くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「何が困るかって」坂木司

2016-04-28 20:50:57 | 文芸・エンターテイメント
 読んでいる間、非常に嫌な気分でした。
 坂木司「何が困るかって」(東京創元社)。わたしには坂木さんのブラック短編、合わないんだと思います。でも、読んじゃったけど。

 比較的好みだったのは、冒頭の「いじわるゲーム」。女友達への嫉妬の転換がおもしろかった。
 「鍵のかからない部屋」の主人公の思い込みにげんなりしましたが、そういう落ちでしたか、と思うと同時に彼女の孤独さを感じました。しかし、「できもの」って……。
 坂木さんって、帝王切開で出産されたのかな? とも感じましたが。こんなにつらそうなものなんですか? わたしはお産がものすごく軽かったのでちょっと想像つきません。
 あと、やっぱり似たテイストの話があるな、と。「もうすぐ五時」とか「カフェの風景」とかは、同一の場所にいる人々の思念を俯瞰するものですよね。
 
 わたしはショートストーリーが好きなので、できるだけ機会を作って読みたいのですが、なんだか最近、「奇妙な味」系の作品が目に付くような感じがします。
 じゃあ、どんなのが読みたいのかと考えてみると、思い浮かんだのは波津彬子さんの短編でした。しみじみした作品が読みたいわー。

「10代をよりよく生きる読書案内」詩歌編

2016-04-27 21:17:06 | 書評・ブックガイド
 図書室の整理をしていると、あれこれ気になる部分はあります。
 自分好みにカスタマイズする、最初は詩歌を揃えてみるところから始まるのですが、思ったよりも蔵書が少ない。
 増やしたいけど、自分の知っている本しかわかりませんからねぇ。知識を補強すべく「10代をよりよく生きる読書案内 詩歌編」(東京書籍)を借りてきました。編者はこやま峰子。わたしは「国内編」を持っています。……持って、いるはず。例によってどこにしまったか忘れていますが。
 メジャーなところ(与謝野晶子とか柴田トヨとか光太郎とか)が本流ですが、部分的に知っている割には全体を通して読むことが少ない作品が結構ありました。
 例えば、「青鞜」。冒頭は人口に膾炙していますが、こうやって三ページにわたって書いてあるのを見ると女性として、というよりも性別を越えたところにある精神の自立を感じさせられます。
 
 わたしは桃田春兆の俳句に心引かれます。
 車椅子の人生を詠み込んだ句の、悔しさ、つらさ。「就学猶予クレヨンポキポキ折りて泣きし」。以前にも目を留めたことがあるように思いますが。
 
 マーガレット・ワイズ・ブラウン、うちだややこ訳「たいせつなこと」(フレーベル館)もいいなあ。「あなたは あなた」という詩が紹介されています。「でも あなたに とって/たいせつなのは」「あなたが/あなたで/あること」というフレーズ。仮名と空白のあたたかさが胸に残ります。
 詩の本は増えるでしょうか……。

「アカシア書店営業中!」濱野京子

2016-04-25 04:43:26 | YA・児童書
 部活が忙しくて図書館に行く時間が取れません(泣)。
 でも、シューズを買いにいくついでにやっと寄れました。数冊チョイスして、久しぶりに児童書コーナーへ。
 そしたら濱野京子さんの「アカシア書店営業中!」(あかね書房)が面陳されていたので、すかさず借りてきました。
 書店の経営難を小学生たちがアイディアを出して乗り切る……という展開だと思っていました。目次には「ポップを作ろう」「読書リレー、広がる」なんて章題があるので余計そういう先入観があって。
 ただ、ちょっとだけ違いました。
 アカシア書店は本屋として営業を続けているし、しっかりしたオーナーもついています。危機を迎えているのは、児童書コーナーなんです。

 読書好きの小学五年生大地。転居した町にはアカシア書店という児童書が充実した本屋さんがあり、店の人とも親しくなりました。
 ところが、店長は文具を増やす計画があるから児童書コーナーを縮小するように言うのです。
 売り場を守るために、三カ月で売上十パーセント増を提示されたことから、大地は親友の智也、店員さんの娘の舞衣、友人の琴音とアイディアを練り合います。
 読書リレーおもしろそうですね。いろいろな人の視点が読めると考えが深まります。
 それから、人気が出そうなシリーズものの作者を呼んでサイン会を企画するのも楽しそうでした。
 で、大地の家族事情が絡まってきて、おじいさんとの確執も緩和されます。お父さんの存在やおじいさんの造形、ちょっとしたところに見られるおばあさんの茶目っ気が良かったです。
 文芸読書クラブ、できるといいですねぇ。

「メアリー・スーを殺して」ほか

2016-04-24 18:47:57 | 文芸・エンターテイメント
 乙一の別名義ペンネーム作品を集めた作品集「メアリー・スーを殺して」(朝日新聞出版)。タイトルだけ見ると物騒な感じですが、この作品よりも「山羊座の友人」(乙一)の方が緊迫感は高いです。
 高校生になった主人公のクラスには、残虐性で有名な生徒がいて、これまでにもきな臭い噂が絶えませんでした。そのターゲットになった少年が、血まみれのバットを持っているのを発見した主人公は、彼をかくまうことにします。
 主人公の部屋のベランダは風の通り道になっており、時に思いもよらないような「漂流物」が飛ばされてきますが、実は数日前に未来の日付の新聞記事が手に入ったのでした。
 動物公園から山羊が逃げ出し、電車の駅で捕まった。
 その裏面に、残虐性のある生徒を殺したことを告白した高校生が自殺したという報道があり、主人公はそのことがずっと気になっていたのです。
 大雨が降るから家にいたほうがいい。親友の女の子に嘘をつく場面が切なくてよかった。
 ついでにいうと、わたしも山羊座です。

 中田永一「宗像くんと万年筆事件」も、盗みの容疑をかけられた女の子を救うための推理を展開する宗像くんが格好よくて爽快でした。
 「メアリー・スー」は、二次創作では有名な語句なのですね。もしや中田さんの造語? と思っていました。
 自分も文芸部だったので、なんかすごくわかります。作者を投影した作品って、読んでいて恥ずかしいよね……。自分がそうでなかったかどうかはわかりませんが。

 結局前半しか読まないで返却してしまったので、登場人物の名前とかちゃんと覚えていません。
 でも、中田作品は大好きなのに、他名義の作品が読めないのは何故だろうか……。

「ストーカー加害者」田淵俊彦

2016-04-18 15:29:28 | 社会科学・教育
 今日は振休です。久しぶりに部活もなくてのんびり……と言いたいところですが娘が体調不良を訴えて休み。いろいろ心配です。
 「ストーカー加害者 私から、逃げてください」(河出書房新社)。田淵俊彦 NNNドキュメント取材班が、インタビューをもとに分析しています。
 妻子のある男性と付き合い、その妻に執拗にメールや電話をした佐藤さん。部下の二十代女性にプロポーズをし続ける五十代の田中さん。芸術家のファンとして、彼の居住地に足を運ぶ上田さん。
 彼らは、例えば接見禁止の警告を受けても手を引こうとしないのです。彼らなりのこだわりとか思い込みのようなもの、急に怒りのスイッチが入ること、そして頑迷さをたしなめたり緩和したりするような親しい人がいないこと、様々な傾向はなるほどと思わされます。
 田中さんは、彼女に拒否されているのにまだ結婚を夢見るようなことを言う。謝罪したいといいますが、それはつながりを持っていたいという都合のいい考えだと思います。3ヶ月に一度プロポーズするくらいいいではないか、とか。なんだそれは。呆気に取られるような思考回路でしょう。
 また、後半では社会的なリテラシーが未熟な中学生が、デートDV周知のプログラムを知って、「束縛」を愛情のうちだと考えているという事例が紹介されます。
 「嫉妬や愛情表現なら思わず叩いてもそれは暴力とはいわない」「付き合っている二人の気持ちや考えは同じでなければならない」なんていう設問にマルをつける子も、またそれをバツだと言われて否定的な声をあげる子もいるそうです。
 さらに、田淵さんは生徒たちに真剣さが足りないのではないかと不安を覚えます。
 にやにやしたり隣の子と話したりするような様子なら、やっぱり嫌な感じがしますよね。
 高校生になってからでは、もうその因襲に絡められて動けないと感じるという話もありました。
 ネット環境の発達によって、子どもたちの半数近くに、顔も知らない「友達」がいるそうです。それを、怖いとは思わないのか。
 加害者と被害者の問題や、カウンセリング、病理としての捉えなどの視点も、興味深いと思います。

「身近な野の花のふしぎ」森昭彦

2016-04-16 20:34:21 | 自然科学
 転勤以来ものすごく忙しくて、これから先も休みはかなり消失すると思われ、非常に憂鬱です。生徒が落ち着いているので、このまま頑張ろうと思っていますが。
 疲れているせいか、8時くらいにもう眠くなる。この本を読んでいるとさらにその比率が高くなります。心地よいからでしょうか。
 「身近な野の花のふしぎ」(サイエンス・アイ新書)。
 「身近な雑草のふしぎ」が面白かったので同じ系統のものを借りてきました。
 「野の花」と「雑草」ってどう違うのか迷うところですが、花が咲くことをメインに集めているのでしょうね。特に「帰化植物」を集めている部分が興味深いです。
 道端や校庭に咲くあの赤い花は「ナガミヒナゲシ」というのですね。
 五年くらい前からやたらと目につくようになってきました。すごい勢いで席巻されていく花壇に驚きます。
 「セイタカアワダチソウ」が増えるのが気になってできるだけ切ってきたわたしとしては、花粉症のアレルゲンだと誤解されていたという話と、根っこがなわばりを主張する物質を形成するのだけれど、自家中毒を起こしてしまうというのが衝撃的でした。
 
 ところで、わたくし現在ひっそりと図書室改変してます。メイン担当じゃないんですが。
 やっぱり本の整理をしていると落ち着きますね。地道に頑張ります。

「おせっかい屋のお鈴さん」堀川アサコ

2016-04-09 19:38:54 | ファンタジー
 早いもので4月もそろそろ中旬です。
 転勤してから怒涛のように忙しくて、本を読む時間もなかなか取れません。やっと今日、部活から帰ってからいくらか読めました。
 「おせっかい屋のお鈴さん」(角川書店)です。
 堀川アサコさんだから、時代ものかな? と思っていたのですが、舞台は仙台。地下鉄東西線八木山動物公園駅からほど近い本当寺を舞台にした、ファンタジー人情コメディです。
 二歳で両親が離婚したカエデは、亡くなった父親からもらった手紙が縁で本当寺にやってきます。そこに現れたのが、舞妓さんのような格好をした幽霊のお鈴と、奉公人の重兵衛。カエデがお鈴の墓につまずいたことにご立腹の様子。
 お鈴は、かつて自分を裏切って駆け落ちした二人を探し出すように言うのですが……。

 結婚詐欺師を懲らしめたり、役者志望の御曹司に振り回されたりするのですが、カエデと彼氏の「こんちゃん」、本当寺の近くに住む貸本屋のおじさん(泰平さん)のかかわりがとてもあったかいんです。
 目の前で教え子が事故にあい、世間から誹謗中傷をうける友人千佳の話が切なかったです。
 ラストが「さよならのかたち」だったので、てっきりお鈴さんも成仏するものと思っていたのに、全然そんなことはなかったので、続編もあるのかも?
 舞台が仙台なので、なじみの地名がよく出てくるのも楽しいです。泰平さんの息子一家は虹の丘に住んでいますが、わたしもそのあたりでアルバイトしていました。
 冒頭部分は4月はじめ。東西線は先日開通したので、実はこの物語は「近未来」なのです。すぐ時間が追いついてしまいますけどね。そういうところにもにやにやしてしまいました。