くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ハッピー・バースディ」新井素子

2015-07-31 19:38:33 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 高校時代、新井素子にどはまりしていたのは、わたしだけじゃないはず。
 でも、「ブラックキャット」の最終巻で、もうこの文体には合わないと思い、しばらく遠ざかっていました。
 今回集団貸し出しをうけたものの中にこの本があって、読みはじめてみました。「ハッピー・バースディ」(角川書店)。
 本名後藤明。女子なのに男としか思われない「あきら」は、ペンネームを「梧藤茗」として小説コンクールに応募します。
 あきらの旦那さんの公人は編集者。彼女の才能を後押ししてくれるのですが、作品がベストセラーとなったためのインタビューでも、のろけ話をしてしまいます。
 インタビューされている喫茶店で昼食をとっていた浪人生の裕司は、傍若無人な取材にうんざり。そして、あきらが近所に住んでいることを知り、嫌がらせを始め……。
 
 そうそう、新井さんって、結構嫌な感触の作品書くんだよねー、と思い出しました。文体が独特だからごまかされてしまうけど、いやはや、怖いというか後味悪いというか。
 嫌がらせのパターンとしてはありがちかと思うのですが、途中で公人が事故死してしまい、さらに救いようのなさが募る感じがしました。
 

「芥川賞の謎を解く」鵜飼哲夫

2015-07-30 21:59:39 | 総記・図書館学
 新聞で紹介されていた本です。「芥川賞の謎を解く」(文春新書)。
 芥川賞の選評から、賞の歴史を読み解いていくコンセプト。なにしろ百五十回を超える文学賞ですから、様々な歴史があるわけです。しかも、発案は菊池寛。となると、初期の選者は文豪揃いです。
 菊池、久米、谷崎、川端、横光、室生……名字だけで誰かわかってしまう。あとは佐藤春夫と瀧井孝作、小島政二郎、佐佐木茂索です。
 わたしは高校時代、便覧を見るのが大好きで、芥川賞作品をチェックしたりしていたので、こうやって振り返ってみると覚えている題名が結構あります。
 有名な太宰の芥川賞落選事件とか、太陽族とか、文学史に残る話題もでてきます。綿矢りさと金原ひとみのダブル受賞とかね!
 ただ、わたしとしては芥川賞というと真っ先にイメージする三浦哲郎さんが本当にちょっとしか扱われてなかったので残念……。(まあ、受賞作品で好きなものというアンケートの上位だったという内容なので悪くないですが)
 ということで、ネットで三浦さんの選評を検索しました。抜粋なのでニュアンスしか伝わらない部分もありますが、作品に関してのストイックさはわかります。
 今回の芥川賞は又吉さんってこともあってスポットが当たりましたが、やっぱりこの賞には皆さんいろいろと考えてらっしゃる感じです。
 直木賞バージョンも読みたい!

「太宰治の辞書」北村薫

2015-07-26 09:42:34 | 文芸・エンターテイメント
 わたしも日本文学科で学んだ一人ですから、この小説の豊かなスリリングさに心躍ります。「太宰治の辞書」(新潮社)。
 北村さんの懐かしいシリーズ主人公「わたし」は、出版社で実力のある編集者になっており、旦那さんと中学生の息子と暮らしている! 確かに、「朝霧」からそのくらいの時間が過ぎているのですね。不思議な感覚でした。
 正ちゃんは高校の先生になっていて、円紫さんは円熟の芸を披露してくれます。こうやって読んでみると、時の流れがあってもお互いの精神的な結びつきが変わらないのは安心しますね。
 
 「わたし」は、太宰の作品「女生徒」の原作となった日記があることを知ります。その日記が復刻されたものを読むと、自分が心惹かれた「ロココ料理」は、太宰の創作であることがわかる。なぜ、彼はこのような試みを行ったのか。そして、彼が考える「ロココ」とは、どういうニュアンスがあるのか。
 このストーリー設定、わたしとしては、北村さんはやっぱり国語の教師なのだよなあ、と感慨を受けました。
 例えば、太宰の原作つき作品といえば、「走れメロス」が挙げられると思います。原作との比較で、作者がどのような意図をもって書きかえたのかを検証する。授業として提示することで新しい気づきがあるものです。作品分析の仕方としても参考になりますね。
 何よりも、北村さんはこの発見を論文ではなく小説という形で書いてくださるのが楽しい。
 芥川とか三島についての考察もわくわくします。
 ところで「生まれて墨ませんべい」が取り上げられていますが、斜陽館ではかつて斜めに切った羊羹(斜ようかん)を売っていましたよ! わたしが高校生のころですから、かれこれ二十年以上前ですが。今はないのかしら。

「遊星ハグルマ装置」朱川湊人・笹公人

2015-07-22 20:34:53 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 遊星歯車という部品が、本当にあるのですね。なんとも不思議な響きから、笹さんたちの造語かと思ってしまいました。
 「遊星ハグルマ装置」。笹公人さんの短歌と朱川湊人さんのショートショートで構成された、贅沢な作品集です。図書館で「暗号遊び」を立ち読みして、その残虐さに借りるのを躊躇していましたが、でも、毎回手に取ってしまう。
 印象的だったのは、「ウルトラマン」かな。(返してしまったので、間違っていたらすみません。以下同じ)
 ウルトラマンのうんちくから、思いもよらないちょっといい話を聞いたのに、話題を戻してしまう人の気まずさ。当の本人よりも、これに近い立場の人の方がいたたまれない感じ、よくわかります。
 また、「ラビラビ」もおもしろかった。特に「ぶたぶた」を読んだあとだとなおさらです。そして、女の子のもとを去ったラビラビのその後の話もありました。今も、衛星のすれ違う瞬間を、彼は待っているかもしれません。
 それから「正義の使者」!
 あのお母さんが? そんなまさか、と言い募るお姉ちゃんと、その事実を伝えていこうとするお父さんとのやりとりがおかしかった。
 朱川さん、こういう超短編、他にはお書きになってないんでしょうか。
 笹さんの短歌もいい味を出しているので、メモしておきたいところでした。
 でも、朝は駅伝練習、夜は夏祭り準備を手伝う毎日、なかなか感想書く時間がなくて。今日は、いつもより一時間早かったので、少し余裕がありますが。
 外は雷。ふと外を見たら山が怪獣だったり、宇宙人が現れたりしているかもしれませんよ。

「3時のアッコちゃん」柚木麻子

2015-07-18 14:18:38 | 文芸・エンターテイメント
 「ランチのアッコちゃん」の続編です。「3時のアッコちゃん」(双葉社)。「ランチ」と「さんじ」は韻を踏んでいるんですね。
 新しい会社にも、同居している彼にも不満がある三智子。突然訪ねてきたアッコさんは、イギリスでお茶の勉強をしてきたから、会社の会議に参加すると言い出します。これまでスナック菓子とペットボトル飲料で行っていたものが、急にスコーンだのショートブレットだのといった世界にチェンジ。そして、そこでの人間関係にも変化が……。
 男らしさとか、企画とか、三智子の価値観が変わっていくのがおもしろい。
 なんといっても、クリスマスプディングの仕込みについて、感じ入りました。
 三智子の彼は古本屋さんなので、児童文学の中に出てくる、幼い頃には想像するしかなかった食べ物の話題があります。アッコさんが、それは想像力だと語るところもとても好き。
 そうですよね。ニワトコとかコマドリとか(このへん、「秘密の花園」?)例語が出ていますが、気持ちわかる! そういう世界、大好きでした。
 今、娘はそういう話を読もうとしないので寂しいです……。

 アッコさんは、ポトフだと冬場しか売りにくいので、スムージーも一緒に扱うようになります。地下鉄の駅とか大阪にも支店が! すごい。行列もできるそうですよ!
 梅田の地下街行ってみたいと思いました。

「学校のぶたぶた」矢崎存美

2015-07-13 05:24:05 | 文芸・エンターテイメント
 今回のぶたぶたは、学校が舞台!(タイトルも「学校のぶたぶた」ですからね) スクールカウンセラーです!
 わたしも学校に勤めていますから、カウンセラーさんのポジションわかります。ぶたぶたの行動は相当型破りですが、なにしろ彼の存在自体も型破りですからね(笑)
 
 スクールカウンセラー担当になった美佐子。相談の予約が二件とあって少しがっかりしています。教頭先生は意地悪だし、どうやっていけばいいのか、自分が相談したいくらい。
 そしたら、顔合わせに来たはずのカウンセラーさんがいなくて、ソファにはぶたのぬいぐるみ。
 もしや、新しいカウンセラーさんは逃げてしまったのでは!
 と焦る彼女に、ぶたのぬいぐるみが声をかけてきて……。
 
 今回はぶたぶたのお弁当がおいしそうでした。おにぎらずまで持ってきているよ。わたしも毎日弁当づくりをしていますが、自分では持っていかないので(給食がある)、なんだか楽しそう。
 大好きだったお父さんが、かつていじめをしていて、そのことに罪悪感を持っていないことにショックを受ける少年の話「重い口」が印象的です。
 学校って、やっぱりいろんな人がいますね。鈍感だったり、家族のことで悩んでいたり。
 そして、中学生の生活って、背後に親が色濃く存在していることを感じました。
 我が子も中学生、これからどう変化していくのか、楽しみです。

「きょうも誰かが悩んでる」

2015-07-12 19:41:06 | 総記・図書館学
 わたしの人生相談好きの礎を築いたのは、読売新聞「人生案内」。今年で百年を迎えたそうです。で、その中からテーマ別に六十本余りを紹介しているのが「きょうも誰かが悩んでる」(中央公論新社)。
 あっという間に読んでしまいました。どれだけ好きなのでしょう。
 わたしはこれまで、明治大正の相談も機会を見つけて読んできたのですが、こうやって時代に即して読んでいると、世相とか考え方は移り変わるものだということがよくわかります。
 なんていうんでしょう? パラダイム変換?
 初期は「身の上相談」、その後「悩める女性へ」とタイトルもかわったそうです。ターゲットは女性なんですね。まだまだだと思っていたんですが、この百年で、ジェンダー的な思考はずいぶん受け入れられてきたのではないかと感じました。
 平成になっても、えっ、と思うような悩みがあったりしますが。
 例えば……十六歳男子「同性の親友と恋愛関係に」(!)
 寮で同室になった友達(小学校からの親友)に告白されてから彼のことが気になって、愛し合うようになったんだそうです。大学を卒業したら、彼は家業を継ぎ、結婚しなければならないのだから、今のうちに別れた方がいいのでは、という悩み。
 あと、知り合いの家で困窮していることから、その娘を育てられなくなったので養ってもらえないか、同時に金銭も援助してほしいというのもインパクトありました。(これは大正の相談)
 世の中の悩みは、尽きないものだと感じます。
 

「滅びゆく動物」藤原英司

2015-07-09 20:41:02 | 自然科学
 最近似たようなタイトルばかり読んでいるような気がしますが、仕事なので仕方ないです。(好きで読んでいるんですけどね)
 「絶滅の意味」という論説文の補助資料です。内容をまとめて、そのあと調べ学習をするので、地道に入手しているのですが、先日、仙台駅前の大型書店でこの本を発見しました。
 藤原英司「滅びゆく動物」(保育社)。「カラー自然ガイド」の一冊です。やたらと懐かしい感じの写真なので、奥付で確認したところ……。
 初版は、昭和五十年発行……。改定して平成六年の発売でした。定価七百円です。(本体680円と書いてあるんですが……)
 
 のっけから、「ビクーナ」という動物登場! 「ビクニア」ともいうそうです。
 今まで十冊は絶滅に関わる本を読んできたけど、記憶にないよ! しかも、当時アルパカとの交配が試みられて、「パカビクーナ」という交雑種が誕生しているだそうです。えっ、この三十数年の間に、この動物はどうなったのでしょうか? それとも、現在では違う名称で呼ばれているとか?
 というのも、しばらく読んでいくと「ノトルニス」という飛べない鳥が紹介されていて、こちらは現在「タカへ」と呼ばれることが多いのです。
 交雑種は、遺伝子的に固有の生物と変わってしまうので、現在ならそういう種の保存はしないはず。
 さらに、ラッコの減少とセットで語られることの多い、ジャイアントケルプの海底林の破壊には触れられていません。ということは、キーストーン種という考えもまだなかったのかも。

 さて、後半には「なぜ減っていく動物を救わなければならないのか」という項があります。
 衝撃でした。7つの例が紹介されています。
「人類の滅亡を防ぐため」「子孫にありのままの自然を残すため」「人間のリクレーションに必要だから」「動物研究のため」「生態系保全のため」「可哀そうだからー生命をもつもの同士の連帯意識」「神が造った生命を守るため」
 何冊か続けて読んでいるので、同じテーマの文章にも出会ってきたのですが、例えば教科書の文章とは異なる部分がある。こちらは、生態系の中でキーストーンになる生物が予め分かるわけではないこと、将来役に立つかもしれない資源の可能性を失うこと、絶滅してから取り戻すことはできないこと(不可逆性)をあげていました。時期によって考えも変わるのだなと思います。
 
 ところで、ビクーナについて調べたところ、織り物に使う体毛のみを効率よく刈り取る方法が確立したため、濫獲が減ったそうです!
 そうやって種を救うことができるって、いいなあと思いました。

「羽生結弦物語」青嶋ひろの

2015-07-05 19:51:56 | 芸術・芸能・スポーツ
 角川つばさ文庫「羽生結弦物語」です。書店に並んだときも立ち読みしたんですけどね。図書館から借りてきました。
 中学生の頃から注目していた羽生くん。テレビに映っているとつい見てしまいます。(わたしは普段ほとんどテレビ見ないのです)
 ソチオリンピックで優勝するまでの活躍が紹介されているのですが、結構なバランスて本人が当時の状態で話す構成になっていて、なんだか不思議な感じ……。
「世界ジュニアで、12位ー今年からジュニアの大会に出場してみて、わかったんです」
「もうぼく、エキシビジョンは見なくていいです! 早く日本に帰って、今すぐ練習します!」
「だから、今年はどうしても、世界選手権に出たいと思っています」
 このように、全部現在形。
 えーと、羽生くんに取材した作品ではないのでしょうか。それとも、インタビュー記事を再構成したとか? 彼は大会後かなりしゃべる人だとは思うんですが、でも、残っていない分もあるはずなので、妙な感じ。
 カナダに拠点を移してからのこととかも、興味深いですね。
 ところで、昨年のグランプリ大会での衝突をめぐって、わたしは「けがをおしての出場に感動した」「将来を考えて棄権すべきだったのではないか」の二つの立場で検討する授業をしたのですが、彼はかなりけがを隠して出場することが多かったのですね!
 これからも羽生結弦くん、注目したいです。

「念力短歌トレーニング」笹公人

2015-07-01 03:06:07 | 詩歌
 「ね」と打っただけで、予測変換の先頭に「念力」が出てきました。
 ……念力短歌、わたしの携帯にまで影響を及ぼしているようです。
 どうしても読みたくなって、職場のダンボールに詰めていた「笹公人の念力短歌トレーニング」(扶桑社)を探して持ってきました。(家に本が溢れているので、授業のネタに使えそうなものは置いてあるのです)
 まだこれ、ネット連載してるの? 読みたいんだけど!
 と思って検索しましたが、この単行本のことしか出てこないので、諦めます。でも、「遊星ハグルマ装置」はもうこのころからやってたんですね。

 では、読者投稿からいくつか。
   「雨の中雷魚を狙う釣り人の麦藁帽には見覚えがある」かわら
   「若き日のニックネームのアンドレはベルばらであると今も信じる」あきえもん(注・お題は「格闘技」です)
   「係長、正午のチャイムに目を閉じる ああ力石の命日なのか」□波湊
   「磯野家に導入されれば我が家にも望みがあるか食器洗い機」中野玉子 
   「ガンダムを知らぬ少女にアニヲタの我はアムロを演じていたり」バッコス☆あきら

 もっと紹介したいところですが、短歌を読み直すのは散文よりも難しいです。
 念力短歌、縁語についても語っています。俳句もそうだけど、音数が決まっていると何かしらのテクニックが生きてくるのでしょうね。
 奥が深いです。