くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「本のおかわりもう一冊」桜庭一樹

2012-10-29 21:16:28 | 書評・ブックガイド
 いつ出るのかと待ち続けて半年。(三月に出ると思ってました)
 先日本屋に行ったらありました。もったいなくてちょっとずつ読んだんだけど、最後の対談で、東京創元社が「十社の書店員が推薦する文庫十冊フェア」をしたという話題があって、あぁっ、こういうことをして時間をつぶせばよかったんだ、と気がつきました。この日、前沢の「おがた」(牛肉店)で一時間待ったのです。諸事情あって、本は読めません……。
 どんなときでもどんな場所でも、本とともに過ごす桜庭さん。読書日記も五冊め。「本のおかわりもう一冊」(東京創元社)です。あいかわらずおもしろかった。本読みとしてのスタンスが好き。わたしは桜庭さんの小説はあんまり読んでないんですが、本への愛と的確な読みに共感。今回は震災後に仙台にきたことも書いてありました。六月十八日に荒浜辺りまで歩いて行ったんだって。
 わたしはそのへんの時期何をしていたかなーと思うに、陸上大会の練習ですかね。終わって一息ついたころかな。 
 震災で飼えなくなった犬を引き取り、引っ越しをし、編集さんや書店員さんと語り合う。仕事も忙しいし、本もたくさん読む。桜庭さんの日常はこの五冊の間安定しているように感じます。毎日原稿を書いたあと、本を一冊読むペースなんだって。早いよね。わたしは二日で一冊くらいかな。しかも、桜庭さんの読む本は厚い。海外作品も多く、こういう本はあんまり自分は読まないだろうと思うんですが、それでも桜庭さんの読書エッセイはおもしろいのです。
 ノーベル賞作品とは知らずに読んだチャーチルの本、それから莫言氏の講演にも出かけています。今回はわりと児童名作が多くて、乱歩とかバーネットとかケストナーとか出てきます。「バンドーに聞け!」を読んでみたい。「時の娘」も気になる。あ、でも読んだことあるかも。違う本かな。木内昇の短編「女の面」や桜庭さんの「伏」も読んでみたい。いろいろと気になって何度もぺらぺらとめくり直してしまうのです。
 それにしても、今回(前回もだけど)旦那さんの影が全く出てこないんですが、どうなんでしょうか。震災後も一言もない。気になります。
 六冊めも楽しみに待ってます。できれば巻末に、紹介された本の索引がほしい……。

 

「林檎と蛇のゲーム」森川楓子

2012-10-28 19:22:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 図書館にてなんとなく手にとったのです。帯によると(見返しに貼ってあるのですよ。親切!)「ドキドキのガールズミステリー」らしい。森川楓子「林檎と蛇のゲーム」(宝島社)。さらに解説によれば、「このミス大賞」の応募作品で、優秀作とするか否かかなりもめたそうです。
 どんな本かと思ったのですが、結論からいえばわたしの好みでした。家で読み終わらず職場で「朝読書」に読み、当然それでも終わらなくて気になって気になって……。こういうときに限っていいところで時間切れになるんですよ! 銃撃戦に巻き込まれた康孝をかくまうつもりでアルバイト先のマリーナにやってきた鈴奈、そこで優美に会ったっていうんです。
 ……いや、ここからではわかりませんね。この物語の主人公は名取珠恵。中学三年生です。交通事故で母を亡くし、父と二人暮らし。ある日、その父がアメリカに二週間出張するというんですよ。留守番に現れたのは「時代劇に出てくるニヒルな素浪人」のような水野さん(女性)。感情を表すことが少ないけれど、料理上手な水野さんにレンコンの天ぷらを作ってもらうシーンが好きです。
 珠恵にしてみれば、十八年ぶりに会って娘の面倒をみてほしいなんて気軽に頼めるような人がただの友達のわけはない、もしや父は再婚するつもり? と困惑するばかりなのですが、愛猫が殺され、犯人と思われる人に抗議に行ったらその人は血まみれで倒れていて……。救急車を呼ぶ、警察に知らせるという珠恵に、水野さんはそれはできないと言います。そして、父のベッドの下から汚いスポーツバッグを引っ張り出す。そこには旧札(聖徳太子!)で一億円入っていて。
 珠恵は水野さんとともに家を出、彼女の郷里に隠れます。そこで、父が小学校時代に転校してきたこと、水商売の母親と二人暮らしだったこと、アパートの隣に住んでいたチンピラと仲がよかったことなどを聞きます。この一億円はそのチンピラが組から盗んできたもので、ヤクザの親分とある約束を交わしたこと。そのため、決して使ってはいけないこと。
 水野鈴奈と名取康孝は大学時代同棲しており、アルバイトで知り合った高飛車なわがままお嬢様が、珠恵の母親の優美です。
 珠恵の懸命さが物語の中心になっているけど、わたしはやっぱり水野さんがいいと思うなぁ。この行動力! 冷静で格好いい。やけになって井川と結婚しちゃうのはすごいけど。
 珠恵は目撃者なのに、被害者の藤枝(一命をとりとめました)は珠恵に刺されたのだと言い張る。それをワイドショーが騒ぎ立てる。実は藤枝も過去に因縁があって。
 中学生が読んだらわくわくするだろうなぁ。そのうち配架したい本です。

「バレーボールは眞鍋に学べ!」

2012-10-27 20:43:08 | 芸術・芸能・スポーツ
 文化祭の片づけをしながら、図書委員であるMちゃんと話していました。彼女は木村沙織みたいな選手になりたいという。バレー部のエースで、県大会でも活躍した子なんです。
 先日眞鍋さんの本を読んだ話をしたら、自分も読んだというんですが、タイトルが違う。
「『眞鍋に学べ!』ですよね?」
 えぇーっ! そんな本もあるの? 是非とも読みたいとお願いして貸してもらいました。(わたしの本も貸しました)
 なるほど、日本文化出版(月刊バレーボール)のムックですね。五月に出たらしい。だから、わたしの読んだ単行本と多少かぶる部分もあるし、技術指南書なので自分の興味関心からは離れているところもあります。(もちろん、Mちゃんは技術向上のために買ったんですからね)
 でもでも、非常におもしろかった。指導者としての眞鍋さん、メンタルな話題が参考になります。わたしはバレーはやっていませんが(笑)、「いいこというなぁー」って。
 試合前によく眠れず、当日の朝も何をしたらいいのかよくわからないという質問に対して、「自分がヒーローになるよいイメージを想像しましょう」と題して、前日からノートにシュミレーションをメモして気持ちを高めていたことを話しています。「常に勝つことをイメージしていますから、紙の上では何千連勝、生涯無敗です」
 なんていかした解答! おもしろい。
 眞鍋さんはメモ好きで、先人の名言なども記載しているそうですが、中でも猫田さんのお言葉「金メダルを獲ったことに対して、みんなが『よくやった』と褒めてくれるけど、そのために費やした時間を褒めてくれた人は誰もいなかった」に、ずきんときます。
 眞鍋さんも「練習は嫌。だけど勝ちたい」では理屈に合わない。みんなで決めた目標に向けて一丸になって頑張ることが必要、と語っています。
 道徳の資料に「明かりの下の燭台」という、全日本を支えた女性のことを描いた作品があるのですが、選手だけではない、コーチやスタッフが役割を果たしてチームのために力を尽くすことの意義を感じさせられます。
 そして、なんといっても幹保さんと三橋さんを招いての座談会。嬉しすぎます!
 日鐵では三橋さんのスパイクを研究するためにビデオを六台も使ったんだって。三橋さんも現役時代は様々な打ち分けができたことを話しています。さすがセンタープレイヤー。しかし、このごろあんまりクイック見かけませんよね。オープン(とは最近言わないらしいですが)からの攻撃が多いような。
 若い人にはもっと工夫してほしい、とのお話。これは眞鍋さんの「常識を越えたところにしか金メダルはない」という考えと通じると思います。このあと三人で鍋を囲んだ写真もありました。幹保さんは烏龍茶だっ!
 それから、練習ではストレスをかけることが大切だというのも参考になりました。ピンチの状態をわざと作ってやる。マッチポイントでのサーブ練習とかブロックがついた状態のスパイク練習とか。ルーティンを決めておくのも効果的だそうですよ。
 懐かしい名前もちらほら見かけて……。青山(中京)も古川さん(尚絅)も大学の指導をされているのですね。青山、相手ブロックの小指まで見えるってすごい。「小指狙って打ちますよ」って、格好ええっ!
 それにしても眞鍋さん、二十歳のときから雑誌などで応援してきましたが、今もあんまり変わってないですよね。あ、上野先生が眼帯までさせて利き目を調べたという話や、授業中や寝るときもボールを触っていたという話もおもしろかった。
 ところで、わたしも結構バレー関連の本を読んできたんですが、幹保さんは本とか出版されないんでしょうかね。読んでみたい。

「復活から常勝へ」渡辺康幸

2012-10-24 22:02:34 | 芸術・芸能・スポーツ
 三月、卒業式を間近に控えていたある日、帰り際に会った陸上部のKくんが「箱根駅伝」のウインドブレーカーを着ていることに気づきました。彼は三千メートルを練習していた選手。もしかして、大会を見に行った? 
「いやいや、通販です」とのこと。一昔前箱根駅伝に関心があったわたし。どのチームを応援しているのかと訊いたならば、
「早稲田です。渡辺監督が好き」
 そういうことなら、と読み終わったばかりのこの本を貸しました。「復活から常勝へ 早稲田大学駅伝チームの〈自ら育つ力〉」(新潮文庫)。
 もちろん渡辺康幸の現役時代はテレビで見ていました。早稲田の三羽烏、武井、花田、櫛部。わたしは一学年下の小林正幹さんの走りが好きだったんですよ。応援していたのは、順天堂、日大、東海です。当時、友人の弟さんがその中にいまして。レギュラーにはなれなかったんですが。箱根は二日間ぶっ続けで視聴し、出雲国引きとか全日本大学駅伝とかもテレビ中継を楽しみにしていました。大学駅伝のエースといえば、大東文化の実井さん。それから、山梨学院大のオツオリ、順天の山田さんをイメージします。
 だから、わたしの応援していた世代よりも、渡辺さんはちょっと若いんですよね。ライバルとして、山梨のマヤカ選手があげられています。わたしが山梨でいちばん印象的だったのは下山選手。後年、彼の出身校に勤めたこともあります。同じ地域内だから、同級生と友達だったと知って驚きました。(勤めるまで彼が地元出身とは知りませんでした)
 懐かしい選手の皆さんの名前もちょこちょこ出てきて、おもしろい。小林さんが現在関東学園大学の監督と知り、なんか嬉しいですね。 
 箱根で惨敗し、どうすれば名門復活するかを考えて寮に住み込んだり。目標設定やリーダーのあり方、ライバルとの関係、プラス思考の重要性、そんなことが丁寧に書かれています。大学の選手たちとの交流から学んだことも多いとのこと。
 文庫化する前に、確か読書感想文にこの作品を取り上げてている人もいて、こういう本を掘り出した眼力に脱帽です。
 さて、Kくんが卒業後半年過ぎても本を返してくれないので訳をきいてみると。
「同級生だったDくんが読みたいっていうから貸しました」
 えぇーっ! 事後承諾? とはいえ、本の話を聞いて読みたいと思ってもらえるのは嬉しいことです。
 まあ、そんなわけで、Dくんからやっと返ってきた次第。二人とも、高校で陸上を続けています。Kくん、先日は高校駅伝の予選に参加したとか。頑張ってほしいな。
 

「七十歳死亡法案可決」垣谷美雨

2012-10-21 10:11:50 | 文芸・エンターテイメント
 昨日は文化祭でした。合唱とかステージ発表とか展示の準備とか、それまで大わらわで。楽しい一日でした。今回、紙風船を小さく作って、ビーズや小型の鶴とつなぐ表示を作ってみたんですが、思った通りに可愛くできて満足。
 家に帰って、先日図書館で借りた新井素子の「銀婚式物語」を読みはじめたのですが、これになかなか入っていけなくて……。「ブラック・キャット」の最終巻を読んだときも読みにくくて仕方なかったから、もうわたしには読めないのかもしれません。で、他に借りていたこの「七十歳死亡法案可決」(幻冬舎)を読んだら、これがたいへんさくさくと読めるのです。
 革新的な総理大臣馬飼野が提案したのは、七十歳になったら日本国民は死ななければならないという異例の法案。老人問題も年金も社会福祉も、これにて一挙解決!
 施行は二年後の四月。現在七十歳以上の人はその時点で死亡することになるわけで、日本中が驚愕します。これまで苦労してきた分を謳歌しようとする年長者(法案反対)と、自分が定年を迎えるころには金銭的な保証がみこめないと考えて戦々兢々としていた若者(法案賛成)との討論や、与党と野党のせめぎ合い、ワイドショーやニュースもその話題ばかり。
 東京に住む五十代の主婦宝田東洋子は、長年義母の介護を続け疲弊した毎日を送っています。でも、あと二年がんばれば、自分にも自由がやってくる。その日を心待ちにしている彼女のもとに、夫が会社をやめることにしたと言ってきます。介護の手が増えるならば、もう少し楽になるのではないかと期待したのも束の間、なんと友人と一緒に世界一周旅行にいくことにしたと言うのです! 唖然とするも、夫をあてにした自分が馬鹿だったと諦めます。
 東洋子には二人の子供がいるのですが、長女の桃佳は家を出、長男の正樹は銀行を辞めてから引きこもり状態です。夫の姉妹たちも、財産は欲しくても介護をする気はない。何もかもが東洋子にのしかかってくるのです。
 せめて介護手伝えよ、正樹! と思うのですが、思ったような仕事につけないと拗ねる彼にめまいを感じます。しかも、中学卒業時に喧嘩した友人沢田のブログを見て、ままならないのは自分だけではないと暗い慰めを覚えていたり。
 しかし、沢田がなんと大手家電品に主任として入社。惨めになってしまう正樹でしたが、久しぶりに更新をのぞくと、助けを求める一言が……。夜中にも関わらず、正樹は沢田を救おうとやっきになります。
 ここからの正樹の変化がいい。そして、ふとしたきっかけから自分を見つめ直していく東洋子も、スカッとします。彼女はもともと頭がよくてリベラルな女性だったのに、いつの間にか、家事や介護は女が一手に引き受けるものだと思うようになっていたのですね。
 中でもいちばんはつらつとしているのは、正樹の女友達の千鶴です。素晴らしい行動力。
 垣谷さんは、独自の法案がもたらす社会をコミカルに描いて、世の中の問題を浮き彫りにする手法がきいていますよね。おもしろく読みました。

「子供の名前が危ない」牧野恭仁雄

2012-10-19 19:43:51 | 社会科学・教育
 名前に興味があります。思えば小学生の頃から。苗字も名前も気になる方ですが、今回は名前。「子供の名前が危ない」(ベスト新書)。筆者は牧野恭仁雄。本人も難読名前です。「くにお」と読む。
 帯にはこうあります。「与夢(あとむ)くん 新千恵(にーちぇ)ちゃん 夢大(さんた)くん 空海(そらみちゃん) では、『雄』くんは? 日本に増殖する珍名・奇名の大問題」。
 さて、「雄」くん、読めましたか? 当然のように「ゆう」じゃないですよ。
 なんと、「らいおん」くん………。ライオンには牝だっているだろうよ、という言葉は耳に入らないでしょうね。そういえば、知人に「大神」(たいが)くんや「新羽」(しんば)くんがいるような気が……。 
 本をめくると、さらにすごいのがあります。「葉日」で「はにー」だってさ! 「美音楽」は「びおら」って読むんだって。呼びづらいよ。「勇敢」でなぜか「かりぶ」。よくわからない。では、以下なんと読む?
 ・円丸  ・歩論  ・虹空  ・葉留  ・葉萌似
 いや、まだこのへんは序の口。珍奇ネームを十七のパターンに分類した章があるのですが、そこには「大賀須」だの「業」だの……。
 ちなみに、前から「まとまる」「ぽろん」「にっく」「ぱーる」「はーもにー」、そして「たいがーす」と「かるま」です。なんだそれは。
 「八月」で「おうが」って、もはや開いた口がふさがりません。六月一日生まれの「順一」くんを思い出す。
 この本も実はずいぶん前に読んだのです。前半はそういう珍奇ネームについての考察、後半は社会的な視点から見る名前の危うさについて論じています。筆者は「珍奇ネーム」といっていますが、いまどきの若いママは「キラキラネーム」と言ったり、ネット上では「ドキュンネーム」といったりしますよね……。そうやってネーミングされること自体、かなり目を引く現象のような感じがします。
 事件に巻き込まれて亡くなった子供や芸能人が自分の子につけた名前、名づけ相談されて感じたことなども書かれています。時々「ん?」と思う部分もありましたが。
 で、今日タイムリーにも、生徒がこういう妙な名前について話していました。「きらら」「星宇宙」「ぴかちゅう」……。そ、そんな名の子までいるの!? おばさんには理解不能です。(彼女たちの名誉のために書いておきますが、生徒たちはそういう名づけは「おばあさんになったときに変だから反対」だそうです)
 

「ふくろう」梶よう子

2012-10-17 22:38:34 | 時代小説
 目が離せない、というか、気持ちが止まらないというか。とにかく、読まずにはいられないのです。つらくて苦しい物語なのですが、どう解決するのか気になって気になって。
 梶よう子「ふくろう」(講談社)。もうじき子供が生まれることになっている伴鍋次郎は、妻の八千代と詣でた水天宮の帰りに、ある老人と出会います。老人は鍋次郎の顔を見て急に土下座し、許しを乞う。何が何やらわからない鍋次郎ですが、次に町で見かけたとき、老人は前後藻なく酔っ払っていたのに、彼を認めた瞬間に橋の欄干を乗り越えて川に飛び込むのです。
 同じころ、八千代が崩した蔵の中のものを整理していると、自分が幼い頃に使ったと思われる産着やふくろうの根付、さらに父の日記が出てきます。読みはじめると、自分が生まれた時期の記載が切り取られており、さらになんと自分の名前のついた位牌まで見つかる。
 鍋次郎は八千代の父親(道場の師範)のもとを訪ね、自分の出生の秘密について話を聞きます。
 松平外記、というのが鍋次郎の父親の名であり、自分の兄弟子であったこと、西丸書院番として働いていたこと、その務めのなかで嫌がらせをうけていたこと。
 この部分がメインなんですが、もう外記が気の毒で気の毒で……。自分のことなら受け流せるけれど、妻の久実までが心ない噂の標的になるのは耐え難いとするあたりが非常に切ない。同役の妻からの文で出会い茶屋に呼び出されるんですよね。待っても誰も来なかったのは幸いですが。嫌がらせに加担する奥さん、嫌だなあ。
 もう、いい年の大人だとはとても思えないようなことばかりされるんです。そんなことして楽しいのか? と困惑しますが、でも現代でもありそうなんですよね、こういうこと。道場にやってくる子供たちのトラブルが話題になる場面もありますが、自分の提案した方法でいいのかどうか、親たちが苦情を言ってきたけど一喝して帰したら、みんな道場をやめてしまったとか、そういうことと、自分からやめるわけにはいかない外記の思いとが重なっているように感じます。
 八千代、綾、久実、と魅力的な女性たちも登場します。わたしは八千代のひたむきさが好き。鍋次郎に寄せる思いが細やかですよね。
 ふくろうとは、「不、苦労」「福籠」という説もあり、子供に向ける親の愛情が集約されていきます。梶さんの作品はたいへん好みですが、今回も良かった。ラストも救いがある。
 しみじみとした優しさが残る秀作でした。

「あずみ」小山ゆう

2012-10-16 05:53:35 | コミック
 小山ゆうといえば、「がんばれ元気」ですよね。アニメの主題歌まだ歌えます。
 長らく気になっていた「あずみ」の文庫版(小学館)を、夫が大人買いしてきたので、借りて読みました。今のところ十六巻まで。一気に十四冊読んだら疲れたので、一晩おいて続きを読んだのですが、やっぱり気になります。あずみは人質を奪回できるのか。千代蔵との邂逅があるなら大丈夫だと思うんですが。
 徳川家康の懐刀であった天海僧上が、弟子の月斎に命じて密かに育成した十人の子供たち。あずみはそのうちただ一人の女子だったが、いちばんの手練れでもあった。争いのない平和な世の中を求めるためには、戦をする芽を摘んでいく必要があると、密命を受けて彼らは旅を続ける。上意打ちと見せかけて月斎が殺され、仲間をすべて失ったあずみは、家康を敵として狙い、御狩り場でその命を奪う。しかし、その背後には天下を手中に収めたい柳生宗矩の姿があった。
 刺客として様々な場所に潜入するあずみが、危機を乗り越えながら成長していくのが見所ですね。命を狙われたり、破天荒な仲間ができたり。恋の気配がありながらも成就しないのがまたなんとも言えません。
 印象的だったのは、「静音様」のあたり。かつて淡い恋心を抱いた新次郎と再会し喜んだのはいいけれど、どうも不穏な空気が。師と仰いだ人も自由を求めた仲間たちも彼の理想を達成することができなければ切り捨てられてしまう。秘密を守るために牢獄につながれ、麻薬づけにして働かせるのです。
 理想の地を夢見て金山奉行として働く新次郎。背後で彼を動かす侍たち。そして、キリスト教の力で民衆を支える「静音様」。
 異国の血をひく彼は、宣教師として人々に奇跡を見せつけます。優しく穏やかな人柄はまるっきりの嘘。あずみも騙されて拷問をうけます。
 「信じる」ということが、全体を通して描かれているように思います。相手の懐に入り込んでから事態に及ぶ刺客集団の手の者でありながら、あずみを信頼して組織を裏切る「きく」。武芸者としての武蔵の行動。月斎の生き方にしてもそうですよね。
 印象的なのは、一緒に旅をすることになった「やえ」ですね。郷里で幸せに過ごしているのかと思いきや、京都で遊女として生きている。また、その恋がかなしい。
 文庫の発売ペースはどんなものなんでしょう。十六巻が出たのは八月らしいのですが。

 

「白銀ジャック」東野圭吾

2012-10-13 21:55:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 文化祭に向けて図書委員会で壁新聞を作ることにしました。
 特集は担任の先生おすすめの本。各自取材して記事を書くのでかすが、委員長にはぶっ飛びました。「三年一組のA先生の好きな本は、『ハクギンジャック』と『魔女の救済』です」って……。
 「白銀ジャック」を全部カタカナにすると、なんか違う話みたいです。しかも、「魔女」? 「聖女の救済」では? 
 困惑しつつ、A先生から「白銀ジャック」(実業之日本社文庫)を借りてきました。
 彼女がいうには、帯に絶対犯人はわからないと書いてあり、今ひとつその動機もわかりにくかったので読み直してみたらついまた熟読してしまったとか。
 「彼らというか、犯人たちのことが、わかるかどうか試してみて」
 とのことだったので、最初から眉につばして読んだので、中盤ころから予想はつきました。でも、わたしが考えた動機とは違っていたけどね。てっきり会社経営の金策のために自作自演だと思ってました。もうひとつひねってありましたね。
 新月高原スキー場で働く倉田は、ある日会社の上層部から脅迫状が送られてきたことを話されます。雪が降る前に、スキー場のどこかに爆弾を埋めておいた。遠隔操作で操ることが可能。スキー客の命を守りたければ、現金で三千万円用意すること。
 警察に届けるべきだと主張する倉田に対して、社長の筧は運営を続けるの一点張り。たしかにスキー場を閉鎖する必要が出てくればその日の運営は赤字になり、評判も落ちるはず。「身の代金」の運搬を任されたパトロール隊員の根津は、なんとか犯人を捕まえたいと考えますが……。
 東野圭吾にしては、なかなか話に入り込めませんでした。誰が誰だかわかりづらいうえ、スキーに全く興味ないんで。
 最初、あらすじを聞いて、岡嶋二人の作品に似ているかな、とも思ったのでかすが、そうでもなかった。でも、この話を知っていると、なんとなく運搬に関わる人もあやしいような気になるのですよね。しかも、これ、文庫のうしろに「犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。すべての鍵は、一年前に血に染まったゲレンデにあり」なんて書、いてあって、これまたミスリードを誘うものがあります。単行本ではなく、いきなり文庫で出るあたり、このあおりによる部分が大きい気がします。
 前年何があったかというとですね、スキー事故で女性が一人亡くなっているんですよ。しかも、夫と子供の目の前で。
 しかも、子供はそれ以来心を閉じ、心配した父が荒療治のために訪れているのでした。いかにもわざとらさしい。
 とりあえず、真犯人と動機はつかめました。わたしはスキーに全く興味ないんで。もっと違う題材で読んでみたい。

 

「シフォン・リボン・シフォン」近藤史恵

2012-10-12 05:12:39 | 文芸・エンターテイメント
 「シフォン・リボン・シフォン」(朝日新聞出版)、水橋かなえという女性が経営するランジェリーショップです。かなえは、両親としっくりいかない少女期を過ごし、東京で働いてランジェリーショップを開いていました。外国の下着を扱ったりオリジナルのナイティを販売したりで、店は軌道に乗ります。がむしゃらに働いていた彼女でしたが、乳癌という宣告を受けて愕然とします。
 入院したかなえに、母親は泣きながら云うのです。
 「罰が当たったのよ。あんたが自分勝手なことばかりしているから」
 ……娘にとって、母の存在って強いのですかね。(わたしも娘ですけど)
 母親の言葉に傷ついたかなえですが、母が倒れて介護しなければならないと告げられたとき、郷里に戻って義妹とともに面倒をみる決意をするのです。
 この本を読んでいると、素敵な下着が欲しくなってくるから不思議。読んだ印象からいくと、かなり高価な品物ばかりなんですよ。バーゲンプライスでも八千円を超える。そうすると、ナイティなんか万単位ですよね。
 基本的にはネット販売の拠点にしているので、ディスプレイを見てやってくるお客さんは少ないみたい。
 ところで、第二話ではある人物が父に内緒でこの店に通いつめる様子が紹介されています。あまりにも近所なのに車がコインパーキングに停めてある。そんな目立つことをするかな? とも思ったのでかすが、そういえばお父さんはこの店のカタログを持ち帰ったこともあったから、それを拾って読んだのかなと。そこに取り上げられたものを見て、いてもたってもいられなくなるほど焦がれる思いがつよかったのですね。
 四つの物語の根底には、それぞれの親子のしがらみや葛藤が描かれます。下着といいながらも、彼らが認めてほしいのは、「自分自身の選択」であり自己の肯定なのだと思いました。豊かな胸がコンプレックスだった女性の自立を描く第一話が特徴的です。でも、反対にお金に不自由しなかった昔のことだけをよすがに、家族の困惑を考えない姑の第四話も同様だと思います。自分だけが大切にされることを考えて、相手を大切にできない人は、本当に自分の望む暮らしはできない。そう思いました。
 シフォン・リボン・シフォン。やわらかくて上品なお店ですよね。