くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「出版禁止」長江俊和

2015-03-30 20:39:15 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 某日、書店で積み上げられていたこの本を、買うかどうするか迷いつつ、結局買いませんでした。
 新潮社だし、そのうち文庫になるでしょう。
 そう思って半年くらいして、別の本屋で面陳列しているのを発見。
 うううむ、どうしよう……。
 正直、それまで忘れていたくらい、他の店では目に入らなかったのですよね。でも、なんだか気になる……。1800円……。
 買おう、と思ったんですが、なんだかこの日は次々に読みたい本が見つかり、またやめました。

 こういう本って、自分の中の何かが回避行動をとっているのかもしれません。わたしにとっては、自分の本棚には置きたくはない内容でした。
 ストーリーテリングはおもしろいですよ。取材対象である女性に引きずられていくライター。その作品を世に出そうとする作家。その背後に見え隠れする現実の事件。
 発端は、注目のドキュメンタリー作家が愛人と心中したこと。そして、愛人だけが生き残る。その行動の一部始終はビデオに録画されていました。
 比喩的に紹介される太宰のエピソードとか、非常に心引かれました。
 でも、感覚的にこういう結末は好きじゃないんだな。衝撃的ではありますが。
 カニバリズムがどうこうではなく、なんだか皮膚感覚として割り切れないものが残る。

 著者が自分を「わかはしくれなり」、相手を「新藤七緒」としたのには何かの意図があるのですよね? アナグラムかな。
 それも解けなくて、割り切れない思いです……。

 で。
 検索してみました。「我は刺客なり」「胴なし女」なのだそうです。
 言われてみれば、しきりに本名が「□□さん」と書かれていましたね。「カミュの刺客」とは彼自身であり、女優の刺客である七緒の刺客でもあるということでしょうか。
 ラストに「どうやら私は、カミュの刺客としては失格だったようだ」と書いてありますね。
 自分が刺客だとは気づかないまま取材をしていて、政治結社の高橋から「視覚の死角」について知らされている。さらには、彼にこの事件を依頼した人は秘密にされている。
 読み返すといろいろ新しい発見があります。こういうギミックにとんだ作品、好きな人にはたまらないでしょうね。
 

「4ページミステリー 60の奇妙な事件」

2015-03-29 16:04:36 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 なんと! 「4ページミステリー」の続編が双葉文庫から発売?
 即書店に走ったのですが見つからず、二三軒回ったところでふと不安になりました。
 わたしが見た新聞広告は幻か、それともキャンペーンものなんじゃないだろうか。実のところ、「4ページミステリー」の一冊めが映画化かなんかで、それをPRしているんじゃないか。大体、あれだけ質の高いショートミステリを量産するのは大変だし。ああ、でもだからこそ、同じ趣向の作品を読みたいわけですが。

 仙台まで行って、入手しました。よかったよかった。
 今思えば、この作品を映画化って、無謀なことを予想したものです(笑)

 今回も非常におもしろかった!
 後味のいい作品も結構多くて、特にラストの「背中を押されて」はほのぼのしていてよかった。
 「すすり泣く和尚」とか「幻のところてん」のように、それまで読んでいたストーリーがくるりと一転するものも好きです。
 「初詣の願い事」もおもしろかった。俳優を目指しながらうだつの上がらない生活をしている男と、その彼女、劇団員の女と一緒に、願いが叶うと噂の神社に足を運びますが……。彼女のしてやったり感がたまらないです。

 で、わたしが引っかかっているのは、「七夕の願いごと」です。
 遠くから訪ねてきた義父が、孫の書いた短冊「早くおとうさんが帰ってきますように」を見て不憫に思う。息子(その妻が視点人物の佐和です)の真吾は海に落ちて死んだものの、遺体は上がっていません。
 真吾が姿を見せなくなって、太朗という男性が父親代わりを務めますが、彼も失踪してしまう。どうもその直前に、真吾と太朗は会っていたらしく……。
 結論からいえば、多重人格ものなんですけど。
 とすると、太朗というのは、義父の別人格? 真吾が死んだと聞いてやってきて、そのまま居着いたってこと?
 真吾は違う人なんだよね? なんだかもやもやします。

 「ほんとうのこと」も、虚実が交錯しています。
 父親が昔書いた作文を見つけて読み始めると、どこからか女の子を連れてきて妹だと言われます。 
 ところが、この妹、どうも自分の母親の幼いころらしい。
 そして明かされる衝撃的な事実……。あっけない幕切れですが、友人の言ったことが「ほんとうのこと」なのかどうかわからない。

 4ページの向こうに、何かまた別の顔が潜んでいるような、そんな気にさせられます。

「カシュトゥンガ」水沢秋生

2015-03-23 22:39:29 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 阪神大震災とオウム真理教のサリン事件があった年に生まれた子どもたち。思春期を迎えた彼らの間で囁かれる「おまじない」が、学校の中に嵐を連れてくる……。
 見えないもの、実際にはないものを信じさせていく少女の存在が、なんともいえない寂寥感を出しています。
 水沢秋生「カシュトゥンガ」(祥伝社)。
 
 水沢さん、実は学校に勤務されたことがあるんじゃないの? と思うリアルさでした。わたしは学校関係の描写が非常に気になるので、それはないだろうというような設定があると興ざめしてしまうんですが、この作品にはそれがなかった。中学校の閉塞感とか、そのなかで生きづらさを味わう子どもたちとか、そういうのがよく描かれています。
 中でも、クラス担任の浜中の考え方。極端かもしれません。でも、一面の真実ではある。
 学校というのは、はみ出した部分を削り、自分の弱さを克服して、社会で役立つように育成することが目標だというニュアンスが語られています。だから、気が弱くていいように使われがちの那須野くんなどは、ここで自分がどう動いていけばいいのか学習していく必要がある。副担任の蓉子には納得できない面があるようですが。
 
 高校生になった女子の一人が、中学時代を回想するところから始まり、中学二年生の半年余りが描かれます。ラストは進級して三年生。冒頭部分と一年の開きがあります。
 そうすると、思わせぶりなエンディングが、ちょっともったいないですね。「おまじない」をしかけた華那がいなくなっても、しんねりと不満を抱えた下級生がいる、つまり同じように事件が繰り返される……という展開にはならなかったということになるので。

 内気な生徒たちが不満を表に出していくなか、自分としっかり向き合える愛の誠実さ。そして、打算なく誰にも優しくできる咲希のあたたかさに救われる気がします。

 今月は、本当にやたらと気ぜわしくて、ゆっくり感想をまとめる時間がありませんでした。それでも、もう明日で修了式を迎えます。
 振り返るとあっという間ですね。とりあえずは一区切りです。
 次年度はもう少しゆったりさせて……。

「ハケンアニメ!」辻村深月

2015-03-17 21:29:22 | 文芸・エンターテイメント
 店頭のチラシで、この作品の特別短編を読みました。(特装版のカバー裏に入っているものと同じです)
 そうしたら、猛烈にこの本が読みたくなって、図書館から借りてきました。
 辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス)。ハケンとは、覇権を競うという意味から出た言葉で、そのシーズンのトップを獲得することだそうです。数字でいえばDVDの売り上げですね。
 物語は、天才的なアニメ監督王子千晴を軸とした三人の女性が描かれます。
 王子に新作「運命戦線リデルライト」(通称「リデル」)を作らせるプロデューサー有科香屋子、ライバル作品「サウンドバック 奏の石」(通称「サバク」)を撮る若手監督斎藤瞳、どちらの作品にも参加している有能なアニメーター並澤和奈。
 新潟県の選永市を重要な舞台にしながら、アニメに関わっていく人々の姿が描かれるお仕事小説です。

 「どうして、アニメ業界に入ったんですか。/と聞かれることがある」 章の書き出しは同じです。
 どの章もドキドキしておもしろいんです。
 中でもお勧めは、作中アニメのあらすじ。「リデル」も「サバク」もすごい気になる!
 毎週一年ずつ成長していくキャラクター。しかも、魔法少女! しかもバイク! ステッキじゃないじゃん! 女の子たちも超合金を買うようになるのかしら?
 片や、毎週ロボット戦争の裏側で、ひとりの少女から音が失われていく悲劇。地球を守ることで誰かが犠牲になるのは、仕方がないことなのか。瞳が選んだ結末には賛否両論あったとのことですが、わたしは中盤のストーリーを読んだ時点で、彼女に音が戻ることはないだろうと思っていました。そういう予定調和の物語を、辻村深月は選ばない。
 
 「サバク」のロケハンに使われた選永市は、それを観光に活用できないかとスタンプラリーを企画します。担当の宗森くんがいい奴なんですよ! お手伝いに駆り出された和奈は、ちょっといらいらしてしまいますが、彼のひたむきさに、自分が愚痴ばかり言っていたことを恥ずかしくなる。
 そして、地元の祭りに絡んだ企画が始動し……。
 王子がどう関わってくるかが見どころですよ。
 で、わたしは「リデル」のキャッチコピー「生きろ。君を絶望させられるのは、世界で君ひとりだけ」が好きですね。
 ところで、チラシを読み直そうと思っていたのに見つかりません……。うう……っ。

「風のベーコンサンド」柴田よしき

2015-03-11 01:34:29 | 文芸・エンターテイメント
良かった。文庫が出たらほしいなあ。
 って、単行本が出たばかりですけどね。柴田よしき「風のベーコンサンド」(文藝春秋)。
 「和菓子のアンソロジー」の「融雪」の続編です。とはいっても、その前のエピソードが描かれているのですが。
 百合ヶ丘高原でカフェを営む奈穂。かつてペンションブームにわいたこの町も、今ではすっかりさびれています。彼女のカフェも、ペンションだった建物を改築したもの。
 近くのひよこ牧場で作られた新鮮な乳製品と、天然酵母を使った青空ベーカリーのパン、そして地元野菜を使った食事。近くの人や観光客がやってきてドラマを繰り広げます。
 その中でも、奈穂が気にかけているのが「田中さん」です。
 テレビが見たいとやってきた彼に、ワンセグ機能を使ってサービスしますが、このことからテレビのあるサロンルームを作ることを思いつき、さらには再び店にやってきたときにおいしいベーコンサンドを教えてもらう。
 どうやら昔、娘さんに作った思い出のサンドイッチらしい。
 そして、テレビである女優さんが、別れた父親が作ってくれたベーコンサンドの話を流していて……。
 連作短編なので、展開がちょっと急なのではないかという部分もあるのですが、食べ物がおいしそうで、登場人物たちの閉塞したような気持ちや仕事にかける情熱が愛おしいです。
 高原のポークソテーや鶏肉のコンフィ、泡雪羹、クッキー、ちょっとしたサラダなんかも食べてみたい! 豆のカレーもいいなあ。
 スキー大会の屋台のアイデアなんか、すごく楽しそうです。
 ああ、こういうカフェ、行ってみたい。