くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「漱石とはずがたり」ほか

2015-04-30 19:44:45 | コミック
 近代俳句の流れをおさらいするために、香日ゆらさんの「先生と僕」「漱石とはずがたり」(角川書店)を読み返しました。
 正岡子規とか高浜虚子について、コンパクトにまとまっていておもしろいのです。漱石自身も俳句に親しんでいるし。
 虚子の妻は河東碧梧桐の婚約者だったという話、気になります!

 まんが版の伝記もので漱石の巻があったので立ち読みしてしまいました。これは絶対香日さんの影響です!
 でもね。
 この本にはロンドンで漱石が精神的に参っているときに、池田菊苗氏が訪ねてきたと描いてあるんですよ。
 池田さんといえば、なんといっても「うまみ」の発見です。というより、T社の国語教科書では、二年生後半に情報リテラシー単元として彼の名前が出ており、その後少しおいて「坊っちゃん」が登場するのですよ。
 二人には接点が! そして、進級早々俳句で子規が取り上げられる!
 と、非常に狭い範囲で興奮したのですが、考えてみれは教科書は来年改訂されるのでした。

 さらには古いアパートの家賃取り立て役として就職したら、文豪の幽霊が住んでいるというまんがや、著名な文化人の墓参りと近隣のスイーツ情報を扱ったまんがも読みました。
 どうして題名書かないかって?
 ばあちゃんに本を買いすぎだから始末するように言われて、箱詰めしてしまったからです……。商売柄仕方ないと自分では思っているんですが、(趣味と実益を兼ねているとも思っています……)理解はしていただけない。
 で、できるだけ借りて読もうと思って、と学会二十周年記念本も図書館から借りました。
 そしたら、原田実さんお得意の偽書ネタがあったんですが、「竹内文書」を暴いたのは狩野亨吉なんだそうです!
 すごーい。漱石の人脈、やられました。
 あっ、「寺田寅彦」の伝記も図書室にあったんです。古いやつ。目をつけた絵があってほしいほしいと話していたら、漱石が一緒に見に行って買ってくれたというエピソードがありました(多分)。その絵は高村光太郎の作品だったそうです。
 ……香日さんのおかげで、結構気になることが増えてきました。
 仙台にあるという(しかも普通の民家っぽい)阿部次郎の記念館も行ってみたいです!

「きみ江さん」片野田斉

2015-04-29 19:22:21 | 歴史・地理・伝記
 ああ、やっとわかりました。「定ときみ江」の定さんは、サダムとお読みするのですね。ずっと前に読んでから、気になっていたのですが、なにしろ名前なので、特定できないかと思っていました。なにしろ「さだときみえ」と振ってあるコードも見たことがあるし。
 「きみ江さん ハンセン病を生きて」(偕成社)。
 筆者は報道畑で写真やルポルタージュを手がけてきた方だそうです。東村山出身ということなので、多磨全生園のことに詳しいのかなと思いました。

 きみ江さんの人生は、前掲書でも読んでいるので、細かいエピソードを結構覚えていました。
 全生園を出て部屋を借りたり養女を迎えて孫も誕生したりと、波乱万丈の人生にも凪があることを感じてホッとしました。
 中ほどで定さんが亡くなられて、辛い思いもされたと思います。
 
 「あん」が映画公開されるということで、ハンセン病のことももっと世の中で取り上げられるチャンスかもしれません。
 古本屋で「忘れられた命の詩」を発見し、図書室で読んでもらおうと寄贈してラベル付けてから開いたら、なななんと谺雄二さんの署名がっ! あああ、とっておけば良かった!
 でも、仕方ない。泣く泣く啓蒙のために並べたいと思います。

「すえずえ」畠中恵

2015-04-26 08:49:18 | 時代小説
 ついに若旦那のお嫁さんが決定ときいて、さらには消息を絶った父親を探しに大阪に行く(しかも七之介さんの知り合いの家!)ときいて、てっきり要さんが登場するのかと思ったら、予想外の展開でした。
 でも、表紙カバーのイラストにそれらしき絵がないので、それはやっぱりありえないのですね。(柴田ゆうさんはいつもストーリー展開に沿ったイラストなので、表紙を見ればあらすじが思い出せるのですよね。すばらしい!)
 畠中恵「すえずえ」(新潮社)。
 栄吉の縁談話から始まり、若旦那の活躍、その噂を聞きつけてやってきた仲人たち、そして、長崎屋の隣に建てられた一軒家。
 妖たちがこれから先どうやって過ごしていくのかということが描かれます。
 妖狐の血を引くために妖を見ることができる若旦那。守り役の二人の兄やも強力な妖であり、少しずつ居場所を失いつつある妖たちには、長崎屋は過ごしやすい場所です。
 でも、若旦那にお嫁さんがきたら?
 この平穏な暮らしは続くのでしょうか。

 今回は、妖と共存できるであろうあの方を若旦那と添わせることで解決しますが、世の中は次第に文明開化の気配。そのとき妖たちはどうするのか、ということも畠中さんは提示したわけです。
 すなわち、人として巷間に混じり生きていく。
 湯屋に行く、近所と付き合う、着替えもする。
 思えば、明治の世の中を描いた他の作品にも、妖でありながら人として生きている存在を登場させていましたよね。
 そして、佐吉の思いは外伝につながっていくのだなと感じました。

「大神兄弟探偵社」里見蘭

2015-04-25 20:49:46 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 どう考えてもシリーズものの幕開けでしょう!
 里見蘭「大神兄弟探偵社」(新潮文庫nex)。スカイエマさんの挿し絵で購入。
 しばらく本棚に置いておいたのを、大会の場所とりで時間があるから読もうと荷物に入れ。
 そしたら、その日は大雨。遮るものもなく、シートの下にリュックを突っ込んでおいたのですが。
 世の中、傾斜は雨水を溜めるものでしたね。翌日、すっかり水浸しになった「誤植読本」(ちくま文庫)とこの本が……。

 でも、幸いにも本文が読めないわけではありません。
 優れた運動神経を見込まれて、大神兄弟たちと行動することになった友彦の活躍、楽しく読みました。
 彼には幼少期に誘拐された過去があり、そのとき以来蛇が大嫌い。
 故にあって名画を盗み出すことになった友彦ですが、展示されている部屋に屋上からダクトを通ってたどり着いたものの、そこにいたのは成長した件の蛇……。
 
 もともと友彦は、大学の同級生麻耶と付き合っていたのですが、とある美術館で学芸員をしている彼女の姉が盗難事件に関わっているとあって、大神兄弟たちに依頼にきたのです。
 しかし、そこでふっかけられたのは、調査費三千万円!
 茶寮を営みながらも、探偵として謎を追う鏡市と辰爾(双子です)。トリッキーな秘密道具を操る黎。
 こういうシリーズ、おもしろいですよね。
 誘拐された原因に全く心あたりのない友彦ですが、読者としては比較的早いうちに贋作が絡んでいることは予想できます。
 でも、登場人物たちの関わりがぐいぐい読ませてくれます。里見さんは群像ものが好きなのかな、と思ったり。
 続刊が出ているはずなのに、本屋五軒回ってみつかりません! この本自体は平積みになっているのになー。

「葬式組曲」天祢涼

2015-04-22 05:45:16 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「衝撃のラストがあなたを襲う傑作ミステリー」さらには日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞にWノミネート、2013年本格ミステリ・ベスト10で7位と、帯にはすばらしい経歴がずらり。
 天祢涼「葬式組曲」(双葉文庫)。一度は素通りしたのですが、なんだか気になって買ってしまった一冊です。

 美人社長北条紫苑を中心に、新米社員の新実、フリーランスの餡子、無口な高屋敷らが活躍する葬儀屋物語です。
 でも、なんていうんでしょう? メタフィクション?
 葬式よりも「直葬」がメインとなった世の中で、昔ながらの葬式を行っているS県を舞台としています。
 しかも、この県、本州からは離れているらしい。
 葬儀の中で暴かれる秘密。消えた子どもの遺体、新興宗教にかぶれているらしい女、自殺した妻の金切り声、兄を差し置いて喪主に指名された放蕩息子。
 これらを鮮やかに解決する餡子さん。

 しかし、エンディングはわたし好みではありませんでした。うーん。
 智史さんを愛するおばあさんが意気揚々としていて素敵なんですけどね。

「別れの夜には猫がいる」永嶋恵美

2015-04-21 05:17:46 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「泥棒猫ヒナコ」の続編が出ないかなーとずっと思ってたんですが、わたしが見逃していただけで、随分前に出版されていたんですね。
 永嶋恵美「別れの夜には猫がいる」(徳間文庫)。
 しかも、発見したのは古本屋だという……。

 元音大生の楓の物語がありました。
 ピアノを奪われて、知り合ったばかりの男性に依存してしまったのですね。
 ものすごい絶対音感で細部まで聞き分ける力についても、紹介されていました。
 しかし、なきぼくろフェチの男性、節操がないというか……。
 わたしも右目の下にほくろがあるんですが、彼らの団結する姿を見たら、愕然とすると思います。
 策略もするりとかわして、依頼者に最善の結果を出そうとするヒナコ、かっこいいです。
 わたしの知らないうちに、もう第三弾が出ていたりして。

「いつか夜の終わりに」高田侑

2015-04-20 07:51:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「てのひらたけ」がとても良かった。
 高田侑の魅力は、ロマンチックなストーリー展開だと思います。とはいえ「フェイバリット」と「顔なし子」くらいしか読んでないですが。
 ほのぼのとした側面の向こうの怖さといいますか。
 「いつか夜の終わりに」(双葉文庫)。図書館の文庫棚をつらつらと眺めて発見。
 「てのひらたけ」「あの坂道をのぼれば」「たんぽぽの花のように」「走馬灯」の四編が収録されています。

 山でてのひらたけをかじり、意識を失った「僕」は、介抱してくれた千鶴子に心ひかれます。しかし、彼女は近く嫁に行くことが決まっている。自分と一緒になってほしいと告げて山をおり、再び訪ねたときに、そこは廃墟になっています。
 千鶴子はどうなったのか?
 自分は夢を見ていたのか?
 愕然としながらも、彼がたどり着く真実は……。
 切ないタイムトラベルものです!(ネタバレ?)

 「走馬灯」も、亡くなった父親の言葉に引っかかりのある主人公が出てきます。
 預言のようなその言葉。運命って、決まっているのでしょうかね?
 ふと振り返る人生の分岐点。そこに、姿は見えないけれど寄り添う人がいる。
 他の二編のテーマも、それに近いように感じました。

「白い月の丘で」濱野京子

2015-04-13 20:57:57 | YA・児童書
 この話が、いちばん好きかもしれません。濱野京子「白い月の丘で」(角川書店)。
 三部作の真ん中です。だから、ある程度展開の想像はついたのですが、主人公のマーリィとハジュンが非常に魅力的で、つい応援したくなるといいますか。
 砂丘に裸足でのぼり、笛と琴を合わせる姿がとてもいいです。もちろん文章だとどんな曲なのかはわからないのですが、なんとなく心に響いてくる感じ。「白光の月」という曲が繰り返し登場し、そのたびに物語に余韻を残します。美しい。

 平原の中央に位置するトール国。大国アインスに滅ぼされ、王子だったハジュンは国を離れてシーハンで育ちます。
 彼が、幼なじみのマーリィを訪ねると、笛を習いに自分と同年代の男カリオルが来ている。
 マーリィに思いを寄せているこの男、実はアインスの王子なのです。
 さらに、ハジュンを擁してトール再建を目論む先王の側近ジョンシェとその一家や、カリオルではなくその弟を跡継ぎにしたいと考えている王弟など、入り組んだ人間関係なんですが、わかりやすい。
 ジョンシェの息子の妻リーファがかっこいい!
 メイリンを彷彿とさせる彼女、弓は射るし陣中での存在感も大きい。
「わたしの父は、義父の側近でアインスに抗して死んだの。そのことに責任を感じて、義父はわたしをジョンサンの嫁にした。わたしたち夫婦にとって、敵は一つ」
この台詞! 胸が熱くなります。
 彼女の甥ソンボも、圧倒的な存在感です。(でも、クリオが出てきたのにはびっくり。根っからの敵役ってことですか?)
 
 三部作、もう一度全部読み返したい!
 

「地下鉄サリン事件20年 被害者の僕が話を聞きます」

2015-04-12 20:22:45 | 社会科学・教育
 宗教とか被害者とか、そういうことに関心があるのです。「神様の値段」読んだあと興奮してなかなか寝つけなかったり、「洗脳」のムックを買ったりしてますからね。
 でも、自分が信仰する気は全くない。神は自分の中にある崇高な何かだと思っております。今日も大会なので朝からラジオ聞いていましたが、特定の宗教に思い入れはありません。聞き流しですね。
 さかはらあつし・上祐史浩「地下鉄サリン事件20年 被害者の僕が話を聞きます」(dZERO)。
 もう20年……。
 職員室のテレビで、麻原が逮捕されたニュースを見たことを鮮明に覚えています。そのあとテレビを賑わせたオウム関連の話題、幹部としてメディアに頻繁に登場した上祐史浩。そして、実際にサリンの入ったビニール袋を目撃し、車両を移ったものの、今も後遺症があるさかはらあつし。二人の対談です。

 今年、地下鉄サリン事件関係の特集がずいぶん報道されましたね。
 上九一色村に強制捜査に入るつもりだったという警察の証言も。
 指名手配を受けて逃亡していた信者も相次いで逮捕され、一区切りついた感じでしょうか。
 でも、なぜあのような衝撃的な事件を起こそうと思ったのか、誰にもわからないのです。

 麻原に最も近い存在であると世間がイメージする上祐氏の話を聞きたいと思ったさかはらさんは、この企画で六時間にわたり対談します。
 写真が少し入っていますが、なんと同じ構図のもの。
 印象的だったのは、上祐氏の目から見て、教祖に「父性」を感じている信者が多かったということですね。
 
 この本と同時に、森達也「『自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか』と叫ぶ人に訊きたい」(ダイヤモンド社)も読みました。
 メディアとか偏見とかを考えさせられます。
 北朝鮮の報道、「将軍様」と人々の言葉を訳すけれど、「様」は誰にでもつけるんですって。そういう習慣にすぎない。
 ……あれ、このエピソード、この本で読んだんだっけ? 
 なんだかものすごく時間をかけて読んだうえ、森さんの本はちょこちょこ読むのでごちゃごちゃになっています。
 戦時中の体験を語る男性の姿は、非常に胸に迫ります。
 たまちゃん、タイガーマスクのランドセル、原発、イースター島のモアイ……とにかく様々な話題が俎上に載せられるのです。

 宗教とか身近に迫っているナショナリズムみたいなものとか、考えるきっかけになるのではないでしょうか。

「神様の値段」似鳥鶏

2015-04-11 20:04:44 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 この本を買ったのは、3月21日。
「あっ、『戦力外捜査官』の二冊目が文庫になっている! えっ、スペシャルドラマもやるんだー。……ん? 今日じゃん!」と思っていたら、夫が予約録画していました。
 でも、こういう内容ではないですよ。鴻上さんが解説で言うようにテレビドラマ的な話ではありません。
 なんといっても、新興宗教団体のハルマゲドンを捜査するんですからね。何度もオウムが引き合いに出され、施設に潜り込んだり炭疽菌でパニックになりそうだったり、設楽の妹が信者になっていることでますます緊迫感が出ております。
 
 いやー、おもしろかった。
 わたくし、余りのおもしろさに興奮して眠れませんでした。ラストの川萩係長、かっこいいよ!
 さらに麻生さんの男顔負けの活躍! 公安の三浦さんとか新たな人物も出てきます。

 なぜか多摩川を看板に乗って流されてくる海月千波。それを追いかけてきた設楽ですが、その様子をニュースとして流されてしまう。
 戦力外というのは、秘密捜査に関わることを暗示するので、ここで正体が割れてはならないため、妹にその映像を指摘されても頑なに否定する設楽がかわいいです。
 ドラマにするにはこの川流れシーンは撮影困難だろうと、解説で鴻上さんが言ってました。「イニシエーション」もちょっと……ということですが、あの場面を読んで、主人公コンビはピンチを切り抜けるような部分がたくさんあるのに、そうでない人には容赦ないよな、と思ってしまいました。
 三冊めも、早く文庫にしてほしいです!