くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

2016年ベスト

2016-12-31 06:28:04 | 〈企画〉
 今年はとにかく、忙しい一年でした……。
 受験の書類準備、卒業式、転勤、部活部活部活……。
 そのせいか、あまり読んでいないような気もします。読んでも感想をまとめる時間がとれなかったり。

 1 「燈火」三浦哲郎
2 「よっつ屋根の下」大崎 梢
3 「紙コップのオリオン」市川朔久子
4 「密話」石川宏千花
5 「ふたえ」白河三兎
6 「15歳の短歌・俳句・川柳2」佐藤文香・編
7 「ニセ科学を十倍楽しむ方法」山本 弘
8 「うずら大名」畠中 恵
9 「家庭用事件」似鳥 鶏
10 「レジまでの推理」似鳥 鶏

 三浦さんの未読の小説を、読めるとは思っていなかったので。しかも、これほど好みのタッチの作品だと、もっと続きが読みたくて切ないです。
 実際のところ、まだ読んでいない作品は数点あるのです。「百日紅の咲かない夏」とか「少年賛歌」とか「流燈記」とか。
 でも、やっぱり家族をテーマにした作品がわたしは好きなんですね。馬渕一家のシリーズ、また読み返したいと思っています。
 で、今年いちばん泣かされたのが「よっつ屋根の下」。女子高生の妹視点の作品が、もう泣けて泣けて。
 後悔を描くのが、大崎さんは本当にうまい。この一家に寄り添うような視点が、好きですねぇ。
 今年は市川朔久子さんの作品を知ったことも大きな収穫です。中でもこれが好き。探し回って購入しました。中学生の 純粋な思いと、式典が成功したときの場面の美しさに引かれます。
 石川宏千花、その他の作品はあまり読みすすめられずにいますが、「密話」はすばらしい。メアリーの悲哀となすすべのない絶望。小学生の前向きな姿が忘れられません。

 「ふたえ」は、ラストでそれまで見せられていた景色が違うことに気づく展開が好き。これは「家庭用事件」もそうなのですが、うまく騙されるのは心地いいです。
 騙されていることに気づいていない人も多いのではないかと感じさせるのが「ニセ科学」ですね。
 先日、例の水についての考察を本気で信じている生徒に出会ってしまいました……。違うよーとは、大人気ないような気がして言えなかった。う、うちの職員にこれを伝えている人がいるってことですかね。怖くて知りたくない。
 「うずら大名」はスカイエマさんの絵もいいし、展開が興味深い。今後も楽しみです。
 ラストに似鳥さんを二作入れてみました。「家庭用事件」はシリーズ五冊以上出ていてこの衝撃の展開! 一人称を効果的に使っていますよね。「レジまでの推理」は、理系ものメインの息子が気に入って持っていったもの。わたしも夫もミステリ好きなので何だかんだすすめていると思うのですが、珍しく自分で。
 似鳥さんが参考にしたという、大崎さんの書店ものは、息子の通う学校にわたしが寄贈したものなので、一回手にとってほしいんですけどね。
 今年は結構短歌や俳句の本も読みました。中でも佐藤文香さんのエッセイがおもしろかった。教科書に載っている人の他にも、いろんな作品があることを伝えていきたいと思います。特に現代短歌は、近代との間にパラダイムの変遷があるような。
 今年からの新しい教科書には、穂村さんや千葉さんの短歌が取り上げられましたが、そういう風も感じさせたいな。

 来年はもう少し、余裕があることを願いつつ……。
 今年もありがとうございました。よいお年を。

「マカロンはマカロン」近藤史恵

2016-12-30 10:28:53 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「ビストロ・パ・マル」のシリーズ、三冊めです! 「マカロンはマカロン」(東京創元社)。嬉しいクリスマスプレゼントですー。
 続編があるとは聞いていたのですが、前の二冊は文庫になったし、しばらく時間があいたので。
 「マカロンはマカロン」というメッセージで、姿を消したパティシエから焼き菓子が届きます。マカロンといわれてイメージするような、パステルカラーの可愛いものではない。
 このお店は三舟シェフの友人が経営している女性スタッフメインのレストラン。なぜ、彼女はいなくなったのか、香水と化粧を控えるように言われたせいなのか、なぜ焼き菓子を送ってきたのか。
 マカロンは、本場フランスでは卵白とアーモンドの粉を使った焼き菓子のこと。様々な種類のものがあるのだそうです。
 
 どの話も印象的ですが、ハートフルなのだと「ムッシュ・パピヨンに伝言を」と「共犯のピエ・ド・コション」、胸に刺さるものだと「ヴィンテージワインと友情」が心に残りました。
 それから、豚肉の様々な部位を少しずつ盛りつけてくれる「豚一頭分のロティ」がすごくおいしそうです!
 いってみたいなー。

「我ら荒野の七重奏」加納朋子

2016-12-29 22:13:11 | 文芸・エンターテイメント
 「七重奏」って、普通なんと読みますかね。
 この本は「セプテット」と振ってありますが。
 わたしは「しちじゅうそう」だと思うのですが、学校で表彰するときなど「ななじゅうそう」という方が多くて。(同様に「しじゅうそう」も「よんじゅうそう」と……)
 「我ら荒野の七重奏」(集英社)。本邦初の部活親の会小説です。
 この本が出たとき、仙台の本屋で手に取ったのですよ。
 加納さんだし、学校が舞台だし、どうしよう。でも、わたし自身が親の会と余りにも近すぎて、なんとなく敬遠してしまいました。その後、「青春と読書」のインタビューで興味をもったのですが、地元には売っていなかった……。

 中学校の部活では、親の会の存在が大きいと思います。送迎、差し入れ、場所取り、慰労会、総会、送別会、保険加入、などなど。
 わたし自身も息子の部活の親会では、会計担当者です。吹奏楽部の副顧問をしたこともあります。
 この小説では、中学生になった陽介が吹奏楽部でトランペットを吹きたいと希望したものの、楽器決めではファゴットの担当になってしまいます。
 陽子はなんとか変更してもらえないかと学校に乗り込みますが、もちろん受け入れてもらえるわけがなく。
 ホールの場所取りで二日間交代で並んだことから、陽子たちは「ゴルビー」とあだ名するおじいさんと知り合います。(ゴルバチョフにそっくりなんですって)
 この方が実にいい味出しているので、ぜひご注目ください。
 例によって陽子らしい猛進ぶりで、ぐいぐいと改革していきますよー。

 演奏のために打楽器を保護者が車で搬入とか、会場まで公共交通機関を使用して保護者が引率とか、地区大会で銅賞なのに全国大会を目指すと宣言する保護者とか、こちらとはずいぶん違うと感じました。
 吹奏楽コンクールは、地区大会、県大会、東北大会、東日本大会、で金賞受賞してその中から選ばれないと。かなり、相当、狭き門です。
 確かコンクールの使用楽器は、各校担当を決めて持ち寄りでした。搬入は業者さんがしてくださいましたし、生徒は借り切りバスで移動します。 
 親の会の活動を避けるために、わざと会がない部活を選ぶ方もいるそうですよ。
 

「東京すみっこごはん 雷親父とオムライス」

2016-12-27 23:12:49 | 文芸・エンターテイメント
 「東京すみっこごはん 雷親父とオムライス」(光文社文庫)です。
 今回は有村さんという「雷親父」が活躍します。
 彼は妻を亡くしてから一人で暮らしていますが、再開発エリアにその住居が引っかかっている。
 すみっこごはんの場所も、同じように対象とされているので、NPO代表の渋柿もすったもんだしているのですが、情報によると開発会社は何年も前からスパイのような社員を派遣していて、内部から切り崩しにかかるのだとか……。
 でも、ここは楓のお母さんの思い出が残る場所。
 彼らはなんとかしたいと思うのですが、説明会にはなんと常連さんたちが揃い踏み?

 優等生の少年が、有村さんに出会って考えを変えていくのがおもしろい。わたしも感化されてお昼にオムライスを作ろうかと思ったのですが、今回は炒飯までにしておきました。
 ただ、夜はミートローフ作りましたよー。ゆでたまご(うずら)入れました。この日はクリスマスでしたので、ピザもあります。

「明るい夜に出かけて」佐藤多佳子

2016-12-25 19:14:10 | 文芸・エンターテイメント
 なんか、ポップカルチャーっていうの? そういうの好きな人におすすめしたい。佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」(新潮社)。わたしのイメージでは、クドカン好きな人とか。違うかな。
 「俺」(富山一志)は、ネットでコンプレックスにつながることを暴露されて大学を休学し、友人永川のおじさんのアパートで一人暮らしを始めます。
 彼はコンビニの深夜バイトをしており、そこに現れた妙な女子高生佐古田が、自分の好きなラジオ番組のノベルティグッズを持っていることに驚きます。とにかくめったにもらえない。パーソナリティの心をつかんだ投稿に与えられる缶バッジ。しかも、2つ。
 もしかして、ラジオネーム「虹色ギャランドゥ?」と、思わず呼びかけてしまい、以来親しくなっていく。
 バイト仲間で「歌い手」の鹿沢も加わり、4人でいろいろと話したりネットで何かやったり。
 彼らの心をつかんでいるのは、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」。
 とにかく、この番組が好きなんだなあ、と思わされる一冊。佐藤さん、年齢を考えると非常に若者向けの内容かと思うのですが。なんかリスナーの心理とか。
 でも、わたしが中学生のころからラジオに投稿する同級生はいたかー。現在も通勤時はラジオを聴いていますが、常連さんは覚えますよね。
 わたしには未知のことがたくさんありました。コンビニの仕事も、見方がかわりそうです。

「三鬼」宮部みゆき

2016-12-18 20:01:02 | 時代小説
 「三鬼 三島屋変調百物語」(日本経済新聞出版社)、良かったです。
 待ち望んだ四冊め。おちかの身辺も移り変わります。
 正直、青野先生の決意はショックでしたが……。
 
 「迷いの旅籠」は、山中の村に「おばけ」が出た話。死んだ肉親に会いたい絵師が行ったことは……。
 「食客ひだる神」、だるま屋さんの弁当がすごくおいしそうなんです。この仕出し屋さんが、夏の間はなぜ営業しないのか。それは、ご主人に憑いているひだる神を太らせないため。神様のダイエット!
 ユーモラスでしみじみとしました。
 宮部さんは陰と陽の話を交互に意識して語っているそうですが、こちらは陽ですね。ひだる神との交流が、柔らかいものを感じさせてくれました。
 「三鬼」は、冒頭の妹のエピソードだけても腸が煮えくり返るような思いを感じましたが……そのあとの、鬼も、開拓の村も、そこにしか行きようのない人々も、もうみんなつらい。
 「三」というからには、やはり村井も須加も、鬼だということなんですよね。欣吉の姿も哀れです。
 「おくらさま」。よくこんな設定を思いつきますよね……。
 尋常ならざる老女が語る火事と、香具屋の蔵に住む「おくらさま」。それは、おちかの夢なのか。
 それ以上に青野先生のゆくたてと、どうやらおちかと縁のあるらしい瓢箪古堂の勘一さんの登場が、これから先の物語のことを想像させられました。

「校閲ガール トルネード」宮木あや子

2016-12-13 19:33:16 | 文芸・エンターテイメント
 ドラマ「地味にスゴい」、楽しみに見ていました。
 「校閲ガール トルネード」(角川書店)。三冊めにして貝塚さんと今井の名前が出たのは、ドラマ化のためなのでしょうか。
 「アラモード」が番外編的位置付けだったので、今回はストーリーが動いて楽しかった。
 悦子とアフロくんが、進展します。(「朝チュン」には驚きました)
 この本を読む前日が最終回だったので、どれくらい原作の影響があるのかと思っていたのですが、幸人を「ゆっくん」と呼んでいたので、それを採用しなかった脚本家さんの考えのようなものを感じました。
 実際、悦子と幸人は恋人としての道を選ばないという点では共通しているのです。
 ドラマはモデルをクビになって執筆に専念し、ノンフィクションの分野で認められるという展開でした。
 小説は、モデルとしては成功し、ミラノへの転居を求められます。
 悦子は希望する部署に近いところに一時所属しますが、実は文章が書けないことに気づいて愕然とします。
 あー、でも確かに、ウェディングドレスや結婚指輪の区別をキャプションにするのは難しい……。
 また、悦子がちょっと普通の女子とは違うことにも気づかされて。
 シリーズって、人物たちの個性がどんどんわかってくるのがおもしろいですよね。
 

「ランチ探偵」水生大海

2016-12-11 19:43:50 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 図書館で、なんとなく目についた文庫二冊。水生大海「あなたの謎、預かります」(PHP文庫)、「ランチ探偵」(実業之日本社文庫)。
 初読みです。他の作品も気になります。
 「あなたの謎、預かります」は「結城屋質店の鑑定簿」とサブタイトルが入っているので、シリーズになるのでしょうか? 「てのひらの記憶」というタイトルを改題したのだそうです。サイコメトラーもの。ものの記憶を聞き取ってしまう円は、大学の同級生深見の持ち物からは感情が読みとれないことに気づきます。
 深見はトップクラスの技術をもちながら、リストカットする女性の絵ばかりを描き続ける変わり者。その彼の部屋の隣の部屋で、同じように自殺した女性がおり、その直前に円の家・結城屋質店を訪ねてきたのです。
 しかし、持ち込まれた品々からは、女性を慈しむ母の思いが伝わってくるため、預かりはできるが買取はできないというやりとりをしていたのでした。
 祖母や、いとこの「ダダ」、大学の溝口先生、高木先輩、警察の藤堂さんといった個性的な人々とのやりとりも楽しい。

 「ランチ探偵」も改題してあって、もともとは「ランチ合コン探偵」だったそうです。
 経理部の同僚麗子とゆいかは、ふとしたことから親しくなり、一緒にランチ合コンへ。遠距離恋愛の果てに失恋した麗子は彼氏がほしいようですが、ゆいかはとにかく謎解きを求めていて、合コンなのに話題は暗号とか真相の究明へ。
 わたしは移動弁当販売の「金曜日の美女はお弁当がお好き」と、グリムがモチーフなのにやたらとシャレを連発する店を舞台にした「帝王は地球に優しい」がおもしろかった。
 

川島隆太講演会

2016-12-06 20:29:01 | 〈企画〉
 川島隆太先生の講演を聞いてきました。
 十年前に聞いたことがあるんですが、新しいデータも加えてあっておもしろかった。
 基本的には、前頭前野を自分の力で育てていくにはどうすればよいかを話しているのですが、キーワードは「基本的生活習慣と、家族とのコミュニケーション」です。
 テレビやスマホは、脳には毒にしかならない。
 それを突き止めて発表したところ、日本のテレビ局からの取材は一切こなかった(笑)。(海外からのリアクションはものすごくあったそうです)
 テレビは都合のいい情報を選んでいる、というメディアリテラシーの側面もありました。
 仙台の中学生の追跡調査。スマホ使用する・しないと学習する・しないを比較し、数学のテストの平均を出します。
 学習しない・スマホしない63点。学習一時間・スマホしない72点
 学習しない・スマホ三時間54点。学習一時間・スマホ三時間61点
 スマホをすると、学習内容が消し飛んでしまうのだそうです。原因は不明とのことですが。
 また、最近赤ちゃんをあやさないお母さんが増えているともいいます。授乳中のスマホ、「いないいないばあ」のアプリなどを使うため、感情を表に出さないサイレントベイビーも増えているといいます。
 
 脳の働きが弱いというのは、学力が低いとイコールではありません。すべての可能性が低いのだそうです。
 脳はテレビやスマホに触れると制限されてしまうので、例えば調べものをするときに紙の辞書なら活動が見られるのに、ネット検索だと働かない。(動物実験して検証できないケースだとの話に、笑ってしまいました)  
 一番効果的なのは、朝ごはんのおかずを増やすのだそうです。品目は多い方がいい。普通の考えをする人は「肉・肉・肉」とはならないでしょう。効果的な品目を知るよりも、ハードルを下げて実践しやすくするのが大切だそうです。
 また、家族と話をしたり一緒に料理をしたりするのもいい。さらに、ほめることも脳の刺激になるとのことです。
 最近教育にもITCの活用をと盛んに言われますが、脳には抑制がかかるので全く効果はない(情報が残らない)と聞いて、なるほどと思いました。
 わたし自身アナログな考えで授業をしているので、そういう活用には手を出していません。
 学習は、内的な動機(好きで勉強する)が最も伸びるのだそうです。外的動機(よい点数やご褒美。叱責も含む)は余り意味がない。
 成長期に楽で便利なことをさせるのは教育か。
 川島先生が最後にいわれた、この言葉が印象的でした。