くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「実録 高校生事件ファイル」和田慎市

2012-09-29 21:49:01 | 社会科学・教育
 なんとなーくおもしろそうだったんで買ったんですが、期待以上でした。専門書じゃないんですよね。読者の想定も、教員だけでなく一般的な方にも現状をわかってほしいと考えてらっしゃる。そうですね、自分自身が真面目に勉強してきた人、エリートコースを目指してきた人には、そうでない学校のことは想像すらできないでしょう。それほど苦もなく歩んできたら、もっと自分の関心に基づいた勉強をしたかったと思うんでしょうね。ゆとり学習のように。
 著者の和田慎市さんは、ある高校の教頭先生。教育底辺高校で生徒指導課長をされてきたベテランの先生です。これまで関わった生徒指導の記録を、まとめて紹介してあります。「実録 高校生事件ファイル」(共栄出版)。
 わたし自身のことをいえば、仲良くしている他校の先生と話しているとき、実は教え子と友達だと分かったんですが、彼女が言うには、「すごく先生という存在が嫌いで、わたしが教員になると言ったときにも大反対された」のだそうです。うーん、荒れた学校でした。時々新聞のベタ記事で知っている名前を見ることもある……。その子はどちらかといえば不良寄りですが、大きく踏み外したりはしないタイプ。先生方ともよくしゃべっていたんですけど。すごくいい先生も多かったので、少なからずショックですね。
 和田先生のように熱血漢で頼りになる方は、生徒から見れば怖いし煙たい。でも、その強さが好きだと感じる子も多いのでは。
 底辺高校、いろいろあります。
 万引き、けんか、いじめ、モンスターペアレンツ、退学、様々な人間関係を解きほぐし、オヤジのように受け止めてくれる指導者の姿、頼もしいですね。
 印象的だったのは、入試にきているのに他校生徒とけんかした少年。そんな大事な日に絡まなくても……。
 中学にいると、学習レベルに差がある集団を一斉指導で理解させるのは難しいと思うことがありますが、同じレベルでも難しいんですね。
 そうそう、ある私立校に行った教え子が言ってました。入学時に四十人いたクラスが卒業を迎える頃には三人しかいなくなったんだって。退学してしまう生徒についても取り上げてあったけど、かなり厳しい。
 某総裁は教育改革に力を入れたいと言っているようですが、底辺高校に一年くらい研修に行ったらもう少しわかってくれるかしら。エリートの視点で変えようと思っても難しいと思いますよ。

「本当は怖い 日本の風習としきたり」

2012-09-26 21:24:36 | 歴史・地理・伝記
 土着の民俗とか風習のようなものに興味があるのだと思います。コンビニで売っているような雑誌サイズの本なんですけど、図書館で見かけたので借りてみました。
 「本当は怖い 日本の風習としきたり」(イースト・ブレス)。うーん、こういうタイトルの本を読むと、「本当は怖い」というより「怖いものもある」ということだよね、と思うのですが。全部ではないよね。禁忌を語るものは昔話にも多いですし。
 妊婦は葬儀への参列をしてはならない。もし、しなければならないときには鏡を帯に挟む。海に漁をしに出てはいけない日がある。死んだ子供が帰ってきても家にいれてはいけない。そういう話が多いですね。
 都道府県別の伝説もあったので、早速近隣のものを見たのですが、宮城県はこんな。
 「宮城県北部にある石巻市唐桑では、今でもオガミサマと呼ばれる盲目の巫女が」
 えーと、唐桑は石巻市ではないと思います……。岩手県境だから、気仙沼ではないかと。わたしも県北に住んでいますが、かなり距離があるためそういう風習があるかどうかは分からないな。欄外にもカマ神について紹介されているんですが、「かつてはどの家にもカマドの近くに神棚が置かれ、柱には鉄でできたカマ神様の仮面を飾られていた」(原文ママ。文としておかしい……。)とあります。いや、どこの家にも飾られていた訳ではないと思いますよ。釜神信仰が強いのは石巻や大崎地方で、豪農のお家が多い。(それとも、「どの家にも」が係るのは神棚?) 
 十年近く前、釜神のレプリカを作ったことがあります。遠い記憶ですが、砂と粘土質の土を混ぜて作ったような。木を彫ったものもあります。鉄もあるの?
 厄年の「年祝い」が盛大に行われる岩手県、という記載は分かるな。年祝いは同級会をすることになっています。近所からお酒が届いたり。
 石川県には「ばっこ祭り」という秘祭があり、深夜に行われて誰も見てはいけない。御神体を担ぐ男性たちは無言。帰りには草鞋を前後逆になるように履き替えて足跡を残さない、というのが印象的でした。
 で、わたしが最も感心したのは、狐持ちといわれる人が「管狐やオサキ、人狐」を操るという記載。「百鬼夜行抄」で狐の母子は「尾崎」さん、祖父の家で家事を手伝っていたのは「おさきさん」ですね。いや、単にそれだけなんですが。
 伝説、もう少し読んでみたいな。
 あ、わらべうたの真相を取り上げたところもあって、学生時代「ずいずいずっころばし」を遊女の足ぬけの歌だとこじつけて解釈したことを思い出しました。細部は忘れちゃった。「ぬけたらどんどこしょ」は「関所を抜けたらどんどん走って逃げろ」、「俵のね
ずみ」は女をそそのかしている男、その続きは「濃密な愛の表現」で両親にどれほど懇願されても戻ってはならない、ということに落ち着いたのですが。一般的には茶壺道中のことですよね。でも、こじつけようと思えばどうにでもなるんだと感じました。
 ところで、「胡麻味噌ズイ」って、何?

「悩むが花」伊集院静

2012-09-25 20:32:52 | 哲学・人生相談
 この本も東日本大震災を取り上げている一冊。仙台の自宅で被災されたそうです。ものすごい揺れとその後の被害の中でも、現地にとどまって見届けるという意志、そして奥さんも同じようにすると伝えられたあたりの部分が胸に沁みます。
 数年前、出張先で「篠ひろ子さんの家、すごい豪邸ですよ」と言われたっけ。(そこから近かったんですが、見学まではしませんでした)
 伊集院静といえば、わたしにとっては「海峡」。大和和紀「天使の果実」に影響されて読みました。夏目雅子は美しい。「西遊記」おもしろかった。
 この「悩むが花」(文藝春秋)にも、自分も弟と妻を亡くしたという記載があって、これもどきっとしました。
 連載を見たことはないんですが、このコンセプトなら単行本よりも雑誌の方がおもしろそうな感じがします。悩みに対して伊集院氏は解決しようなんて思っていないんですよね。持ち込まれた仕事だから答えるけど、基本的には感想を語っている。特に笑ったのは、結婚したい気持ちはあるけど一から関係を構築していくのが面倒だから、友達や元カレを「つまみ食い」してしまうという女性からの相談に当惑する回。このままでは友達をすっかりなくしそうという彼女に、「皆さん、この質問の女性、悩んでいるというより、頭おかしいんじゃないかとわしは思うんだが」といっていて、わたしは大笑いしてしまいました。
 引きこもりだった人が震災のボランティアに行ったり、自分のお小遣いを寄付する女の子の話題があったり、やっぱりあの地震で価値観の変化があったのだなと思わせられることもありました。
 今日ニュースで某総裁選候補者が震災を擬人化して演説していましたが、そういう政治家が被災地に何をしたのかとテレビを見ながら嫌な気持ちになりました。震災が何を訴えたかったのかというと、自民党に政権を戻すべきという訳の分からない骨子に頭が痛くなります。小競り合いばかりして、復興関連の話題は隅っこに押しやられてしまう。
 伊集院氏に一刀両断にしてほしい、こういう人。
 ところで、わたしは先日、若旦那に雨乞いのお願いをしましたが、すごい威力です。翌日早くも降り始め、このところぐずついたお天気。稲刈りすすまず、週末の新人大会も心配です。そろそろいいですよー! ありがとうございました。

「文学賞メッタ斬り! ファイナル」大森望・豊崎由美

2012-09-24 21:17:56 | 書評・ブックガイド
 「メッタ斬り!」もこれが最後の出版になるらしいとのこと。楽しみにしてたのに残念だなあ。豊崎さんと大森さんの掛け合いが楽しかった。でも、こうやって振り返った対談を読んでみると、芥川賞にしても直木賞にしても、わたしエントリー作品をほとんど読んでないんですよね。「鷺と雪」「きのうの神さま」「利休にたずねよ」ぐらいです。この本を読んでから「乙女の密告」を買ってみましたがまだ読んでません。「ちいさいおうち」と「ラブレス」は気になる。
 この本も夏休みに読んだんですが、感想を書く気力がなく……。このところ、読んではいるのですが、ツールに慣れないためになかなか筆がすすまない。一気に書き上げるタイプではないので、苦戦しています。つなぎっぱなしに抵抗があるのと、何冊か並行して書けないのが不満かな。
 で、「文学賞メッタ斬り! ファイナル」(PARCO出版)ですが、これまでのシリーズとは違い、芥川賞と直木賞の候補作品の下馬評と結果、それに付随するインタビュー形式の対談で構成されています。これまで巻末についていた各賞の評価がないのが残念……。思えばわたしは、「このミス」でも「覆面座談会」がいちばん好きだったんですよね。各賞受賞作のあれこれを語り合う趣向がおもしろかったので。
 もうずいぶん前に読んだため、細かい部分は忘れていますね。今後はネットでの活動を主力にしていくそうなので、紙媒体ではなくなっていくのでしょう。
 ところで、とびとびに読んだのですが、三國隆三「消えるミステリ ブックガイド五〇〇選」(青弓社)もおもしろかった。各国ミステリを読み比べて、人物喪失のパターン分けをしていくもの。
 人が姿を消すパターンは、AからZまでの多岐にわたるそうですよ。「火車」のあらすじが新橋喬子の視点でまとめてあるような、かなりネタバレの部分もありますが、興味深いです。内外のミステリを読み込んだ方ならでは。出版が1995年ですから、もう流通していない作品もあるかも。巻末の書名索引を見ているだけでも楽しい。「もう生きてはいまい」「燃え尽きた地図」「明日訪ねてくるがいい」「狼を庇う羊飼い」「古狐が死ぬまで」……。原寮は読んでみたいような気がします。

「ちはやふる」末次由紀+時海結以

2012-09-23 19:21:49 | コミック
 十八巻を買いにいったら、その隣に平積みになっていました。「ちはやふる」ノベライズ、筆者は時海結以。読み始めたら、小学生のときのエピソードとかを確かめたくなって、結局全巻読み返してしまったんですが……。うちは昨日から稲刈りで、時間があいた瞬間にコミックを開いてしまうほどの熱狂ぶり。おもしろいー。
 なんといっても、千早の真っ直ぐさ、太一の支えと、数えあげていけばきりがないキャラクターの魅力。わたしは原田先生の門下生になりたいほどファンなんですが、桜沢先生もいいなぁーと読み返していて思いました。三十九歳だったとは。「追い込まれた経験のない者は決して強くはならない」という言葉、沁みます。
 いやいや、女帝宮内先生もいいですよ。わたしも、素人ながら運動部活の顧問をしているので、自分のできることと必要なことの間で苦悩してしまうことがあるので、共感します。今回の表紙は各高、かるた会の先生方で、わたし個人的には素敵なラインナップ。通して読むと、師弟関係がすごく大事に描かれていることがわかります。普段は立ち読み、コミックでさらっとのパターンで読んでいるんですが、作中でかなちゃんの言葉が後半に響いていくのがものすごくおもしろい。わたしが古典好きだからかもしれません。「千早振る」と「荒ぶる」の対比が、新のかるたと対比されるシーンがとても好きです。
 と、こうやってまんがの世界にどっぷりと浸かっているわたしなのですが、ノベライズの方はちょっと首を傾げる部分もあるような……。千早とかるたをしてくれた先輩が古典好きで恋の歌にこだわりをもっているんですが、こういう人と出会っていたらかなちゃんのパートがなんだか不自然のような。もっと意味に興味をもってもよかったはずなのかな? とか。
 しかし、なんというか、まんがだと気にならないんだけど文章だと千早の猪突猛進ぶりにめまいが……。中学生はそういう時期ではありますが、確かにここまでだとつらいかな。
 話かわりますが、本を入れていたボックスには萩岩睦美さんのコミックスが入っていて、三年くらい前から頭に引っかかっていたまんがが何かわかりました。「素敵な夢を」(集英社)に所収されている「お堂の下で」です。あーすっきり。

「時をこえる仏像」飯泉太子宗

2012-09-19 20:22:18 | 芸術・芸能・スポーツ
 芳家圭三「壊れた仏像直しマス。」(芳文社)の二巻を読んでいて、この本について書いておくのを忘れていたことに気づきました。もう、7月に読んだのに、忙しさに紛れてつい……。
 飯泉太子宗「時をこえる仏像」(ちくまプリマー新書)。ブックポイントで購入。
 「壊れても仏像」がおもしろかったので、手持ちにほしいと思いまして。ちくまプリマーは、中学生でも読めるように編集されているので、そういう点でもおすすめです。
 仏像修復の作業について具体的に書いてあるのですが、例えば十二神将の修復依頼がきたときは、形の特色を見ながら紛失したものを新しく作ることもあるとか。時代や仏師によって特色も異なるので、同じ系列のものがあると参考になるそうです。
 それまでに何度か修理されているものだと、同じ人に直されているのがわかる場合も。
 中には取れてしまった手を「木工用ボンド」でつけてしまう大胆な人まで。でも、部分的なものが散逸していまうよりはよっぽどいいそうです。
 修復のことを誤解して、新しく自分のセンスで彫り直してしまう人とか。仏像は文化遺産でありながら実用品でもあるのだから、できる限りもともとの姿に戻してやりたい。直しているうちに、過去に塗り直してイメージが変わったことが分かることなどもある。
 執筆中には東日本大震災があったため、そのときに壊れてしまった仏像の依頼も少なくないようです。ガソリンがなくて運びにいけなかったと聞くと、わたしも当時のことをまざまざと思い出しますね。なんというか、世界を変える事件だったと。あれ以降出版された本にも影響はあると思います。眞鍋さんの本にも被災地訪問の話題がありましたね。 
 そういえば、広隆寺の弥勒菩薩も、造られた当時はもっときらびやかだったみたいなんですって。今の仏像の見方とは違うかもしれません。高校の修学旅行、拝観停止でこの仏像が見られなかったことがいまでも心残り。薬師寺(だったかな?)の聖観音像が素敵でした。

「逆転発想の勝利学」眞鍋政義

2012-09-18 21:31:41 | 芸術・芸能・スポーツ
 ロンドンオリンピック、メダル獲得おめでとうございます。
 この本は買いました。一瞬の迷いもなく。眞鍋政義「逆転発想の勝利学」(実業之日本社)。新聞広告が出たときから欲しかったんですが、売ってなくて。勝利の恩恵ですね。(でも一応初版です)
 わたしの青春の一ページは、まさに男子バレーボールの応援に費やされていたので、もう前半がおもしろくて仕方ない。特に、わたしは眞鍋さんの所属する新日本製鐵が大好きで、私設ファンクラブにも入っていました。(後に会費を払い込んだのに活動が行われず、嫌な思いをしたこともありますが)
 バレーボール記念部誌「燃えよ鐵人」も持っています。中村祐三さんの本も植田辰也さんの本も持っています。当時の背番号まだ言えます。(でも、植田さんの本はまだ読んでない……)
 眞鍋さんは、現役時代は「真鍋」で登録していましたよね。大商大附高でセッターを始めたときの徒名は「ドッスン」。この本で唯一心残りなのは、なぜか楠木孝二郎さんが登場しないこと! 眞鍋さんの一年上で、高校大学日鐵と直属の先輩なのに。神戸ユニバシアードにも出ていたし、全日本登録もされたのに、ユニバのときの写真にしか姿がない。(でもこの写真、懐かしい。江原さんとか岩田さんとか)
 それから、眞鍋さん、学生時代は関西では負けなしだったのに全日本インカレでは勝てなかったと言って、「一学年上に川合俊一さんや熊田康則さんがいた法政大、井上謙さんの順天堂大、田中直樹さんの日体大などの関東勢の壁が厚く」と書いてありますけど、川合は日体ですよね。熊田と一緒なのは富士に入ってからです。
 いや~こんな感じにツッコミつつ、楽しく読みました。田中幹保さんの大ファンだったわたくし、宮城インターハイで古川工業に観戦にいったら、なんと斜め後ろの席に幹保さんが座られて、体をひねったら足が踏めそうな程近くてものすごく興奮したものです。(サインをもらう、なんていう考えすら出ませんでした)
 という訳で、ごめんなさい眞鍋さん。わたしは多分、この本の読者としては異端です。だって、全日本女子の試合すらオリンピックの三位決定戦しか見てないもん。誰が誰だかわからない。普通の人は前半がそれなんでしょうけど、わたしは全く逆。三橋さんが同じトスから四種のAクイックを打ち分けられたという逸話に感激です。
 あ、後半で特に好きなのは、iPadが老眼に優しいというあたり(笑)。さすが関西人、ツボを心得ていらっしゃる。え? ここも他の人の視点と違う? ……失礼しました。
 

「ひなこまち」畠中 恵

2012-09-18 20:53:05 | 時代小説
 彌々子河童が登場しましたね! とすると、あの人もやがて現れそうですよね。ね?
 とちょっと気が早いかもしれませんが、期待してしまうわたしなのでした。若旦那には幸せになってほしい。今回は幸せなご夫妻も登場しましたし。しかし、この二人、お互いには幸せなのに、お家のことが絡んできて大変なのです。
 畠中恵「ひなこまち」(新潮社)。売れているからか比較的楽に図書館で借りることができました。今回は、若旦那に助けを求める人が続出。まずは謎の木札が現れます。(でもこれ、なんだか口語で書いてある感じがするんですが……。この時代なら書き言葉は文語のはず)
 七之助が形見にもらったからくり箪笥が開かないことに始まり、河童の秘薬を試してでも愛妻の「雪柳」と添い遂げたいと願う侍が現れたり、貘が悪夢を食べなくなって町がパニックになったり。また、娘番付を作って、第一位の娘に似せた雛人形をある大名家に献上しようなんていう企画が持ち上がり、選者に長崎屋の主人(若旦那のお父さん)が選ばれたのでどうにも他人事とはならず……。
 若旦那、具合が悪くなりながらも奮闘します。困っている人がいるなら助けたい。その優しさがやっぱりいいですよね。
 いつものみんなとほのぼのした日常を展開していますが、屏風のぞきを心配したことがあるような……という何か不足を感じる場面もあります。やはり、これはいよいよあの人が……。
 ところで若旦那、わたしも今とても困っています。今年の猛暑にはやられそうですが、それ以上に水不足で。この2ヶ月ほど雨が降らず、植物も枯れそうなんです。ダムの底が見えてきて、草が生えていたという話も聞きました。ぜひ、河童の皆さんのお力で、雨を降らせてくださいまし。お願いします~。

「恋都の狐さん」北 夏輝

2012-09-17 19:29:11 | 文芸・エンターテイメント
 「恋都」で「こと」と読みます。北夏輝「恋都の狐さん」(講談社)。
 帯によると、「゛掟破り゛?の第46回メフィスト賞受賞作!」なんだそうです。読めばわかります。魅力のある作品は、賞の傾向をも乗り越えることがあるのだと。
 わたしにとってメフィスト賞といえば、長編ミステリのイメージがあったんですが、この作品は254ページ、人は死なず難解な謎もなし。どちらかといえば、恋愛小説ですよね。
 ふと気づきましたが、わたしのカテゴリーには「恋愛小説」という項目がない。エッセンスとしての恋愛は好きなんですが、それだけに特化したものはあんまり読まないのかな、と。
 で、これは珍しくストレートに恋愛ものです。主人公の「私」は、大阪の自宅から奈良の女子大に通う二十歳の大学生。コンピュータのプログラミングなどソフトの勉強をしているそうです。これまで恋愛経験はなし。授業で聞いた二月堂の豆まきに行ってみようと思い立ち、足を運んだところで狐の面をつけた着流しの男性と知り合います。彼と一緒にいた美人の「揚羽さん」とともに、恵方巻きと鰯を食べて酒を飲んで酔っ払い、ふと気づくと初めての無断外泊!
 その後も二人と出かける機会があり、すっかり親しくなるのですが、「狐さん」は決してお面を外すことはなく。ものを食べるときでもずらすくらいで顔を見せてはくれないのです。しかも、洗顔中は覗かないように釘を差していく。覆面レスラー並み? と思いましたが、実は彼には理由があったんですよね。それを感じさせることなく、軽快な筆致で描いていくのはなかなか興味深いです。
 で、一体揚羽さんはどういう存在なの? という読者にとって当然の疑問になかなか気づかない主人公なんですが、采女神社で溺れかけたことをきっかけに、狐さんのことが気になってしょうがない。
 なんともいえず可愛い。でも、コミカルなのに、ただのラブコメではないんですね。彼女が決意をするまでに、狐さんの心の動きが丹念に書いてある。彼女の出現によって、それまで動かなかった歯車が動きはじめたという感じですね。
 爽やかで、素敵でした。奈良に行ってみたくなります。せんとくんのぬいぐるみをおぶって帰るところが好き(笑)。

「烏に単は似合わない」阿部智里

2012-09-16 21:32:42 | ファンタジー
 八咫烏の世界を舞台にした異世界ファンタジーです。あちこちで好評なので読んでみました。
 金烏といわれる宗家の日継の皇子である若宮の妃候補として宮中に上がった四人の姫。東家のあせび、南家の浜木綿、西家の真緒の薄、北家の白珠。権勢と陰謀とがないまぜになり、やがてあせびが信頼していた侍女の早桃が死体で見つかり……。
 後半にどんでん返しがあると聞いていたので、非常にどきどきわくわくして読みました。わたしは好みですね。物語としての「型」をうまく利用しているというか。これまで見てきた世界が、終章でがらりと反転するのは見事です。
 伏線が気になって、読み終わった先からもう読み返したくなる。阿部智里「烏に単は似合わない」(文藝春秋)です。
 ちょっと気になるのは、一巳の本性(烏としての姿)が白珠にはわからなかったのかなーということ(大泣きしたわたしはこの真相に肩すかしを食らったような気がしました)と、伝令に飛んできた烏(近習)に対して、高貴な姫たちの前で「鳥形をさらし、あまつさえ転身の姿を見せるなと、はしたないにも程がある」と言っているのに、若宮は結構さらっと鳥形になっているよな、ということですかね。
 あと、血縁関係でいくと、若宮と藤波の母がなぜ東家に逗留していたのかもわからない。若宮は西家にいたのに。(すみもそこにいますしね) 彼女が正妃と権力争いをしたときは味方についたわけではないんでしょ。
 あ、でも宗家から四家が分離したときのこともよくわからないんですが、四人の子供以外に誰かいたんですかね? そうでないと宗家自体の存亡が危うい。
 おや? 気になってばかりですね(笑)。
 でも、すごくおもしろかった。保証します。人物は誰も彼も少しずつ歪んでますが。いちばんまともなのは、わたしにとっては一巳ですね。
 次作も楽しみです。