くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

2010年ベスト

2010-12-31 06:28:56 | 〈企画〉
もう2010年も終わりですね。年末、気ぜわしく過ごしています。
で、今年のベスト。
1「声出していこう」朝倉かずみ
2「つづきの図書館」柏葉幸子
3「デーモン聖典」樹なつみ
4「おふくろの夜回り」三浦哲郎
5「薔薇を拒む」近藤史恵
6「ロン先生の虫眼鏡」光瀬龍+加藤唯史
7「風にもまけず粗茶一服」松村栄子
8「高校生のためのメディアリテラシー」林直哉
9「ヨシアキは戦争で生まれ、戦争で死んだ」
10「あんじゅう」宮部みゆき
今年は児童書四十冊、一般百九十冊くらいですかね。
「声出していこう」は、各パートが最後の一文でつながっていき、本文が終わるとある少年の物語が浮き上がるシステムになっていて、実際には描かれないその部分にいたく心引かれたのですが、わたしのような読み方をするのは珍しいらしく、あちこち検索してみたのですが、少年を「犯人」と推定する人はいましたが、ほとんどは通り魔事件のごく近くにいながら脳天気に暮らす登場人物のあっけらかんとした生活がおもしろいという意見でした。そうだからこそ少年の「闇」が浮き上がると思うのですが、深読みしすぎなんでしょうか。
今年はいろいろありましたが、いちばんショックだったのは、三浦さんが亡くなったことですね。新聞記事を読むだけで苦しい。ちょこちょこと作品を読み返しています。
そして、樹なつみ作品に没頭したことも忘れられません。どの作品もドラマチックで素敵です。すばらしい。今「OZ」の中間部分が見つからず鋭意捜索中。五年ほど探し求めた「ロン先生」を、今年立て続けに見つけたことから、地道に探していきたいと思っています。
近藤さんの新作もどれもよかった。「エデン」も「あなたに贈る×」も「砂漠の悪魔」も。
いろいろと忙しいうえに自分の未熟さも感じさせられた一年でしたが、充実していました。
来ていただいた皆さん、ありがとうございます。引き続き2011年も、よろしくお願いします。

「先生、ここがわかりません!」岡野宏文×豊崎由美

2010-12-30 05:59:23 | 〈企画〉
ダ・ヴィンチで、かつてこんな連載があったことをご存知でしょうか。トヨザキ社長と岡野さんのコンビが、中三の教科書について語り合うという趣向です。「先生、ここがわかりません! 岡野宏文×豊崎由美の中三国語再入門」
このお二方、「百年の誤読」以来継続的に文学対談をされていて、結構書籍化も多いのですが、このシリーズは十回で終わってしまった。おもしろいと思ったんだけどなー。やっぱり、「本」として手に入りにくいですものね。
光村、東京書籍、学校図書、三省堂、教育出版の教科書を大人の視点で読み直していく連載です。
共通して採択される教材もあれば、同じようなテーマでも違う教材があります。
二人が語るのは、まず「現代文学」。採択されているのは、村上春樹、井上ひさし、江国香織、重松清、伊集院静。教科書ガイドを手元に、各章の設問を考えてみる。
続いて、「論理と情報」メディアについての評論ですね。トヨザキさんが「ゴールデンスランバー」からメディアに関する警鐘を読み取っているのはさすが。
あとは「海外文学」、「エッセイ」、といった対談が続きますが、中でも第五回「定番教材」編が興味深いです。具体的には魯迅「故郷」。どの教科書にも載っているのですが、それはなぜか。
アジア系で、三十枚前後だから載せやすいんだそうです。翻訳というと、どうしても欧米に偏りがちになるってことで。
お二人は、主人公が久しぶりに会う母親にたいして冷たいとかルントーを見下してるとかヤンおばさん犯人説とかいろいろ述べていますが、こういう読みができるのはおもしろいよねぇ。
わたしは「なぜ、ルントーは再会の場にスイシュンを伴ったのか」がこの小説の中心だと勝手に思っているのですが。
それから、「詩」について高村光太郎をぼろくそに言っています。「教科書から高村光太郎を一掃する会」まで結成しています(笑)
途中で岡野さんがけがで欠席しちゃって、社長が「小説」とはなんぞやということを語っていますが、彼女のあげる参考図書、わたしは一冊も読んでないなあ。かといって、理解できないわけでもなく。
実のところ、わたしは教科書に載っている作品のほとんどに好意的ではありません。でも、その作品をどう伝えるかは、好悪を越えたところにあると思うので、ニュートラルに取り上げているつもりです。
でも、いっつも長くなっちゃって、今年は週辺り一時間増やしてもらったのに、まだ「故郷」にたどり着かない。
ところで、教科書がでかいのに全く慣れないわたしなのですが、もうもとのサイズには戻らないのでせうか。ぱっと目に入るくらいの文章の長さってあるでしょう。
社長は挿絵がない方がいいとおっしゃいますが、それはものによりますね。
取り上げられた教科書は再来年改訂になるはずですが、次はどんな作品が載るのでしょうか。あー、お二方に古典作品や他学年の作品についても語ってほしかった……。

「千波万波」波津彬子 ほかまんがあれこれ

2010-12-29 02:31:19 | コミック
やっと見つけましたー。十件近く本屋をまわって、やっと。波津彬子まんが家三十周年記念「千波万波」(朝日新聞社)。感激です。
半分くらい再録なので、「雨柳堂」も「ヴィルヘルム」も「夏深む」も「姫の恋わずらい」も持っているんですが、でも満足です。「橋姫」はやっぱり良いー。
「雨柳堂」と「うるわしの英国」シリーズのコラボとか気になる釉月さんのその後とか、ロングインタビューとかデビュー作の再録とか、いろいろ楽しい企画だったと思います。
わたしは十年くらい前に活動されていた「波万波」(波津先生のスタッフのみなさんがしていた会報)も購読させていただいたので、そのときの雰囲気も感じられておもしろかったのです。かまたきみこ先生の「胡乱堂の連」とかね(笑)。
ファンにとっては満足の一冊です。
巻末のリストによると、単行本未収録のショートストーリーが結構ありますね。読みたいなー。
たくさんのまんが家の先生方からお祝いメッセージが寄せられていますが、伊藤潤二の「怖い蓮」……。夢に見そうです……。

まんがはこの本を探し求める過程で、かなり買ったのです。
羅川真里茂「いつでもお天気気分」④が出ていてびっくりです。ひょえー。六年ぶりだそうですが、その③が出たときもびっくりしたので、なんだか妙な気分です。というよりも③の内容を覚えていないことにも驚き、さらに絵柄がかーなーりデフォルメされた感じになっていてショックでした。
でも、おもしろく読みましたよ。秀ちゃんが好きなので、やっぱり主演はうれしいです。
しかし修学旅行かあー。まだ高二なのかー。なんかタイムカプセルを開いた気持ちになりました。
今市子「萌えの死角」②。迷うことなく買いましたとも。山登りがお好きなんですね。大河ドラマや観劇の話題もおもしろかった。ふとしたことを掬いあげるのは、こういうエッセイにも現れていて、やっぱり今さんは演出の人だと思いました。
芳崎せいむ「金魚屋古書店」の新刊、はじめの店にあったのにお金が足りずに諦めて、そのあと行けども行けども見つからず、わたしは夢でも見たのかと思いましたが、無事発見。
「デカガール」④も買いました。奥菜さーん、負けるなー。
あとは、満田拓也「メジャー」の最終巻ですね。結構長いこと読んできたので、キャラクターの一言一言にじわーっときました。寿くんがスタンドのお母さんを見つけるところとか、吾郎が打者として復帰するところとか。
「メジャー」なのに、メジャーリーグでの活躍ではない部分でラストを迎えるあたりが、なんともいえません。繰り返し描かれる父という存在とのつながりがいい。(吾郎に限らすジュニアとか、いずみとかもね)
わたしは茂野さん(義父)が好きなのでした。

「星を守る犬」村上たかし

2010-12-28 05:26:32 | コミック
大掃除をしていたら、夏ごろに書いたメモを見つけました。
どうでしょう、村上たかしの「星を守る犬」(双葉社)は、名作なんでしょうかね。
当時まんがコーナーの中でも別陳列になっていたし、「泣ける本」とかなんとかいろいろな媒体で好評だったでしょ。
「泣ける」というキャッチコピーは基本的に嫌いなのですが、わたしの周囲では結構評価が分かれたこともあって、借りてみました。
買った人(四十代男性)「全然おもしろくない。読み終わってごみ箱に捨てようかと思った」。立ち読みした人(三十代女性)「本屋で泣いてしまった。家にあっていい本」
で、わたしは、というと。すみません、悪いけど心に残りません。筆者は泣かせようとか感動させようとしてこの話を書いたのではないだろう、ということは感じました。
読み終わって、猛烈に腹が立つのは、「お父さん」の財布を盗んで姿を消す少年です。その中板橋に入っているのは全財産。少年は放浪しているところを助けられ、親切にされている。シャワーをし、食事をし、適切な窓口を紹介しようと言われる。それに対して「よく考え」た結果が、盗み。
巻末には北海道の祖父のもとに向かう姿が描かれているが、おまえ、ふざけるなよ。
祖父は行方知れずだった孫が戻ったその旅費を、人様から盗んだと知ったら、どうするのか。しかも、親切にしてくれた人の。それは恥知らずというものでしょう。
さらに、巻末に描かれる「お母さん」。支える自信がないから離婚、そして介護の資格をとろうとしているのですが、これは、痛烈な皮肉ですよね。介護対象はもちろん「お父さん」ではないわけです。
パートに出ることをはじめ、なんやかんやの「相談」を「フォローする」と言われたことを根に持っているような感じですよね。離婚については、「もう相談の時期は過ぎた」と言ってるし。
でも、これまでの相談も、「相談」だったのでしょうか。例えば、パートに出るのを反対してほしかったの? こういう人は相談という形をとりながら、実は自分の決断を語るのですよね。
要するに、家庭から飛び出したかったのでしょう。リストラされて犬の散歩しかしない夫、ぐれた娘、自分だけなら自由に生きられますものね。
家族を失った「お父さん」は、犬と旅をします。一文なしになって、結局は行き倒れて。そんなに彼が悪いのかというと、不幸な巡り合わせだったのでは、としか言いようがないのですが。
「お父さん」が命を失っても、なお側にいようとする犬。
確か帯には、娘が読後涙声で「お父さん……」と呟いたと重松清が書いていたと思うのですが、これを読んで「お父さん……」と呟くのは普通ですかね。
彼には、名前がないのです。途中で偽名が使われますが。でも、わたしは申し訳ないけど彼の人生に思いをはせることはありませんでした。
泣かせるのは、犬でしょう。ハッピーと名付けられたこの犬、一途に飼い主を信じるこのいじらしさ。これが物語を支えていると思います。
「星を守る犬」というのは、「手に入らないものを求める人のこと」なんだそうです。
コミックスには二作収録されていますが、この話は夜の物語だと思いました。そして、続編にあたるのがケースワーカーの物語です。こちらは昼。
行き倒れという不幸な死を迎えた男を悼む物語。
あの少年に行き先を相談できる窓口を紹介できると言いながら、「お父さん」は自分ではそれを選択しないのです。
わたしには、この本を好きにはなれません。でも複雑な気持ちです。
現代のお伽話とでもいえばいいのでしょうか。
ざらざらした感触が、まだ胸に残ります。

「背表紙は歌う」大崎梢

2010-12-27 05:40:48 | ミステリ・サスペンス・ホラー
当方、積雪四十センチを記録しまして、買い物に出ようと車をバックさせたところ、三回切り返したらタイヤを取られて動かなくなったのでございます。車の周囲を雪かきすること三十分、やっと脱出。ああこのまま、雪どけを待つことになるのではと思いましたよ。
しかし、そのために予定が狂いました。夕食準備前に読み終わるはずだったんです。
大崎梢「背表紙は歌う」(東京創元社)です。書店営業の井辻くんを視点にしたシリーズの二作めです。これがよかった! とくに表題作は涙じんわりです。
ジオラマ作りが趣味の井辻くんが頼りにしている久保田さん(ドールハウスを作るのが好き)には、新潟の書店に嫁いだ過去があり、その店の窮地を耳にして不安がっています。なんとか力になりたいと考えた井辻くんは、新潟出張中の真柴とトラブルの原因を探っていきます。
その中で、継母だった久保田さんを今も慕うマリちゃんのブログに行き当たる。「本と音符と刺繍糸」というタイトルに、じわーっと目頭が熱くなりました。もちろんラストシーンも、染みます。すばらしい。
「新刊ナイト」もいいです。非常にダークな高校生活を送ったらしい作家の白瀬みずき。サイン本を作りに行くことになった書店のスタッフがどうも同級生らしいと知り、パニックになったりしないかと気を回す話なのですが、文中に挿入されているエピソードに揺さぶられます。
「譲りたくないもの、守りたいものがあるって、すごいことだよ。たとえ小さくても、心に決めたものをぎゅっと握りしめ、君には君の道を進んでほしい」
いいですね。卒業文集で使おうかしら(笑)
どの話も書店員さんならではのエピソードが盛り込まれていますが、今回は書き下ろしで「成風堂」とのつながりも書かれています。いやその前に「影平紀真」ってあるからもしやとは思ったんですけどねー。内藤くんから新刊の帯に推薦文、多絵ちゃんからはなぞなぞが届きます。
読み終わって、ついつい久世番子「本棚からぼた餅」(新書館。非売品)を読み直してしまいました。大崎さんと一緒に取材に行った話とか載ってます。メインは注文書の裏で連載された「暴れん坊営業さん」だったので、なんかすごく世界が近かった。というより井辻くんのイメージって、わたしにとっては「かーやまさん」なんです。(詳しくは「暴れん坊本屋さん」参照)
内藤くんも出ていましたよー。

「YOU!」五十嵐貴久

2010-12-26 11:15:11 | 文芸・エンターテイメント
えっ、ジャニーズに女子が加入?!
そんなあおりじゃなかったでしょうか。五十嵐貴久「YOU!」(双葉社)です。気になるよねー。わたしは別にジャニーズファンじゃないですが、そういう特殊な環境で女子がどう活動するかは興味があります。
まあ、実際にジャニーズという呼称を使うわけにはいかないので、文中では「マックス・プロモーション」という組織になっております。
両親が渡米してしまい、一人残された十八歳の小沢優。英会話学校への進学は決めているものの、どちらかといえば大好きなダンスを続けたい女の子です。で、生活費を捻出しようと「ガメラVS.ギャオス 最後の聖戦」のエキストラオーディションに向かいますが、連れていかれた先にいたのは同年代のイケメンばかり揃った会場。不思議に思いながらも言われるままにヒップホップダンスを披露しますが……。
結局間違われたことを訂正しないまま、優はマックスの合宿所に入ります。もちろん男として。日当五千円、好きなダンスの練習が思う存分できる、そしてバックダンサーとして認められれば大好きなアイドルグループ、ジェッツの増田俊の近くにいられるかも! そんな期待もありつつやってきた優は、同じ部屋の直也・聡・ミノルとチームを組んでデビューを目指すことになります。
というのも、夏にデビューが決まっていたストラップ・ブルーのメンバー青山が飲酒運転で捕まり謹慎処分をうけたから。マスコミには知られていませんが、デビュー前から人気のある青山はアメリカ留学ということにされ、代わりのグループをデビューさせるかもしれないというのでした。
しかし青山は、ぜがひでもデビューしたい。マックスでは彼らを含むオーディションで、デビューするチームを決めることになります。
ライバル視された優は、レッスン中青山にぶつかられてケガをしたり、オーディションを辞退するように迫られたりします。
女子であることを隠しつつ、男子に混じって互角以上のダンスをしたり、チームの仲間聡に恋心を抱いたり、こういう話は結構好きなんですが、どうもなんかしっくりこない。
映像(まんが的に)として浮かぶ部分としてはいいんですが、ディテールに不満があります。
まず、アイドルの増田俊について。大ファンだといいつつ、その場かぎりの説明しか出てこない。好きだったらその前の部分で部屋にポスターがあるとかCDを聞くとかそういう描写があっていいものではないでしょうか。「中学、高校時代はある意味ジェッツのためにあったようなもの」なんて言ってるだけではごまかされないぞ。さらに合宿所入りしたあとも、少しは近づいただろうにもう名前すら出ないのです。
それから、スーパーマックスというチームで活躍していた大倉部長が、現役時代に自分とほかのメンバーのダンスレベルが違いすぎてバランスがとれなくなり解散した経歴をもちながら、どうして青山のワンマンチームをデビューさせようとするのかもよくわかりません。バランスが大切なんだよね? あきらかにほかの三人は発言権なさそうですよ。
デビューといえば、優も知り合いに見られたら自分が女子であることは知られてしまうからそれはできないといいながら、チームワークで青山たちに勝とうと言うのはどうかなー。青山がパソコン検索で何を調べたかなんて、前後の文脈から誰にでも分かると思うのに、辞退を迫られるまで気づかないのもどうかなー。さらに、足を傷めたときの保険はどうなっているの? マックスの全額実費負担ですか?
まあ、いいでしょう、そのへんは。でも、このエンディングはどうですか。
半年後、優は自宅で一人暮らし。ダンスは続けているものの「趣味というレベルのもの」「三人の仲間がいないのでは、そんなにのめりこめるものではなかった」というのが、冒頭の「将来的にはプロのダンサーになることも視野に入れつつ、これから動いていこうと考えていた。(略)ぶっちゃけた話、専門学校ならいつでも辞めることができる」と矛盾しませんかね。三人がいたからこそあれだけ熱中したともいえますが、それはダンスへの情熱はそれほどのものではなかったのではないかともいえます。
結局恋で終わりってのは、ちょっと残念でした。このラストがよかったという人も多いかも知れませんがね。

「子規365日」夏井いつき

2010-12-24 21:55:33 | 詩歌
去年の正月に目標を立てたのです。毎日、「子規365日」(朝日新書)を読もうと。
でも、去年は駄目でした……早くも、一月で挫折。今年こそっ、とちまちま読みはじめたのです。いやーそれはもー、時々ためてしまって半月分まとめて読んだことはありましたが、夏井さんの名案内でなんとか十二月にたどり着いた次第です。
その間、「病床六尺」のまんがも読んだし、「坂の上の雲」のドラマも部分的に見ました。似てる! 香川照之。子規の「のぼさん」はわかるけど、どうして「真之」なのに「淳さん」なのか気になって気になって、立ち読みしてきましたよもう。
それはともかく。
俳句の世界で生きている子規という人のウィット。例えばこんな句があります。
「毎年よ彼岸の入に寒いのは」
お母さんが何気なく言った言葉を、そのまま俳句にしたそうです。
それから、どちらがいいと思います? 「若鮎の二手になりて上りけり」と「若鮎の二手になりて流れけり」。
以前研修でちょっと話を聞いたのですが、わたしは「流れ」のほうが好みでした。でも、講師の方は写生だから「上り」と推敲したのだろうと。うーん、その理由では納得がいかない。この本を読んで「若鮎」のみずみずしい感じを表すのはやはり「上り」なんだなと得心できました。「流れ」だと遡る鮎の力強い勢いは見えてきませんね。
同様に、こんなのも。「町近く来るや吹雪の鹿一つ」「町近く来るよ吹雪の鹿一つ」。
たった一字。でも違う。
夏井さんの解説がさらに見方を深めさせてくれます。「や」からは厳しい吹雪の中の「雄々しい悲壮感」が、「よ」だと人から餌をねだる鹿の「寒々とした哀れ」が読み取れるのだそう。切れ字の効果はすごいですね。
「もりあげてやまひうれしきいちご哉」の解説には、苺が好物だった子規のために、虚子と碧梧桐が「交代で朝の苺畑に通った」ことが書かれます。後のの確執を思うと、弟子として尽くす二人が目に浮かんできてため息が出るようです。
「凩や燃えて転がる鉋屑」はまさに写生! 紹介された中ではいちばん気に入りました。
「画室成る蕪を贈つて祝ひけり」は、新しい画室を開いた中村不折の祝いに行ったときの句。この日は参加者が持ち寄った具で闇汁をしたそうで、これを評して夏井さん。「まさか巨大な『蕪』が丸のまま投げ込まれたりはしなかっただろうなあ」というのです。可笑しい~。
夏井さんのものの見方と、子規の見たものの感じがパラレルで、なんだかとても近しいのです。途中に「坂の上の雲」に関する部分もありました。漱石や妹の律に対する句もある。ふと目にしたことを新たな発見として句作する、子規の手腕に感じ入る一冊でした。

「推理日記」佐野洋

2010-12-23 07:33:59 | 書評・ブックガイド
佐野洋「推理日記」一冊めを発見! 古本屋価格四百円でした。潮出版なんですね。
日記の連載を始める前に他誌でやった「ミステリー我如是閑」なども収録されていて、佐野さんがどういうきっかけでミステリー時評を書くようになったかもわかります。
しかし、この本に載っている作品、懐かしいを通り越している! もう入手できないんではないかと思うような。
わたしが読んだことのある作品はというと、「アルキメデスは手を汚さない」くらいしかない(笑)。しかも、赤川次郎が「幽霊列車」でデビューしたことに触れて、有望新人だと言っている!
わたしが中学生のとき、彼がすでに流行作家だったことを思うと、不思議な感じです。タイムスリップしたみたい? 言葉って、こうして閉じ込めておくことができるんだなーと、しみじみしました。
読んだことがないからといって、この本がつまらないということはありません。佐野さんの小説についての考えが、初期ゆえにダイレクトに書かれていて興味深いです。
視点や状況設定からのアンフェアではないかという問題。旧知の作家との作品についての会話。
中でも印象的だったのは、友人作家がホテルでカンヅメになって原稿を書いている場面を目撃して、前号も読み返さず、人物設定表も手元に置かず、よくもすらすら書けるものだと感心する部分です。わたしはかえって、佐野さんが作品世界を自分のインナーワールドに生かしていないのかと驚きました。
小説を構成するとき、登場人物の暮らしや他愛のないことって、自然に頭の中に浮かんでくるもののようにわたしは感じるのですが。たとえその場面を実際のストーリー展開には活かさないにしても、そういう部分がないとキャラクターは動かない。
これは、佐野さんがトリックや動機に主眼をおく作家だからでしょうか。人物はミステリーの味が伝わればそれでいいのかな。AさんBさんではあんまりだから設定しているだけ?
仮名という話題でいえば、地方都市や警察の設定をどうするかという話題もありました。実在の警察署を使うと、悪徳警官ものは書きづらい。架空の町にすると、どのような規模でどのような地裁があるのかを説明しなければならない。そんなネーミングに関わる話題を、生島治郎さんたちと熱心に語らっています。
そして、佐野さんは西村京太郎氏をものすごく評価していて、あふれるような物語とスピーディーな展開に拍手を送っています。でも、物語を構築する根本の部分にミスがあり、ある受賞を逸したようでした。トラベルミステリー以外の作品はもう書かないのかしら。初期の評判のいい作品群、気になります。
あとは「瀬峰次郎の犯罪」(だったかな)という短編が気になるのですが、でもどう考えても読めそうにないですからねー。
同じ本屋でもう一冊「推理日記」の前の方の巻を買ったので、そちらも楽しみですー。

「祝もものき事務所」茅田砂胡

2010-12-20 21:13:18 | 文芸・エンターテイメント
うううーん……。待ち望んだ日本ものがこれでは、ちょっと肩透かしというか……。
茅田砂胡「祝もものき事務所」(Cノベル)。平積みでした。その後訪れた別の書店でも。
おもしろいですよ。でも、わたしとは違う価値観のおもしろさなのです。もちろん、カリカチュアライズされているのはわかります。でも、家のあとを継ぐって、結構重いことだとわたしは思っているので、それ自体を「悪」として捉えるのは納得がいかないのです。作中人物に言わせれば、わたしも「囚われの身」なのでしょうか。でも、「悪」であるのは、立場を守ることしか眼中になくて子供たちをないがしろにした親たちであって、家督の問題とは少しずれるはずなのです。それを一緒くたにしてしまうから違和感が残る。
ちなみに、文章中に「悪」と書いてあるわけではありません。でも、あまりにも茅田さんらしい勧善懲悪物語だったこともあり、ううむとうなってしまうのです。
なにしろ、主人公は「ももたろう」です。犬猿キジそれに鬼とともに悪を倒す(ちょっと頼りないですけどね)のです。
百之喜太朗は無類の方向音痴。しかし、ある特殊能力のために事件の真相があぶり出されるのです。もともとは警察官だった百之喜は、冤罪事件を根底から覆すような証拠を次々と見つけますが、それは彼が有能なのではなく、事件が自分から近づいてくるというか……。本人には全くその気がないのに、なぜかそうなってしまうため、探偵としては役に立たず、かといって便利屋でもない、そんな事務所が運営されることになったのでした。
有能な美人秘書の凰華、幼なじみの犬槙(格闘家)、芳猿(役者)、鬼光(公務員。だけどハッカー)、そして弁護士のキジ名が協力して解決した事件は、おそらく百之喜がいなければ、真相は闇に葬られたことでしょう。
まー、要するに、異能者集団が自分たちの正義を通すために活躍する話なのです。
今回の依頼人は、弟が殺人容疑をかけられたため、婚約破棄されたという女性。物証もあるし本人も自白している。でも、一縷ののぞみをもって事務所を訪ねてきたのでした。
彼女の婚約者は、ある町の権力者の次男。百之喜はそれと知らず、真実に近づいていくのですが……。
いやー、これは読んでみないとこのけだるさとかやる気のなさが伝わらないと思うのですよ。このあらすじで間違いないとは思うのですが、ここだけ読むとちょっとハードボイルドタッチですもんね。
でも、帯に「なんちゃってミステリー?」とあり、さらに作者が「間違ってもミステリーではありません」といっているように、この物語はそういうジャンルにはあてはまらないと思います。ミステリーだと思って読むと、真犯人登場で「そりゃないよ!」と叫びたくなると思うので、くれぐれもご注意を。重ねていいますが、これはトラブルメイカーである主人公が、異能力ときらびやかな仲間たちの協力で、自分たちとは価値観の違う集団に「勝つ」話なのです。
だから、彼らと同じ視点を持っている方ならたいへん楽しいはずです。わたしは古くさい人間なので駄目でしたけどね……。
ところで、作中で鬼怒川弁護士さん(依頼人婚約者の叔母)が、大学時代が昭和の終わりごろだったと述懐していて愕然としました。わたし、昭和が終わった時期にちょうど学生だったのです。ということは、主人公よりもその親世代に近いのですね。うーん、だから納得いかないのかしら。

懸賞・全プレ

2010-12-19 13:14:23 | 〈企画〉
「獣の奏者」のオリジナルポストカードが当たりましたー。カバー挿画五枚セットです。わたしは「守り人」のポストカードも持っているのですが(促販グッズでした)、限定で貰えるとうれしいですね。
「天才探偵SEN」のカードも貰いました。これは全員プレゼント。新聞がついてくるというので期待したのですが、ちょっとチープでした……。
今年、結構応募したのですよ、出版社の全員プレゼント。まず、Yonda? のぬいぐるみ、絵本。図書室の装飾用に。同じく夏のバンダナ。多読賞の副賞にしました。
それから、秋月りす「おうちがいちばん」のカラー原稿が再録されているまんが本。どれも単行本で読んでいるにも関わらず、おもしろかった。秋月さんのまんがは繰り返し読んで味がありますね。
ほかに思いつくのは、数年前に貰った久世番子「本棚からぼた餅」。あっ、波津先生の手ぬぐいをいただいたこともありました。
角川文庫ポイントも地道に貯めていますが、どうもわたし好みでない……。ポイントでグッズをもらうシステム前のゲーム懸賞がよかったのですが。こちらでは「おふろでCD」をゲットしました。カラオケできるやつ。
中央公論のポイントプレゼントはいつの間にかなくなりましたね。
わたしの買い物のメインはどう考えても本なので、そこから派生していくものは結構興味あります。
セブンイレブンのまんが懸賞に応募するべきでしょうか。今年も「かまくら」を毎日食べているのですが。
でも、メルマガ入ってるのになんかエントリーできないし(やり方が悪い?)ほとんど読んだか全く興味ないかなので。