くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ファロットの休日」茅田砂胡

2010-10-30 09:31:08 | ファンタジー
「クラッシュ・ブレイズ」の最終巻だそうです。
んー、でもいつも通りだったな。このあともいつ同様に続いてもOKな感じがします。
茅田砂胡「ファロットの休日」(Cノベルズ)。表紙にもありますが、レティシアとヴァンツァーの短編が入っています。「レティシアの場合」は、ずっと前の巻「スペシャリストの誇り」の続編という体裁。もう内容を忘れています。でも、親切な茅田さんがあれこれ説明してくれて、あー、そういう話なんだなーと分かったわけです。
ちょっとげんなりしつつ「ヴァンツァーの場合」を読みはじめたら……。これが、止まらなくなってしまって。やっぱり出勤前に読んではいけなかったのですね。こっちはおもしろく読みました。わたし、ヴァンツァーが好きなんです。ただ、「デルフィニア戦記」のときとイメージが違うような気もしたのですが、これは鈴木理華さんと沖麻実也さんの挿絵の違いのせいでしょうね。
「妖艶な美少年」であるヴァンツァーをひとめ見た女性はみんなぽーっとなってしまうのですが、出合い頭にぶつかった盲目の少女ビアンカと、その義母ブリジットはそんなことなく普通に付き合うことができます。彼にとっては稀有な存在になっていく。
共通の趣味である古典音楽を聴きに行った帰り道、彼らは何者かに付け狙われていることに気がつきます。
とにかくこのブリジット母さんが素敵です。多分年齢的にはわたしより年下なんでしょうけどねー。おそろしくスピードを出しながらも正確無比な運転技術を誇り、次々ピンチを切り抜ける。(設定として、ジャスミンとクインビーに似ていますね)
どうして彼女が狙われるのか。手術をすれば目が見えるようになるかも……というタイミングは、何か意味があるのか。ルゥの手札が探り当てる真実を手がかりに物語はすすみます。
トリシャ・ディケイヴという女の子も登場するのですが、この名前を見て、茅田さんてカタカナネーミングにセンスあるよなぁと思いました。「デルフィニア」にしてもそうですが、「イ」と「ィ」の使い分けとか「ヴ」の表記とか、イメージを膨らませてくれるような気がします。雰囲気がある。
で、このトリシャのお父さんが、ビアンカの目の執刀医だというのです。そして、さらに茅田さんらしくまた誘拐なのですが(笑)。お父さんは、トリシャの身の危険を回避するためにわざと手術を失敗するように言われます。なにしろ名医なので、公開手術なんです。ヴァンツァーが救いに行く間、レティシアが医学生のふりをして手術に立ち合うというのもおもしろかった。
結局好きなんですが、やっぱり中心に骨太の物語がある方が好みです。キャラクタープレイよりもその方がいい。
もうじき新しいシリーズが始まるそうなので、期待しています。

「君が地球を守る必要はありません」武田邦彦

2010-10-29 05:37:08 | 社会科学・教育
学生時代のことです。科学の教養コースで、少人数グループによる「地球温暖化についてどう思うか」というテーマの話し合い活動をしたことがあります。
わたしたちのグループは、「温暖化によって海面が上昇するんだよね?」「それは、南極の氷が溶けるから?」「それはまずい、デビルマンが復活する!」というような話題を繰り広げる平和な集団でした。(「地下帝国を築けばよい」という結論に達しました……)
ところが、これはわたしたちの無知が招いた誤解だったのです。あ、デビルマンの部分じゃないですよ。地球が温暖化しても、南極の氷は溶けないのだそうです。かえって、海面から水蒸気があがり、雪となって降り積もるため、氷は厚くなり海面は低くなるのです。
では、海面上昇で国全体が浸水の危機にあるというツバルは、どうなのか。 近年測定したところ、海面は少し下がっているのだそうです。でも、相変わらず危険な状態は続いている。これは、温暖化というよりも地盤沈下による被害なのだということでした。
武田邦彦「君が地球を守る必要はありません」(河出書房新社)。「14歳からの世渡り術」の一冊です。発売当時から気になって。
予想通りとてもおもしろい。
温暖化ってみんな騒いでいるけど、そんなに恐ろしいものなのか。エコに目を向けるのも悪いことではないけれど、場合によってはものすごいコストがかかる。(ペットボトルのリサイクル、生産に比べて倍以上のお金と手間が必要だそうです)
このことを発表した筆者、各方面からブーイングをうけたのだとか。
いちばん印象に残ったのは、途上国で自然保護を訴える活動をしている人が東京都心に住んでいる矛盾です。自分は快適な暮らしをしながら、現地の人には発展をしない生活を強いるのはどうなのか。筆者が途上国の大学を訪れたとき、東京並の生活を目指した構想について質問したとき、自分たちもやはりそういう生活をしたいのだと語られたというエピソードもあり、考えさせられます。
そりゃ途上国と先進国の溝は埋まらないよなー。自分たちにだけ都合よすぎです。
で、わたしはこれを読んでいて、光化学スモッグだの公害病だのを改善するための工夫を知りました。科学で作り出した弊害は科学で克服するという一例かもしれません。
地球温暖化によって、どれほどの気温の変化があるのかということについては、温かい地方はそれほど変わらず、寒い地方が二度くらい上がると考えられるそうです。あんまり変わらない。作物に重大な影響を与えるほどでもない。
科学の力についても考えさせられました。環境が悪化するからといって、それだけをストップさせる訳にはいかないのですね。そのなかでどう改善していくか。
地球を守る。ヒロイズムに訴える語だと思います。メディアから与えられる情報を鵜呑みにしないで、様々な角度から考察することが必要だと感じました。

「ゲゲゲの女房」武良布枝

2010-10-28 05:33:33 | 芸術・芸能・スポーツ
水木サン、文化功労者受賞おめでとうございます。ラジオで布枝さんがコメントしていましたねー。これも朝ドラ効果なんでしょうか。
そうそう、水木サンの本名を「村井茂」だと信じている人も多いみたいです。奥さんもフミエだと思われているかもしれませんね。
武良布枝(むら・ぬのえ)「ゲゲゲの女房」(実業乃日本社)。発売当時から気になって仕方がなかったのですが、なにしろ朝の連続テレビ小説に決まったとあってなかなか回ってきませんでした。
読んでいて感じたのは、ちょっとしたエピソードをうまいこと脚本化しているな、ということ。布枝さんが家庭調査票に保護者の職業「まんが家」と記入したことや、小学生が鬼太郎の歌を歌う場面、子供心に嫌だったのでは、なんてところから、藍子がからかわれて悩み、担任からまんが家の職業について偏見的なことを言われる部分ができたのでしょうか。プラモデルづくりの場面もありましたよね。
わたしはあんまりテレビは見ないのですが、このドラマは結構目に入ってきました。
次女の悦子さんの本を読んでいたこともあり、ある程度の背景もわかっていたし。
貸し本屋時代の貧乏ぶりが印象的でしたが、そのときよりも水木サンの仕事が軌道に乗って、布枝さんがまんがに関わらない状態になったときの淋しさ、辛さの方が身にしみました。
もともと「墓場鬼太郎」というタイトルを「ゲゲゲ」に直したのは、テレビ化するためにスポンサーを得るためだったとか。あの有名な主題歌も、水木サンが作詞したんですね。(なぜ、「ゲゲゲ」なんでしょうね?)
わたし自身は水木サンのまんがをちゃんと読んだことがありません。「のんのんばあとおれ」くらい読んでみようかな。松田哲夫さんの企画だそうですし。そのほか、つげ義春、南伸坊、池上遼一、矢口高雄、荒俣宏等々、ものすごいメンバーが登場します。
いつも快活な水木サン。お見合い写真は、自転車に乗って笑顔を見せているそうです。五日で結婚式って、ちょっと今の世の中だと信じられませんよね。でも、連れ添ううちにしっくりくる二人の姿が、とてもいいのです。この本のテーマは、「終わりよければすべてよし!」。
あ、そういえば、最終回を見ないでしまったのですが、どうなったのでしょうか。

「隠蔽捜査」今野敏

2010-10-27 05:14:38 | ミステリ・サスペンス・ホラー
キムラ弁護士の推薦により興味をもって読みました。今野敏「隠蔽捜査」(新潮社)。警察小説です。でも、ミステリとして単純には位置づけできないかもしれません。これは、事件の真相を暴くのではなく、事件を通して「生き方」を描く小説だからです。
東大出身のエリートである竜崎は、キャリアとして警察庁総務課長の職にあります。自分ではクールな感じなのでしょうが、妻から「変人」「唐変木」であることを示されている(でも、仲がいい夫婦ですよ)。
幼なじみの伊丹や、上官たちの思惑が渦巻く中で起こった殺人事件をめぐり、それを隠蔽するかどうかで警察機構全体が揺るがされる。さらに、竜崎自身の長男が予備校生活の息抜きにと、なんとドラッグに手を出してしまいます。それを発見した竜崎は、今まで自分が築いてきた地位が、息子の犯罪によって脅かされることに悩みます。
しかし、連続殺人事件に忙殺される伊丹にそのことを相談したとき、彼から即座に「もみ消せ」と告げられる。自分の考えになかったその選択肢に、竜崎は愕然とします。
その一方で、殺人犯人が警察官だった事実を隠し、「迷宮入り」を演出するようにと伊丹は指示を受けていました。かつて世論を賑わせた国松元長官の狙撃事件と同様の展開になるかもしれない。そう知って竜崎はなんとか伊丹を翻意させようとします。彼から見れば、それは最悪の選択なのですから。
この本を読んでいて、最近問題になった大阪地検の改竄事件を思い出しました。組織ぐるみで証拠を隠蔽して、自分たちの有利に仕立てるつもりが、真実を暴かれた途端に窮地に陥る。竜崎にはそれが目に見えるようだったのでしょう。
一件落着してみると、妻の冴子の手腕のよさがとても気持ちいいです。これはキムラ弁護士のいう通りだなーと思いながら、「キムラ弁護士、本と闘う」の「隠蔽捜査」のページを読み返したら、これがまたいちいち的を射ておりまして、わたしこそキムラ弁護士に完敗なのです。
今後の竜崎の周囲が気になってしまい、つい続編を借りてきました……。

「ニッポンの嵐」

2010-10-26 05:37:22 | 芸術・芸能・スポーツ
二三か月前、クラスのYちゃんが、「ニュースで言ってたんですが、嵐が全国の学校に本を送るそうなんです。届いたらすぐ読みたいので、予約できますか」というんです。
へー、そんなことあるんだー。こんな田舎の学校にも届くのかねぇ。(十年前、某社の学校図書館キャンペーンの案内はこなかった)
と思っていたら、ちゃんと届きました。「ニッポンの嵐」。嵐のメンバーが旅を通して全国で体験したことをインタビュー中心に構成する本。結構大判です。
わたしもさらっと目を通しました。東北は青森だけかー。番組仕立てなのに、書籍形態にするのも、なんだかおもしろいですね。取材している人が取材対象っていうのは、やっぱりテレビ的だな、と感じました。流通してないからバーコードついてないのが新鮮でした(笑)
とりあえず禁帯出にして並べてはあるのですが、現在我が校は合唱コンクール目指してまっしぐら状態でして、昼休みも練習しているから、誰も図書室にこない。
そんななかでネットオークションにこの本が流出したとのニュースが流れて、図書に携わる身としては悲しくなりました。
届いてすぐ蔵書印を押し、整備しています。こちらとしても、盗難状態になるのは避けたいので。持ち出した人はこれはお金になると思ったのでしょうかね。
例えばどこの学校のものかというハンコが押してあっても、ほしいものなんでしょうか。
昨年、わたしが古本屋で十冊八百円で買った文庫の一冊に、近隣の高校の蔵書印がついていたのです。奥付のところにはっきり残っていたので、つてを頼ってお返ししました。
わたしも長いこと図書担当をしていますが、紛失やら未返却やらには頭を悩まされます。どうすればいい状態で図書室がキープできるのか。
合唱シーズンも終わって、明日から通常営業です。読みにくる子が増えるかしら。

「彩雲国物語 碧き迷宮」雪乃紗衣

2010-10-25 08:05:42 | ファンタジー
そうつながってたかあっ、と驚きの「彩雲国物語 蒼き迷宮の巫女」(角川ビーンズ文庫)です。この分では最初の秀麗の後宮入りもなんかの陰謀だったり伏線だったりするんでしょう。ここまでくると、悠瞬(漢字が正しくないですが、携帯では限度があるため似た字を採用させていただきます。以下同じ)が実は誰を次代の王と決めているのか、非常に気になるではないですか。(まさかこのまま表面通りに旺季だったりはしないでしょう? 刺客は「あの人」に間違いなさそうですけどね)
「時の牢」の本当の意味。羽羽様が実は誰のために動いているのか。瑠花の出自。そんなことが次々に明かされる巻でした。
今回は秋瑛が強くて恰好よかった。いつも女の人をおっかけてふらふらしているから、こういう見せ場があるといいですねー。とくに、いつもはしれっとしているのに、珠翠を探すために迷宮に入り込んで力づくで突破しようとしているところ、非常にいいです。
今回は旺季もいいし、迅もいい。飛蝗についての対策も見つかりそうで、次巻が楽しみですね。

「鳴くかウグイス」その2

2010-10-24 05:48:44 | 文芸・エンターテイメント
この道場、塾頭はもともと空手家で、全日本優勝を何度もしている人なのだそうです。でも、流派での派閥争いがあり、数人の門弟とともにもとの流派と訣別しました。でも、今のままでは亜流にしかならない。かくて京大出身の経歴を生かして、学習塾で口を糊することになるのです。
京羽は、勉強を教わる前から空手を習っていたのですね。低学年のころ問題児として名を轟かせた京羽ですが、今ではすっかり落ち着いたわけです。
この一家、すごいですよ。弟は「符馬」で母は「瑞乃」。わかります? 苗字はNIKEでしょ。「ぷうま」と「みずの」ですよ。
で、体験してみるとこの塾おもしろいのです。フラフープを回しながら暗唱したり逆立ちしたり。自乗の九九を覚えたり(「十一、十一が、百二十一」というように号令をかけてもらって復唱します。スクワットしながら)、年号を覚えたり。
ちょっとご紹介しましょう。まず平安京遷都は七九四年ですね。では、藤原京遷都は?
「平安京マイナス100!」と緑川講師は教えます。
長岡京遷都は? 平安京マイナス10です。遣唐使廃止。これはわたしもわかりました。平安京プラス100ですね。
日清戦争はこれにプラス1000、日露戦争はさらにプラス10。第一次大戦は日露にプラス10(1914年)、第二次がプラス25だそうです。太平洋戦争は第一次大戦の下二桁が逆転(1941年)。
わたしは語呂覚えが好きな方でしたが、あんまり細かいところまではやっていません。年代ごとではなく、自分にとって工夫して覚えるセットパターン、おもしろいと思いました。
この本を読んでいてちょっと考えてしまったのは、子供の学習を伸ばすのは教師なのかメソッドなのかということ。塾頭や講師がいい人たちだからか、それとも体を動かしながら行う暗記など学習の方法がいいのか。
隆也は塾が好きで嬉々として通いますが、いちばん勉強に力を入れてほしい春菜はまるで興味なし。雪菜はなんとなく一緒に通いはじめ、真由美もついつい参加することが多くなります。
そして、隆也には行きたい学校があるようで……。
受験が中心ではありますが、縁を切ったはずの実家との関わりとか、なんとこんな時期に! な出来事があったりとか、いろいろあります。そこで描かれる家族の様子が、あったかい。
合格発表の辺り、とてもドキドキしました。
ところで、この作者はキムラ弁護士にデビュー作をけちょんけちょんに批判されていました……。豊崎さんにも。そう思うと、これは成功作なのかな。ほかのを読んでないので断言できないのですが。

「鳴くかウグイス」不知火京介 その1

2010-10-23 05:39:55 | 文芸・エンターテイメント
最近読んだおもしろい本は? そう聞かれると、多分迷います。だって、読書歴は毎日更新されるので、最近といっても結構な数になってしまう。そして、少し経つともう「最近」ではなくなってしまうと申しましょうか。
でも、十月に読んだ本で心踊る一冊は、間違いなくこれです。不知火京介「鳴くかウグイス 小林家の受験騒動記」(光文社)。
あー、わたしって勉強好きなのかもと思った一冊でもあります。受験がテーマですが、はっきりいえば家族小説です。
主人公は三十代の銀行員真由美。数年前に夫の会社は倒産。あ、今は再就職していますが、収入が一気に減ったのが悩み。中三の長女春菜、小学六年の隆也、四年の雪菜。子供たちは三人三様で、心配のたねは尽きない。
受験生のはずの春菜は、全く勉強する気がなく、塾の模試をさぼったり反抗したり。自分が美少女なことを知っているのでちやほやされるのが大好き。(でも、真由美自身結構美人のようですよ。プライドが見え隠れしてます)
対照的に自分から勉強を始めるタイプの隆也。親友の佑樹くん(あだ名は「ミスター・パーフェクト」)が中学受験をすると聞いて、自分も模試を受けてみたいと希望。
かくして小林家では、二人の受験生を抱えることに……。
物語は隆也を中心に展開されます。普通中学受験となると、六年生から準備に入るのは遅すぎるのだそうです。でも、やりたいならやらせてあげたい。
模試の会場に同行した真由美は、そこに意外な人物を発見します。内貴京羽(ないき・けいぱ)。全身を自分と同名のブランドで固める変わり者で、低学年のころは多動傾向が目立つ子供でした。模試を受けにきた隆也の友達は眉をひそめます。
ところが、なんとこの京羽が、佑樹くんよりも上位の成績をとるのです。体験学習会に参加した隆也たちは、塾の先生方がなんとか彼に入学してもらいたいと手をつくす様を知らされます。
でも京羽は、やっぱり今通っている道場の方がいいと言って断るのでした。
京羽はどんな勉強をしているのか。気になった隆也は、彼が通う「勉強道場」を訪ねたいといいます。それなら、お母さんも行ったほうがいいと京羽がいうため、真由美もジャージで同行するのですが。

「明日へつづくリズム」その2

2010-10-22 07:29:02 | YA・児童書
おそらく同世代で音楽好きの子にとっては、自分の迷いや苛立ちと重なって共感を覚える物語なのでしょう。
ポルノグラフィティというメジャーバンドを生んだ島が、市町村合併で「尾道市」に統合される。島特有の鬱屈した閉塞感。外に飛び出したいと考える少女と友人のもとに、凱旋コンサートのニュースが届きます。
千波には里子として引き取った弟の大地がいて、なかなかぎくしゃくした関係が変わりません。同じポルノグラフィティのファンである友人の恵が家出をしたいと言い出し、昔旅館をしていた頃の離れを秘密で使おうとしますが、持ち込んだろうそくを大地がいたずらしたことから火事がおこり、母がやけどをおって入院します。この前日、進路をめぐっての話し合いで、母にひどい言葉を投げつけてしまった千波は……。
わたしはこの頼りない少女がどうして主人公なのかを考えてみました。同じように悩むなら恵だって構わない。彼女の方が意志も強いし、島を出たいと考えていたことを後半で考え直すことからも変化を感じさせる。
千波の変化はどうかと考えると、やっぱりいちばんは大地との関わりではないかと思います。
「くまだった」という詩を読む場面。今まで決して呼ばなかったのに、千波を「姉ちゃん」と呼ぶ場面。火事の原因が自分にあると、そのせいで施設に戻されてしまうと叫ぶ場面。
ちょっとひねくれた大地の心の影に、千波が気づいていく。最後に受験生である彼女が引いたおみくじ(凶)を、自分の大吉と交換してくれる場面で、もしも悪い運勢がきたとしても、自分が引き受けるという強い決意を感じました。家族が辛い目にあう方が、大地にとっては嫌なのでしょう。
コンサートのメッセージからこの物語を構築したと作者は語ります。「明日につづくリズム」とは、因島に生まれ、今は夢をつかんだポルノグラフィティのように、千波たちの夢も地続きになっているのだということなのだと思います。
ただこの子が熱心に活動しているというその文芸部で、本当に力を発揮できるのか、わたしはちょっと心配です。中学でも帰宅部だし。
そうそう、どうしても気になることがあるのです。
凱旋コンサートで一緒に歌うための練習について、「卒業式の練習でもこんなに熱心にしたことはない」という旨のことが書いてありますよね。まだ卒業してないのに、なぜに卒業式? 下級生のころの練習を示しているのでしょうか。それとも小学校の? ちょっと唐突ではないかと。比喩としては不用意な文だと思います。
それから、冒頭のハルイチの家へのピンポンダッシュ。お母さんが現れて千波と恵は、ほかの人は見たことがないだろうと喜びます。その後のページではアキヒト宅には海外からも訪れる人がいるという説明と比較すると、「それ、ハルイチはあんまり人気がないってこと?」としか読みとれないのですが。
とりあえず、ラジオから流れてきた「メリッサ」に熱心に耳を傾けてみました。わたしは「サウダージ」が好きだな。CD持ってないけどね。

「明日へつづくリズム」八束澄子 その1

2010-10-21 05:36:40 | YA・児童書
や、やっと読みました……。なかなかその気にならなくて、読書感想文の審査会前日に読み通しました。いや、悪い話ではないですよ。作品票をつけるのに書名検索したら五つ星ついていたし。実際、審査会でもこの作品を選んでくる子は多かったし。
ただ、わたしにはあまり必要のない本だったというか……。
多分ポルノグラフィティが好きな人にはしみると思います。
八束澄子「明日へつづくリズム」(ポプラ社)。課題図書です。夏のはじめに数ページ読んで放っておいた本。その後貸したのですが、戻ってきてからも手をださないままになっていました。
なんでこんなに気がすすまないのか。とにかく後半わたしがずっと思っていたのは、主人公の千波が「文学をやりたい」と語るのですが、とにかく表面的だということなのです。中三。活字中毒。書くことが好き。ちょっとした文章を担任に褒められる。島を出て、文芸部の有名な私立高校に入りたい。
そういいながら。
どうなんでしょう。それなのに、作品内で書いたのは、ポルノグラフィティへのファンレターのみ。しかも恥ずかしいからと投函しない。
書きたいという衝動は、こんなものではない、と同じように活字中毒、高校では同級生が誰もいなくても文芸部で活動していたわたしは思うのですが。
何かしら作品として結実していかなくとも、書かずにはいられない。いつか、文学をしたいなーなんて甘ったれたことを夢見る前に書きやがれ、とついつい思ってしまうのです。
おそらく同世代で音楽好きの子にとっては、自分の迷いや苛立ちと重なって共感を覚える物語なのでしょう。