くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「監察医の涙」上野正彦

2010-08-31 05:33:34 | 自然科学
上野先生の「死体は語る」(角川書店)、単行本で持っています。まだベストセラーになる前に、おもしろそうな予感がして手に取ったのですが、思った以上に読みごたえがあって、著作を貪るように読みました。
その頃、著作を何冊も読み漁ったのですが、このところ読んでなかったので、久しぶりに借りてみたのです。「監察医の涙」(ポプラ社)。
司法解剖という制度を、わたしは上野先生の本を通して知りました。東京などの都市では、不審な死に解剖が義務づけられている。一見事故死に見える場合でも、死体は語り出すことがある。自分は、殺されたのだ、と。
今回、あるエピソードを読んでつい泣いてしまいたした……。仲のいいご夫婦の、奥様が半身不随になってしまい、旦那さんが献身的に介護をする。五年間、必死で世話をしてきて、貯金も底をつき、旦那さんは、このまま自分の方が先に死んでしまったら、妻はどうなるのかと考え、心中を決意したそうです。
奥様は浴槽で溺死で見つかり、旦那さんは薬で自殺を図ったものの、近所の方に助けられ、自分が妻を殺した、と告げます。
しかし。
妻の検死からわかった事実は、手首についた夫の手のあとが、むしろ引っ張りあげるときにできるものだったのです。
ふと目を離したすきに溺れていた奥様を助けようとしたところ、唯一動かせる右手で、彼の手を振りほどいた、のだそうです。
「あなた、もういいです」
切ない。奥様も、ずっと辛い思いをしてきたのでしょうね。旦那さんがどんなに苦しい思いをしているのかも。
人間って、自分が苦しむよりも愛する人が辛い思いをしているときの方が胸が痛むのだそうです。
親として、子供を先に亡くすことはあまりにも悲しいこと。そんな事例も多く引かれています。
また、上野先生は事件などのコメンテーターとしても引っ張りだこ。ニュースで取り上げられた事件も紹介されていますよ。
こうやって本を読ませていただくのは、もう十五年ぶりなのですが、なんというか、基本的なスタンスは変わっていないと感じました。
お父さんの思い出や、先ごろ亡くした奥様の回想など、先生御自身の気持ちも、家族をめぐるエッセイに示されていましたよ。

追悼 三浦哲郎さん

2010-08-30 21:19:09 | 〈企画〉
言葉が、出ません。
わたしはいつも夜に新聞を開くのですが、まさか、まさか三浦さんが亡くなるなんて。
心の底ではこういう日がくることは覚悟していたのですが、いざ、新聞記事で知ると、言葉を失います。
「おふくろの夜回り」を、読んでいてよかった。生前最後の単行本になるのでしょうね。ああ、三浦さんの文章はやっぱりうまい。そんな感慨を抱きました。
告別式は一戸で、という記事に、郷里を愛した三浦さんの思いを感じます。
わたしの本棚には、古本屋を探し歩いて集めた本が並んでいます。
美しい文体、深みのある物語、「一尾の鮎」を目指したすっきりとした文章は、日本語の美しさをしみじみと感じさせます。
どの作品が好きかと聞かれれば、そのときによって違うのですが、まずは「海村異聞」。張り巡らされた伏線と、伝承の中に血の通った人の生を描いてみせる技に感動しました。そして、「白夜を旅する人々」。まさに、この作品とは「出会った」のだと思います。運命に翻弄される家族。滅びに至る人物たちの思いに、ほかに術はなかったのかと。れんのいじらしさが、とても好き。「宇曽利湖心中」のどうにもならないやるせなさ。
「拳銃と十五の短篇」「素顔」「おりえんたる・ぱらだいす」「妻の橋」「繭子ひとり」「モーツァルト荘」。
どの作品も、いいのです。
もうずっと前から、下のお姉さん(「白夜」でいえば、ゆう)のお話を書きたいとおっしゃっていて、いつの日か読める日がくるのを楽しみにしていたのですが……。
わたしの心の中には、木橋を渡る妻の下駄の音とか、家族が身を寄せ合って乗る馬橇の音とか、土鳩の群れに混じる一羽の白鳩とか、そういう印象的な場面がいくつも残るのです。
北国の雪の風景。死の間際に、なんとか動く指でボタンをむしる父。アイスクリームをちびりちびりと食べる母。年末は鯨の肉を買い、愛犬は「カボネ」というブルドック。
わたしは三浦さんを私淑してきたので、ぽつりと放り出されたような気持ちです。
時間をとって、本を読み返してみようと思います。

「心の体操」岡本浩一

2010-08-30 05:46:20 | 哲学・人生相談
本当だ、赤い!
マクドナルドもケンタッキーもロッテリアも、ついでにジャスコやサティやさくらの百貨店の看板も赤い色が使われています。うーん、意識して考えたこと、なかったなあ。
わたしはパズル系の本が好きなのですが、図からじっくり読み解くものより、直感でさらっと答えられるほうが好みです。だから、答えがわからなくとも気にしないで解答を見る。いや、考えた答えが当たったらうれしいですよ。でも、どうしてそうなるのか、その理由にひざをうつのも楽しいのです。
岡本浩一「心の体操 元気が出る心理パズル」(光文社)。カッパノベルズではなく、カッパホームスという叢書だそうです。ノベルズ版なんですがね。多胡輝の「頭の体操」を意識して作ってあるようです。二十年前の出版。
ちょっと長いですが、こんな問題が紹介されていました。次郎くんは新人アイドル歌手Sの大ファン。しかし、Sにはあるテレビの大物プロデューサーKとの間に子供がいるという秘密を持っていたのです。一年前、テレビ出演の便宜をはかることと引き換えに、一夜をともにしたときにできた子供。しかし、Sは芸能活動を休むことなく続け、ファンもマネージャーもこの事実には気づきませんでした。「Sは、この秘密をなぜ隠し通せたのだろうか」。
わかりました? わたしはうっかりだまされました(笑)。
それから、災害時に避難命令に従おうとしない人には、頑固であるというほかにニュースソースが一つしかないことも特徴だそうです。(適切な対応ができる人は、二つ以上の情報を少なくとも一方はメディアから入手するとのこと)
先日読んだ「狼少女はいなかった」で覆された事例もいくつか出ていました。
中には学習に関わるものもありました。日本人は外国の人に比べて「長文の間違い探し」が苦手、とか。あとは、「思考力がいる科目」と「暗記力が決め手になる科目」、どちらを先に勉強するべきか、というものもありました。
「思考力」でしょう、そうでしょう。では、その理由は?
短期記憶を長期記憶に移行させるためには、暗記すべきことを頭に入れたら、あとはなにもしないこと。だから、寝てしまうのがいいそうです。もちろん、寝る前にテレビなんて以っての外。
あ、先程の問題の答えなんですが、えーと、わたしこのところ人権作文の校内選考をしていたんですよ。不思議なことに選んだ作文四点のうち三つが「女性問題」をテーマにしたものでした。
そういう状況だったのに、ジェンダーバイアスがかかっていた自分の視野の狭さに愕然。
そう、Sは男性アイドル、子供を生んだのはプロデューサーなんです。

「ダリアの笑顔」椰月美智子

2010-08-29 13:58:35 | 文芸・エンターテイメント
「転校生」! これって、あれですよね。「おれがあいつであいつがおれで」。椰月さん、確信犯の気がする。男女の双子、性格は正反対。女の子で野球をやっているぶっきらぼうな里央と、どうやら性同一障害らしい礼央。
小学五年生の健介を視点に、リトルリーグに所属する仲間たちや小学校のクラスメイトたちを描きます。すごいおもしろいから、これで一冊書いてほしいー。
綾瀬さんも内藤くんも魅力的です。椰月さん、小学生の男の子を描くのがやっぱり上手いですよね。
椰月美智子「ダリアの笑顔」(光文社)。このところまた椰月さんがいいですね。綿貫一家の娘(真美「ダリアの笑顔」)、母(春子「いいんじゃないの、40代」)、息子(健介「転校生」)、父(明弘「オタ繊 綿貫係長」)、それぞれの視点によるそれぞれの物語。
真美は三月生まれの自分が好きになれず、劣等感に悩まされています。でも、母が生まれたばかりの自分のために書いてくれた日記を発見したことで、だんだん自信が出てくるようになる。保険外交の仕事に疲れて苛々していた母が、どうしても一戸だてを買うと言い、違う仕事に就いたらなんと中学のときの友達とばったり。しかも二人も。新しい家では犬を飼うことになる。父は繊維会社で経理の仕事をしていて、インラインスケートを始め、母は空手を始めることになる。
連作ですから、その物語の後の部分が、ほかのパートによってわかるわけですが、わたしは断トツで「転校生」がよかった。すじだてもそうですが、真美の成長ぶりが。
彼女が「ダリアの笑顔」と呼ぶのは、級友の早紀ちゃんと、外ならぬ弟の健介なのです。編み物を通じて早紀ちゃんとは仲良くなり、そして、この健介の視点で見ると、真美はとっても頼りになるお姉ちゃんなんですね。ああ、いいなって。
両親のパートは三人称、子供たちは一人称です。視点の近さが、対象の客観性を表しているように感じました。子供たちの部分のほうが、わたしは好きです。
年のころからいうと、椰月さんにいちばん近いのは春子のはずなのですが。
でも、「あの頃から日々はずっと続いていて、自分はなにも変わってないと思いながら、当然ながら、いろんなことが変わってしまっているのだ」というのが、本当によく伝ってきました。
猛烈にハーゲンダッツクリスピーサンドが食べたいです。(わたしも、よく子供に内緒でおやつ食べます)

「市立第二中学校2年C組 10月19日月曜日」椰月美智子

2010-08-28 06:13:41 | 文芸・エンターテイメント
朝読書にちょうどいいショートストーリーズだと思ったんです。思ったんですが……。
その予感は外れでした。この構造的な造り! 読み終わってから座席表を手掛かりにひとつひとつ確認する自分がいます。
佐藤ひとみはダンスに夢中で、喧嘩が強い(らしい)荻野のことが好き。同じ班の隼人に好かれています。
高橋直也は、学年でいじめのターゲットになってしまった内海窓華とは幼なじみ。陸上部。遠藤浩介とゲーム仲間。
楠木瑞希は男の子からの視線を意識しすぎて卓球の試合に負けるような女子で、ヘアスタイルが決まらないのはチーコ(飯田知果子)に紹介された美容院のせいだと決めつけたり、わざと友人の消しゴムを自分のペンケースに入れて騒ぎ立てるような面倒くさい子です。小学校から仲良しだった穂香は、映画の好きなみちると親しくなり、瑞希自身はチーコと仲良くなりますが、なんとなくあやふやな部分もある。
学級委員の金子さんは親切ぶってるけど、実は意地悪で親しい友達はいません。遠足の班決めで穂香、みちる、瑞希、チーコは彼女と同じ班になりますが、穂香とみちるは金子さんのことが嫌いなのです。
2年C組38名のクラスメイトたち。一人一人の心理や状況にスポットをあてながら、ある秋の一日をクローズアップしていく物語です。椰月美智子「市立第二中学校2年C組10月19日月曜日」(講談社)。
椰月さんのうまいところは、特定の子のモノローグと、その子を周囲から見ている子との多視点を用意していること、そういう中で「金子さん」のような生徒の内情には踏み込んでいかないことではないか、と。
金子さん、とにかく外側からの描写です。不良っぽい佐伯も、お母さんの髪をセットするという物語を読んだあとにはシンパシーを感じるのですが、彼女にはそれがない。
同じように、この日も休んでいる瀬尾真の視点はありません。杉山貴大の回想で知るだけ。
それにしても、帯にはこの貴大が大々的に取り上げられていますね。「10時24分、貴大は里中さんを好きになる」
これは、嘘です。この日好きになった訳ではない。
わたしは、この物語で椰月さんのもっとも思い入れがある人物は里中秋穂だと感じました。彼女の行動は「体育座りで空を見上げて」の妙子によく似ているから。母への苛立ちとか。そうじゃないですか?
彼女への憧憬を抱く貴大にとって、こういう行動は予想外だろうし、秋穂自身も自分がそういう存在だとは考えていない。当たり前のことではあるのですが。日常の切り取り方がおもしろいのです。
椰月作品、思春期にヤンキー的なものに走る傾向があるように思うのです。破滅的な衝動がそうさせるのかしら。「ホットロード」世代?(笑)
まあ、それはともかく。
内面に踏み込まないといえば、玲奈と優美が二人で帰る章はひたすら台詞のみ、というのもおもしろいと感じました。
なにしろ学校で読んだので、実に「近い」感覚でした。でも、この学校、男女の机が二つくっついているのが驚き! そして、四時間めが終わったあとに、15分の帯時間(モジュール?)で学活。ひーっ、15分で何ができるの? 1時まで給食準備もできないとは! (でも、もう1時6分には食べ始めている……。)
さらに、5時間授業の日は週に三日もあるのですが。(うちは毎日6時間あります)
ああ、こういう瑣末なことが気になってしょうがないのはよくない癖ですね。
後半、人気者でありながら内海に対しての指導がうまくできずに困惑している北村先生の独白もありますが、保健の矢吹先生に共感します。
年を取るのは自由に生きていくこと。もっと手足を伸ばして生きていくことができる。
閉鎖的な暮らしの中にもやがて解放は訪れます。
今、どこか窮屈な思いをしている思春期の子たちに、読んでほしい物語でした。

「柏葉幸子が選ぶファンタジー集」

2010-08-27 20:11:13 | ファンタジー
昼休みはずっと図書室で過ごすのですが、ただぼんやりしているのもなんなので、ちょっと手に取ってみました。「中学生のためのショート・ストーリーズ④ 柏葉幸子が選ぶファンタジー集」(学研)。
中学生むきのアンソロジーなのですが、これがおもしろくて。柏葉さんの好みの世界も覗き込めるような、すてきなラインナップでした。
半分以上既読だったのですが、読み返してみるとまた印象が違う。
というのも、もともと絵本だった「はれときどきたこ」が文章メインに構成し直されていて。中の図版や一部挿絵を残して、文字が主体になっているのです。解説によると、この作品はそれまでのこどもむけシリーズとはちょっと違い、「ことば」についての警鐘を鳴らしているとのこと。言われてみれば、息子はこのシリーズの大ファンなのに、これは借り直してきませんねぇ……。
それから「しゃばけ」シリーズの白眉「仁吉の思い人」。挿絵が柴田ゆうさんじゃないんですぅー。
でも、この話、シリーズでいちばん好きなので楽しかった。もう内容をすっかり忘れてました……。
大好きな安房直子作品「だれも知らない時間」。展開も結末も全部わかっているのに、やっぱり美しいのです。柏葉さん作の「桃の花が咲く」もすばらしいです。
小泉八雲「梅津忠兵衛」。奥田裕子訳。基本的には「産女」がもとになっているようですが、やっぱり八雲は英語の国の人なんだと感じさせられました。
氏神から預けられた赤ん坊が、重くなってくる。その描写が、「四十キロ! 七十キロ! 百キロ!」って、単位は「貫」じゃないのね、と驚いてしまいました。
柏葉さんは円朝の「死神」がお好きだそうです。ファンタジーに近い面があるかも知れませんね。子供のころに好きだった本に関するエッセイもあり、ファンには贅沢な作品集になっています。「柏葉幸子」をファインダーにして読む小説には、また違う味わいがあるのです。
このアンソロジー、テーマ別にあと数冊あります。林家木久蔵とかパックンマックンとかムツゴロウさんとか菊池仁とか。
それにしても、この夏の図書室は暑くてなりません……。

「本日もご立腹なり」岡林みかん

2010-08-26 05:34:33 | 総記・図書館学
探し回りました。岡林みかん「本日もご立腹なり」。藤田香織さんのブックガイドで気になった本ですが、みごとに売ってない。発行がヴァレッジブックスで、日本人作家の本を滅多に見かけないというこても敗因ですね。
でも、地道に古本屋でみつけました。あると思って探せばあるものですね。読者からの怒りの手紙に、岡林さんが四コマまんがをつける、というコンセプトです。
さて、わたしは聞きたい。家庭訪問とはなんぞや。
この本に出てきた小学一年生の母、家庭訪問のために掃除をして花を飾って午後から年休取って待っていたら、担任はお茶も飲まずに資料をみながら「何の問題もない子」だと話して「お茶にも手をつけず」そそくさと帰っていったとのこと。
彼女の怒りの主張。家庭訪問なのに資料しか見ていない。「問題のない子供」だということをわざわざ訪問して伝える必要がどこにあるのか。学校での面談か、「問題のある子と希望者」だけにすればいいのに。
えーと。
それだと「家庭訪問のお知らせ」を配布した段階で「うちの子供は問題があるのか」とさらにショックだと思いませんか。しかも、それを全員に配られるのですよ。行くべき家にだけ配布する? とすると、プリントを見せない子の家では「問題ない子供だから家庭訪問はない」と判断してしまいますよね……。
近年、家庭訪問にはお茶菓子を出さないように学校から依頼があったり、中には玄関先での訪問に切り替えたところもあるという話聞きます。わたしは茶菓子は食べない派。
でも、必ず食べると豪語する人もいるし、かつて、もてなされているうちに、ラストの人が7時すぎの訪問になってしまった(!)という人も知っています。
この「京都 家庭訪問拒否の親・35歳」さん、もう十年は経っているかと思うのですが、その後の家庭訪問はどうだったのでしょう。雑誌掲載時・単行本・文庫とその都度許可をとったそうですが、考えは変わらないのでしょうかね。
結構、「怒り」のパワーって瞬時的なものだと思うのです。時間が経つと和らいでくる。怒り続けたままというのは難しい。
この本のほかの事例でも、共感できるものもあるけど、それは誤解ではないのかと思ったり、投稿者のほうに腹が経ったりするものもあります。(実際反論の投稿もあったようです)
息子の結婚式の引き出物として送った皿が、自分の家のものと違うと怒る主婦。業者のあざとさをアピールしていましたが、証言しているのは自分の妹。この人の記憶違いということはないのですか。それとも読者にはカットしてある部分に何か重要な根拠があったのでしょうか。
この本、どうも二回くらい売られたらしく、ラベルのあとが。まー、気持ちはわかります。うーん、岡林さんのまんが、本人も書いていたけどダジャレネタが多すぎて、あまりわたしの好みではなかったのです。
でも、巻末にひとつ、すごくおもしろいものがありました。昨今の外来語的な命名を嘆く投書(残念ながらこちらはカット)につけたまんが。
男女の双子に愛読書「赤毛のアン」から「杏」「切鳩」と名づけたいという若い奥さん。「国際人に育てたい」から「海外でも通用するもの」にしたそうです。で、「切鳩」は「ギルバート」。
旦那さんはこう言います。「……お前さー、音さえよければいいってもんじゃないだろ。名前にはちゃんと親の夢を託したいしさー」
で、どうなったか。女の子「大穴」(ダイアナ)、男の子「馬主」(マシュー)……。

「このマゲがスゴい!」ペリー荻野とチョンマゲ愛好会女子部

2010-08-25 05:11:21 | 芸術・芸能・スポーツ
ああ残念、知りません、勝新の俵で特訓。「米俵を相手にするシーンを知っている人は、女子部にはいれます」というところから考えると、わたしには入会できないのですね、よよよ……。
ペリー荻野とチョンマゲ愛好会女子部「このマゲがスゴい!!」。なんと、丸善で平積みでしたよっ。しかも発行は講談社。
わたしがこれまで見た時代劇で、もっともおもしろいのは、「江戸を斬る」です。小学生のころ、わたしは西郷輝彦が、友人は松坂慶子が好きで、よく語らったものです。(どういう小学生だ)
大学になって、その友人のところに遊びに行ったところ、なんと「再放送をビデオに録った」というではないですか! 短い滞在でしたが、わたしは見ましたよ、そりゃもう。
それも今となっては二十年も昔の話。この本を読むまで、わたしは大切な人を失念しておりました。
それは! 「健太郎坊ちゃま」です!
ペリーさんが、「名子役伊藤洋一」と言った瞬間、脳裏に彼のあのさわやかな表情が浮かびあがってきました。ああ、そうだよー、どうして忘れてたんだよー。
伊藤洋一くんは、関口宏演じる同心、石橋の一人息子役で、他にも「はぐれ雲」とか「天城越え」とかに出演。いつも少年の凛々しい演技を見せてくれて、すごく素敵でした。今、何をなさっているんでしょう。パソコンで検索しても同姓同名の別人しか出てこない……。
そして、松山栄太郎。次郎吉です。船越英二の「じい」! 懐かしい。
ドラマの話だけでなく、結構時代小説の話題も多いです。池波正太郎、不自然に「大女」の出番が多く、魅力を感じるのは太った女という考察、おもしろかった。わかるわかる。「鬼平」も「剣客」も読みましたー。
ペリーさんとともに、ミチヨさんとカスミさんという編集の方が語るのですが、これが全く「熱く」語らないというのがすごい。いや、盛り上がるシーンはあるのですよ。でも、だらだらした飲み会みたいになってることすらある。
司会の方は時代劇には興味がないらしく、ミチヨさんとダークな語りを展開するのがポイントなのですが、この人がどうしてこういう企画を立てたのか(時代劇好きな人なら違う展開になったと思われるので)ちょっと謎です。
巻末に「チョンマゲ検定」もあります。八割が合格の基準だそうですが、わたしは三割くらいでした……。鬼平行きつけの「五徳」を忘れていたのは無念……!

「花咲ける青少年」樹なつみ

2010-08-24 05:19:10 | コミック
もう頭の中が樹なつみの世界でいっぱいです。「花咲ける青少年」愛蔵版(白泉社)を、とりつかれたように読んでいます。(文庫もあったけど、百五十円くらいしか違わないのでこっちを買いました)
あー、こういう話だったなーと、懐かしみつつ、引き込まれます。
長編三作続けて読むと、結構共通するモチーフが伝わってきますね。わたしが感じたのは、「人を超える能力」「目的を同じうする人々の雑居」「年上の女性との運命的な恋」「出生の秘密」「異母兄弟」「羨望される立場にある者の孤独」「名家ゆえのしがらみ」といったところでしょうか。
幼い日々をギヴォリ島で過ごした花鹿。彼女は世界的な大富豪ハリー・バーンズワースの一人娘。ハリーは、十四歳を迎えた娘に「花婿探し」をゲームとして投げかけます。これから出会う三人の候補から選ぶようにというのですね。それが誰なのかすら教えてもらえないのですが、花鹿は三人の魅力的な男たちと巡り会うのです。
一人は、花鹿の愛したヒョウ「ムスターファ」の魂が転生した(と彼女は信じる)ユージィン。そして、ラギネイ王国の第二王子ルマティ。また、バーンズワースのライバル企業の息子カール。
彼ら、たいへんいい男ぞろいで、まさしく「花咲ける青少年」なわけです。
なぜ、ハリーはこのようなゲームを始めたのか。それは、花鹿にはある秘密があったのです。それは、ラギネイ王国の神座王マハティの血を引いているということ。
ラギネイ王国ではルマティの兄が王位を継承したものの、侍従による傀儡政治になっていきます。ルマティはアメリカに亡命したことになり、バーンズワース邸に滞在。このシナリオを書いたのは、ルマティの侍従だったクインザ。現在の国家の膿を一掃して、ルマティを新しい国王にしたいと考え、謀略に走ったのです。
あらしまった。ここまでに立人(リーレン)が出てこないではないですか。
彼は花鹿のお目付け役で、ファン一族の若き総領なのです。幼いころから花鹿のことを愛してきた彼にとって、花鹿が「誰か」を選ぶのはたまらなく辛いこと。しかし、まだまだ子供の花鹿には、恋とはどんなものなのかもわからない。
この二人が、恵まれた地位を捨ててお互いを「たったひとり」に選択する物語です。と同時に、ラギネイ王国という旧弊な国が、近代化した歴史と今後どういう道を選ぶかを描いてもいます。そして、その背後には、マハティという偉大な王の伝記的な生涯が記されている。
わたしは、なにしろこの最初のエピソードを雑誌で読んでいるので、なんというか、華々しい登場人物よりも、その血と面影を受け継ぐ二人を思うフレドの思いに揺さぶられます。
そして、わきを固めるキャラたちがたいへん魅力的です。人気投票第一位だったという立人はもちろんものすごくカッコイイ。わたしはノエイ少尉とツァオさんが好き。
ところでこの本は新しい版として刷り直したそうです。トーンも加えているそうですが、まだ誤植が残っている。巻末に誤植が多いという話題も紹介されていましたね。
アニメ化したとのことですが、今なら彼ら「イケメン」呼ばわりされるのでしょうか。そういう感じじゃないですよね。

「八雲立つ」樹なつみ

2010-08-23 03:32:44 | コミック
実家でとりつかれたように樹なつみのまんがを読み返すわたしなのでした。
忘れもしない、「螢たちは笑う」の後編が載ったララを買ったのが、樹作品との出会い。衝撃的なラスト、魅力的な登場人物、作品全体を取り巻く言いようのない寂寥。すっかりリンくん(しまった、携帯では字が出ません。あめかんむりに林)に心奪われて、「朱鷺色三角」を買い、「パッション・パレード」を買い、ハマった弟が持っていき……。
で、その弟が買い集めて実家においていったのが、「八雲立つ」です。全十九巻。
圧倒的な迫力で、読みはじめたら止まりません。
大学生の七地は、先輩に誘われて出雲の旧家を訪れます。そこで出会ったのが居合の達人である布椎闇己(ふづちくらき)。彼の家の神事を知り、七地のもつ剣がゆかりのものだと分かったことから、二人は残りの神剣を探すことになります。巫子である闇己と、鍛冶師の流れをくむ七地は、布椎家が守ってきた封印を守るための神剣探しにはうってつけなのでした。
闇己には底知れぬ力があり、神降ろしをして悪い念を封じることができます。
出生の秘密や一門の総主としての責任、類い稀なシャーマンの力などから、相手に高い壁を感じさせる闇己ですが、なぜか七地には気を許し、五つの年の差もないように過ごすのでした。
七地の妹夕香をはじめとして、シャーマンとしての力をもつ人物たちも集まり、様々な事件を解決しながら古代出雲族の怨念を封じていこうとするのですが……。
うーん、うまくあらすじがまとめられません。こういう話ではあるけど、それもある「側面」でしかないような気もするし。
とにかく全巻、読みはじめたらノンストップです。ご先祖の古代編にあたる部分も平行して描かれていますので、脈々と続く彼らの「思い」が伝わってきます。
とにかく「敵」「味方」の一元的なものではない視点がすばらしい。
例えば、楠さん。あからさまに敵方の片腕でありながら、七地に弟の面影を見ているせいか見捨てることができない。後半の思いが、泣かせます。対立する忌部一族にも、七地たちの仲間になる男が現れますし。
読み返すのは数年ぶりですが、内容をおぼろげにしか覚えてなくて、非常にはらはらしました。(「朱鷺色」は連載からおいかけていたので、結構分かっていたのですが)
でも、これは忘れられなかった。七地がだまされて倉庫に閉じ込められる話! すごーくまずいジュースを飲んじゃうんだよね。
樹さんのつける章タイトルが、またいいのです。「隻眼稲荷」「衣通姫の恋」「入らずの深緑」「鐵輪の夏」「縁切り櫻」「由良と震えて」……。
ラストで、関東総領となる人物(ということは、一族の寿命ものびているってことだね!)の息子の名前が「晃己」だと知って、もう涙涙……。だって、「闇」と「光」でしょう。闇己にそっくりなこの男の子が生まれたとき、両親がどれほどの思いをこめたかと思うと、ぐっときてしまいました。
展開自体はたいへんスピーディーなので、おそらく一年ちょっとの間に様々な出来事があったものと思われます。
ここまで読むと、「パッション・パレード」と「八雲立つ」の間に連載されていた「花咲ける青少年」が気になるではないですか。実際、三巻までは買ったのですが、その後はずっと立ち読みでした。ああ、こういうときに本屋に行ってはいけない。愛蔵版を六冊一気に買ってしまいましたっ。
最後に、樹まんがでわたしがいちばん好きなキャラは、「ジョーカー」です。恰好いいんだよぅー。