもD熱に感染して、ドリトス食べたくなりました。

「昔々の上野動物園、絵はがき物語」小宮輝之

2012-12-17 20:38:06 | 自然科学
 「昔々の上野動物園、絵はがき物語 明治・大正・昭和……パンダがやって来た日まで」(求龍堂)を読みました。筆者の小宮輝之さんは前上野動物園園長。わたしとしては、パンダ課長だった中川さんの名があるかと期待していたのですが、見られませんでした。残念。
 上野動物園には動物園ホールの二階に資料室があって、膨大な絵はがきが保管されていたそうです。それを年代順に紹介しています。
 結構上野動物園関係の本は読んでいるので、いろいろとおもしろい。象のトンキーといったら、あの「かわいそうなぞう」ですよね。猛獣たちが薬殺されたあとも、毒餌を食べずに生き残っていた。ワンリーという象は十八日、トンキーは三十日間絶食に耐えたそうです。当時の飼育係がこっそりと水やわずかな食料を与えていたとか。
 象といえば、インディラ。ネール首相からの贈り物として来日しましたが、負けじとタイからも象を贈るようにキャンペーンが繰り広げられ(前者には朝日新聞が、後者には読売新聞が後援)、結果としてインディラのための施設を作っていたのに、到着しないうちに別の象ガチャ子が入ることになったのだとか。
 このガチャ子、やがて新聞公募で「はな子」と改名されます。今も井の頭自然文化園で健在なんだって。
 象の話ばかりなのもなんなので。
 初期の絵はがきを見ると、「白クマ」と「ホッキョクグマ」は違うらしいことがわかります。明治期にツキノワグマのアルビノが飼育されていて、関係者はこれを「白熊」と呼んでいたんだって。この時期はホッキョクグマを見たことがない人が想像で描いたクマの絵が使われていたそう。(ツキノワグマを白く描いただけ)
 近親交配で足が白くなってしまうカバや、斑紋のないキリンも印象的でした。
 シフゾウという動物が気になります。「四不像」と書くそうな。ひずめはウシ、頭はウマ、体はロバ、角はシカに似ている(らしい)。北京でひっそりと飼われていたものの、野生では存在していない。雑種でもいいから残したいとスイロク(水鹿)とペアにしたこともあるとか。
 動物園の話題、好きなんだと思います。「なるほど動物園」を読み返そうかな。 

「ベンハムの独楽」小島達也

2012-12-16 20:09:05 | 文芸・エンターテイメント
 「夏休みの拡大図」という本を買ったのですよ。でも、一話しか読んでないんです。もう冬休みになってしまうー。巻末に、デビュー作が多彩なテイストで評判になったと紹介されていたので、まずそっちを読んでみることにしました。「ベンハムの独楽」(新潮社)。
 巻頭の「アニュージャル・ジェミニ」がすごくおもしろかった。というよりも、こういうモチーフが好みなんだと思います。双子の姉妹、真紀と早紀。まばたきで意識が振り替わる二人。早紀は明るい人気者で、真紀は孤立しています。
 真紀を消し去らねばならないと決意した彼女は……。
 読み終えて◆と◇の意味に気づいたときにはぞくっとしました。これはすごい。視点の問題って結構処理が大変だと思うんですよ。
 その後も、早紀は仲良しの絵実、美央、律子とともに登場します。エンディングでは彼女のダークな行く末も提示されて、なかなかスペクタクル。しかも、それぞれの短編が相互に関わりながらも、タッチは結構違います。サスペンスフルなもの、ほのぼの系、SF、ミステリーって感じですかね。
 「スモール・プレシェンス」は五分先の未来が見えるようになった長谷川が、学生時代の友人兵頭に相談を持ちかけます。カウンセラーの兵頭は、なかなか彼の言うことを信じようとしませんが……。
 ここに登場する鳩羽さんがメインなのが「ザ・マリッジ・オヴ・ピエロット」。刑事の久保さんが携帯の呼び出し音に使っているのが「涙のカノン」で、絵実の彼氏の住むアパートの隣人も同じ曲です。(同一人物?)
 こういうしりとりのような構成、いいですよね。
 「まばたき」って、意識していないだけで実はかなり頻繁にしているものだから、ちょっとこの入れ替わりはどうかと思わないでもないですが。
 「夏休みの拡大図」を読むモチベーションが高まってきました。楽しみです。