くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「彩雲国物語 黄昏」雪野紗衣

2010-02-28 06:18:22 | ファンタジー
確かに、ストーリーが動いているのですね。なんというか、前作は「えぇーっ、そうなの?」という感が強かったのですが、今回「暗き黄昏の宮」を読んで、伏線として納得できる部分があった。
「彩雲国物語」は、恋愛コメディの側面を、現実でさらった話なのですね。
後継者争いの果てに、公子たちは自滅してしまい、王になりたくなかった劉輝だけが残ります。でも、それでも拗ねたまま自暴の生活を送る彼を立て直したのが秀麗なのです。ですから、王にとってはかけがえのない存在になった訳です。でも、その背後には、何年後かにおこるであろう飛蝗の害を未然に防ぐ努力をしていた官吏たちがいた。
しかし、一見立ち直ったかのような王ですが、実のところ側近を固めて寵愛するばかりで大局を見る能力に欠ける。女も官吏の試験を受けてもいいだろうといいだす。それは、単に自分の愛した娘を王宮に入れたいから。
こういう側面が浮かび上がるのですね。「正当」だと思っていたことが、実は愚かな選択だったことが、ベールをはぐようにあらわになるのです。
政とは、何年も先の脅威に備えて布石を打つこと。安穏と側近たちのいうことばかり聞いていたり、あからさまな恋の狩人だったりしてはいけなかったのです。
しかし、登場人物が多過ぎて、誰がどう絡んでくるのか、ちょっとごちゃごちゃしてはいます。うー、伏線も忘れている。多分、次の巻までに、この話の細部も忘れてしまいそうな予感が……。
ところでリオウのお母さん、飛燕姫って出てきたんだっけ?
駄目ですね……。やっぱり、続けて読むべき話だと思うのです。
今回は久しぶりにタンタンや龍蓮や英姫が出てきてちょっとおもしろかったのですが、次回はさらに人物が増えるのではないでしょうか。
どうも悠瞬のことが気になってならないのですが(「裏切る」っていってるよ!)、そこに燕青は絡んでくるのでしょうか。気になります。
十三姫、好きだなあ。

「霧の中の世界」小松左京

2010-02-27 06:22:44 | ミステリ・サスペンス・ホラー
アンソロジーで読んだ掌編が興味深かったので、借りてみました。小松左京「鏡の中の世界」(角川文庫)。
表題作はとある飛行機が密雲を突き抜けて着陸したところ、左右逆転した世界にやってきたことがわかる。自分が右だと思っている方を指して左だと言われ、洋服の合わせも逆になっているのです。当然ポケットも右についている。
「君たちから見ればーー全部左右が逆になっているはずだ。おれたちの内臓も、レントゲンでしらべてみるといい。君たちが右といっているのは、ぼくらにとって、みんな左だ。君はたしかに君で、おれはたしかにおれだがーーあの雲の中で、変なことになった時、おれたちが、細部にいたるまでそっくりそのままで、左右だけが反対側になっている、別の世界にとびこんだか、それとも、おれたちの空間が、裏がえしになっちまったかーーどっちかだ」
機長は憂鬱にうなだれます。彼には新婚の奥さんがいるようですが、うーん、こういう状況の場合、家族として受け入れられるのでしょうか。いつか本当の旦那さんが帰ってくるのでは、と考えてしまうような気がする。これも「変身」の一種なのかもしれません。
この短編集は、「鏡の中の世界」という言葉が象徴するように、現実をくるりと反転させるような物語が多いように感じました。「モデル」とか「空中住宅」とか。後者は、あまりに値上がりする地価に憤りを覚えた青年が、専用の柱に吊り下げれば住める住宅を開発する物語です。ブームに煽られて住宅の人気は上昇、その中で値下がりした土地を買い漁り、邸宅を構えたのは……。
わたしが好きなのは、「かえって来た男」。風光明媚な海辺の町の駐在所。子供たちがなんだか困っている人がいると報告にくる。駐在さんは早速行ってみますが姿がなく、砂浜に点々と草履のあとが。
わかります? 実は「浦島太郎」のパロディなのです。
あとは、「蜘蛛の糸」。ご存知、芥川です。
読んでみて思ったのですが、結構「教養」が必要な部分があるのです。説明されなくとも常識として連想されるべきことですね。
例えば「きつね」。宇宙人が偵察にきた地球で、狐に化かされるのですが、車に乗っていたはずなのに、いつの間にか液体に浸かっていて、体が溶けてくる。「アンモニア」が彼らの弱点というオチ。でも、「狐に化かされる」=「こえだめにつかる」ということがわかってないと、これは理解不能ですよね。
ラストの「十一人」は萩尾望都っぽい。
うん、堪能しました。ショートショートでも星新一や阿刀田高とは違うテイストです。

「チームひとり」吉野万理子

2010-02-26 05:29:52 | YA・児童書
東小卓球部シリーズも三冊め。吉野万理子「チームひとり」(学研)です。
広海の話ときいて、気になって仕方なかったのですよー。
双子の転校生で、兄とダブルスを組んでいたのに、その兄はサッカー部に入ってしまった。そして、一つ上の純と組むことになったのです。
今回は、「ひとり」ということに焦点の当たった話になっています。ふたりでやってきたつもりだったのに、ひとりになってしまった広海。もともとたったひとりで卓球部に入ってきた純。広海は純の精神的な強さに憧れます。自分にはできないことだから。
後半で明かされますが、広海は誰かに頼る癖がある。才能があるのにそれではいけない。大浦コーチは思い切って広海をシングルスのみの起用にします。納得できない気持ちをもちながらも頷いた広海ですが、純から誤解されてしまい……。
いやー、いいです、大浦コーチ! 今回は彼がいちばん素敵だった。
どうしても大人の目で見てしまうからなのでしょうけれど、卓球にかける思いを聞いて、しんみりしました。
「もし東小のコーチやってなかったら、オレは店に昔の同級生集めて、卓球やりまくってたよ。それか西小のコーチだな。つまりおまえと出会ってなくても、オレは卓球やらずにいられないの」
大浦コーチは、全日本ベスト8まで進出した実力をもちながら、膝の故障で引退しているのです。
それにしても、大地がそんなにうまくなっているとは。来年は全中かー。
ふと思ったのですが、四冊めは出るのでしょうか。主人公は? ミチルか陽子なのかしら。
吉野さん、デビュー作は五ページくらいで読めなくなってしまったので、こんなに気になる話を書ける人だとは当時思ってなかったですよ。
中学生になる彼らの活躍が楽しみですね。

「高校生レストランひみつのレシピ」

2010-02-25 05:49:10 | 工業・家庭
気になるレストランがあります。高校生レストラン「まごの店」。相可高校には食物調理科があるのですが、さらになおかつ、部活動でも調理に励む高校生たちが、顧問の先生のもと実地体験を積んでいるレストランなのです。
調理のみならず、接客もこなして、自分が店をやるときの素地を作っていく高校生たち。
この店のことを知ったのは、岩波教養文庫の「部活魂!」です。
すごいよねー。高校生なのに、経営に関わるんだよ。ウェイトレスのバイトで失敗ばかりしていたわたしにはとてもできません。
で、古本屋でこちらの店を指導されている顧問の先生が書いた本を見つけました。村林新吾「高校生レストラン、本日も満席。」(伊勢新聞社)。当然買いですよ。でもまだ読んではいないけどね……。
今回は同じ出版社から「高校生レストランひみつのレシピ」というのが出ていたので、図書館から借りてきました。
まごの店が大切にしているのは、だしのようです。昆布と鰹で丹念にとる。絞っちゃ駄目ですよ。ほとんどのお料理に、このだしが使われています。
早速簡単にアレンジしたものを作ってみました。ハリハリサラダです。大根・人参・胡瓜の千切りに、やはり千切りにしたじゃがいもをあげたものをトッピングし、ごまドレッシングで食べるのです。じゃがいもがいいアクセントになっていて、おいしい。
じゃがいものそぼろ煮もおいしそうだったので、今度作ってみます。この日はさつまいもを煮たのでやめておきました。(コツはとにかく弱火で煮ることです)
あとは、鶏の南蛮漬けもいいなー。南蛮酢は、だし汁・砂糖・濃口醤油・薄口醤油・みりんを火にかけ、薄切り玉ねぎを加えてひと煮立ちしたら、酢とたかのつめ(小口切り)を加えて冷まします。おもしろいのは、この南蛮酢を半分にして、はじめに十分間漬けたあと、残りの汁に漬け直すんだって。
やっぱり、三重県の郷土の食材をいかしたメニューが多いようでした。醤油も薄口がメインです。
わたしも、このごろ薄口醤油が気になります。さっきのさつまいも煮に使ったらおいしかったから。鶏の唐揚げもいいですよ。下味はこれだけでいけます。おためしあれ。

「本格ミステリの王国」有栖川有栖

2010-02-24 05:20:27 | エッセイ・ルポルタージュ
有栖川有栖の、作家生活二十年(及び五十歳)記念出版となるエッセイ集、「本格ミステリの王国」(講談社)です。
図書館の新着コーナーにあって、でも他にも読みたい本があったので断念したのですが、次の週に行ったらまだ同じ場所にあったので、うきうきと借りてきました。これはきっと好みだろうと思った本が当たっているとうれしいですね。ミステリについて縦横無尽に書かれた本です。
とはいえ、わたしは彼の本を今まで一冊しか読んだことがないのです。
その本とは、「有栖の乱読」(メディアファクトリー)。有栖川さんが好む本について詳しく紹介されています。ランキングもあり。
「本格ミステリの王国」というのは、本格ファンなら胸に秘めているであろう、本格もののキングダム。好ましい風景は、様々なトリックやどんでん返しでできている。つまりは自分の好きなミステリのベスト、集大成な訳ですね。
さてわたしにとっては、どんな王国なのでしょう? 困ったことにどの作品が「本格」と呼べるのかわかりません。
いや、それは心配ご無用! 冒頭に「日本推理小説小史」が載っているので参照しましょう。
えーと、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張が紹介されたあと、百花繚乱の時代が到来。おすすめ作品として、「十番館の殺人」「新宿鮫」「姑獲鳥の夏」「OUT」「占星術殺人事件」が紹介されています。まずい。最初の三人はともかく、このへんはほとんど読んでいないのですよ。
ま、まあいいか。
えーと、この本でいちばん楽しかったのはといいますと、日本推理作家協会賞と日本ミステリー文学大賞新人賞、ミステリーズ!の新人賞の選評です。すごくわくわくして読みました。
小説に対してのおもしろみがぎゅっと詰まっている。それから、ずっと気にしていたんだけど書名を失念していた本のヒントを発見し、小躍りしたい気分です。ウィリアム・ブリテン。よーし、気合い入れて探すぞーっ。
さらに、学生時代の習作(犯人当て)も収録されています。

「クラウディアのいのり」村尾靖子

2010-02-23 05:34:40 | YA・児童書
続いている、と思いました。
村尾靖子・小林豊「クラウディアのいのり」(ポプラ社)を読みました。
戦争中、スパイの疑いをかけられた日本人男性が、ロシアに連行されます。収容所を出ても日本に帰ることはできず、ロシア人として生きることを決意する。彼を愛し、とともに生活するクラウディア。ロシア革命で両親を失い、ひとりぼっちで生きてきた彼女には、唯一の家族となったのでした。
四十年近い月日が流れ、男性と別れ別れになっていた家族からの手紙が届きます。
クラウディアは、彼を待ち続けている家族のもとに帰すことを決めるのです。
「人の悲しみのうえに、自分だけの幸せを築くことはできないわ。……あなたとであえて、わたしはほんとうに幸せだった」

彼が夕暮れの空を見つめて「夕焼けこやけ」の歌をうたう場面を読み、わたしはある女性のことを思い出しました。
戦争が終わり、故郷に戻る船に、彼女は乗れなかったのです。切符が二枚しか手に入らなかった。夫と子供を帰して、彼女は中国に残ります。そこで結婚し、娘が生まれました。辛いとき、苦しいとき、一人になれる場所で歌った「ソーラン節」。それは、日本語を忘れてしまわないためでもあったそうです。
その娘さんと結婚されたという胡弓演奏者の方が日本への移住を決めて来たのだというお話を聞いたことがありました。
わたしの祖父も戦時中は満洲で暮らしていました。終戦後なのか間際なのか、ロシアが侵入をはじめて物騒な世の中になったため、家には必ず鍵をかけていたそうです。父は二歳。外で遊びたいというのでほんの少し出してやって、施錠しないでしまった。そうしたら、家の中に、ロシアの男が入ってきたので、祖母は父を抱きしめて台所の隅で震えていました。外套や食べるものなどを物色していた男、棚にあった金色の目覚まし時計を手に取ります。ああ、結婚祝いのいただきものなのに、と思った途端、男の目の前でけたたましい音で時計が鳴り出し、驚いた彼はなにもかもを捨てて逃げ去った。そういう話を、子供のころによく聞きました。
もしも、そのとき、何かあったら、今わたしはここにいなかったのでしょうか。
戦争は、今の子供たちにとっては「昔のこと」かもしれません。食べものに不自由な思いをしたことのない人に、その状況を実感として受け止めるのは難しいことでしょう。
でも、「地続き」なのだと。この男性を支え続けたクラウディアさんと、別れても長い間待ち続けた奥様と。時がゆったりと流れ、戦争の爪痕は薄らぐとしても、消しがたい何かは残っているのです。
この本については、ネムリコさんの文章で教えていただいて、すごく読みたくて早速借りてきました。ノンフィクション版もあるそうなので、がんばって探したいと思います。

高橋克彦講演会

2010-02-22 05:45:44 | 〈企画〉
勝者が歴史を作る。敗者には、どんな申し開きもできない。さらに、歴史書に本当のことが書いてあるとは限らない。
高橋克彦氏の講演会に行ってきました。冷静に考えたらこの十年ほど読んでいないことに気づいたのですが、浮世絵もの、SFもの、自伝(小説家になるためにはどうするか、という本。乱歩賞は傾向と対策を練って応募したといっていたような)など、若い頃は結構読みました。「総門谷」のラストにはぶっ飛びましたが……さらに「総門谷R」にも驚きましたが。一番好きなのは、あれですね。「雨の会」の短編集に載っていた、「ゆきなだれ」?(タイトルが思い出せない)
今回は、「天を衝く」の主人公九戸政實のことについてのお話、というご案内だったのですが、メインとしては、自分はなぜ東北の歴史について書き続けるのか、ということでした。
ある伝奇小説を書いていたころ(多分「総門谷」)京都の山の中で迷ったことがあったが、そんな場所にも住んでいる人があり、歴史があり、それに対する自信がある。しかし、自分はというと、生まれた土地の歴史を知らない。東京にコンプレックスをもっていたので田舎に引っ込んでいるけれど、この地が好きというのでもない。
そんななか、せめて向き合っていかないと、と考えた彼は、自分にとっての郷里のイメージを小説に反映させることにします。これが「記憶」のシリーズですね。
それまで、東北地方の歴史に関わる物語を紡ぐことに、出版界は難色を示していたのですが、作者自身の追憶だからストップしにくい、しかもこれで直木賞を受賞。
追い風のようにNHKから大河ドラマ原作の仕事が舞い込みます。(「炎立つ」ですね。)
そこで安倍氏を中心とした作品にしようと思い立つ。でも、資料を探したらほんのわずかな記述しかない(原稿用紙十枚程度、だそう)。そこで、地誌の記事から題材を求めることはできないかと、広く呼びかけたところたくさんの伝承が集まり、それを一つ一つ整理していくと、ぴったりと重なっていくことに気がついたのだそうです。つまり、ある町でこのように過ごして追われて出て行った次の町でこんなことがあり、それからまた次の町で……というように、彼らの足跡に矛盾がない。
敗者の歴史は書き消され、勝者の視点だけが残るもの。伝承=真実とはいえないけれど、信憑性はある。あ、ちなみに「義経北行伝説」も同様の理由で支持しているそうです(笑)。
それから北条時宗のことを書くときに「吾妻鏡」をあたったところ、「元寇」に関する記述が余りにも少ないことに気づく。これは、当時元が攻めてくる危険性が残っていたためではないか。歴史書に作戦についてのあれこれを書き記してしまうと、敵に読まれる可能性が出てしまう。それで保留したのでは、と推理したそうです。
でも、時宗にとって最大の功績を残さないことになってしまう。おそらく天才的な惣領だった彼のことを何か残したい。そういう思いが、誕生したときに畳三つ分もの大きな火の玉が上空を飛び回ったという記述として残ったのだろう。則ち、天もこの誕生を喜んでいるのだ、というように。
白熱の余り、九戸政實については最後に十五分くらい(笑)。
彼は負けを知らない武将だった。おそらく、南部氏との確執がなければ、東北全土を統一できたのではないか。資料の話も出てきましたが、わたしがいちばん衝撃をうけたのは、葛西氏へのこだわりについてでした。奥州(ただし伊達家より北方)の北と南を支配する武将として。
その葛西の支配する地で首を落とされた政實。彼の魂はおそらく、感慨を覚えているに違いない、と。
わたしは葛西の家来衆の家に生まれたので、遠い過去と現在とが、やっぱり何かつながっているような、不思議な感覚を覚えたのです。歴史は紙の上だけのものではない。
葛西一門では「葛西勝ち」を意味して敷地内にサイカチの木を植えていました。もうその木はないですが、わたしが幼いころに拾ったサイカチの実のことは、記憶に今も鮮やかです。
でも、こういう地方の歴史は若い人たちに伝承されていくのでしょうか。少し不安です。

「海町diary」吉田秋生

2010-02-21 06:13:18 | コミック
もったいなくて、とても一気には読めませんでした……。
この一話の中に、どれほどの思いが重ねられているのか。彼女たちが背負う生活の一端をのぞかせつつも、そのとき目に映る風景を書く。「海町diary」は、ものすごい密度をもった物語です。
三巻が出ました。一話読んだだけで、もう前の本を読み返したくなってしまう。
父の一周忌に、姉妹たちは山形にやってきます。そこで知らされた衝撃の事実とは!
仙台、山形、鎌倉。ほんの短い間に、すずの環境は目まぐるしいほど変わったのだな、としみじみしました。
四人の姉妹。それぞれ父に対するスタンスも違い、思い入れの点でも一人ひとりが軽重を持っています。すずと同じくらい、父にこだわっているのは、やはり長姉の幸でしょうね。
それに加えて、すずが所属するサッカーチームのことが書かれるのですが、今回は風太がいい存在感を出していましたね。多田くんについての見方がいい。それにしても多田くん、一緒に歩いていた浴衣の女の子は誰? よもや妹ではあるまいなっ(笑)。

当然のごとく最初の巻から読み直しましたが、さすがは吉田秋生。細部まで設定が行き届いていて、溜息が出ます。そして、地縁があるせいかな。いろいろな人が線でつながっていく。
藤井くんのことが前半の中心になっていましたが、これから彼はどうなるんだろう。でもこの展開だと佳乃は「えびす」さんとどうこうということになりそうな。
幸はヤスですかねぇ。姿を見せないアライさん、今回は「手」が登場。
鎌倉には修学旅行がらみの二回しか行ったことがないのですが、小町通のたたずまいがすごく好きです。ちょっとした風情がすぐさまポストカードになりそうな。一日ずっといたい! と思うほどです。そういえば俳句ポストもありますよね。旅行中に一句詠んで投稿するという、今思えば強引な自主研修計画を立てたのはわたしです……。

「カルテット!」鬼塚忠

2010-02-20 06:16:08 | 文芸・エンターテイメント
途中まではすごくおもしろかったのです。崩壊しかけた家族を、音楽で再生させる。音大でピアノを専攻していた父(リストラにあって今は失業中)、チェロを弾いていた母(アルバイト)、フルートをかじったことがある姉・美咲(ギャル)、そしてバイオリニストとしての才能を期待されている中学生の開。ばらばらだった彼らの音が、次第にまとまり、コンサートホールで演奏する計画を立てる。でも、両親の間の亀裂は大きく、このイベントが終われば離婚する可能性もあるので、開としてはなんとかこれを成功させたいと願うわけです。ところが、開の所属する重松ファンタスティックコンサートの日程が、ちょうど家族コンサートと重なることになってしまい……。
様々な紆余曲折とか美咲の変容とか気弱な父のアレンジストとしての才能とか、開にバイオリンを指導している千尋先生とかいろいろな見所があって、とくに演奏に緊張した父に、開がこういうことを言うシーンはたまらなくいいのですか。
「緊張するのは、いい演奏をしようとする気持ちの現れなんだって。だから安心して緊張すればいいって、先生が言ってた」
「安心して緊張するってどういうことだ?」
「緊張する気持ちに先廻りしておくこと」

鬼塚忠「カルテット!」(河出書房新社)です。
スピーディーに読めてテンポもいい。でも、後半にホールの空席を埋めるため美咲が先輩にピーアールをお願いするエピソードがあるのです。ギャルの生活をブログで紹介していて、一日に一万件以上もアクセスがあるんだって。そのブログに宣伝を書いてもらったら一夜にしてチケットは完売。……なんたるご都合主義!
まあ、とりあえずそれはいいことにしましょう。わたしがあきれたのは、この先輩が登場から十四ページしかたっていないにも関わらず、なんと、違う名前になっていることなのです。
「リカも見たけど めっちゃいけてるっ!」といってるあなた、ついさっきはリナって名前ではなかった?
非常に不可解です。いや、誰にでも間違いはありますよ。でもこれほどわかりやすいミス、普通は校正に指摘されるものでしょう。
平行して「世界文学全集を立ち上げる」(文春文庫)を読んでいるせいか、これは「小説の骨格」がわかっていない作品なのかな、と思いました。伏線をはるとか、予定調和をさけるとか、小説たらしめている部分に欠如があるように思います。しかも、先輩と二人乗りしていた女の子が妹って、なにそれ? 今どきそんな展開なの?
この感じは、やっぱり少女まんがっぽいですね。昔の別マにでも載ってそうな。ただし槙村さとるではない(彼女だったら両親は音楽を捨てていないと思います)。
彼らの演奏する曲の名前を見て、だいたい半分くらいはすぐ曲調が浮かぶのですが、わたしにはおぼろなものもある。
クラシックの教養部分と、ギャル的な部分が何となく調和していないような気もします。
それにしても、千尋先生はおいくつなのでしょう……。開にとって憧れの存在で、お母さんからは
「あの先生に教えていただけたからこそ、ここまで伸びた」と評価される先生。自動二輪の免許もお持ちです。
話の展開上仕方ないのかもしれないけど、音楽の個人レッスンを行っている人が、リハーサルまでやったのに心ここにあらずだった教え子が、やはり家族コンサートに参加するからということで本番をすっぽかすのをよしとするものなのでしょうか。(ついでに、千尋先生の教室を「音楽学校」と書いてあるのですが、そういう呼称でよいのですか? 「音楽学校」というと、どうも音楽科がメインの学校のイメージがあるのですが)
前半八割くらいは、多少の傷が気にならないくらいおもしろいのです。本当に。だけど、小説の収斂がこれでは納得いきません。娯楽には娯楽のルールがあるでしょ。そこがちょっと残念ですよね。

「ゴーストハント」小野不由美+いなだ詩穂

2010-02-19 05:39:56 | コミック
まじでこわいぞ小野不由美。こんな初期の少女もので、まんがで読んだこともあるのに。
と、「悪霊がホントにいっぱい!」(講談社X文庫)を読んだあとの読書ノートに書いてある。この時期は二行日記にしていたので、これがまんがではどの話で、どういう部分が怖いのか、読んだ本人もわかりません……。やっぱり、ある程度具体的に書かないと思い出せないのですね。肝に銘じましょう。
でも、せっかくなので、「悪霊シリーズ」についてのコメントを羅列してみます。読んだ順。
「子供の霊に追われるシーンがすごく怖い。でも、どうしてこういうタイトルなのでしょうか(悪霊はひとりぼっち)」
「増築を繰り返す古い屋敷で消えた人々。『浦戸』をキーワードにおこる失踪事件が不気味で怖い。まんがも怖かったけど、文章で読むと、また怖い(悪霊になりたくない!)」
「綾子の除霊の場面はよく覚えていたけど、ほかのところは忘れていたので、新鮮な気持ちで読めた。やっぱり、子供を乗っ取ろうとする霊は、悪質で嫌な感じだ。わたしはぼーさんが好き(悪霊と呼ばないで)」
現在入手困難。古本屋でも見かけることのない「悪霊シリーズ」ですが、幸い地元にある図書館に何冊か保管されていて、さらにそこのネットワークを使って借り出してもらいました。ここに書いていない分は、その前に読んだため、メモを取っていないのです。
で、ここまでは当時、いなだ詩穂によってまんが化されており、わたしも文庫で持っているので、何回か読んだのですね。
でも、このまんがを読めば読むほど、エンディングはどうなっているのかがものすごく気になるのです。
ナルの正体は? 麻衣はこれからどうなるの? 真砂子は一体、何を知っているの?
なにしろ多大な謎を残しつつ未完成の「十二国記」を待ち侘びる身としては、小野さんがきちんと決着のつけた話を知りたい訳です。
しかし、実はわたし、このシリーズの続編を持っているのでした。「悪魔の棲む家」(講談社ホワイトハート)。上下巻。我慢しきれないので、読んでしまい、後半の展開をある程度つかんだのですね。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、ナルと兄との関わりもかなり書かれていたし、「家」に関わるホラー部分が怖かった。
今回、「ゴーストハント」⑥(講談社漫画文庫)が出たので買ったのですが、カバーのあらすじによると、「最終章突入!!」とあるので、もうこちらは漫画化しないのでしょうか。
今回の原作は、「悪霊だってヘイキ!」で、やっぱり上下巻です。これについては、「分校の先生と子供たちがかわいそう。謎が解けてホッとした」と書いてあります。麻衣にとってはつらいラストだったけど……。
実はこれ、インフルエンザで寝込んだときに読んだのです。以前から予約していたのが、この日に届いたと連絡がきて、いつ借りにきてもいいけど、でも返す日は決まっていると言われました。読まいでか! でも、自力で行くのは無理というもの。夫に行ってもらいました~。
これを読んで間もなく、「おすすめ文庫王国」に桜庭一樹が寄稿していて、やっぱりこのシリーズが好きといっていましたよ。再発行希望!
さっき、「ぼーさんが好き」と書きましたが、わたしは安原さんも好きなんです。あの情報収集能力と、若いのに老成したところがたまりません。あ、ぼーさんはおじさんなのに若いところがいいの。うっ、でも実のところいくつなんだろうか。リンさんとどっちが年上?(いくらなんでもリンさんだよね?)
こういう魅力的な人物がいいんですよねぇ。もう一度X文庫を借りてこようかしら。
まんがを読んでいろいろと思い出したので、⑦が出る日を心待ちにしていまーす。