くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「黒祠の島」小野不由美

2011-11-12 08:42:17 | ミステリ・サスペンス・ホラー
小野不由美のモチーフは、「鬼になる」なのかなと思いました。この物語には、「馬頭鬼」である女が登場します。神領家の浅緋という娘で、守護役を務めます。戸籍がない、家の蔵座敷から出てこない、存在しているかどうかすらも危ぶまれる浅緋。
「黒祠の島」(新潮文庫)再読です。もうずいぶん前に読んで、そのときには「ミステリって話だったのに、こういう解決?」と、納得がいかなかったことを覚えています。超状現象での解決はどうかと思ったんですね。
てなわけで、祥伝社版は古本屋に売り払ったのですが、小野さんの本を続けて読むうちに猛烈に読みたくなって図書館を探したんだけどなくて、鬱屈としていたところ、よく見たらうちの本棚にありました。夫のが。まさに灯台もと暗し。
ぼんやりとしか覚えていなかったので、非常に緊迫して読んだのですが、浅緋による犯人追求の場面は意外と短かかったのですね。三十ページくらい。ものすごく印象に残っていたのですが。
神領家に伝わる「カイチ」伝説。血筋に現れる鬼子。誕生の時点でわかる身体的な特徴があるのだそうです。浅緋にはそれが顕著だったために、すでに決まっていた姉をさしおいて守護に就くことになったのだとか。
守護は「カイチ」と同じもの。そうでないこともあるのですが、浅緋は間違いなく「カイチ」だった。
先代守護の杜栄は知らないにしても、安良は実際に「カイチ」を知っていた人から話をきいていたのではないかと思われるふしがあります。その前の神官(女性)の面倒も見ていたし、浅緋を守護に据えた「まだ存命だった祖母」とは、「先代の母親」だと博史が言うので(326ページ)、つまりは安良の母なのです。
大江兼子はこう語ります。
「あたしのお祖父さんの時の守護さんは、とうとう一度も表に出てこんかった、って話だけどねえ。宮司さんになってからも本家にいて、それから間もなく亡くなられたらしいです。初めて表に出たときは棺桶の中に入ってござったという話でね」(198~199ページ)
この守護こそ、同じように「カイチ」なのではないでしょうか。棺桶は蓋を明けられることなく土葬にされたそうです。
博史は、先程の説明のあとに、守護のままで亡くなる例もあることを示唆します。そのことを隠して、「いるということでお役御免まで通す」。次の守護が立ったら公表する。
安良にとってはなじんだ記憶でも、杜栄にとっては過去の産物でしかなかった。その考えが、事件を動かしがたいものにしていくように思うのです。
「黒祠」とは政府に認められることのなかった神。馬頭観音によく似た夜叉。違いはそこにある「角」なのです。これを奉っているために、「夜叉島」であり「黒祠の島」である訳ですね。
それは、殺人鬼である娘(守護は娘の役だったことから、女性によく出やすい性質なのでしょう)を閉じ込める本家が、島の外に出ていこうとせず、外からも血を入れようとしない根本の理由になっていることです。
外部に出てほかの血と混じったら「カイチ」は生まれないのかしら。
どんな特徴が「カイチ」の印なんでしょうね。具体的には書かれませんが、やっぱり「角」があるのかしら。
宮司がいなくなり、続く守護の候補もあてがない。(直系が絶えるのはそういうことでしょう)
本家はこのあと、杜栄の子供を養子に迎えるのでしょうかね。浅緋はおそらく神官として表には出てこないのでしょうから、島が本来の構造を取り戻すにはかなりの時間がかかると思われます。
それでも、この島はひっそりと存在し続けているような、そんな重さを感じました。

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2023-03-20 17:28:48
守護は男でも女でもない。産まれてすぐの顕著な徴 それは両性具有なのではないか
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