くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ななつのこ」「魔法飛行」

2012-04-30 21:12:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 どうも編集画面を開いて入力というのに慣れなくて、読み直す暇もなく。書きためておくことができないのがつらいですね。勢いまとめて書くことが多くなります。
 加納朋子のデビューシリーズ「ななつのこ」と「魔法飛行」を読みました。これが「スペース」につながっていくんですよね。この二作は多分発売当時に読んだと思うんですが、この後なんとなく遠ざかっていました。あれから二十年経って、この青臭さのようなものはなんとなく恥ずかしいような懐かしいような。
 短大生の入江駒子は、「ななつのこ」という本が気に入り、作者の佐伯綾乃さんに向けてファンレターを書き始めます。すると返事が届いただけでなく、手紙の中に示した不思議な出来事の解答ともいえる謎解きが書かれているのです。スイカジュースの謎、旧友から届いた古い写真、おばあさんと女の子は何をしているのか。「ななつのこ」の作中で描かれる物語と、駒子の日常がゆるやかにリンクしていく構成。そして、彼女はいつの間にか作品に関わった人たちと知り合っていくのでした。
 こうして読み返すと、本の主人公が「はやて」であること、そしてサナトリウムで過ごす女性が「あやめさん」であることの理由が、「スペース」で解き明かされることがわかります。「あやめ」は「綾乃」の名前をもじったもの。そして、瀬尾さんは「はやて」が自分をモデルにしていることを話しています。彼の名前が、「スペース」の最後に知らされる。これが隠されていたのは、加納さんが三作めまで綿密にプロットを積んだからにほかなりません。
 瀬尾さんは、「はやみ」という名前です。(すみません、漢字は忘れてしまいました。)
 これが続編の伏線になっていますね。
 彼はおばあさんの作業を見に行ったりバルーンの恐竜を飛ばしたりして、駒子の世界に絡んできます。非常に頭の回転が早く、他の人が気づかないようなものの見方をする。ものには執着しない彼が、ニュージーランドから駒子に羊のぬいぐるみを買ってくるなんて!
 ところで、解説によると瀬尾さんは「童話作家」なんですって。なんか今までそういう見方をしていませんでした。 本を二冊以上は出しているんですね。多様なアルバイトをしているイメージが強かった。
 さて、駒子は四人きょうだいの次女。これは加納さん本人のプロフィールをなぞっています。「無菌病棟より愛をこめて」を読んだあとだと、憎まれ口を叩く弟がなんとなく頼もしい。そして、これほど頼りにされていたお母さんが亡くなられたことを思って、沈痛な気持ちになります。本の中には時間も封じ込められているのでしょうね。

「本日は大安なり」辻村深月

2012-04-28 14:39:46 | 文芸・エンターテイメント
 久しぶりに辻村さんの本を読みました。やっぱりエキセントリックな女の子の嫌な感じが上手いなあ。双子の姉妹鞠香と妃美佳とか嫌な客の代名詞みたいな大崎玲奈とか。ああ、もうかなりいい年なのに、なんだかまだ思春期のような鈴木陸雄もかなり痛い。
 辻村深月「本日は大安なり」(角川書店)です。気になっていたんですよ。でも、ドラマ化したためかなかなか本棚にない。
 巻末の情報を見てわかったのは、結婚式場に関する連作を時系列に並べ直したということですね。もともとは短編シリーズだったものが、長編に組み直されにます。
 それがうまく機能していると思います。多分短編の一つ一つは緊迫感もあってそれだけ読んでもおもしろいのでしょうが、組み直したことでモザイクみたいな多面体になっているというか。それぞれのサプライズが相互的な効果を生んでいる感じがします。
 様々な人間像が集結して、日常とは違う空間にいる結婚式場のイメージがよく出ています。
 真空の不安や、双子の姉妹がお互いを必ず見分けてほしいと願う交錯した感情は、それなりに先が読めるといえば読めるのですが、長編の一場面としておもしろいと思いました。 
 バンドリーダーの伸がいいですね。
 しかし、ろくでなしのあの人物にもハッピーエンドを用意しているあたり、辻村さんは優しいですね。
 マリアベールに興味がわきました。今後、結婚式の場面をチェックしようと思います。
 わたし自身の挙式は、家から三百メートルの式場だったのですが、そのときのことをなんとなく思い出しながら読みました。ティアラをしたかったな。十余年経った今でもそう思うことはありますね。カメラマンさんが凝り性で、なんか写真を撮る時間がやたらと長かったような印象があります。 

「謎解きはディナーのあとで 2」東川篤哉

2012-04-25 20:42:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 予想外の展開でした! 麗子、ついにジャガーに! でも、「慣れない左ハンドルに悪戦苦闘」って、愛車は国産なんでしょうか。影山にリムジンで迎えにきてもらう場面しか思いつかないんですが。
 聞き込み先の喫茶店でコーヒーを飲んでいるのに、出てくるに三十秒かかるってのがおもしろかった。罵詈雑言も相変わらずです。「いい意味で」と取り繕ったように言ってみたりするのも彼らしい。
 今回は、なんといっても「完全な密室などございません」がよかった。エンディングも決まっていたし、今後三人がどうなっていくのか非常に楽しみです。
 前回はそんなことなかったのに、なぜか風祭警部のイメージが狩野英孝で浮かんできたんですが、結構いい感じでしたよね。
 それにしても、テンペラ画の壁の裏で数日過ごした女性の心理を考えると、わたしとしてはたいへん嫌な感じがします。生への執着が日増しに後悔に通じるというか。はしごを外すべきではなかったとか、違う方法はなかったのかとか、いろいろ苦しむのではないかと。あまり高いところが好きではないので、はしごを上ってまた下りて、帰るときにもまた同じでは、逢い引きするのも苦痛なような。
 今回は、「夏希」という名前の人物が二人も出てきて一瞬混乱しそうになりました。わたしの深読みしすぎでしたが。
 テンガロンハットやサンタの衣装に興味津々の麗子が、またお茶目です。
 東川さんのコメディでは、これがいちばん読みやすいかもしれませんね。そういえば、発売当時のポップもおもしろかったような気がします。細部は忘れてしまいましたが。影山と麗子の掛け合いでしたよね。タイトルについてとか。
 とすると、やっぱり相手役は影山なんでしょうか。続編には風祭警部の名前も出てきますかねぇ。

「『守り人』のすべて」上橋菜穂子

2012-04-23 21:50:22 | 書評・ブックガイド
 図書室にこのシリーズを揃えたので、ガイド本も買ってみました。上橋菜穂子「『守り人』のすべて」(偕成社)。
 何度か書きましたが、本校図書室、非常に品揃えが悪く本棚も少なく、学習空間としての使い勝手も悪い。今年は委員会も担当できるので、表示をつけたり並びを替えたり学級文庫を始めたりと、正面切って改革に乗り出してみました。
 ちなみにこのシリーズも、「蒼路」で止まっていました。担当がころころ変わって継続購入していなかったのですね。
 今回「炎路を行く者」を読んで、シリーズ全体を読み返したいと思ったのは、多分わたしだけではないはず。そんなときの復習にも役立ちます。
 全体のあらすじと人物紹介、用語解説、各国の情勢といったところや、佐藤多佳子さんとの対談、関わりのある方々からのメッセージなども収録されています。佐藤さんとの対談は初出の雑誌で読んでいるのですが、お二人の熱のこもったお話についにやにや。お互いの作品を読み込んでいるあたりが合評会みたいだったり、共有するバックボーンに肯かされたりします。
 「炎路」についての話題もありましたよ。「下町のしょーもないガキだった頃の話なんだけどね」だって。
 でも、この本でわたしがいちばんおもしろく読んだのは、平野キャシーさんとの対談でした。「守り人」を英語圏に紹介すべく尽力するキャシーさん、編集のシェリルさんと、メールでやりとりしながらの作業のお話がとにかくおもしろい。上橋さんが自腹を切ってでも翻訳をお願いしたいと決意するときに、偕成社が協力を申し出てくれる。日本語と英語の言葉感覚の違い。トロガイが女であることを隠しておかないとチャグムが驚くシーンが活きてこないから、「master」と呼ばせることにしたけれど、男性を表す形容詞だから「ヤクーは、たとえ女性でも、すぐれた呪術の技を持っている者はマスターと呼ぶ」という注釈を入れたという話とか。
 また、「気」という言葉には文化的な概念が強いので翻訳には使いたくないというお話も納得でした。(それなのに「レコ」はいいのか?? とも思いつつ)
 短編「春の光」もいいですよ。タンダとの穏やかな暮らしが見える。どうしても養い親のジグロがクローズアップされてしまう中で、バルサに自分の父親の記憶が残っていることも、なんとなくうれしい。
 ところで、先日新聞に「バルサ敗れる」とかいう見出しがあって驚いたのですが、サッカーのバルセロナチームをそう呼ぶのですか? すみません、世間知らずで。
 「闇の守り人」は読み返したいと、現在痛烈に思っております。

「オンナの病気をお話しましょ」井上きみどり

2012-04-22 08:59:34 | コミック
 発売当時店頭で見かけて、買おうかどうか迷ったんですが、その後見かけなくなって、やっぱり入手しておけばよかったと後悔。今回は買いました。おもしろかったから続編も購入しました。つくづく、自分の健康な体に感謝。太り気味ですけれどね。緑内障の疑い以外に検診で引っかかったことありません。点滴を打ったこともない。入院は出産だけ。ポリープはできやすいですが。 
 井上きみどり「オンナの病気をお話ししましょ」「もっとオンナの病気をお話ししましょ」(集英社)。監修は産婦人科医の竹内正人さんです。
 取り上げられているのは、子宮筋腫、乳ガン、子宮内膜症、摂食障害、うつ、不育症など。中でも印象的だったのは、パニック障害の方でしょうか。短大からの帰りのバスで突然気分が悪くなり、その日から閉鎖された空間が怖くて仕方がなくなるのです。彼女を支えてくれる家族と、大学時代からずっと付き合ってきた彼の存在が大きいと感じました。調子がいいときには友達と出かけようと思うのに、どうしても苦痛でドタキャンすることが多く、付き合いが減っていったそうです。彼にも同様のことは何度もあったでしょう。辛くて泣いている側にいてくれたり、車で迎えにきてくれたり。
 パートナーって、大切ですよね。反対に、苦しくても自分の気持ちを受けとめてくれない相手に怒りを覚える人も多いようです。
 それから、PMS(月経前症候群)についても考えさせられました。わたしはあまり生理に左右されない方なので、このように苦しんでいる人々の辛さが、結構衝撃的でした。有効な治療法がないと言われ(竹内先生によるとあるそうです)、じっと我慢している人も多いのだとか。でも、月の三分の一も苦しいのは……。
 この本を読んだあと、知人から子宮筋腫の闘病談を聞きました。近くにいた人も、実は自分にもあったと話していて、本当にこの年代、気をつけないといけないと感じました。とりあえず検診は毎年受ける、何か心配なことがあったら病院へ。肝に銘じたいと思います。
 あ、でも左半身に時々軽い痺れが……。危険ですかね。

「炎路を行く者」上橋菜穂子

2012-04-19 22:28:03 | ファンタジー
 わ、わからないっ。シリーズ本編を読み返さないと駄目なんでしょうか。何度読んでも、「まさか、十五歳のバルサが、少年時代のヒュウゴをこんな形で救ってくれることになるとは、なんと不思議なことだろうと思わざるをえません」という意味がわからず、悩んでしまいました。
 ヒュウゴが助けた大店の息子が怖い目にあったとは言ってたけど、バルサとノランの争いのこと? でも、地名も違うし……。
 と思っていたのですが、やっとわかりました。お蔵入りしそうだった物語が、「十五の我には」とセットになることで発表することができた、ということを示しているのですね。深読みしすぎでした。いやはや。
 自分の見きわめが甘かったために母と妹を失ったと悔やむヒュウゴを救ったのは、口をきかない娘リュアンとその父親でした。リュアンも異世界を覗き込むことのできる娘で、その力を借りてヒュウゴと話すことができます。しかし、誰とでもコミュニケーションがとれる訳ではなく、こういうことができたのはあとは母しかいなかったようです。
 〈帝の盾〉の長子として生まれ、残党狩りにあえば命はないヒュウゴを、二人はかくまってくれます。もはや自分がいた場所には戻れないと悟ったヒュウゴは、なんとか自分の力で生きていくことを決意し、料理屋の下働きになります。言葉遣いや仕草を直し、一人の少年として働きだした彼に、料理人やリュアン一家はよくしてくれますが、ふとしたケンカがもとで無頼な仲間に入ることになり……。
 まあ、いろいろと紆余曲折あったのです。はらはらするけど、おもしろい。
 でも、二つだけ気になる表現がありました。まず、ヒュウゴが「むかついた」というあたり。なんだかそこらの不良少年みたいで嫌なんですが。育ちのよかった彼が、言葉遣いを変える場面がありますが、そう簡単にバックボーンは捨てられないと思うのですよ。「腹が立つ」では駄目なのかな。どうにもならない焦燥を描く物語だからこそ、こういう安易な言葉は避けてほしかったと思いました。
 もうひとつも似たような不良言葉なんですが。そういう気分を出したいのはわかるけど、203ページの「レコ」はあんまりです……。テレビ業界の隠語として、言葉をひっくり返して遣うようになったものですから、放送システムのないこの世界では全くありうべからざるものだと思うのです。
 「十五の我には」も、向こう見ずで血気盛んな思春期のバルサと、見守るジグロのあたたかさが沁みる物語でした。ラストの詩がしみじみといい味わいです。この時期の五年は、確かに大きい。
 ジグロは素敵ですね。

「掌の中の小鳥」加納朋子

2012-04-17 21:43:50 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 四月上旬、大会あり授業参観ありで休みがなかったわたし。やっと代休、と思ったら読む予定の本を職場に忘れてきてしまい、ちょっとがっかり。また来週は子どもの参観日と部活なのに……。でも! わたしには買い置きの文庫があったことを思い出して、早速読み始めました。加納朋子「掌の中の小鳥」(創元推理文庫)。
 加納さんのヒロインって、おっとり駒子タイプか勝ち気な陽子タイプが多いかと思いますが、これは後者ですね。赤いドレスが似合う穂村紗英。高校生の頃に理不尽な校則に抗議し、不登校になります。彼女の葛藤をゆるやかにほどいてくれたおばあちゃんの思い出話に隠された真実を解き明かした冬城圭介と親しくなっていきます。
 二人が訪れてゆったりとした時間をすごすのが、〈エッグ・スタンド〉という洒落た店。季節に合わせた花が大胆なアレンジで飾られ、女性バーテンダーは小粋なカクテルを作ってくれます。わたしはお酒はあんまり飲まないんですが、こういうお店、行ってみたいですね。上野公園から切ってきたようなみごとな枝ぶりの桜とか(花屋さんで買ったそうです)、アバンギャルドなヒマワリ、チューリップの花束、ススキの穂なんかが飾ってあるの見たいなあ。常連客も皆さん個性的ですし。
 パターンとしては、紗英が持ち込んだ日常の謎を圭介が解く感じで、駒子と瀬尾さんの関係を彷彿とさせます。幼なじみの武史との関わりがいいですね。頭が切れるのに友達が少ない武史が、信頼できるパートナーと結ばれる「できない相談」が好きです。
 「エッグ・スタンド」では二人の甘やかなラストシーンも楽しい。みちるさんの気持ちが甘苦しくてたまらないですね。
 小説を読むときはタイトルのことも考えるべきですよね。小鳥の生死を掌に握り、賢者を出し抜こうとした子どもの寓話がモチーフとなっていますが、ここではなんとか孫の悩みを解消したいと考えるおばあちゃんが登場します。彼女の掌に握られた碁石のトリックは予想がつきやすいですが、やはりこの短編が二部構成になっているところも注目すべきでしょう。前半は、圭介と佐々木先輩との再会が描かれます。佐々木の妻容子は圭介の友人で、画家としての才能を持ちながら、ある事件のために筆を折ります。
 「雲雀」と題した油絵。完成後に四隅をクリップでとじてしまい込まれ、しばらくして見るも無惨な絵として発見されるのです。絵を汚した犯人は? 
 容子が留守電に残したメッセージ、この絵と自分を重ねているのでしょうね。毎日少しずつ殺される。雲雀になれなかった。圭介の見る自分と佐々木が見る自分。どちらを選ぶのかきっかけがほしかったのでしょう。しかし、選んだ方を後悔している。
 容子に対して、紗英は潔いですね。この文庫レーベルらしいおもしろさでした。

「真夜中のパン屋さん」大沼紀子

2012-04-16 20:57:30 | YA・児童書
 話題になった本ですよね。確か映画化するんだっけ? キャスティング気になります。特に斑目。
 「真夜中のパン屋さん 午前0時のレシピ」大沼紀子(ポプラ文庫)。タイトルからして、何故真夜中でパン屋なのか悩むんですが、ハートフルでおもしろい。店には白と黒なコックスーツを着た男性が二人。オーナー兼見習い職人の暮林とブランジェの弘基。そこに飛び込んできたのは女子高生の篠崎希美。彼女は暮林の亡妻美和子の妹だと言い張りますが……。
 実のところ美和子の父親は二十年も前に亡くなっていて、希美が妹だとは有り得ない話なんですが、二人は店の二階に居候することを許します。自分のことをカッコウにたとえて生きている希美は、学校では嫌がらせを受けており、弘基が持たせてくれる昼食用のパンも発見されたらきっかけに使われてしまうと考え、毎日捨てていたほどでした。
 ああもったいない。わたしにくれ。と思ってしまうほど、おいしそうなんです。わたしもパンは大好き。よくおやつにします。(食事としてのパン食は我が家にはないので) 
そのうちに小学生のこだまや、ニューハーフのソフィアさん、脚本家の斑目といった常連客も増え、希美はいつの間にか経理や配達の手伝いをするようになり、なんとなくチームの趣が出てきます。さらに、もう亡くなっている暮林の妻美和子の存在がだんだんクローズアップされていく。
 まだまだ隠されていることがあるように思います。夜中にしか営業していないパン屋さんではわたしには行けそうもないんですが、結構繁盛してますよね。うーん、二十三時から二十九時までか……。早起きすればなんとか……。
 どうも二冊続けてパンの本だったので、猛烈にパンが食べたくなり、買いに行きました。ちょっと食べすぎです。
 ところで、スマートフォンの充電機能がおかしくて、一昨年から何度やっても29パーセントでとまるのですよ。しかし、今日お店に行ったら不具合は見当たらないとのこと。何故だ。

「うさぎパン」瀧羽麻子

2012-04-12 21:06:18 | 文芸・エンターテイメント
 この人の本を探しに行きたいなー。と思わされる作家はいいですよね。瀧羽麻子さん、なかなか気に入りました。でも本を探しに行く暇かない。今週参観日だし、代休は図書館やってないし。 
 「うさぎパン」(幻冬舎文庫)です。多分ダ・ヴンチ文学賞をとったとき、本誌を購読していたと思うのですが、きっと読んでないんですね。もったいない。もっと前に出会いたかったな。
 義理の母親ミドリさんと暮らす優子は、家庭教師の美和ちゃんと仲良くなります。同級生の富田くんと「パンが好き」という理由で親しくなり、彼の父親の店「アトリエ」やさまざまなパン屋さんを一緒に訪ね歩きます。ある日、なんと美和ちゃんに死んだ母親の聡子が乗り移って……。
 ……あらすじだけ書くと結構荒唐無稽ですね。でも、さわやかでほのぼのとした雰囲気で、楽しめました。
 死んでからもなお、夫との恋愛を大切にしている聡子。ミドリさんが当時彼の愛人であったことを知っていても、思いがぶれることがないのです。さらに、聡子の口からは意外な真相が語られ、うさぎパンの温かさ、再現してくれた富田くんの優しさとともに胸に染みます。
 同時収録の「はちみつ」は、美和ちゃんの幼なじみ桐子が主人公。半年間べったりだったはずの恋人が出ていき、食事をとろうとすると吐いてしまうという状況が続きます。美和ちゃんからは「喪に服す」と言われ。特に好きだったパンが食べられないのですよね。なんとか打破したいと思いながらも、体調が戻らないのはやはり彼女が「恋愛体質」だからなのかも。
 ここでもおいしそうなお弁当が登場するんですよ。教授が持ってくる手づくりのお弁当。肉のしぐれ煮、だし巻き卵、かぼちゃの煮つけ、プチトマト、ブロッコリー、おにぎり三種。次の日のちらし寿司もいいよねぇ。新しい世界が開けるような感じを覚えた桐子の今後を予感させるところが好きです。

「メン! ふたりの剣」開隆人

2012-04-10 22:12:10 | YA・児童書
 今までの二冊より格段におもしろかった。なんとなく唐突なんですが、ストーリー展開もわかりやすいし、いいと思います。
 開隆人「メン!」の三冊め。「ふたりの剣」(そうえん社)です。ふたりって誰のことかと思い、もしかしてあのサッカー部から転部してきたあのケンヤって子?
 と考えましたが違いました。確か「メン!」には剣道の面と男という意味がかけてあるといっていたのに、ケンヤ以外の少年たちはすっかり存在感が薄くて驚きました。でも、今回はミクの幼なじみなユリンが登場。韓国の剣道(コムド)と日本の剣道との違いに悩む場面があります。もちろん剣道だけではなく文化とか国籍とかそういう問題が派生してくるものかと思いますが、まあそこにはそれほど突っ込まずにユリンが「蹲踞」を覚えることとキョウスケくんが学校の剣道部に入ることで解決を図り、素晴らしいスピードで剣を振るうユリンとのライバル関係に悩むという筋で展開していきますが。
 で、ミクはお父さんが日本剣道形の稽古をする姿を見て、自分の剣道からも無駄な動きをなくそうと決意。ケンヤの協力もあって木刀で稽古を始めます。(でも、挿し絵は竹刀が描かれていますよ……。)
 お父さんの人柄が前作とは別人のように穏やかなんですが。指導者がいなければ大会には出られないって言ったよね? ラストではミクのことを理解していることが示唆されていたけど、一緒にバスの掃除をしたり剣道大会に応援に行けば優しく声をかけてくれたり、ちょっと違和感が。ちなみにミクの家ではユースホステルをやっているんだとか。(前作にそういう設定があったっけ??)
 「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす」という宮本武蔵の言葉はとてもよかった。万日には二十七年もかかるそうです。
 わたしは些末なことが気になるタイプなので、ミクがユリンにあげたというシルクフラワーのヘアピンが五年もたつのに普段からつけていられるものかなと心配してしまうのですが。