くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ミステリアス学園」鯨 統一郎

2009-05-31 04:38:02 | ミステリ・サスペンス・ホラー
十年ぶりの鯨 統一郎作品です。「ミステリアス学園」(カッパノベルズ)。300円で購入。
十年前(もっと前かも)、一時ハマったことがあるのです。「邪馬台国はどこですか」「九つの殺人メルヘン」などなど、当時出ていた作品はほとんど読んだのですが、すみません、「文章魔界道」と「ふたりのシンデレラ」を読んだらなんだか……。
この本も、内容的に「名探偵の掟」(東野圭吾)みたいな話なのかなと思って買ったのですが……。結論からいって、また十年は鯨統一郎を読まないような気がしてきました。愛読されている方、ごめんなさい。
要するにわたしは、メタミステリが好きじゃないんでございましょう。「ふたりのシンデレラ」も、語り手で被害者で犯人で……という部分に、ストーリーが負けてしまうのが嫌だったんですよー。
この「ミステリアス学園」も、同様に、いろいろな要素が詰め込まれています。まずは日本のミステリ史。数々の推理作家に関する言葉遊び、「そして誰もいなくなった」へのオマージュとも言える展開、そして「意外な犯人」。
ファンはこれに膝をうつのかもしれません。わたしも一体どういう結末に着地するのか気になって読んでしまいました。そして、作者の言うように、「○○ではなくなった人」になった訳です。
そういう人を一人でも増やすためにわたしも活動しようではありませんか。古本屋でぜひその人と出会ってほしいと願うところです。
それはそうと、第6章には間違いがありますよね。部長と事件現場を訪ねる湾田ですが、193ページ「平井龍之介先輩のアパート」は、「星島哲也先輩のアパート」では。しかも、湾田が自分の名前は「ワンダーランドと読めるように」乱人(らんど)と名付けられたのだから「イニシャルはRじゃなくてLが正しい」といっているけど、いや、日本でその名前だったらRでしょうよ。(仮に「まいく」と名付けても、パスポートには「MAIKU」と表記されると聞いたよ)
小技はおもしろいんですけどねー。評論と紹介記事は違うのかなど。
では鯨さん、また十年後に。

「コネなし、金なし、学歴なし。」橋本真由美

2009-05-30 05:15:33 | 社会科学・教育
故あって、ですね。知人からたくさん本をいただいてしまいました……。断れない、しかも古本屋に売り飛ばす訳にもいかない。そんな本がずらーっと。
読み切れないよ! しかも半数はヒジネス書だよ! 言いたかないけど、羽賀研二のモテる秘訣を書いた本なんて髪の毛一筋の興味もないよ(泣)。
でも、この本は大丈夫でした。橋本真由美「コネなし、金なし、学歴なし。」(PHP)。
同姓同名の同級生がいるのです。何気なく手に取ってみました。冒頭で、なんと塩竈出身と知り、気になって気になって。巻末のプロフィール年表見ると同世代。うわー。(でも同級生じゃないよ)
簡単に言って、ビジネス書の体裁を借りたシンデレラストーリーです。いくらバブルの世の中とはいえ、高卒で上京、タレントのマネージャーとして営業活動、バイト生活、志村けんの事務所で構成作家見習い、コンピュータ会社、フリー、という転職状況。
友人と始めた会社はとんとん拍子で成功するし、「マネーの虎」で評価されなかったとはいえ、叶えようと思ったことは叶えてしまう。
でも、今の世の中でそれができるかというとそうでもない。多分彼女と同じようにして世渡りするのは不可能でしょう。(この本を読んで、志村けんの前で物まねをしてお願いすれば、事務所で働かせてくれると思う人はいないよね?)
ついでにいうと、出版から時間が経っているため、こんなことも書いてありました。「堀江貴文さんは私が今の日本の若手企業家の中で一番尊敬している人」! しかも「とにかく尊敬に値する経営者だと思います。まじで。」だよー。まずいって!
なんでも前向きに考え、失敗してもめげない。仕事上で「できません」とは決して言わない。そんなところは見習うべきなのかなと思います。
とはいえ、読んでいると、この人が友達だったら疲れるだろうなーとも思ったことは事実です。一緒にいるとエネルギーを使いそう。
ビジネス指南というよりも、伝記読みものとして楽しめました。
ただ後半にいくに従って普通の内容になっていくことと、話し言葉的な文体のせいで日本語に乱れがあるのは残念です。(「来れそう」ではなく「来られそう」ですよ。)「癒し」を多用するのもちょっと……。
彼女もITの時代の波に乗った成功者の一人なのでしょうね。現在はどうされているのでしょう。
ううむ、2005年、たった四年前というのに、恐ろしく遠い昔のような気がしてしまいました。ビジネス書って旬があるんですね。

「ドリアン助川のもう君はひとりじゃない」

2009-05-29 05:15:30 | 哲学・人生相談
実はこの本、もう図書室になくてもいいんじゃないかと思って、書架の裏の方に入れておいたんですよ。でも、蔵書点検をしていてぱらぱらめくってみたら、「人生相談好き」にはおもしろい本でした。
ドリアン助川「もう君はひとりじゃない」(ニッポン放送)。彼がパーソナリティを務めたラジオ番組に寄せられた電話相談をまとめたもの。「正義のラジオ」とも言われて、相談者は圧倒的に中高生が多いです。でも、こういうものに取り上げられるだけあって内容はハード。何しろ最初のコーナーは「援助交際」……。
罪悪感がないと語る少女を、説得するドリアン。さらに、「いじめ」「恋愛」「同性愛」まで、電話相談が繰り返されます。十年前なのに、こういう問題は未だ「現実」であるように思えてなりません。
ドリアンは、彼らを励ましながら、自分のこれまでのことについても語ります。顔についてのコンプレックス、複雑な家庭環境、そしてそのことについてまとめた終末が、結構ぐっとくるのです。
そういえば、わたしがかつて読売新聞を購読していたころ、若者むけの相談コーナーを彼が担当していました。そうかー、こういう仕事をしていたから依頼されたのかも。忘れられないのは、そのときもう「ドリアン助川」ではなかったことです。
ある程度知名度があった名前を捨てて、新しい気持ちでチャレンジしたいようなことを言ってたような。ちなみに、新しい名前は「TETSUYA」。その後もまた改名したような気がするんですが、わたしの記憶違いですか。
現在はなんという名前で活動しているのか、ちょっとだけ気になります。

「かわむらまさこのあつい日々」村中李衣

2009-05-28 05:12:14 | YA・児童書
あとがきを最初に読んじゃったの。この話はモデル小説らしいです。だから、かもしれませんが、この小説は川村さん本人の語りで読みたかったという気がするのです。
村中李衣「かわむらまさこのあつい日々」(岩崎書店)。
主婦川村まさこは、夫と子供二人(高校生の三和子と小学生のひろし)、そして姪のてるみの五人暮らし。そこに留学生のセーラがホームステイすることになりました。三和子が、まだステイ先が決まらないと聞いてつい引き受けてしまったのです。
セーラは、なんでも「ダイジョーブ」で乗り切ってしまい、ボランティアの募金活動にも駆り出されます。しかも、その様子をテレビ局が取材に来ちゃう。市長さんが恰好よく募金しようとしたところに、入院しているはずのまさこたちが現れ、撮影はしっちゃかめっちゃかに。
なぜ入院か。天ぷら鍋をひっくり返して全身に火傷を負ったから、なのです。意識が戻るまでずっと「たたたたた」と呟き続けていたまさこ。このへんのページ構成がおもしろかったです。内澤旬子さんのイラストはいいかんじ。
さて、新米のお医者さんに毎日患部の記録写真を撮られ、それがまた下手くそなのです。ある日は写真整理には日付がないと不便だからと、メモ書きをさ骨に貼られてしまいます。
「かんじゃは、きずより心がいたむんだ」
と、そのお医者さんを張り飛ばすまさこ……。
似たようなエピソードをもうひとつ。好きな女の子のランドセルを覗き見たことで、担任から生け花をやっていることだし、いっそ女みたいにリボンをつけてきたらと嫌味を言われたひろし。毎日毎日リボンをつけて登校し、とうとう好きな女の子から「もう、いい。もう、わかったから」といわれるのです。(いや、でもわたしにはわかんないよ!)
んーと。この担任をまさこの物語に近づけるためなのでしょうか。わざわざ彼が病院にやってきてひろしの行動を説明したようです。でもまさこにとってはたいしたことではないんでしょう。へらへら笑っていたら、いつの間にか帰ってしまった。
しかも、彼は三和子に会って自分のクラスにいた子供だと言い、さらにひろしが変なのも頷けると言って去って行きます。
ちょっと待ってー。なんでこのときまで自分が担任した子の弟だと気づかないの? でも三和子の顔を見てすぐに思い出すなら、そんなにひどい人じゃないのでは。(小学生から高校生では、大分印象が変わると思うんです)
この話、ひとつひとつの分量は少ないんですよ。非常にさくさく読めます。五分で三つくらいは読める。でも、非常に読みづらいのです。何故って、これが「外側から見たことしか書いていない」んです!
普通、小説は誰か視点になる人物がいます。その人の目を通して、事物を見るのですね。そして、登場人物の考えというフィルターを通した物語が展開される訳です。
しかし、この小説、誰も自分の思いを吐露したりはしません。先に書いたお医者さんに怒りの鉄拳をお見舞いするまさこですが、一体どの時点で怒り始めたのかわからないです。だってその前は、疑問は口にしているけどとくに傷ついた様子じゃないよ。
「どうして、笑っちゃいけないのかねぇ」とは言っていたけど、決して怒りを我慢しているようには見えませんでした。
ですから、「行動から心情を読み取る」しかないんですよ。でも、それがわたしには辛かったのです。
だって、登場人物が個性的(すぎ)なんだもの。
出張先で飲んだくれて、警察に通報されるような父。わざわざやってきた担任の話を聞き流す母。(普通は病院まで保護者を訪ねて行かないのでは?)
女の子の荷物を覗き見したくせに、反省するでもなくリボンをつけて登校する弟。
まあ、別に三和子が主人公ではないのですが(何しろ誰の感情も書かれないから、誰が主人公なのやら……川村家全体なんでしょうけど)。
三和子も変わった子だとは思うのです。しかし、その子がセーラに対して冷たい態度をとるようになったきっかけが、よくわからない。留学生なのに一緒の授業を受けず、個別授業を受けているから? 病院の看護婦さんに「タダで英語を教えてもらってるの? いいわねぇ」と言われてむっとする気持ちはわかるのですけど。
そしたらラストに書いてありました。
「あの子、ここんところ日本にこだわりすぎてたからね。あたし、みててイライラしてたんだ」
えっ……。
そ、そうなの? 日本にこだわっているようには全然見えないんだけど。どちらかというと、オーストラリアから来たことに日本の人たちが過剰に反応することに対して不満があるのでは。
まーそのー、多分書き方によってはおもしろいんですよ。ベットを並べた病室で、川村さんのおしゃべりを聞くようなのであれば。でも、この文体で、この内容では、ごめんなさい。わたしの感想は率直に言って、「非常識な一家、だよね」。

「黒百合」多島斗志之

2009-05-27 04:48:49 | ミステリ・サスペンス・ホラー
読み終わるまで寝てなんかいられません! 多島斗志之「黒百合」(東京創元社)。前評判通りすばらしいです。どうしてこんな物語が書けるのか……。いつもいつも、予想した「謎解き」がさらりと裏切られるのに、それがまたたまらないのですよー。
今回この作品を読んでみて、多島さんの構成は二つの別個の物語がリンクしていくかたちを持っているように思いました。「症例A」や「汚名」に顕著かと思うのですが。
「黒百合」も二つのドラマが交錯します。昭和27年・少年たちの夏。そして、昭和十年代・彼らの父親世代の物語。
人物は共通しています。それぞれの境遇が、後日どう変化しているかわかるわけですね。浅木謙太郎、相田真千子、倉沢日登美、小芝一造翁。
彼らの物語を追ううちに、ある女性の人生が見えてくる。そして、ラストでわかるのです。なぜ、多島斗志之がこの作品に「黒百合」というタイトルをつけたのか!

この「黒百合」をわたしはずっと読みたくて、図書館に入るのを心待ちにしていました。しかし、いつまで待てばいいのか、もう待ち切れないから買っちゃおう! と決意して、本屋に行く前に図書館に寄ったらありました。でもこの本なら買ってもよかったかもしれません。
「黒百合」と呼ばれた女性が、どんな生き方をしてきたのか。そして、ある人物がどんなに手酷い仕打ちをしたのか。じっくり味わっていただきたいと思います。
読み終わったら、全体を振り返ってほしいのです。とくに、「Ⅳ」。違う世界がみえます。これはネタばれになるかもしれませんが、「妹をどうするつもりや」というせりふと、「左利き」に込められたダブルミーニングには震えがきました。
この回想シーンにしか登場しない倉沢貴久男。読後彼の存在が不思議なほど色濃く浮かびあがってきます。

「マンボウ最後の大バクチ」北 杜夫

2009-05-26 05:11:10 | エッセイ・ルポルタージュ
先日斎藤輝子のことを孫娘の由香が書いた本を読んだところ、猛烈に斎藤一族のことが気になってきて、読んでみました。北杜夫「マンボウ最後の大バクチ」(新潮社)。
「どくとるマンボウ」シリーズはすごくおもしろいけれど、初期のものはもう古いとも聞いていたので、どうかなーとも思ったのですが、いやはや、最新巻なのにずいぶん前のことが書いてある(笑)。例えば山形に茂吉ゆかりの人を訪ねた「いざ茂吉の故郷、というよりも上山競馬場!」。出典は新潮45、2000年3月号です。これ、由香さんの本にも載っていたよ!
担当編集の「ペコちゃん」が誰のことを示しているのか途中まで分からなくて、旦那さんのことがちょっと紹介された部分でやっと「中瀬ゆかり」さんだと気づきました。遅い?
でも説明なしに何度も登場となると悩んでしまうものではないですか。掲載雑誌の名物編集とはいえ、一般知名度は高いの?
さらに読み続けていくと、バーで鷺沢萌と出会ったことが書いてある、のです。しかも、鷺沢萌のことを知らないし、杜夫。
わたしはギャンブルものは好きじゃないのですが、本筋とは関係ない文章が躍動的でおもしろいのです。周りの人のエピソードや、自分の青春時代のことをよく覚えていて。
ラスト五行にして、オバマ大統領の名前が出てきたときにはびっくりしました。さらに、現在八十一歳とか。すごいー。
そのうち、「パパは楽しい躁うつ病」を読みたいと思っています。

「二島縁起」多島斗志之

2009-05-25 05:17:12 | ミステリ・サスペンス・ホラー
早速「二島縁起」(双葉社)を読みました。多島斗志之「海上タクシー<ガル3号>備忘録」のシリーズ長編です。
短篇集の「備忘録」と同時期に書かれたものとあって、人物にぶれもなく、個性的なキャラクターが縦横無尽に活躍します。ただ今回は弓ちゃんがやけにモテていたような。
風見島と潮見島は瀬戸内海に隣り合う島ながら、長年反目を強めています。二つの島には婚姻もなく、ロミオとジュリエットのような悲劇さえおこりかねない緊張をはらんでいる。島にはそれぞれ分限者がいて、風見島で海運業を営む脇屋家と、潮見島で漁師の元締めをする茂木家。しかし、両家の惣領息子がある連続殺人事件の被害者になり……。
今回のっけから、寺田さんのカーチェイス(carじゃないけど)全開です。進路妨害、座礁の危機、浸水、果ては火責めと、ピンチに次ぐピンチ! そして、背後にいる殺人犯とその目的は。
うーむ、個人的にはこの犯人氏の「正義感」に疑問を感じます。増村も、
「あんたはほんまに神経が強いのう」じゃないだろうよ! と思うわたしなのですが。
「竜王」船長の越智一江が、これまた芯の通った人なのです。船にこういう名前をつけるだけあるよなあーと思いました。
「ガル」を二冊読んでみて、やはりこのシリーズは寺田と弓のコンビが不可欠だと感じました。今回は寺田さんの過去もかなり垣間見えましたね。七年ぶりに会う息子の直也への戸惑いと父としての思いとか。
「二島縁起」、ドラマ化してもおもしろいのではないかと思うのです。瀬戸内の海を行く海上タクシーを、実際に目で見たいですよね。郷土史もからむし、どんでん返しもきいています。さすがですね。

「大阪豆ゴハン」サラ イイネス

2009-05-24 05:30:54 | 芸術・芸能・スポーツ
五月は、友人みえっちさんの誕生日でした。
みえっちさんが亡くなって、もう二年半になります。夢でいいから、ゆっくりおしゃべりしたいなあ。
彼女とは本の貸借や感想の意見交換もよくしていました。秋月りす、横溝正史、高島俊男、そしてこの本を見ると、わたしはみえっちさんのことを思い出します。
サラ・イイネス「大阪豆ゴハン」(講談社まんが文庫)。安村家は女三人に男一人の兄弟。彼らの生活の周辺には様々な出来事が。
なんて言うんでしょう。ほのぼの日常というか、お茶の間というか、でもそこにドラマがあっておもしろいということに気づかされるまんがなのです。
末っ子長男の松林(しょうりん)のキャラがユニーク。バイクが大好きで、芸大(今気づいたけど、大阪芸大?)に通いバイオリンを弾き、用がないときはひたすら寝ている。今回読んだ6巻では作曲の才能が認められて、大学院で学ぶようにすすめられます。
そんなときに知り合った城山。彼はインディーズでは有名なプロデューサーで、一緒に活動しないかと誘います。彼のアパートに招かれ、大量の「鉢物植物」に驚く松林は、その後彼らが「大麻栽培」で逮捕されたことを知るのです……。
姉三人の中で、わたしはショートカットの美奈子さんが好き。大清水さんのアプローチを受ければいいのに! と、やきもきしながら読んでいたのですが、エンディングでは自分の思いに気づいて、これからの「はじまり」を予感させます。
さて、先ほど6巻を読んだと書きました。
何故6巻かというと、これが最終巻だからです。しかも後日談が入っているというし。何しろ十年も前に借りて読んだので、どんなストーリー展開だったか忘れていたのですが、読んだ覚えがたしかにあるのです。わー。
現在、ペンネームは「サラ イネス」、後日談というのは美奈子と大清水さんの披露宴でした。
みえっちさんが好きだったまんがのその後を、みえっちさんは読めない。なんだか、そのことが不思議で、胸の奥がすとんと淋しいのです。

「海上タクシー<ガル3号>備忘録」多島斗志之

2009-05-23 04:43:35 | ミステリ・サスペンス・ホラー
堪能しましたよー。多島斗志之「海上タクシー<ガル3号>備忘録」(東京創元文庫)。
主人公の寺田さんは広告代理店をやめて瀬戸内に移り住んだ人。海上タクシーの船長として働くうちに、様々な人と出会い、彼らの苦悩を目にします。
海上タクシーはこの地域では必要な交通手段なのでしょうね。点在する島々を結び、移動する。ギリシャでゴンドラが発達したように、瀬戸内海には海上タクシーは不可欠の存在なのかな、と思いました。
でも、この舞台設定はいいですよね。陸上のタクシーではなく、さらに遊覧船でもなく、あまりほかの地方にはなじみない「海上タクシー」という存在が、情緒を感じさせてくれるのです。
物語の中で、寺田さんは何となく傍観者的な位置付けです。もちろん推理や冒険では中心となり、活劇を展開してくれますが、どことなく醒めている。「世捨て人」みたいな側面をもっています。
「ガル3号」では、探偵役はむしろ助手の弓なのです。海上タクシーの助手の仕事は、船内外の掃除、接客、そのほか諸々です。しかもガル3号の助手ですからね。ピンチのときもしょっちゅうです。錨を投げ下ろしたり時には操舵管を握らなくてはならなかったり、もう男以上の活躍ぶりなのですよ。
寺田さんは職場での恋愛沙汰を恐れて、弓の平凡な容姿にホッとしたりしていますが、彼女の能力の高さは買っています。国宝級の刀剣を見つけたり、ちょっとしたことから機転をきかせたり、ほんとうに弓ちゃん、すばらしい。寺田さんが仲間うちで浮いているときも信じていてくれたしね。
わたしがとくにおもしろかったのは、「マーキング」「コウゾウ磯」です。ほかのところもおもしろいですよ。安心してオススメしたいと思います。さあ、次は「二島縁起」を読まなくては!

「トリック交響曲」泡坂妻男

2009-05-22 05:35:08 | エッセイ・ルポルタージュ
泡坂さんの本を読む、と言っておいて、今までかかってすみません。本を探すところから始まったので。数年前に古本屋で購入してしまっておいた「トリック交響曲」(文春文庫)。押入を探しまわってやっと発見。ちまちま読みました。 奥様もマジックをされるというところがとてもすてきで(「同じクラブにいたのを家に連れてきたのだ」)、さらには作品に触れたりマジックについて語ったりと、縦横無尽です。
このエッセイの出版は1985年になっています。文庫なので発表自体はもっと前ですね。泡坂さんが「11枚のとらんぷ」を書かれた頃のことや「亜愛一郎」シリーズのこと、それよりもまずマジックのエピソード、といった具合に。
マジックとトリックの相違について、ずいぶん考えているようです。
どちらかというとマジック主体ですね。ゾンビボウルとかカードの話がずいぶん出てきました。
直木賞候補になって、受賞するか落選するかわからないうちに頼まれた原稿を二つ書くよりは、最小限の手直しで済む手法を考えて書いたという「受賞と落選」、古今東西の様々なトリックを分類した項など、ものの見方がじんわりと伺えるエッセイでした。
この本を読むのにかなり時間がかかっているので、泡坂さんの小説も買いましたよ。さらに押入から未読の文庫も一冊……。よ、読みます。はい。

ところで、古い文庫広告っておもしろいですよね。巻末についていた文庫リストが興味深かったのです。ノンフィクションもののせいか、今書店に残っている本がないのよ!
二十年経つというのはこういうことなのかなぁーと。少し書名をあげておきましょう。
まず目についたのは、「父 小泉信三」秋山加代、小泉タエ。さらに小泉信三の「海軍主計大尉小泉信吉」なんてのもあります。伊丹十三「女たちよ!」、永六輔「遠くへ行きたい」、岩城宏之「棒振りの控室」なんか気になりますね。
本書でいちばん興味深かったのは、マジックでの助手の重要さ。とかく術者に目がいくものですが、ある助手がいなくなったらできなくなったレパートリーも多いというくだりに感心しました。